『グッドイナフ大将、つまり彼らの計画ではその崩壊液兵器を起動させ、そのシステムの中枢がオガスであり鉄血のエリザだと?』
大統領はグッドイナフから報告された内容に驚いていた。
画面に映る彼に彼以上に深刻な表情のグッドイナフが答える。
「はい、大統領閣下。
彼らの狙いはエリザを捕獲し、そのシステムで崩壊液兵器、カマスを起動させるつもりです。
もしこれが使用されると、甚大では済まない歴史的な悲劇になります」
国連軍はこれを重大なる懸念と判断します。ですが彼らは武力行使を行っておらず表向きは協力関係です。」
グッドイナフが報告する。
だがいくら安全保障上の重大事でも実際にそれを排除などできない、なにせ国際法で軍事行動は極めて制限されている。
『そうだ、どうすればいいと思う?』
元々安全保障問題は不得手な大統領はグッドイナフに意見を求める。
状況は複雑で恐ろしいものだった。
なぜか?それは国連軍が回収したアタッシェケースの情報からカーターの反乱の情報は確定しさらなる情報を求めると、極めて細かい部分まで調べられた作戦計画要項が送られたのだ。
どうやらカーターの派閥内にスパイがいるようでその情報らしいがその計画は悪魔の計画であった。
なにせ崩壊液兵器を使うつもりなのだ、それがどれだけ恐ろしいことか。
例えるならば911を世界最大の都市トップ20で同時に核爆弾を使って行うようなものだ。
だが、一方でそれを計画している連中は表向きは協力関係で今も最前線では肩を並べて戦っている、もしも現状のまま性急に武装解除や摘発を行えば前線が崩壊する。極めて軍事的政治的に微妙な状況だ。
「五賢帝を使います」
『五賢帝作戦を?』
「ええ。策はこちらで詰めますが五賢帝作戦でクーデター勢力の正規軍を一箇所に集めます。
大規模な攻勢なら戦力の集中や予備兵力の展開を行っても不自然ではありません、それに支援名目で大隊規模の部隊を組み込むこともできます。」
グッドイナフの策、それは五賢帝作戦を利用して正規軍を一網打尽にする計画だった。
表向きは攻勢として正規軍周囲に国連軍主力部隊を配置できるなどかなり良い策に思えた。
『ふむ…いいだろう。時期はいつ頃に?』
「既に敵に対する事前攻撃は進んでいます。
物資の貯蓄も十分、作戦開始は来月1日を予定していましたがこれで若干修正して11日に」
『
「ええ。因縁めいた日ですが」
必要な時間も10日程度の遅延、だが結果として作戦開始は9月11日、合衆国にとっては因縁めいた日になった。
後問題なのは外交上の話し合いだけだがそれも解決できそうであった。
『そのまま進めたまえ、国務省にはソ連政府との交渉で軍事行動の許可を取らせる。
安保理もだ』
「感謝します大統領閣下」
『絶対にしくじるな、しくじれば終わりだ』
「分かってます、大統領閣下」
グッドイナフは敬礼すると画面が消えた。
大統領がいなくなると同じ部屋の隅で息を殺して待っていたアーチポフとヴェンク、そしてキャラウェイを見る。
「と、いうことだ。
五賢帝作戦を修正した作戦だ。
作戦立案は?」
「それなりに、ただ状況が複合的で複雑だから参謀たちは9つのパターンに分けて対処を立案している。」
ヴェンクが作戦立案の状況を答える。
彼の部下たち、世界中の軍の最精鋭の作戦参謀達は現状の複雑な状況を考えいくつかのパターンに分けて立案を進めていた。
「完了までにはどれぐらい?」
「3日で終わらせる、関係各部隊への作戦書類送付と打ち合わせも合わせれば準備に二週間」
「作戦開始まであと一月だ。五賢帝作戦の準備もある。
絶対に奴らに漏らすな」
ヴェンクに念押しする。
もしも作戦が流出すればその時点で終わりだ、だから注意する必要があった。
その上同時並行で五賢帝作戦の作戦準備も必要だった。
「分かってます、キャラウェイ伯爵が最大限努力しています」
「そうなのか?」
「ええ。各警察組織の協力の下防諜作戦を実施中です。」
キャラウェイ達も警察組織を総動員していた。
裏ではスパイ狩りが進んではいるが実際のところそもそもカーター派のスパイは国連軍内部に侵入していないのでどちらかと言えば市中の小物スパイたちばかりだった。
それでも常に出血を強い続ければいつか失血死するのは確実だ。
「ならいい、アーチポフ大将、空軍は?」
「鉄血への空襲作戦が続行中。
敵の工業生産能力は3割まで低下したと推計されてる、物資も同じく既に4割が焼失した。」
空軍の状況を聞けばこちらも上出来、制空権を抑えた彼らは鉄血相手に爆弾を落とし続けていた。
工業施設や物資集積所を破壊し戦力補充さえままならない状況に追い詰める、空軍の本質と言うべき作戦だ。
「上出来だな」
「後は五賢帝作戦フェーズ1ネルウァ作戦で発電所と送電網及びインフラの破壊だ」
残りは作戦開始時に破壊する各所の発電施設やインフラである。
これらを破壊すれば敵は機動に大きな制限を伴うだけでなく情報の入手にさえ支障を生じさせる。
再度グッドイナフがヴェンクに尋ねる。
「物資の集積は?」
「予定量の140%、想定より物資の消耗が少なく補給も順調だ。
唯一、ソ連向け食料の輸出のせいで最近若干遅れが生じ始めている程度だ」
物資の貯蓄も十分、補給路が貧弱で最大のウィークポイントである国連軍は予め大量の物資を貯蓄する必要があったがその貯蓄は十分、その上ソ連向けの食料輸出まで行われているほどだ。
この輸出のおかげで通商関係ではソ連とアメリカは非常に良い関係であり破産寸前だった穀物メジャーたちは息を吹き返しつつあった。
「ならいい」
「ところで、この作戦に作戦名はつけないのか?」
アーチポフがヴェンクに聞いた。
現状はただ修正案と呼ばれているだけだがそれでは言いにくい。
なんだかんだで名前がついている方がいい。
「ああ、言われてみれば忘れていたな。
で、どうする?」
ヴェンクが聞くが誰もいい案を持っていなかった。
「どんな作戦名にする?変な作戦名なら逆に注意を引きかねないぞ」
「角砂糖とかは?」
キャラウェイが紅茶をかき混ぜながら提案するがヴェンクが即却下する。
「命名法則から外れる上にそういう単語は逆に注意を惹くぞ」
「ヴァルキリーとかファントムとかはどうだ?」
グッドイナフの提案にアーチポフはもう少し頭を使えと言う。
「もうちょっと脳みそ使ったらどうだ?
相手をフールズ・メイトに持ち込むのがこの作戦だぞ。」
「それで良くないか?フールズ・メイト」
アーチポフが言ったフールズ・メイトという単語で良くないか?ヴェンクが言った。
フールズ・メイトはチェスの用語で簡単に言えば馬鹿詰みのことだ。
素人同士のゲームでも滅多に無いことだが時々起こることだ。
そしてこの作戦はカーターを自爆させる言わばバカ詰みさせる作戦だ。
「確かに、オペレーション・フールズ・メイト、悪くない響きだ」
「それで決定だな。フールズ・メイト作戦の作戦準備を進めたまえ、紳士諸君」
キャラウェイも賛成に回り作戦名はフールズ・メイトに決定された。
「そうか、分かった。じゃあな」
コーシャは電話を切った。
相手は父親だった。
「はぁ、ついに始めるのか」
「中佐?」
「ご主人様?」
「コーシャ?」
紅茶を出したG36とコチェットコフ、そしてコチェットコフとチェスをしていたAN-94が心配する。
3人に彼は頬杖をつきながら言う。
「始めるつもりだ。とうとうな。
カーターを叩き潰す」
「やはり始めるつもりですか」
「ああ、来週のブリーフィングの際に作戦参謀だけで説明会をするそうだ。
作戦名はフールズ・メイト」
「馬鹿詰み作戦、か」
「チェックメイトよりはいい。
失敗すればこっちがチェックメイトだが」
コーシャが愚痴る。
内容こそまだ決まってはいないがこの先面倒な事に巻き込まれるのだけは確実だった。
「はぁ、インターコンチネンタル機を片付けたと思ったら今度は軍事作戦かよ。
俺の休暇はいつになるんだ」
G36の淹れた紅茶の水面には陰鬱そうなロシア人の姿があった。
運をP90に吸われなくて良かった