もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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自動車学校始まって更新遅れる


第46話

「それで、連中の持ち込んでる書類の輸送は?」

 

『これよ、正規軍が機密書類輸送に使用している特殊なアタッシェケース。

 登録された人の指紋とパスワードの二段階認証になってる特殊なケースで開けるのに指紋とパスワードがいる。

 耐久性も相当なもので基本全面防弾、耐火性も1200度で1時間耐えられるし耐衝撃性も相当なものだ。

 その上カーターは中に書類ではなくメモリを入れている。』

 

 暫くして、キャラウェイとアンジェリカは真面目な話し合いをしていた。

 彼女が説明しているのはカーターがエゴールに送っている情報を入れているアタッシェケースと輸送方法だった。

 頭がキレる男らしく情報は極めて頑丈な特殊なケースに入れしかもメモリに仕込むというものだった。

 

「メモリなら情報をパソコンから直接入れて運べるからな。」

 

『それでだ、そっちのエゴールの使っているパソコンにウイルスを仕込んでもらいたい。

 できるか?』

 

「可能だ。だが少し時間がかかる。

 ついでに言えばそれでも不完全だ」

 

『だが、背は腹に変えられないだろ?』

 

「そうだ」

 

 アンジェリカのオーダーは電子作戦に長けた国連軍にウイルスを仕込んでもらいたいというものだった。

 だが、そのウイルス以上の方法で情報をすぐに得れるとは誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 国連軍の登場と治安の安定化、そして比べ物にならないほどの質と量の食料が大量に流入したS地区では現在レストランへの投機が流行っていた。

 というのも国連軍将兵はおよそ30万近くその契約人形や下請けの人々も含めれば50万近い。

 その上彼らは国連軍が大量に持ち込んだドルで支払いを行っていた、経済とは時として国家や主体、時には当の経済人たちでさえ想定していないような動きを見せることがある。

 

「親父、なんで急に一緒に食事をしようなんて言ったんだ?」

 

「いいじゃないか、久しぶりに家族水入らずでくつろぎたいからな」

 

 この世界、ひいてはS地区でさえ僅か数件しかない高級レストラン――アメリカでも有名な三ツ星レストランが開いた最新店――の店内でコーシャ一家即ちアーチポフ大将、コーシャ、G36、G36Cがテーブルを囲んでいた。

 

「そうですわよ、コーシャさん。こうやってお義父さんと一緒にご飯なんていつぶりでしょうか」

 

「モスクワにいた頃でしたから、もう8ヶ月ぶりぐらいですね。」

 

「そんなに?いつも同じ場所で仕事してるのにか」

 

「ハハ、そんなものさ」

 

 雑談をしているとウェイターがやって来た。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「Tボーンステーキ、ウェルダンで」

 

「ヒレステーキ、レア」

 

「牛ヒレ肉のロッシーニ風をお願いします」

 

「サーロインステーキをウェルダンでお願いいたしますわ」

 

「畏まりました」

 

 ウェイターは注文を取ると離れていった。

 彼が離れるとアーチポフがコーシャに周囲を確認する。

 

「コーシャ」

 

「何だ、親父」

 

「正規軍の反乱の件だ」

 

「それでこのレストランか」

 

 アーチポフがこのレストランを選んだのはシンプルなものだった。

 こういったレストランに共通するのは「客の会話、素性は一切他に明かさない」という不文律がある。

 つまりは他人に漏れてはいけない話をするのだと理解した。

 

「で、どんな話?」

 

「エゴールを泳がせ」

 

「知ってる」

 

「ならいい、グッドイナフ大将もこの事態を危険視している。

 保安部がチェキストと連携も始めた。」

 

「保安部が?」

 

「ああ。キャラウェイ曰く、確度は高いそうだ。」

 

「だが、なぜ正規軍が反乱を?」

 

 コーシャがそもそもの疑問を口にする。

 なぜ反乱を起こす?利害は一致しているのでは?としか考えられない、常識的に考えれば、局所的な見地で見てもそうだ。

 だが、それは大局的な見方では違うのだ。

 

「ロクサット主義とやらに反対するためだそうだ」

 

 ロクサット主義、彼らの世界に存在しない政治思想であり欧州連合の主軸の思想だというものだ。

 だがそれは彼らからすれば「劇薬」どころか「アナーキストやポルポト、毛沢東並の夢物語」であった。

 

「あの共産主義の異母兄弟か。

 共産主義者となら最低限話し合いはできるが彼奴等は…」

 

「ああ。何が世界の輝きを更新せよ、だ。」

 

「まともな話し合いができるとは思えないな」

 

 そもそも共産主義となら付き合い方は知っているしいい面も悪い面もロシア人は身を以て嫌というほど学んでいる、だがロクサットは話が別だ。

 そもそも初めて遭遇するからどうやって付き合えばいいのかさえわからない。

 

「あの思想の根本は慢性的物資不足、一方こっちは常に物が余ってる、そしてそれを売る。

 資本主義とあの思想は根っこが違うからな」

 

「まだまともな接触なんて一回もないが、って痛!」

 

 慢性的物資不足から思想と一方は大量生産大量消費こそが本質とも言える資本主義、共産主義とさえ折り合いの悪いのだから上手くいくわけがないのだ。

 そんな男二人に食前酒のワインを飲んでいたG36が痺れを切らしてテーブルの下で思いっきりコーシャの足を踏んづけた。

 

「はぁ、ご主人様。

 食事のときぐらいは仕事の話はやめませんか?」

 

 いつも以上に鋭い目つきでワインで顔を赤らめながら言った。

 それに、向かいに座るG36Cも同調した。

 

「お義父さんもですよ、今ぐらいは仕事のことは忘れましょう、ね」

 

「そのとおりだな、G36」

 

「そうだな、酒も肉も不味くなる」

 

 G36の言う通り、食事の時ぐらいは仕事を忘れたいものだ。

 近くの窓から外を見れば大雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 

「酷い雨ですね」

 

「そうだな、止まないかな」

 

 基地の廊下でコチェットコフとROが話しながら歩いていた。

 窓の外は季節外れの豪雨になっていた。

 

「天気予報では一晩中降る予定でらしいですよ」

 

「嫌な天気だね。この季節にしては珍しいよ」

 

「ああ、ヨーロッパは夏あんまり雨降らないですからね」

 

 ヨーロッパの夏は基本的に湿度が低く雨は殆ど降らない日が多い、だから季節外れの豪雨だった。

 アメリカ在住のROと違いエストニア出身のコチェットコフとしてもこの時期のこの大雨は珍しかった。

 

「アメリカは?」

 

「夏もそれなりに降りますよ。フロリダほどではないですけど」

 

 アメリカは夏でもそれなりに降る。

 フロリダなどは毎年ハリケーンが直撃するぐらいにはなるが。

 

「何も起きないといいけどな…」

 

「土砂崩れとか、そういうのが起きたら大変ですね…」

 

 ふと口から漏れる。

 この天気なら心配して当然だろう。

 

 

 

 

「なあ、アンジェリカ。なんかあった?」

 

「ある程度動きは分かったけど情報を抜くのは難しいな」

 

 アンジェリカとMP7が駄弁る。

 ここは基地近くの空港の職員用休憩室、クーリエ便の張り込みで空港にいた二人は飛行機の件で話していた。

 

「パイロットか整備士が常にいるからバレずに近づくなんて無理に近いな。」

 

「天才の私でもあれは無理だよ」

 

「天才でも無理、か」

 

「天才でも目に見えなくなるのは無理だから」

 

 天才を自称するMP7でも近づくのは無理そうだった。

 

「何か打開策でもあればなぁ」

 

「はぁ、全くなんて日だよ」

 

 ふと休憩に来た管制官がアンジェリカの後ろでぼやいた。

 振り返った彼女がなんの気もなく聞いた。

 

「何かあったのか?」

 

「聞いてくれよ、昨日から地上レーダーが定期メンテナンスで使えないんだ。その上この天気だろ?だから大変なんだよ。

 滑走路も一本はまだ設備の工事が終わってなくて離陸にしか使えないしさ」

 

 管制官が二人に愚痴をこぼし始めた。

 

「地上レーダー?」

 

「地上で使うレーダーだよ。

 それがないから指示とか出すのが大変で、事故が起きないかヒヤヒヤしてるよ」

 

「大変だな」

 

 MP7も目の前の若いアメリカ人の管制官に同情する。

 心なしか顔色も疲れているように見えていた。

 

「全くだよ。しかも今日はこの雨で益々大変だ。

 どの便も遅延して大変だよ、パイロットはどこの機でも遅延とか欠航とか嫌うからさ」

 

「管制官も大変なんだな」

 

「知らないのか、管制官はこの世の職業で最もストレスが多いんだぞ。」

 

 管制官がアンジェリカに言った。

 その時、空港中に爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 午後11時過ぎ、レストランでアーチポフ家はフルコースが終わりお会計に入ろうとしていた。

 

「美味しかったですね」

 

「ああ。久しぶりに食堂とG36の手料理以外の物を食べた気がするよ」

 

「私も外食は久しぶりですね。」

 

「仕事付き合いの食事ばっかりだったからこういう家族団欒は久しぶりだよ」

 

 皆酒が入って顔色が赤くなりながら話していると電話が鳴った。

 それはコーシャとアーチポフの携帯のようだった。

 

「ん?」

 

「誰だ?」

 

 電話を受け取ると同時に叫んだ。

 

「「何!?クーリエ便が空港で貨物機と地上衝突して大破炎上!?」」

 

 二人は大声で叫んだ。

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