ドルフロ要素ほぼゼロ
時刻は約20分前に遡る。
エドワーズB空軍基地(ゲート基地)を30分前に離陸したアメリカの貨物航空会社インターコンチネンタル・エア・カーゴ218便、中古のボーイング787-8を改造した787-8BCF(ボーイング・コンバーティッド・フレイター)はこのフライトの最高高度、4500フィートに到達した。
フライト時間が30分程度で目的地に向かう時間より着陸待ちの時間のほうが長い路線に787のような大型機を使っているのは単に地上の交通網が未だ不完全で不安定なため確実で手っ取り早い航空機の方が良かったのだ。
そして国連軍はこの物資輸送に世界中の貨物航空会社と契約して当たらせていた。
その一社がアメリカのヒューストンをハブとするインターコンチネンタル・エア・カーゴであった。
機長の元ブラジル空軍パイロットでベテランのジャクソン・ジェンキンスは無線で空港の進入管制に連絡する。
「アプローチ、こんばんわ。こちらインターコンチネンタル218、ウェイポイント“オリスカニー”通過。高度4500、270ノット」
『インターコンチネンタル218こんばんわ。
高度3000に降下し現進路を維持せよ』
「了解、インターコンチネンタル218は3000に降下する」
管制官の指示を復唱する。
すると隣の副操縦士でこちらも他社で長く経験を積んで最近入社したジェーン・ペティットがオートパイロットを操作する。
「了解、降下3000。着陸準備します?」
「そろそろ始めようか」
ジェーンの提案に二人はプロらしく着陸準備を始めた。
窓の外は大雨であった。
「こりゃ雷雨もありそうだな」
「ありますよ、10時の方向に小さな積乱雲が」
ふと天気の心配をすると副操縦士が気象レーダーで近くに雷雲があると伝える。
「やっぱりな、こりゃ揺れるぞ」
気象レーダーには右側に小さな雷雲が写っていた。
「ズヴェズダ909、誘導路ノベンバー1滑走路手前についたら報告」
『ズヴェズダ909、ノベンバー1滑走路手前についたら報告します』
管制塔では管制官たちが大雨の中着陸しようとする軍用機と民間機を捌いていた。
ロシア空軍の輸送機に移動の指示を出すと更にその後ろに遅延で2時間遅れているクーリエ便を続かせた。
「クーリエ694、ズヴェズダツポレフTu-106の後ろに続いてノベンバー1に向かえ」
『クーリエ694、了解』
クーリエ便からの返事が聞こえると管制官はすぐに別の機、着陸進入に入ろうとしているインターコンチネンタル218とその前を飛ぶ爆撃任務を終え着陸使用する2機のドイツ空軍の戦闘機だ。
「インターコンチネンタル218、方位009に右旋回、降下してILSを受信せよ」
『インターコンチネンタル218了解、右旋回009、降下してILSを受信』
「イェーガー21、着陸許可滑走路01右」
『着陸許可01右、イェーガー21』
ドイツ空軍機と貨物機に指示を出したところで息をつく暇もなくロシア空軍輸送機が連絡した。
『こちらズヴェズダ909、ノベンバー1滑走路01右手前に到着』
「ズヴェズダ909、スタンバイ追って指示する。」
『クーリエ694、ズヴェズダ909の後ろ滑走路01右手前で待機中』
「スタンバイ、ズヴェズダ909は待機、イェーガー21が到着後滑走路を横断し01左末端で転回して待機、指示を待て」
『ズヴェズダ909、了解』
「クーリエ694はズヴェズダ909横断後停止線まで進み待機。
インターコンチネンタル機が到着後進入し転回してホールド。」
『クーリエ694了解』
2機に指示を出す。
その間に窓の外では雨の中かろうじてドイツ空軍機が着陸する様子が見えていた。
その頃、上空1400フィート付近まで降下した787の機内で機長と副操縦士が慌ただしく着陸準備をしていたがそろそろ終わりそうであった。
「フラップ」
「15、セット」
機長がチェックリストを読み上げ副操縦士が操作する。
機体は自動操縦でゆっくりと降下しながら同時に速度も落ち悪天候にも関わらず理想的な飛び方であった。
「着陸灯、ウォ」
「うわ、オン」
「ヒーハー、頑張れカウガール。
ギア」
突然の乱気流に思わず声が出る。
だがプロの彼らは慌てずいつものようにチェックリストを終わらせる。
「ダウン、着陸前チェックリスト完了。」
「完了、1400フィート。アウターマーカー通過」
終わった頃には機体は計器着陸装置のマーカーを通過、1400フィート付近を通過して降下していた。
窓の外には飛行場のライトがぼんやりと見えてはいたがはっきりとは見えていなかった。
機長は計器類に目線を移す、一方副操縦士は操縦に集中する。
「1300通過、速度180。着陸速度はどうする?」
「154ぐらいで」
「了解、154ノット。セット。
ステーブル」
機長が着陸速度の目安を設定する、これは通常の着陸時にはどの機もする作業である。
そして運行規定に基づき安定していると口にする。
そうこうしていると管制塔から待望の許可が来た。
『インターコンチネンタル218、着陸許可滑走路01右。』
「インターコンチネンタル218、着陸許可滑走路01右」
「了解」
着陸許可を復唱する。
副操縦士は両手で操縦桿と二人の間にあるスロットルレバーを持ち乱気流に抗いながらゆっくりと降下していく。
その間にコックピットには無機質な高度計の自動音声が聞こえる。
『500』
「500フィート、対気速度160」
「チェック」
500フィート、高度150メートルを通過する。
速度と降下率は理想的な角度、雨でよく見えないが滑走路も見えていた。
『200』
「200フィート」
「ランディング」
高度60メートル付近を通過、滑走路の端が見え、機首が接地のため上がる。
数秒後、鈍い衝撃が走り車輪が地面を掴む。
だが次の瞬間、機長は滑走路の上に何かがあることに気が付き叫んだ。
「出力最大!何なんだ!」
『インターコンチネンタル!ゴーアラウンド!』
機長と同時に管制官も大声で叫んだ。
彼は強引にスロットルと操縦桿を奪い機首を上げて上昇を試みる。
機体後部が滑走路にぶつかり激しい衝撃が走るが気にしないで大声で叫ぶ。
「上がれ!上がれ!上がれ!!」
「早く!早く!早く!!」
上昇しようと必死でもがくクルー、だが現実は非情であった。
前の物体に覆いかぶさるように機体はぶつかり機首が下がる、コックピットの真下で爆発と炎を噴き上げ金属が擦れる音が大音響で響き渡る。
もはや彼らにはどうしようもなかった、時速200キロで100トンの金属の塊が部品と炎をばら撒きながら滑走路を右に逸れ草地に入る、片方の足が折れ右に傾きながら止まった。
滑走路で787が爆発、燃えながら進んでいく姿は雨で視界の悪い管制塔やターミナルからでもよく見えていた。
一部始終を見ていた管制官たちは電話の受話器を取ると大声で叫ぶ。
「全緊急部隊出動!滑走路01右!」
「滑走路を閉鎖!繰り返す滑走路を閉鎖する!
アプローチに入った便も含めて着陸街は全部上空待機だ!高度に注意しろ!」
「短距離便はエドワーズに回せ!急げ!」
後続の機が事故を起こさないためにもスーパーバイザーが滑走路の閉鎖を命じる。
呆然としていた管制官は彼の言葉に我に返り急いで着陸しようとする航空機を捌き始めた。
「ウラルカーゴ341、ゴーアラウンド、ギムリ―で待機。」
『ウラルカーゴ341、上昇3000、ギムリ―で待機』
「ロメオタンゴ1456、進入中止、滑走路を閉鎖、左旋回350。
高度4000まで上昇して待機」
『ロメオタンゴ1456、了解』
『アルテミス233、指示を求む』
「アルテミス233、スタンバイ」
『了解、アルテミス233』
「ダイナスティカーゴ5698、待機経路ケベックで待機。高度5000まで上昇」
『ダイナスティカーゴ5968、待機経路ケベックで待機。レベル05まで上昇』
必死になって空港の周りの数十機の大小、軍民問わない各種航空機を処理していく。
するとそこに消防隊からの連絡が鳴った。
「はい、管制塔」
『こちらレスキュー3、01右にサイテーションの残骸がある。
ここには2機あるんだ』
消防隊の連絡は恐ろしい可能性を示唆した。
管制官が最も恐れる悪夢の一つ、滑走路上での地上衝突だ。
その連絡が届いたとき、全員がスーパーバイザーの方を見た。
「サイテーションだ、クーリエ便は?」
「クーリエ694、こちら管制塔。応答せよ」
管制官がクーリエ便のサイテーションに呼びかける、だが返事はなかった。
「クーリエ694、無線チェック願います」
無線を確認するよう言っても返事はない。
最悪の可能性を示唆することだ。
「スーパーバイザー…」
「…少し休め。ペトロ、代わりを頼む」
絶望の底を見たような表情の管制官を席から離し代わりに別の管制官に交代させた。
国連軍初にして最大の航空機事故が発生したのだ。
インターコンチネンタル機の乗員は機長が頭部を陥没骨折、副操縦士が重症を負うも無事であった。
だがクーリエ便の乗員乗客4名は全員死亡、機体は787に押し潰されぺちゃんこになっていた。
(オリジナル組織)
・インターコンチネンタル・エア・カーゴ
ヒューストンを拠点とする長距離国際線専門貨物航空会社の一社。
元々米軍のパトリオットエクスプレスで付き合いがあったので国連軍と契約した。
主な機材は中古の787や747を改造した貨物機中心。
・ウラルカーゴ
ロシアの貨物航空会社で本拠地はペルミ
国連軍との契約で物資輸送を行っている。
(オリジナル機材)
・ボーイング787-8BCF
旧式化したボーイング787を貨物機にボーイングが改造した機体。
性能は767貨物機よりはいい