防諜というのは一言で片付けられる言葉ではない。
日夜世界中のスパイ、テロリスト、犯罪者等々から国と国民を守るために戦っているのだ。
「何か話したか?」
「全く、片方はのらりくらりと躱しもう片方はAK-12は?の一点張り。
今のところは紳士的にやってますがね」
目を閉じた人形の尋問の様子をマジックミラー越しに眺めながらキャラウェイとエーベルバッハが話す。
つい数時間前DBIが密入国で逮捕した二人の人形の尋問は遅々として進まなかった、片方はのらりくらりと躱し、もう片方はもう一人のことしか話さないのだ。
「夜明けまでに吐かなかったら頭を開けて記憶モジュールを取り出せ」
「了解」
キャラウェイは腕時計を確認しエーベルバッハに言う。
人形の短所はあらゆる記憶をモジュールとして保存していることでありモジュールを取り出してそれを解析すれば尋問せずとも必要な情報は得れる。
本来なら違法だがこのような仕事ではよくあることだ。
グリフィン本部近くの寂れた町ではMP7と404小隊が動いていた。
「また私達が彼奴等を押さえるわけ?」
「またって前何があったわけ?」
とある建物を監視しながらUMP45がMP7に愚痴る。
また彼奴等と関わらなければならないことに内心懲り懲りしていた。
「色々よ、色々」
「ふーん、飴食べる?」
「頂くわ、うわ、酸っぱい」
MP7がポッケから出した飴を一つ口の中に放り込むと顔を歪ませる。
だが彼女はそれを少しも気にしない。
「そういう飴だからね。あと30秒ぐらいで味がなくなるから気をつけて」
「アイスブレーカーズキャンディね、ドイツにもあるの?」
「ハーシーのを輸入したのがね。
まあ一個10ユーロはするんだけど」
「こっちじゃ2ドルよ?」
「アメリカに移住しようかな」
「やめといた方がいいわよ、社会保障が意外と適当よ?」
「それ言ったらドイツだって個人主義過ぎて簡単に機能不全起こしてるわよ。」
無駄話に花を咲かせるが油断しているわけでも慢心しているわけでもなかった。
二人は話しながら注意深く観察していた。
「9、そっちはどんな感じ?」
『大丈夫だよ45姉。』
無線で裏口を監視するUMP9と416に連絡するとそちらも準備万端だった。
「寝坊助とできた妹は?」
『なに…45…ふぁぁ…』
『寝ないでくださいよ、G11』
「G28、そのバカが寝たらケツに花火刺していいわよ」
近くの屋上にいるG11とG28にも連絡する。
G11は相変わらず眠そうだった。
「それじゃあ、お仕事の時間よ。」
「了解」
『了解、45姉』
『了解』
『OK~ふぁあぁ…』
『了解です』
UMP45が作戦開始を合図する。
二人は一気に走ってアジトの入り口の両側に立ち中を伺う。
「クリア」
「クリア」
『裏口クリア』
「了解、3、2、1で」
『了解』
無線で裏口のUMP9達と連絡を取り合う。
「それじゃあ、3、2、1」
「国連軍だ!動くな!」
『国連軍よ!』
MP7が先頭に立ち突入する。
裏口から入った416たちと同時にドアを蹴破るとそこにはUMP45が腕を組んで立っていた。
周りを見れば同じように待っていた404小隊がいた。
「あら、意外と早かったのね。」
「
これが始めっから狙いだったわけ?」
一瞬嵌められたと感じがすぐに理解した。
これこそが目的だったと。
「誰だか知らないけどビンゴよ。
私はUMP45、404小隊の小隊長、そっちの45とは久しぶりね」
「5ヶ月ぶりよ」
旧知の仲である二人が挨拶するとMP7は自己紹介する。
「私はMP7、連邦情報局所属よ」
「ご丁寧にどうも」
「それで、今回のあんた達の仕事は?」
「うちの雇い主とのメッセンジャーよ。」
「雇い主って誰かしら?」
「国家保安局の人とだけ」
「悪名高いKGBの末裔の?
FSBの方がよっぽどマシね、それと盗み聞きとは趣味が悪いわよ?
チェキスト」
「あんなヘナチョコと比べられるとは心外だね。
どうして分かった」
突如背後から片手片足が義手義足の傷だらけの女が現れた。
女の英語はロシア訛り、明らかにロシア人かロシア語話者であり体型や404の話を勘案すればおそらくはチェキスト、つまりソ連の諜報・防諜関係者なのは明らかだった。
「あら、人形を舐められたら困るわね。
人形は人間じゃないのよ、例えばミリ波パッシブ撮像装置を搭載したりサーモグラフィックカメラモードにオートで切り替えることだって可能よ?
技術で三世代負けてるんだから」
「ハハ、こりゃまいった。一本取られたわね。降参よ」
女は首を横に振り手を挙げる。
CIAの404はCIAということで世界最高水準の人形搭載型ミリ波パッシブ撮像装置やサーモグラフィックを搭載している、その能力を使えば例えば隣の部屋の中に隠れていたって簡単に見つけ出せる。
所詮は小手先程度の誤魔化しは聞かないのだ。
「そりゃどうも、で、御用は何かしら?
チェキストの方から接触してくるなんて異常事態よ?」
UMP45が女に聞いた。
その声は冷静で仕事人というべきものだ。
「ああ、簡単だ。カーターを潰したい」
彼女の返事は簡潔だった。
だが内容が内容だった。
彼女達の上、即ち国連とアメリカは建前上内政不干渉の原則があるのだ、実際守っているかどうかはさておき建前としてはあるのだ。
「内政不干渉の原則って知ってる?」
「その言葉が通用しない世界じゃないか」
一方で謀略の世界はそんな原則は一切通用しない世界だ。
女は言い切る。
「そうだけど国連軍は決してコミュニストの権力争いには関与しないわ。
できればコミュニストは根絶やしだけどね」
「あら、そんなこと言えばこれよ?」
女は彼女の首に手刀を当てる。
「ここは自由の国アメリカ、誰がどんな意見を言うのも自由な世界よ。
あんたらみたいなクソッタレのコミーとは大違い、自由がないからコミーは冷戦で負けたのに」
売り言葉に買い言葉、彼女は一応は反共主義者だ。
中国で共産主義者が暴走して第三次世界大戦寸前に陥ったことは17年経っても誰もが覚えていた。
そしてそれ以来共産主義というものはこの世で最も碌でもない政治思想の狂信者だと誰もが感じ、その流れから未だ共産主義を標榜する南中国やベトナム、ラオスといった国へ厳しい目が向けられていた。
「そうね、ローマではローマ人らしく、ここはアメリカだったわね。」
「えっと、あんたもしかしてアンジェリカ?」
突如MP7があることに気がついた、容姿こそ若干違えど同僚とそっくりだということに。
「あら、私の名前も知られているわけ?」
「いや、同僚に似たようなロシア人がいるんだ。
タシュケント出身の高麗人だけど」
「不思議な話ね。」
「そんな話より、例の手紙の内容よ、カーターは何を狙って何を企んでるわけ?」
UMP45が脱線しかけた話を元に戻す。
「ヤツの狙いはエリザ、正確にはエリザに使われてるオガスが欲しい。
そして目標はクーデター、今の親欧州連合親国連軍な政府を倒し国連軍を追い出し欧州連合と対立したい。」
アンジェリカの語るカーターの企みはオガスを強奪し、それを使ってクーデターを起こし国連軍を追い出すというのだ。
クーデターを計画する時点で安全保障上の重大事案だと言うのに更に国連軍との戦争さえ計画しているというのだ、緊急事態と言っていい。
下手をすれば異世界間での戦争になりかねない、そうなれば地力で劣る国連軍の敗北は必至だ。
「証拠は?」
「奴は頭が切れる男だ。
シギントに引っかかることもよく分かってる。
知ってる?今あなたたちの司令部にいるエゴールって男はカーターへ通常の通信やメール以外にあの基地内に公使館があるのを利用して国連軍内部の情報を外交行嚢に詰めて毎日空輸してるって」
アンジェリカが言うには国連軍との連絡将校のエゴールが基地内にあるソ連の公使館の外交文書を入れる外交行囊に入れて毎日往復している連絡機に乗せて送っているというのだ。
外交行囊は外交特権として検査されない決まりになっている点を突いた行為だった。
「クーリエ便を?」
「ええ。外交行嚢を開ければすぐに分かるわよ」
「成程ね、こちら404。
シュペーア、聞こえる?」
アンジェリカの情報を聞いたUMP45は無線で司令部と連絡を取る。
『こちらシュペーア、どうぞ』
「ヨークヨークとヨークピーターにマイクの伝書鳩は?」
『毎日搭載されてる』
彼女は司令部のキャラウェイに毎日2便運行されている連絡機に軍人が書類を載せてるか聞き、その答えは是だった。
「あんたの言う通り、エゴールは毎日外交行嚢に軍事書類を混ぜて輸送しているのは確実ね」
「言ったとおりでしょ?」
「ある程度は信頼して良さそうね。」
彼女は手を出す。
アンジェリカは握手した。
「これで交渉成立かな」
「ええ、それとあなたの部下だと思うけどスパイの容疑で2名人形を拘束中よ。
解放して欲しい?」
「できればな」
UMP45はAK-12とAN-94の話を最後にした。
細かいネタだけどヨークヨークとヨークピーターはそれぞれ第2次世界大戦中の陸軍・海軍フォネティックコードからでそれぞれYY,YPの意味。
クーリエは外交文章を大使館・公使館と本国などとを輸送する仕事のこと