もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第45話

 404がアンジェリカ(ソ連)と接触した数時間後の翌朝5時過ぎ、外部軍事支援局局長のコーシャは朝から宿舎で叩き起こされ不機嫌そうにしていた。

 

「クーリエ便?」

 

「そうだ、こちらも情報はあるけど細部はあんた達の方が知ってるでしょ?」

 

 叩き起こされた理由はソ連政府が運行するクーリエ便の話だった。

 そんなことで叩き起こされ彼は更に不機嫌になる。

 

「朝5時に叩き起こしてその話かよ」

 

「ご主人様、コーヒーでございます」

 

 不満たらたらで寝間着のままの彼に同じく寝起きながらいつものメイド服をバッチリ着こなすG36がコーヒーを出す。

 一口飲むと話を始めた。

 

「うん、ありがと。

 クーリエ便は毎日往復2便。0730到着1100出発のクーリエ701、702便と1700到着2100発のクーリエ693、694だ。

 機材はセスナサイテーションCJ6、両機ともアメリカのチェイポ・アンド・バーク・エアクラフト・リース・イン・オハイオの機材をドライリースしてる。

 まあかなり評判悪いけどな」

 

 クーリエ便はなぜかソ連側がこのような任務に使いやすい小型ジェット輸送機、つまるところビジネスジェットを保有していないという事情があったため急遽国連軍がアメリカの航空機リースの会社から借りた若干古いセスナサイテーションを使っていた。

 だがかなり評判が悪かった。

 それが彼女、アンジェリカには疑問だった。

 

「なんで悪いんだ?」

 

「英語能力。乗ってるパイロットが大体ソ連空軍のパイロットだが英語が不得意で指示を守らない、指示を聞いてない、指示を理解してないが多すぎて管制官から山のような文句が来てる。

 その上他のパイロットたちもいつか事故起こすんじゃないかってみんな言ってるよ。」

 

 一応はパイロットの端くれで空軍士官のコーシャは問題をよく認識していた。

 正規軍特有の全体的な練度の低さ、さらに問題となったのは東西冷戦が終わりこちらの東側ではもう問題とすらなっていない東側圏のパイロットたちの英語能力やパイロット文化の問題がこちらではまだ残っていたのだ。

 英語の試験には合格こそしているがその能力は不十分で管制官や他のパイロットたちは皆いつか事故が起きかねないと感じていた。

 なにせ実際に東西冷戦直後には東側パイロットの英語のコミュニケーション能力不足による事故というのは何件も起きているのだ。

 

「操縦とかに問題は?」

 

「特には聞いてないな。文句はだいたい英語能力の方に来てて指示をちゃんと理解していたら割と守ってくれるらしい。

 それ以外だと整備士が連中の扱いが雑すぎてよく変なところが壊れてると」

 

「それだけ?」

 

「それだけだ。

 だがとにかくコミュニケーションが不安でな、俺もこの間向こうの担当者に『パイロットの英語技能に問題がありいつか事故が起きるかもしれない』って伝えたばかりだ」

 

 アンジェリカに愚痴る。

 それほど危険を感じていたのだ。

 一通り知りたい情報を聞いたアンジェリカは立ち上がる。

 

「ありがとう、それじゃあな」

 

「おい、朝から叩き起こしてそれだけか!?」

 

「これだけだ、今度ウォッカでもプレゼントするよ」

 

「お、おい!」

 

 抗議するコーシャを置いて出ていった。

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ、リーナの奴なんで朝から私にこんな仕事を押し付けたんだ」

 

 AN-94は朝から面倒な仕事を同僚に押し付けられ一人愚痴っていた。

 仕事先が場所が場所なのでと腰に拳銃こそ吊るしているが左手には新聞が、右手にはさっき買ったばかりのコーヒーの入ったカップを持っていた。

 そんな彼女にある入口の前に立つMPが声をかけた。

 

「IDを」

 

「はい」

 

 首からかけたIDカードを読み取り機にかざす。

 MPはそれを確認すると彼女を通した。

 

「アーニャ少佐ですね。

 リーナから話は聞いてます」

 

「なら話が早い。

 例の二人を」

 

「了解です」

 

 MPは鍵を持ち案内する。

 案内された先は監房ブロックだった。

 そしてある二部屋の前に止まるとMPが鍵を渡した。

 

「この二部屋です、鍵はこれとこれ」

 

「分かった」

 

 MPは鍵の説明をして敬礼すると戻って行った。

 AN-94はコーヒーを飲みため息を付くと片方の部屋を開けた。

 

「出ろ、釈放だ。」

 

「ええ、分かった…AN-94?」

 

 中に入っていた女、戦術人形のAK-12はAN-94の姿を見て驚いていた。

 なにせよく見知った人間が見知らぬ軍服を着ていれば誰だって驚く。

 だが、彼女は気にせずコーヒーを飲みながら隣の部屋の鍵を開ける。

 

「えっと、次はこっちだな。

 釈放だ、出ろ。」

 

 隣の部屋の鍵を開けるとAN-94と全く同じ姿顔をした人形がいた。

 彼女はAN-94の姿を見てAK-12と同じように驚いていた。

 

「えっと、あなたは何者?」

 

 AK-12が尋ねた。

 

「私はロシア連邦陸軍所属のAN-94、階級は少佐。

 気にせずアーニャって言ってくれ」

 

「ロシア連邦陸軍ってことは国連軍の人形ってことかしら?」

 

 アーニャにAK-12が確認する。

 

「そうだ、本来なら同僚がする仕事なんだがその同僚が忙しくて代わりに呼ばれたんだ。

 まああんまり気にしないでくれ。」

 

「それで、私達をどうするつもり?」

 

 今後のことを尋ねた。

 これからどうなるのか、それが一番気がかりだった。

 

「本来ならこのまま町まで連れて行って解放するんだがどういうわけか保安部に連れてこいと。」

 

「保安部?というと国連軍の防諜部門か」

 

「そうだが、君等一体何をやったんだ?保安部のお世話になるなんて」

 

 AN-94に呆れたように言う。

 保安部に睨まれるようなことをするなんて一体何やったんだ、事情を全く知らない彼女はそんなことを思っていた。

 

「それじゃあこの後私達は保安部に連れて行かれるってわけ?」

 

「そうだ、そこから先は何も知らないが。

 毎回毎回確認しないとダメか?パイロットじゃないんだ」

 

 アーニャがAK-12に言った。

 毎回毎回確認してくる彼女に少し苛ついていた。

 その口調に何故かAN-94が厳しい目を向けるが一切気がついていたなかった。

 

「それじゃあ行くわよ、ついて来なかったらもう一晩留置所よ」

 

 

 

 

 

 

 数分後

 

「では」

 

「身柄は預かりました、では」

 

 反逆小隊の二人はアーニャから保安部の将校に預けられた。

 アーニャと保安部の将校が敬礼しあった後、二人はある部屋に案内された。

 

「レイ、例の二人を連れてきました」

 

「おお、やっと来たかね。待ちくたびれていたよ。」

 

 そこにいたのは好々爺とも言うべきクラシカルなねずみ色のスーツにネクタイを締め、明らかに高そうな場違いとも思えるほど高そうな革靴を履いた白髪交じりの髪と時代錯誤のような口髭を生やした老人がいた。

 彼は二人を見ると持っていた紅茶カップをテーブルに置いた。

 

「さ、座り給え。君たちは客人だからね?」

 

 なぜか紳士的に促す。話される綺麗なクイーンズイングリッシュや身のこなし、身につけている物の数々を一瞥するだけでこの老人はイギリス人、それも上流階級の人物であると分かる。

 そして彼女たちの知る限り、保安部関係で初老の上流階級出身者は一人しかいなかった。

 

「お会いできて光栄ですわ、サー・レイモンド・キャラウェイ伯爵殿」

 

「こちらこそお会いできて光栄だ、レディ・AK-12、AN-94。

 紅茶は如何かね?」

 

 この男がキャラウェイだった。

 彼は二人に紅茶を勧める。

 

「いただこうかしら」

 

「それは嬉しいね。いつでもどこでもレディと共に紅茶を飲むのは楽しい事だ。」

 

 キャラウェイは立ち上がり机の上に置かれた二つのティーカップに紅茶を注ぐ。

 

「ロシアでは紅茶はサモワールに淹れてジャムを舐めながら飲むらしいがイギリス式は違うのはご存知ですかな?」

 

「もちろん」

 

「そうなのか?AK-12」

 

 この手のことに疎いAN-94はAK-12に尋ねる。

 するとキャラウェイは驚いたようだった。

 

「君は知らないのか?ではこの機会に覚えたまえ。

 イギリスの紅茶はミルクティーが基本だ、ただミルクを先に入れるか、紅茶を先に入れるかは個人の好みだが。

 はい、どうぞ」

 

 二人に紅茶を出した。

 二人は互いに見合うと警戒しながらゆっくりと紅茶を飲む。

 

「…美味しいわね」

 

「…なんだか変な味がする」

 

「ハハ、紅茶に飲み慣れてない人はそう言うさ。

 今日の茶葉はラプサン・スーチョン。年200トンしか輸出されない世界で最も希少で高い紅茶だ。」

 

「ラ、ラプサン・スーチョン!?」

 

「知ってるのか?AK-12」

 

 キャラウェイが出した紅茶はただの紅茶ではなかった。

 ラプサン・スーチョン、中国の最高級茶葉にしてこの世界では世界で最も高級な紅茶だ。

 中国という地域自体が消えた彼女らの世界と違っても経済制裁で殆ど市場には出回らない極めて高価な茶葉だ。

 キャラウェイは年甲斐もなく仕掛けたイタズラに上手いこと引っかかった二人を楽しんでいた。

 

「驚くのも無理はないだろう。この世界ではとっくの昔に消え去り、こちらの世界でも戦争と経済制裁で極めて入手が困難な中国茶だ。

 ところで、レディ・アンジェリカ、彼女たちがこんな風に驚く姿は初めて見るかね?」

 

『ええ、キャラウェイ伯爵殿。特にAK-12の驚き具合とか』

 

「え!?」

 

「アンジェリカ?」

 

 突如見知った人の声が聞こえ二人が驚く。

 すると会議室の真ん中に置かれたテレビ画面が写った。

 

「ハハ。それは結構。驚かせて悪かったね。

 実は君の上司とこうして話し合ってた最中でね、ちょっとしたドッキリさ。

 イギリス人は常にユーモアを忘れない事を美徳としているのでね。」

 

 キャラウェイが楽しそうに種明かしをした。




(オリジナルメカ)
・セスナサイテーションCJ6
皆さんご存知(な訳ないだろ)セスナ社のビジネスジェットセスナ・サイテーションの中でも小型のシリーズのCJのタイプの一つ。
生産時期は2030〜2046年。
現行の生産モデルの2つ前の生産型で初めて機体構造を全て炭素素材に、ウィングレットの改良、従来の翼形を捨て新型翼を採用、ウィングレットをCJシリーズで初めてオプションではなくデフォルト装備にしたタイプ。
これによりビジネスジェットの中では最小クラスの機体ながら航続性能や飛行性能は一回り大きいリアジェットと遜色ないほどに。
一方で従来型と翼を変えさらには構造まで違うためこれ以前のCJ型がCJクラシック、これ以降がCJネクストジェネレーションと呼称され操縦ライセンスも別物。
飛行特性は若干難しいが比較的素直。一方狭いコックピットに計器類を詰め込んだので一応は一人で飛ばされるが扱いづらい。
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