もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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甘々な話が書きたかった


第51話

 時は流れ約1ヶ月後、2062年9月9日、作戦開始2日前。

 

「作戦開始まであと2日だな」

 

「はい、閣下」

 

 正規軍の司令部では連携の問題で尉官クラスでは差し支えがあるということで佐官クラスの別の士官と交代したエゴールとカーターが紅茶を飲みながら司令部のテントの中に立てられた地図を見ていた。

 

「ここだ、ここにエリザがある」

 

「はい」

 

 地図の一点を叩く。

 そこにはエリザと書かれた点があった。彼らの狙いだ。

 

「エリザさえ、エリザさえ手に入れれば…祖国は戦える。

 このままでは祖国はアメリカの植民地となる、そのような屈辱を祖国に味あわせてはいけない、絶対に。」

 

 彼らがエリザを狙う理由、それは反欧州連合以上の反アメリカ、反国連、そしてその根底の愛国心だ。

 純粋な愛国者として危機感を抱き、行動していた。

 その行動の是非は別として。

 

「ええ。このままでは彼の国の経済圏に取り込まれ、気がつけばただの奴隷になります」

 

「君も見ただろ?あの物量、技術力、繁栄っぷりを。

 初めはただ利用するつもりで近づいたが、このままでは祖国が利用される。

 それだけは絶対に避けなければ」

 

 アメリカの繁栄と資本主義はそのうち祖国を呑み込む、祖国だけじゃない、ソ連の次は欧州、その次はアフリカ、アジア、アメリカ、気がつけば世界を呑み込むに決まっている。

 今も彼らの頭の上を飛び交う国連軍所属の空中給油機がそうだ、彼らにはできない崩壊液の完全なる無害化をいとも簡単にやってのけるのだ。

 気がつけば広い範囲で崩壊液の汚染はなくなり生活圏は少しずつ広がっていた。

 

「我々の労苦を無に帰しおって。

 だが、エリザを手に入れれば、我々の絶対的勝利だ。カマスを起動させれば、奴らはひれ伏す」

 

 エリザこそが彼らにはこのゲームを全てひっくり返すジョーカーだった。

 

 

 

 

 

 

 そこから数千キロ離れたニューヨーク、国連安全保障理事会では極秘理事会が開催されていた。

 

「ソ連政府軍の一部が国連軍に対する軍事行動を計画中、これは本当かね?」

 

「はい、本当です議長。

 ソ連政府の情報機関及び我が国の情報機関が入手した情報によればですが」

 

 議長のトルクメニスタン大使の言葉にハンフォード大使が説明する。

 この理事会は国連軍によるソ連政府軍への先制的自衛権行使を行うかどうかのために開催されていた。

 

「なんてことだ、彼らは我々を救世主だと思ってないのか?」

 

「どうやら一部は厄介者だと思っているらしい」

 

 ルーマニア大使が思わず口にするとフランス大使が吐き捨てた。

 この事実は国連や彼らからすれば顔に唾を吐き捨てるが如き所業である。

 この場にいた全員が我々の寛大なる施しに中指を立てるとはけしからん、そのようなことを思っただろう。

 そこでハンフォードはある提案をする。

 

「我が国はソ連政府軍への先制的自衛権行使を行いたい」

 

「ロシア政府も同じです」

 

「フランスもです」

 

「イギリスも」

 

 それにこの場にいた大部隊を派遣している常任理事国3カ国が同調する。

 さらに非常任理事国のルーマニアも声を上げる。

 

「ルーマニアとしては反対する余地はありません。

 ルーマニア政府は国連軍に部隊を派遣しています」

 

「我が政府としても依存はありません。

 そもそも北中国は参加しておりませんし」

 

 常任理事国で唯一派遣していない北中国も同調した。

 さらに去就を明確にしていない北マケドニア、エジプト、コートジボワールも態度を明確にした。

 

「北マケドニアはアメリカを支持します」

 

「北マケドニア同様我が国も同じです」

 

「我が国もです。全くけしからん話ですよ」

 

 この三カ国は事前にアメリカとフランスが根回しし部隊派遣の確約との取引で賛成に回った。

 残るレソトはというと

 

「我が国も賛成します」

 

 レソトも賛成に回った。

 もはや反対はなかった。

 

「ではここに、国連軍のソ連政府軍反乱勢力への先制的自衛権行使を容認します」

 

 トルクメニスタン大使の言葉にカーター達の命運は決まった。

 

 

 

 

 

 

 国連軍司令部

 

「国連決議が出たか」

 

「ホワイトハウス、クレムリン、エリゼ宮、ナンバー10の許可も出ました。

 期は熟した、舞台の幕を開ける時間です」

 

 グッドイナフが呟くと隣のアーチポフがもったいぶった口調で言う。

 後は実行だけだ。

 彼にグッドイナフももったいぶった言葉で返す。

 

「そうだな、台本はあるがアドリブしかない劇の開始だ。」

 

「最高の舞台にしよう。

 演者は皆一流、脚本も完璧、演出家も素晴らしい人揃いだが、成功するかは幕を開けなければわからない」

 

「演出家としての腕は良いとは思うんだがね、ブロードウェイも雇えばいいのに」

 

 アーチポフにジョークを飛ばす。

 作戦開始直前だと言うのに妙に気の抜けた雰囲気が漂っているが良い士官たる者ユーモアを解せなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 コーシャは仕事が終わるとある場所に呼び出された。

 それは基地の外にあるバーだった。

 誰かの指示通りに9時前にそのバーに着きドアを開ける、するとそこには見慣れた後ろ姿があった。

 

「どうしたんだ?珍しいね、君から呼び出してくるなんて」

 

 カウンターに座っていたのはG36だった。

 彼がバーテンダーにカクテルを頼むと飲んでいたカクテルをテーブルに置いて真っ直ぐ彼の顔を見つめる。

 

「ご主人様、明日はなんの日かお忘れですか?」

 

「ふ、忘れるわけ無いだろ。

 結婚記念日だよ、もう3年か」

 

 明日9月10日は彼の結婚記念日だった。

 大作戦直前ということで忙しくお祝いの言葉もプレゼントも用意できていなかった。

 二人は結婚してからの3年間の日々を思い出す。

 

「たった3年です、夫婦になって。

 この3年色々ありましたね」

 

「ああ。毎日今まで以上に楽しくて素晴らしい3年だった。

 軍人としての責務も増えたけど愛する人を守る為ならば少しも苦じゃないさ。」

 

 楽しい結婚生活を思い出すと自然と笑みが溢れる。

 そこには人形も人も違いはなかった。

 

「ご主人様…愛しております」

 

「僕もだよ。愛してる世界の誰よりも」

 

 二人共互いに愛の言葉を言う。

 するとG36は強めの口調で言い始めた。

 

「だから、結婚した時の約束を守ってください。

 人形は死にません、そして忘れません、だから約束した筈です私達二人の間では一切の隠し事をしないって」

 

「そうだったね」

 

「だから答えてください、一体何を企んでるんですか?」

 

 G36の青い瞳が真っ直ぐコーシャの茶色の瞳を見つめる。

 隠し事は一切許さない、その思いがはっきり現れたような目線だった。

 

「何も企んでないさ」

 

「ご主人様、私は嘘を見抜けないほどバカではありません。

 ご主人様の事はご主人様以上に理解しております。

 だから正直に話してください、それとも…話せないほど危険で重要な話ですか?」

 

 コーシャは何も答えない。だが彼女にはその答えで十分だった。

 彼の手を握ると顔を近づける。

 

「ご主人様、沈黙は金でも時としては話さないことより雄弁です。

 それはもうすぐ終わるのですか?始まるのですか?」

 

「もうルビコン川の河岸に着いた。渡るしかない」

 

「なるほど、分かりました。」

 

 迂遠な言い回しで彼の言いたいことは理解できたようだ。

 すると彼女は突如わざと大袈裟に夏物のワイシャツの一番上のボタンを外して手で顔を仰ぐと目配せする。

 

「ご主人様、今日は少し飲み過ぎてしまったようです。」

 

 G36は妹に劣ってはいるが出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるモデル体型、しかも服装は夏物の半袖ワイシャツに彼女の美しい脚線美をはっきり見せるタイトなジーンズ、コーシャはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「このダメなメイドを部屋まで連れて行ってくださいますか?」

 

 色っぽく上目遣いで言う。

 コーシャは何とか答えを絞り出す。

 

「もちろん」

 

「では…」

 

 G36はコーシャに近づき耳打ちした。

 

「私はあなたの子供が欲しいです。」

 

「それは…」

 

 驚き彼女の顔を見ると子供のような笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、半分冗談です愛しのご主人様」

 

「…残りの半分は?」

 

「フフ、どうでしょうか?」

 

 彼女の真意はわからない、だが彼はG36が珍しくからかうほど酔ったのだと思いこむことにした。

 

「ご主人様、今絶対酔っているだけだと思っていませんか?」

 

「んー、それはどうかな」

 

 そう言ってウォッカ・マティーニを流し込んだ。

 




ドルフロ世界じゃないって前提のストーリーだから行ける甘々な話
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