もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第50話

 8月12日、国連軍司令部は来月11日に迫った大攻勢「五賢帝」の第一回ブリーフィングのため参加各国軍部隊の指揮官が集まっていた。

 この時点で国連軍は

 

(東部作戦群)

・イギリス陸軍ウォリック任務部隊

・フランス陸軍第2外人歩兵連隊

・陸上自衛隊第26普通科連隊

・ドイツ陸軍第11装甲旅団

・イタリア陸軍任務部隊“エウジェニオ・ディ・サヴォイア”

・スペイン陸軍第2外人部隊旅団”レイ・アルフォンソ13世“

 

(中央作戦群)

・アメリカ海兵隊第1海兵師団

・アメリカ陸軍第101空挺師団”スクリーミング・イーグルス“

・ロシア連邦陸軍第138独立親衛自動車化狙撃兵旅団”クラスノセリスカヤ“

・ロシア空挺軍第31独立親衛空挺旅団

 

(西部作戦群)

・ポーランド陸軍第21ポドハレ・ライフル旅団

・ルーマニア陸軍任務部隊”アントネスク“(連隊規模戦闘団)

・フィンランド陸軍第1砲兵大隊

・アメリカ陸軍第10山岳師団

・ブルガリア陸軍任務部隊”ストイチコフ“(連隊規模戦闘団)

・ハンガリー陸軍任務部隊”バルトーク“(連隊規模戦闘団)

・任務部隊”アンザック“(オーストラリア陸軍及びニュージーランド陸軍部隊)

 

(予備部隊)

・任務部隊”ブルンス“(ベルギー・オランダ・オーストリア・デンマーク・アイルランド軍連合部隊

          指揮官:ヨハン・ブルンス大佐(オーストリア陸軍)

・任務部隊”コールサー“(チェコ・スロバキア・クロアチア・スロベニア軍連合部隊

           指揮官:ラスティスラフ・コールサー中佐(スロバキア陸軍)

・任務部隊”グリウバウスカス“(エストニア・ラトビア・リトアニア軍連合部隊

              指揮官:ロランダス・グリウバウスカス大佐(リトアニア陸軍)

・ポルトガル陸軍第1歩兵大隊

・スウェーデン陸軍第26郷土大隊

・アメリカ海軍第38建設工兵大隊

・カナダ統合軍第31歩兵連隊

・南アフリカ陸軍任務部隊”スプリングボック“

・アルゼンチン陸軍第20機械化歩兵連隊”ロス・アンデス猟兵“

・ブラジル陸軍第14自動車化歩兵旅団戦闘団(連隊規模戦闘団)

・チリ陸軍第9増強連隊”アラウコ“

・セルビア陸軍任務部隊”ネレトヴァ“

 

 という部隊編成であった。

 陸戦部隊の編成はまさに多国籍軍で一番小さい物では中隊規模、大きいものでは師団単位で3個師団で潤沢な予備兵力まであった。

 これらの前では鉄血など所詮蟷螂の斧である。

 比べるのも野暮だ。

 

 そこに正規軍部隊およそ一個師団が入るのだが質という面では国連軍に劣りその上連携面でも不安があった。

 

「一体上は何を考えてるんだ。彼らの質の問題は理解している筈だ」

 

「伊丹一佐の言うとおりだ。我々も同じ危惧を抱いてる」

 

 その不満をぶちまけるのは陸上自衛隊第26普通科連隊長伊丹憲久一佐、同意するのはフランス陸軍第2外人歩兵連隊長のシャルル・ブイアール大佐だ。

 二人共正規軍を信用していない国連軍内部の一派に属し政治的事情はある程度は理解してはいるが介護などしたくなかった。

 その二人に背後からドイツ訛りの英語で話しかけられた。

 話しかけたのは第11装甲旅団旅団長エルヴィン・テッタウ大佐だ。

 

「作戦要項は読んだか?

 幸い俺たち東部はアイツラの介護をしなくていいそうだ。」

 

「ああ、西部の中央よりの右翼に展開だろ?

 位置的には右隣がルーマニア軍、左翼がポーランド軍」

 

「ルーマニア軍とポーランド軍が介護するんだ。

 可哀想だ。せめて第10山岳師団にやらせればいいものを」

 

 作戦要項には正規軍の一個師団が西部作戦群の最右翼のルーマニア軍とポーランド軍の間に配され増強でブルンス、コールサー、グリバウスカスの3個任務部隊とアルゼンチン、ブラジル、チリの部隊が戦術上指揮下に入れられる事になっていた。

 この編成は予備部隊を抽出して配する事になり国連軍としても正規軍の介護で苦労しているようにも見えるものだった。

 

「上もこんな苦労する必要があるなら参加を拒否すれば…」

 

「全くだ。この兵力を他のところに回せるのにな」

 

「見ろ、あの無能共。何食わぬ顔でブリーフィングに参加してやがる」

 

 ブイアールが指差す方向には迷彩服の多い国連軍に混じって一人だけ濃緑色の軍服を着て目立っていたカーターがいた。

 カーター達正規軍に対する目はこの会場内では厳しいものだった。

 

「あの無能が」

 

「彼奴等の介護なんて御免だね」

 

「そうだな。戦争を舐めてるのか?」

 

 小声で士官たちは正規軍に対する陰口を言い合う。

 それほど信用もなければ信頼もなかった。

 

「将軍」

 

「分かってる」

 

 エゴールにカーターが言うがその内心は怒りに震えていた。

 よく見れば握りこぶしを力強く握っていた。

 こちらの世界の事情も知らず長年ELIDと戦ってきたというのに彼らはそんなこと一切考慮しないどころか今まで積み上げた膨大なる犠牲を科学の力で一瞬にして帳消しにしていた。

 これでは今まで死んだ者たちはまるで無駄死にのようであった。

 

「我々が積み上げてきたものを全てコケにしやがって…」

 

 小声で呟く。

 国連軍と正規軍、そこには目には見えない大きな溝があった。

 片や頑固で無能な集団、片や自分達の労苦を無駄だと言い切った連中。

 溝が埋まるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

「で、これがフールズ・メイト作戦の作戦要項になります。

 何か質問は?」

 

 その頃、基地の別の部屋で各部隊の作戦参謀が集められてフールズ・メイト作戦の説明が一通り終わり担当のカナダ陸軍の作戦参謀のアーノルド・ヒューイット大佐が質問を聞いた。

 

「この作戦、各部隊長の了承は得てるのか?」

 

 任務部隊“ブルンス”参謀のオランダ陸軍のファン・タイン中佐が聞く。

 この作戦要項によれば彼の部隊はその正規軍に戦術上組み込まれ作戦時には正規軍部隊の武装解除を行うか直接各部隊の司令部を攻撃する任務を帯びていた。

 だがこんなハイリスクな任務をなぜ自分達が受け入れるのか?

 そもそもうちのボスは承諾しているのか?

 

「既に各部隊の指揮官、副指揮官、参謀長には伝達済みであり了承も受けている。」

 

「ならば小官に異存はありません」

 

 タインは納得した。

 上が了承しているのなら仕方ない。

 

「他には?」

 

「ヒューイット大佐、もしもだが明らかに勝ち目がなく全滅が不可避になった場合、又は事前に作戦情報が漏洩し先手を打たれた場合、どうすれば?」

 

 任務部隊“グリバウスカス”の作戦参謀のラトビア人カールリス・ベールジンシュ中佐だ。

 最悪の場合の対処について尋ねたのだ。

 

「大人しく適切な処理の後降伏して構わない。

 確認したが彼の国はジュネーブ条約やハーグ陸戦条約に調印加盟している、一番は救出されることだが不可能な場合は指揮官の責任でそのような選択肢を取っても構わない。

 まさか捕虜の虐殺などという馬鹿なことはしないだろうしな」

 

「確かに、今どきそのようなことをするのはテロリストぐらいだな」

 

 ヒューイットの意見に任務部隊“コールサー”のチェコ陸軍中佐ヴァーツラフ・カールノキが同調する。

 文明国ならば捕虜の虐殺などしないに決まっている、それは彼らの大前提だ。

 

 まさかその大前提が大外れすることなど、彼らは少しも考えていなかった。

 

 

 

 

 

 正規軍部隊に配備される部隊は予備部隊のEU諸国軍からなる3つの任務部隊だ。

 その一つ、任務部隊“ブルンス”、EUの中でも低地諸国とオーストリア、アイルランドからなるこの部隊の各部隊が整列していた。

 作戦会議から数日後、ついに前線への移動が開始されるのだ。

 

「AUG、聞いたか?」

 

「ええ、前線への移動ですわよね?」

 

「ああ。やっと戦えるぜ!」

 

「ヴィリ、戦場は軽率な気持ちで行くべき場所ではないですわよ」

 

 この話に兵士たちの反応は様々、このヴィリという兵士は興奮しながら同じ中隊の戦術人形のAUGに話す。

 だが、彼女は荷物を纏めながら冷淡だった。

 

「いや、まあそうだけどさ…AUGはどうだったんだ?

 コンゴでのミッションの時は」

 

「そうですわね、興奮と恐怖が入り混じった不思議な気持ちでしたわね。

 ただ、喜ぶべきことではないですわよ」

 

 コンゴでの平和維持活動でオーストリア軍の一員として従事したことのある彼女の言葉は重かった。

 

「誰かがこの先死ぬかもしれない、そう考えればどれだけ恐ろしい事か…」

 

「でも人形は死なないでしょ?」

 

「ええ、“人形は”。

 死なない、死ねないから目の前で仲間に死なれた瞬間を見て、永遠に苦しむのですよ。

 今もコンゴでジークが死んだ瞬間を昨日のことのように思い出しますわ」

 

 何気なく呟いた言葉にAUGは遠い目をして嘆いていた。

 その事に首を傾げる。

 

「ジーク?」

 

「おい、ヴィリ。」

 

 すると離れたところで話を聞いていたAUGと付き合いの長い曹長が呼び耳打ちする。

 

「ジークの話は絶対にするな、二度と。いいな?」

 

「は、はあ。ジークって?」

 

「はぁ、彼女の恋人だった同僚の軍曹だよ。

 コンゴでの平和維持活動中に現地住民への支援中に現地武装勢力の攻撃で戦死した。

 それも彼女の目の前でな。彼女も重傷を負ったが撃退するまで戦った。

 あの時俺は伍長でよく覚えてる。その後の彼女の嘆き様もな。

 だから、絶対に奴の話はするな。」

 

「分かりました…」

 

 曹長の有無を言わせない圧に首を縦に振った。

 




・伊丹憲久
陸上自衛隊第26普通科連隊長
英語に堪能な人物で元駐アイルランド大使館付き武官なので喋る英語は若干アイルランド訛り

・シャルル・ブイアール
フランス陸軍第2外人歩兵連隊長
外人部隊指揮官、あんまりまばたきしない。
英語に堪能だが訛りアリ

・エルヴィン・テッタウ
ドイツ陸軍第11装甲旅団旅団長
英語に堪能な装甲部隊指揮官。
NATO最優秀装甲部隊指揮官の異名を持つ。
元々はユンカーの家系で高祖父の祖父はドイツ陸軍の将軍だった。

・アーノルド・ヒューイット
参謀将校
カナダ陸軍所属で出身はウィニペグ
味覚がおかしい。作戦立案に関与して説明を担当した。

・ファン・タイン
オランダ陸軍所属の参謀将校
カリブ海のキュラソー島出身者。

・カールリス・ベールジンシュ
ラトビア陸軍の参謀将校

・ヴァーツラフ・カールノキ
チェコ陸軍の参謀将校

・ヴィリ
オーストリア陸軍の二等兵
経験が浅くこれが初実戦

・AUG
オーストリア陸軍所属の戦術人形
かつてコンゴでの平和維持活動に参加し戦友を目の前で失った経験がありそれに苦しめられている。
なお一応階級は准尉。

・ジーク
AUGの恋人だったオーストリア陸軍の下士官
コンゴでのPKOで彼女の目の前で殺害された。

・曹長
ベテランの下士官
AUGと同じくコンゴでのPKO任務の経験あり。
AUGとジークのことをよく知っていて気にかけている。



「忘れるというのは神が人に与え給うた素敵な能力だと思うんだけどね」
      ――小野田公顕(相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195kmから)

自分で忘れることができず、事実上永遠に生きれる人形という存在だからこその苦しみ。
人なら忘れたり死ぬことで終わらせられる苦しみも人形なら永遠に
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