もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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戦闘だ〜戦闘だ〜


第53話

 国連軍の記者会見の最中、例の補給デポではオーストリア軍の中隊長が正規軍の責任者の少佐に武装解除を伝えていた。

 

「少佐、先程国連軍司令部より連絡がありました。

 これより当部隊はこのデポを武装解除します、よろしいですね?」

 

「は?武装解除?どういうことだ?」

 

 互いに状況をよく理解していないのでどういう事かさっぱり分かっていなかった。

 

「貴官らが我々に対して軍事行動を画策しているとのことです。

 よくは知りませんが無益な戦は避けたいでしょ?」

 

「ああ。君の言うとおりだがもしも無罪放免となったら?」

 

「まあ釈放されるんでは?警察の任意同行的なものだと思いますし」

 

 中隊長が見込みで言う。

 実際互いにどうせ警察の任意同行レベルのもので無関係だとわかれば2、3日で釈放され元のようになると思っていた。

 その程度なら態々争って事を荒立てるつもりは毛頭なかった。

 

「それもそうだな、全員とりあえずオーストリア軍の指示に従え。

 こんなところで争っても意味はないぞ」

 

 少佐は補給デポ内の内線放送のスイッチを入れると指示を出した。

 

「総員、これよりオーストリア軍の指示に従って武装解除を行う。」

 

「感謝します」

 

「はい、俺の拳銃だ」

 

 少佐は腰から吊るしていた拳銃を中隊長に渡した。

 次の瞬間、外から銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「うわ!」

 

「伏せて!」

 

 補給デポの兵士たちの武装解除を開始しようとした瞬間、突如オーストリア軍めがけて銃弾が飛んできた。

 兵士たちは咄嗟に伏せるか遮蔽物に隠れ数人が怪我をした以外は無事だったが武装解除を受けようとしていた正規軍兵士数人が撃たれていた。

 オーストリア兵は銃を構えて銃撃があったほうを見ると完全武装の正規軍兵士が現れた。

 それに一人の兵士が手を上げて大声で叫んだ。

 

「おい!撃つな!我々の指示に…」

 

 次の瞬間、その兵士は頭を撃ち抜かれ動かなくなった。

 状況は明らかだ。

 

「シャイセ!撃て!抵抗するつもりだ!」

 

 最先任の下士官が指示を出す。

 兵士たちは急いで撃ち始め暗闇のど真ん中で伏せて動けない兵士たちを支援する。

 

「ジーク!」

 

「AUG!一体全体何がどうなってるんだ!?」

 

 AUGは整備中のハイドラの影に隠れて撃っていたがそこにジークが転がり込んだ。

 もう彼も一体全体何が起きているかさっぱり分かっていなかった。

 

「分からないわ、ただ…」

 

 敵の方を見ると数人のオーストリア兵が足を撃たれ動けなくなっていた。

 現状オーストリア軍側を見れば突然の卑怯な奇襲で指揮系統も何もかもが無茶苦茶であり中隊長は斜め向かいのプレハブ小屋の中の司令部の中で身動きが取れず横を見ればオーストリア兵達は少しずつ後退していた。

 そのオーストリア兵の間には巻き込まれた投降するつもりだった正規軍兵士も紛れていた。

 

「もう無茶苦茶だ」

 

 もう滅茶苦茶で混乱していると突如背後から物音がして振り返って銃を向ける。

 するといつの間にか後ろにいた彼女は両手を上げた。

 

「撃たないで」

 

「はぁ、人形か…」

 

「敵かと思いましたわ」

 

 後ろにいたのはドライヤーのような巨大な物を持った水色の髪の戦術人形だった。

 彼女は無表情でドライな口調だった。

 

「俺はジーク、こっちはAUG、どっちもオーストリア軍所属、どうも」

 

「サンダーです、グリフィンの人形です。よろしく」

 

 互いに自己紹介をするとすぐに向きを変えて戦闘に戻る。

 何とかオーストリア兵は数人を倒しているようだがやはり圧倒的で間には撃たれて動けない兵士も数人いた。

 

「AUG、航空支援は?」

 

「出せますけどこの距離では誤爆の危険性が。

 それに中隊長はあそこですよ」

 

 ジークが航空支援を聞いたが混乱でどこに味方がいるのかさっぱり分からなくなっていた。

 そうなると航空支援は難しかった。

 すると例のプレハブ小屋から白い布を持った一人の男が現れた。

 

「あれって、中隊長!?」

 

「そういうことですわね」

 

 中隊長は右手に白い布、おそらくカーテンかシーツか何かを持っていた。

 それはハーグ陸戦条約における軍使を表すサインだ。

 

「おい!撃つな!」

 

 中隊長は必死に旗を振り攻撃を止めようとする。

 だが次の瞬間、全身に銃撃を浴び倒れた。

 

「…え…」

 

「連中はどうやら蛮族のようですわね」

 

 軍使を射殺する、これは戦時国際法違反に当たる。

 そして何より部下の前で中隊長が射殺される、しかも白旗を持った状態で、というのは衝撃的でショックは計り知れなかった。

 あっという間にオーストリア軍の士気は地に落ちた。

 すぐにオーストリア兵は下がり始めた。

 

「お!おい!逃げるな!」

 

「もう無理ですわよ。

 撤退しましょう、サンダーさん、来ますか?」

 

「はい」

 

 3人は即座に他の兵士とともに撤退を決めた。

 オーストリア兵たちは少しずつ撤退を始める。

 だが夜間のため、多くない数の兵士が落伍し、そして動けない負傷兵は放置された。

 

 

 

 

 

 2時間後、補給デポから少し離れた道路上に撤退してきたオーストリア兵と捕虜、そして逃げてきた民間人の運転手や労働者、グリフィンの人形が集まった。

 

「う…いてて…」

 

「ここは、こうした方がいい。」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、少しはマシになった」

 

 負傷兵や怪我をした民間人、捕虜たちは司令部から派遣された医療スタッフや衛生兵、ドライバーの中にいた元医療関係者や捕虜の中にいた衛生兵達によって看護されていた。

 

「何とか逃げてきたのはこれだけか…」

 

「はい、確認できたのは105名のみ。

 その他に正規軍捕虜108人とグリフィン人形12体です」

 

 今や最先任となった軍曹は集まった兵士を数えて落胆する。

 そこにいたオーストリア兵は100人ほど、元々いた160人の内60人が行方不明となっていた。

 その中にはAUG達もいた。

 

「グリフィンの人形も二人が行方不明、捕虜の方も30人ほどが行方知らずとは…

 大失敗だ、司令部は今すぐ戻ってこいと」

 

「負傷者は?」

 

「とりあえずヘリを送って負傷者は回収。

 動けるのは車に乗って司令部だ」

 

 話していると背後からエンジン音が聞こえ増援部隊がやってきた。

 

 

 

 

 

 突然の正規軍の猛烈な反撃は各地で大混乱を引き起こした。

 初期の段階で制圧予定だった拠点の大半は押さえることに成功、敵部隊を各地で寸断させることに成功したのだがこれが逆に互いが中隊規模、酷いところでは中隊対大隊規模で交戦し、各個撃破される危険性が生じ始めたのだ。

 その中でも特に危険な拠点となってしまったのが任務部隊“コールサー”司令部だった。

 

 司令部は近隣に有力な正規軍部隊が一個連隊存在していたせいで初期から猛烈な攻撃を受け、最初の敵の攻撃で無線施設に損害を食らい傘下部隊との連絡が困難となっていた。

 唯一の救いとも言えるのは司令部ということで直卒の戦車部隊や砲兵部隊がいたためある程度は対抗できていたがそれでもジリ貧で何とか守っているだけに過ぎなかった、実際砲兵部隊も大砲の半分が攻撃と弾薬不足で放棄され半数は既にただの歩兵だった。

 

「伏せろ!」

 

「クソ!ぶっ飛ばせ!」

 

 兵士の叫びに司令部の半地下の司令部施設内の兵士たちは伏せる。

 次の瞬間地面が揺れ近くに砲弾が着弾したことがわかる。

 コールサー大佐はこの中で勇敢に指示を出しながら戦っていた。

 兵士たちは塹壕に籠もり対戦車ミサイルやロケット砲、そして貴重な戦車と大砲を駆使して圧倒的多数の装甲部隊相手に善戦していた。

 そんな中で通信兵が司令部からの無線を受け取った。

 

「大佐!司令部から無線です」

 

「こんなクソ忙しいときに無線だって!?

 航空支援はまだか!」

 

「後5分だそうです」

 

 航空支援を尋ねても芳しくない答えに苛立ちながら無線を受け取る。

 

「5分も待てるか!

 司令部!」

 

『コールサー大佐、状況を報告してもらいたい』

 

 無線の先から聞こえるグッドイナフの声にコールサーは怒りながら話す。

 

「状況だって?状況もクソもあるか!

 敵の砲撃が無線施設を破壊して短距離無線が使用不能で傘下部隊の状況把握が困難!

 司令部自体が敵の装甲部隊の強襲を受けてる!

 既に敵の装甲車両を30台撃破した、まだまだ来る!

 今すぐクソ航空支援を寄越せ!おい聞いてるか!横で優雅に紅茶飲んでるクソロシア野郎!今すぐてめえご自慢のクソ空軍にクソ爆弾落とさせろ!」

 

『分かってる大佐、すぐに航空支援を行う。』

 

「3分以内に始まらなかったらお前の家にレンガ投げ込んでやる!」

 

 大声で罵りながら電話を切った。

 その様子に司令部の全員が苦笑いする。

 

「大佐、言い過ぎでは…」

 

「知るか、これが言論の自由だ」

 

「ハハ…」

 

 死にかけている状況ならばもう礼儀もクソもなかった。

 そんな中で外にいた兵士が叫んだ。

 

「敵戦車多数接近!数15以上!」

 

「また来たかアホどもが」

 

 タバコに火をつけながら呟いた。

 外でも敵の大部隊が接近しているのは見えていた。

 暗闇の中でも正規軍より優れた夜間装備を持つチェコ軍やスロバキア軍やスロベニア軍、クロアチア軍はミサイルを構えてゆっくり接近するテュポーンを狙う。

 

「奴さん、また来ましたね。俺たちのミサイルがそんだけ美味しかったってことですかね」

 

「そうだろうな、俺の腕はヨーロッパ一だからな。恋しくなったんだろ?」

 

「ヤン、この戦い生き残ったら俺、スコピにプロポーズしようと思うんだ」

 

「やめとけやめとけ、馬鹿を嫁にしたら苦労するぞ。

 俺がそうだからな」

 

 戦闘の中だというのにあるチェコ軍のミサイルチームは妙に抜けた話をしていた。

 その間にもテュポーンは接近してきた。

 

「距離1200、1150で」

 

「了解」

 

 ミサイルの装填を確認し、次の瞬間発射した。

 ミサイルは暗闇の中を切り裂いて真っ直ぐ飛び、碌なミサイル迎撃装備を持たないテュポーンを直撃する。

 だが、当たりどころが悪かったのか爆炎と共に傾いて動かなくなっただけでゆっくりと砲塔が回転していた。

 

「クソ!もう一発!」

 

「分かってる!」

 

 急いでもう一発用意しようとする、だがその間にもテュポーンの砲塔はゆっくりと動き照準を合わせる。

 次の瞬間発砲する、そう思ったその時、テュポーンが大爆発を起こした。

 見上げると低空を巨大な影が通って行った。

 

「やった!空軍だ!」

 

 見上げて兵士達が叫んだ。

 司令部でも

 

「やったぞ!騎兵隊の到着だ!」

 

『こちらグリフィンドール、遅れてすまない。

 これからありったけの出前を配達するぞ』

 

 無線からは上空の攻撃機パイロットからの無線が響いていた。

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