「私だ。ああ、大統領が言った。
君は今すぐロシア、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、インド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンの国連大使に会って協力を要請、臨時安保理を12時間以内に開いてくれ。
私は今からロゴジン大使に会う。」
「レインハート補佐官、ゴア国防長官からです。」
ホワイトハウス、カークマンの演説が終わり30分もしないうちにホワイトハウスのレインハート安全保障問題担当補佐官はスタッフにいくつもの指示を出しながら慌ただしく国連大使に電話をかけていた。
理由は勿論大統領の演説、その突拍子もない演説にスタッフは急いで根回しに向かっていた。
「それは後だ。マイク、君は今すぐペンタゴンに行ってゴア長官と話をつけろ。」
「了解です」
国防長官からの電話に受け取った黒人のスタッフに指示を出す。
「ジェフ、ハルゼー議員とディケーター議員に明日緊急の軍事委員会を開かせるよう交渉してくれ。」
「分かりました」
アイリッシュ系のスタッフには議員会館に向かわせ両院の軍事委員会の委員長に委員会の開催を交渉を指示。
「君はウェブスターCIA長官に情報収集部隊を明日エドワーズに向かわせるよう伝えろ。」
「補佐官、了解しました」
インド系の女性のスタッフにはCIAへの対応を指示する。
「ジョーンズ議員とバーリンゲーム議員に誰か今すぐ電話をかけろ。
バーリンゲーム議員は指定生存者で今セントポールだ。
どうせ間に合わないから委員長代理を選ばせろ」
「了解!」
外交委員会の委員長二人との電話会談にはヒスパニック系の女性スタッフが動く。
国連大使との電話を切ると内線電話をかける。
「カービィ、声明文はどうなってる?
『スティーブ、今原稿を書かせてる。
ライター曰くまだ3割だ』
「メディア対応を急げよ。
日本で明日の朝刊の一面と日本の夕刊の一面を飾るからな。」
『ああ、コカイン吸わせても書かせ…』
報道官に電話をかけ切ると更に別の所にかける。
「マーヴィン、俺は今から大使に会ってからそのままアンドリュースに向かう。
後は任せて構わないか?」
『分かったスティーブ。伊達に30年この街で暮らしちゃいないさ。
ああ、その書類は後だ、誰かリンダの様子を見に行ってくれ。
G36、コーヒーとエナジードリンクを用意できるだけ用意してくれ。
で?なんだ?』
「いや、大丈夫そうだからな。じゃあ切るぞ」
首席補佐官に後の事を任せると身だしなみを整え荷物を持ちロシア大使館へと向かった。
「さてと、まず色々と聞きたいが最初に言っておくがこれは任意の事情聴取だ。
ここで話されることに法的な拘束力や証拠能力がありもし裁判等になった際には不利な証拠に使われる場合がある。
次に任意だから拒否しても構わない。
最後に話したくない事があれば黙秘権を行使できる。
後一応録音録画もしておく、いいね?」
さて、ワシントンDCの大混乱を知らない指揮官たちはオフィスに着くとAR小隊に法的な要件を言う。
だが彼女らは何故そんなことが伝えられるか分からない。
「えっと、そんな事を伝えてどういう意味があるのですか?」
「どういう意味って、訴訟対策だよ。
下手に訴えられると困るからな」
「訴訟って、そんな事できるとでも?」
AR-15が椅子にソファに座って腕を組みながら言う。
「できるんだよ。アメリカでは。
合衆国憲法修正第30条、連邦政府の登録機関に登録された自律人形は選挙権、被選挙権、一部の社会保障を受ける権利を除く全ての市民と同じ権利を有し、行使できる。
自律人形の権利に関する条項だ。
それにオコンネル法で自律人形の政府への登録が義務化されてるからそもそも未登録の人形自体が違法だし」
合衆国憲法修正第三十条、2048年に制定された憲法の修正条項で自律人形の権利に関する条項である。
オコンネル法、正式には自律人形登録管理法はこちらも49年に可決された文字通り登録と管理に関する法律だった。
この二つの条項に基づき自律人形の権利は事実上人間と同じであった。
「そんな変な法律があるんだな。」
「ないのか?この世界には」
「ええ。そもそも自律人形は道具よ」
「ハハ、思考を行い、感情、欲求を持つ中身が機械であるという事以外すべて人間と同じものが道具だって、笑わせるな。
だったら何をもって人間じゃないと言うんだ?」
指揮官はAR-15の弁を笑い飛ばす。
この世界では自律人形は「人形であることが一つの個性」「物であるが権利がある」という機械と人の中間という曖昧な物という扱いだった。
その曖昧さこそが人形の特徴という哲学的な認識があるのだ。
「とにかく、ここは法的にはアメリカ合衆国カリフォルニア州だ。だから連邦法とカリフォルニア州法が適応される。
じゃあ色々と聞こうじゃないか。
まず最初に、君らの所属を教えてくれ。」
指揮官が聞くとM4が即答する。
「グリフィン&クルーガー社です。」
「社長は?できれば他の幹部も教えてくれ」
「社長はベレゾヴィッチ・クルーガー、上級執行官にへリアントスさんがいます。」
「そのほかには?」
「一応私達はIoPのペルシカリアさんの直属です」
AR小隊周囲の情報を集める。
何人かの人名には彼にも心当たりがあった。
ペルシカと言えばかの世界でも第二世代自律人形の開発に大きな貢献をした人物であり現在でも世界のトップに君臨する技術者だ。
クルーガーも元親会社の社長で現在は贈賄容疑でロシアの刑務所の中だ。
「では次、あそこで何をしていた?」
「ペルシカさんに命じられて鉄血の機密情報を収集して送信していました」
「機密情報?」
「はい、詳しくは知りませんが技術的なものかと」
「もしかしてその送信開始時刻って13時半ぐらいから?」
送信していたと聞いてAR小隊が出会う少し前の事を聞いた。
「ええ、だいたいその時間帯からですが…」
「すまない、作戦行動の都合でその辺りから空軍が通信妨害を開始してたんだ。
多分完全に送れてるかどうか怪しい。」
指揮官は頭を下げて謝った。
空軍がほぼ同時刻に地域一帯で通信妨害を開始していた、そのため完全に送れているかどうか怪しい状況だった。
「そんな、謝らなくても…」
「結果的に君らの仕事を邪魔したんだ。
民間企業同士なら謝って当然じゃないか、それに裁判は勘弁してほしいって事情もあるからな」
幾ら2060年代になろうともアメリカという国は訴訟大国だった。
簡単に裁判に発展し時には余りにもバカバカしい裁判もある国なのだ。
「じゃあ次だ、この世界の歴史を2030年の白蘭島事件から教えてくれ」
指揮官がM4に恐らく歴史が変わったポイントらしき2030年からの事を聞いた。
そしてその世界は全く違う歴史をたどり文字通り世紀末となった顛末を聞いた。
「ありがとう。
想像以上に悪いな…すまないが明日、同じ話をお客にも話してくれないか?」
「ええ、別にいいですけど…」
「ねえ、その客っていったい誰なの?
大したことないなら早く基地に戻りたいんだけれど」
黙っていたAR-15が聞いた。
どうもイライラしているようで足を組んで一人貧乏ゆすりしていた。
「大した客だよ。
スティーブン・エドワード・レインハート安全保障問題担当大統領補佐官、大統領の側近で国防長官、国務長官にも並ぶ安全保障、外交の重要人物さ。」
客というのは安全保障問題担当補佐官という文字通り大統領の側近中の側近であった。
アームストロングが仕事で忙しいのもこの大統領の側近の受け入れ準備であった。
「それじゃあ次だ、君らは俺の世界の歴史に興味があるかい?」
「ないといえば嘘になる」
「正直者で結構な事だ。他のはどうなんだい?」
M16が即答する。次に指揮官はおどけた口調で他のAR小隊にも聞いた。
「私も…気になります」
「一応聞いておくわ」
「なんか面白そうだね」
「それじゃあ話そう、話が長くなるからこれでも食べながら話そう」
指揮官は机の上に置かれたマカダミアナッツのチョコを一口食べるとゆっくりと話し始めた。
今のところ登場してる政権幹部
・ピーター・カークマン大統領
ミネソタ出身。59歳。
妻がいたが12年前に死別。子供はいないが戦術人形のLWMMGを娘のように可愛がっている。
大統領になるまでは政治経験ゼロ。
前職はスタンフォード大学の政治学教授。
・スティーブン・エドワード・レインハート安全保障問題担当大統領補佐官
メリーランド州出身。35歳。
スタンフォードからホワイトハウスにインターンし政界に入った鬼才。
カークマンの教え子で政治経験だとこちらの方が長い。
世渡り上手で外交下手の大統領に代わり外交方面を司る。
ドイツ系でひいひいおじいさんがドイツの科学者で冷戦初期にアメリカに移住した。