もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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日常回
簡単に言えばグリフィンの部隊とドイツ陸軍の話


第41話

 国連軍が対鉄血の主軸となった今、ある組織の仕事が大きく変わってしまった。

 それはグリフィン&クルーガー、元々対鉄血の主軸であったPMCだが今では国連軍の下請け警備会社の一社に過ぎなくなっていた。

 

「はぁ、暇ね」

 

 それなりに整備された道路を走るグリフィンが提供したトラックをドイツ連邦軍の整備部隊が破壊した鉄血の兵器から剥ぎ取った装甲板を溶接したガントラックの荷台でネゲヴがため息をつく。

 ネゲヴ小隊というグリフィンのある精鋭部隊を率いるネゲヴには今の状況が不満であった。

 

「ええやないか、こういう楽な仕事ばっかりになってさ、ネゲヴ」

 

「それは、そうだけど…」

 

「血肉湧き踊るような任務が久しぶりに欲しいってことですわよね?」

 

 彼女にとって不満だったのが最近の仕事は殆どがこのような輸送路の警備や護衛であり必ず軍部隊と合同で行われるというものだった。

 彼女から言わせればこんな退屈な任務はもう懲り懲りだった。

 

「そうよ、タボール。戦いたい!戦いたい!鉄血のクズどもに鉛玉ぶち込みたい!」

 

「嬢ちゃんたち、おらのトラックで騒がねえでくれるかい?」

 

「わかったわよ」

 

 騒いでいると運転席から現地で国連軍に雇われたドライバーが注意してきた。

 普通なら人形にはキツく当たるタイプの人間が多い中、国連軍に雇われた人は大概優しく当たっている、彼女たちは知らないが人形にキツく当たった人間は大概が即日首を切られているのだ。

 

「とにかく、戦いたい!

 あんなお荷物連れて行かずにさ!」

 

 ネゲヴはその後ろを走る軍用車を指差す。

 車内には一般グリフィン部隊が乗っていた。

 国連軍は個人の能力よりも数を重視するきらいがあり、そのため通常なら一個小隊の5人でする任務を国連軍のオーダーの場合最低でも25人は要求してきていた。

 国連軍の場合はそもそも5人で遂行可能な任務などないと考えていた。

 

 一方、指を刺された人形たち、とある基地所属のスコーピオン、スプリングフィールド、ブレン、リー・エンフィールド、ヴェクターたちも色々と話していた。

 

「あら、前の車の人たち私達のことを指差して色々と話しているようですわね」

 

「一体何を話してるんだろうか?」

 

 スプリングフィールドがリー・エンフィールドと前の車で暴れる(彼女たち視点)ネゲヴたちのことを噂する。

 

「きっと最近は楽な任務が増えたし色んなものくれるし暮らしやすくなったよね~みたいな話だよ」

 

「私達はどうせただの商品なのに変な人達が増えたよね」

 

「全く、少しは任務に集中したらどうだ」

 

 能天気なことを言うスコーピオンに国連軍の彼女たちへの態度が不満なヴェクターが反発する。

 一方武人気質のブレンは全く任務に集中しない仲間たちに不安だった。

 

「ところでお嬢さん方、少しラジオを付けていいかな?」

 

 突然黙って聞いていたドイツ人のドライバーが話しかけた。

 

「別に構わないが、なぜだ?」

 

 リー・エンフィールドが代表して聞いた。

 

「いや、今日はワールドカップの準決勝だぞ」

 

 ラジオを調整しながら返した。

 

 

 

 

 

 

 それから2時間後、ネゲヴたちに護衛された輸送隊は前線にある目的地、ドイツ連邦陸軍第11装甲旅団の補給デポに近づいた。

 近づくとベレー帽を被った憲兵が少しイライラしたような口調や態度で指示を出す。

 

「積荷を載せたトラックは全部左手の補給所に行け!

 護衛は右手の休憩所だ!

 早くしろ!」

 

「わかったわよ!」

 

 ネゲヴが大声で返事をする。

 彼女たちは憲兵の言われたとおりに二手に分かれて休憩所に向かう、だがどうも基地全体がピリピリしていた。

 殆どの勤務中勤務外の兵士問わずラジオやテレビやスマホに釘付けになっていた。

 

「なんか妙な感じやな」

 

「何かあるのでしょうかね?」

 

「さあ、積荷の下ろしが終わるまで休憩所で待機しておきましょ」

 

 ドイツ兵の態度を気にせず彼女たちは休憩所に入った。

 だが、休憩所は外以上にピリピリしていた。

 

「行け!行け!」(ドイツ語)

 

「ハーマン!そこだ!ああ!」(ドイツ語)

 

「なんの騒ぎかしら?」

 

「なんだかすごいことになってるな」

 

「ここは前線じゃないのか」

 

 何故かドイツ兵、それも上は大佐、下は二等兵、男女人形問わず壁にかけられた大画面のテレビにピザやポテトやカリーブルスト、ビールまで出して齧りついて大声で応援していた。

 その様子に入ってきた人形たちはドン引きする。

 

「ねえ、一体何やってるの?」

 

 意を決してネゲヴが応援していた一人の人形、HMG21に声をかけた。

 

「何って…ドイツ代表を応援しちゃだめなの?」

 

「そうだぜ!ドイツは俺達の国だぞ!そうだろ!」

 

「リューポルト、うるさい。あんたの従兄弟がキーパーなんでしょ。」

 

「いや、一体なんの応援をしているかって聞いてるんだ」

 

 勤務中のはずなのだがビールを飲んでる士官とHMG21の説明はさっぱり理解できず再度リー・エンフィールドが聞いた。

 

「何って、知らないの?今日サッカーワールドカップポーランド大会の準決勝だよ?」

 

「ああ。イタリア対ドイツ、まだ前半15分だけどな!」

 

 応援していたのはポーランドのポズナンで行われているサッカーワールドカップの準決勝、イタリア対ドイツであった。

 この年のワールドカップは奇跡の快進撃を遂げるイタリア代表対王者ドイツ代表、順当な試合であるアルゼンチン対ブラジルが準決勝でありサッカーが事実上国技のドイツにとっては大事な大事な試合である。

 そのため彼ら軍人でさえ仕事をほっぽりだして試合に釘付けだった。ましてやこの片方の士官のエドゥアルド・リューポルト中尉の従兄弟はこのドイツ代表のキーパーだった。

 

「サッカーなんかでこんなに盛り上がるんだね」

 

「ここは前線じゃないか、こんな気楽でいいのか」

 

 ヴェクターとブレンが冷めたようなことを言う。

 彼女たちからすればここは前線、こんな気楽な空気でいいのか、ましてや人形なんてただの道具だ。

 

「はあ?何言ってるの?前線だけど楽しんで悪い?

 というかここじゃ数少ない娯楽だよ、これ」

 

「ああ。戦闘だけじゃ心が病む。

 士気にも関わるしね」

 

「それにサッカーってドイツの国技だから」

 

 一方のドイツ軍の場合は前線のガス抜きという目的があった、それ以上にドイツ人はだいたいみんなサッカーファンだからという理由もあるが。

 このような、仕事以外の時間を楽しむことに使うという概念が薄いグリフィンの人形と人形も人間も同じように仕事をして仕事以外の時間を楽しいことに使う国連軍の人形という図が所々で起きていた。

 

「だからこうやって楽しんで…」

 

「ダメダメダメダメ!!!!!」

 

「リューポルト!止めろ!!」

 

「リューティガー早くしろ!早く早く早く!」

 

「え!どうした!」

 

 リューポルトとHMG21が話していると応援していた兵士たちが急に騒がしくなる。

 振り返ってテレビを見るとイタリア代表の選手がドイツの守備をついてコートを疾走していた。

 

「あああああ!!!!」

 

「早く止めろ!」

 

「ケーニヒ!そこだ!いや!そうじゃない!」

 

「リューポルト!リューポルト!」

 

 突然のピンチにドイツ人は他のあらゆる音声がかき消されるほどの大声で応援する。

 だがその応援は画面の向こうのピッチの選手には届かなかった。

 

『コンテ!ケーニヒを躱す!見事なドリブルだ!

 そして、シュート!!!

 ボールはリューポルトの頭上をかすめゴールネットに一直線!

 イタリアのチーターコンテ!さすがは青い矢の異名を誇るチームだ!

 世界最強ドイツ代表の一瞬の隙をついての神速のカウンターだ!』

 

「「あああ…!」」

 

 ドイツ人たちの祈りは届かず、イタリア代表が先制点を取ってしまっていた。

 さっきまでの応援に変わって落ち込む声と興奮するテレビの実況しか聞こえなくなった。

 

「まだだ、あんなパスタ野郎なんかに負けるか。

 ドイツのサッカーは世界一だ」

 

「ああ、たった一点だ。まだ取り返せる。」

 

 誰かがつぶやいた。

 そうだ、まだ前半20分ですらない。まだ取り返せるはずだ。

 

「なんだか、楽しそうねあんたたち」

 

「あんたらも見るといい。楽しいぞ」

 

 呆れるネゲヴにリューポルトが言う。

 サッカーはルールがわからなくとも見ているだけで楽しいスポーツだ。

 ましてや放映技術が進化した今ならルールが一切わからなくとも何がすごいか、そういうのもちゃんと分かるのだ。

 特にすることもないグリフィンの人形たちは彼らドイツ軍人に混じってサッカーの試合を見ることにした。

 

「どうぞ、フロイライン」

 

「フフ、ありがとうございます」

 

「いえいえ、お嬢さんに席を譲るぐらい紳士として当然ですので」

 

 スプリングフィールドに一人の兵士が席を譲った。

 珍しいことに驚きながらも彼女は席に座った。

 すると席を譲った兵士に周りの兵士が冷やかした。

 

「誰が紳士だって?」

 

「一番のスケベ野郎じゃねえか!」

 

「こいつのベッドの下、グラビアしかないぞ!」

 

「お前ら黙れ!」

 

 冷やかしをその兵士が一喝して黙らせる。

 スプリングフィールドはその光景に微笑みながら隣の席に座る兵士に挨拶する。

 

「フフ、よろしくおねがいしますね」

 

「ああ、サッカーのルールぐらいなら教えてあげるぜ」

 

「おい見ろよ!ハンスが口説いてるぜ!」

 

「お前ボンでもモテなかったのにな!」

 

「うるせえ!あっち行け!サッカー見てろ!またさっきみたいにあっという間に点を取られるぞ!」

 

「はいはい」

 

 同じように兵士たちが冷やかした。

 その側でリー・エンフィールドとブレンが冷めて目で見ていた。

 

「全く、こんなことをしていていいのか」

 

「全くだ」

 

「二回戦でドイツ代表がイングランド代表を叩き潰してイギリス人はご不満なんですか?」

 

 冷めた目で見ているとドイツ陸軍所属のMG4が現れた。

 だがその格好はドイツ代表のユニフォームになぜかドルトムントのタオルを持っていた。

 

「そういうわけじゃない。

 ここは最前線だと言うのに弛んでる。それにたかがサッカーじゃないか」

 

 ブレンが言い切る。MG4はそんな彼女たちに反論する。

 

「たかがじゃありません、4年に一度のサッカーの祭典ですよ。

 私達サッカーファンなら誰でも大騒ぎですよ。

 というか最前線だと言うのならあなた達のその格好の方をどうにかしたほうがいいのでは?

 ここはワーテルローでもバラクラヴァでもないんですよ?

 幸いここはまだ後方で私達は少なくとも今日は敵が出てくるようなところには出ないからこんな格好ですけどあなた達は任務終わりですよね?」

 

 リー・エンフィールドとブレンの19世紀のイギリス兵を思わせるレッドコートを皮肉る。

 その格好はまるでナポレオン戦争のワーテルローの戦いやクリミア戦争のバラクラヴァの戦いのようでふざけてるとしか言いようがなかった。

 

「そこのネゲヴやタボールもですよ。

 あんな格好、真冬でもなければ目立って目立ってしょうがないですよ。」

 

 さらに近くでテーブルの上のカリーブルストを齧るネゲヴ小隊さえも皮肉った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…どうする…?」

 

「大尉、済まないが今日は仕事をする気が起きないんだ」

 

「酒をくれ、あるだけ全部」

 

「Ohne Worte…」

 

「…こんなの嘘だ…」

 

「リューポルト…まだ三位決定戦があるじゃん…」

 

 1時間半後、そこにはイタリア代表に10対1という歴史的大敗北を喫し悲しみに打ちひしがれるドイツ人たちの姿があった。

 




・エドゥアルド・リューポルト
ドイツ陸軍中尉
従兄弟がサッカードイツ代表のキーパー

・HMG21
ドイツ陸軍所属の戦術人形
根暗系だがサッカーファン
リューポルトと仲がいい

・MG4
ドイツ陸軍所属の戦術人形
口数は多い方ではないが割と毒舌家
ドルトムントファン



ドイツ代表に恨みはないがボロ負けしてもらった。
カザンの恥の再来、ポズナンの惨劇とか言われるんだろうなぁ
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