もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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逆襲の国連軍、崩壊する正規軍、不気味な沈黙を続ける鉄血(瀕死)


第54話

 テュポーンが吹き飛んだ。

 その攻撃の正体は上空を旋回するガンシップだった。

 

「撃て!撃て!撃て!」

 

「バンク角注意」

 

 ホーガン大佐が叫ぶ横でグリズリーはバンク角を注意する。

 左旋回しながらガンシップから放たれる持続的な制圧射撃の前に碌な対空装備を持たない正規軍は無力な存在であり殺虫剤から逃げようとする害虫でしかなかった。

 

「分かってる。とにかく撃ちまくれ、逃げるのは敵だ!逃げないのはよく訓練された敵だ!」

 

『了解!撃て!』

 

 機内通話で下の兵装士官に指示を出す。

 機体は105ミリ砲の振動と乱気流に揺られながら攻撃を続けていた。

 初手で猛烈な反撃を行った正規軍だがその奇襲は航空部隊が本格的に反撃を開始した1時間後までだった。

 夜闇の中では元々部隊を動かすこと自体が難しいのにその上で制空権を握った国連軍の猛烈な航空攻撃に殆どの部隊は目立つ装備を放棄して逃げるだけだった。

 

 

 

 

 

「動かないで!アルゼンチン軍よ!

 武器を捨てなさい!」

 

 FALが銃を構え逃げた正規軍兵士の一団に向け叫ぶ。

 彼らはゆっくりと両手を上げて投降する。

 

「う、撃たないでくれ~」

 

「ほら、行きなさい!」

 

 怯える捕虜のケツを蹴り飛ばしながら歩かせる。

 周りには警戒心をむき出しにしたアルゼンチン兵が山程いた。

 その合間を誘導されて彼らは用意された正規軍から捕獲してアルゼンチン軍が使っているトラックの荷台に放り込まれた。

 その合間にFALの部下の一人が指示を求めた。

 

「大尉、次は」

 

「今ここよね?それじゃあ、このまま西進してポーランド軍と合流。

 ポーランド軍は?」

 

 地図で状況を確認する。

 現在地点は正規軍担当区域後方のやや西寄り、東西に縦断する道路上だった。

 この道路を西に進めば東進している予定のポーランド軍部隊と合流できる手筈だ。

 アルゼンチン軍は上空から米軍だけでなくマルビナスの件で未だ気に食わないところがあるがこういう時は頼りになるイギリス軍の支援を受けながら順調に進んでいた。

 

「先程E-3498の交差点を制圧したようです」

 

「ならもうそろそろ見える頃ね、一旦ここで小休止するわよ。

 各自15分交代で休憩よ」

 

「「了解、マム」」

 

 FALは彼女の中隊に小休止を命じる。

 時刻は深夜2時過ぎ、普段なら皆寝ている時間であり疲れも出てくる時間だ。

 見張り以外の兵士はそれぞれ地面に横になり暫くすると寝息も聞こえてきた。

 

「寝るのはいいけどちゃんと起きれるのかしら」

 

「寝ないんですか?」

 

「戦術人形に睡眠は不要、ナポレオンだって戦場では3時間しか寝なかったのよ。

 指揮官が寝れるわけ無いでしょ?」

 

「ですね、しかし最初の反撃には驚きましたけどその後はさっぱりですね」

 

「あの勢いは何だったのかしらね、敵は弱い事に越したことはないけど満身は禁物よ」

 

「分かってます」

 

 水筒に入った紅茶を飲みながらFALは地図を見る。

 地図によればこの北にはつい先程オーストリア軍が奪取に失敗したデポがあった。

 

「この北側に例のデポよね?」

 

「ええ」

 

「落伍兵がこっちに来てる可能性があるわね。」

 

「夜間ですから無いことは無いですね」

 

「上にデポの情報を問い合わせるわ。

 ベルグラーノから司令部、補給デポタンゴ3の情報は?

 分かった、了解」

 

 素早く司令部に連絡し情報を問い合わせる。

 国連軍と正規軍最大の違いであり強みの一つが一番下から一番上までの強固な連携と高い情報収集能力だ、彼らは大量のドローンを持ち込みこの地域一帯に極めて濃密な索敵網を作り上げていた。さらにそれを強化するのがドローンのセンサーシステムと直結でき場合によってコントロールシステムにまで直結できる人形の存在だった。使い捨ての兵士として扱う正規軍と違い国連軍は人形をドローンや各種電子作戦システム、通信網のデバイスの一つとして扱っていた。

 このような高度なシステムこそが国連軍最大の強みでありこのような夜戦という現代のテクノロジーを駆使してもなお難しい戦場では戦闘効率や索敵、情報収集、移動などあらゆる面で有利だった。

 

「それで、情報は?」

 

「敵の有力な一個中隊が展開中だが我々には気がついてない。

 ただオーストリア兵を捕虜に取っているのが確認されたそうよ」

 

 情報によれば例のデポにはオーストリア軍を撃退したエゴール中隊がまだいた。

 そしていくらかのオーストリア兵を捕虜に取った事を確認できていた。

 

「救出に?」

 

「行きたいのは山々だけど先にポーランド軍との合流を優先しろって」

 

「分かりました」

 

 行きたいが現状彼らにはその戦力はなかった。

 国連軍はまずアルゼンチン軍とポーランド軍を合流させた後、夜明けと共に南北から挟撃する手筈に切り替えていた。

 

「夜明けにでも挟撃するつもりかしら」

 

 紅茶を飲みながら彼女は思案した。

 すると彼女は何かの気配を感じ、右手を上げた。

 それに数人の兵士が気がついた。

 

「何か、いるわ」

 

 FALは拳銃を取り出し数人の部下を連れて進み、叫んだ。

 

「動くな!アルゼンチン軍だ!武器を捨てろ!」

 

 すると木の陰から二人の戦術人形と一人のオーストリア兵が現れた。

 

「う、撃つな…アルゼンチン人」

 

「オーストリア軍よ」

 

「グリフィンです」

 

 現れたのは行方不明になっていたオーストリア兵のジークとAUG、そしてグリフィンのサンダーだった。

 居たのが敵ではなく道に迷った味方だと知ったFALはため息をついた。

 

「はあ、オーストリア軍の落伍兵ね。良かったわね、合流できて。

 フリアン、3人に紅茶、カルロは他にいないか見てきて」

 

「了解しました」

 

「了解」

 

 スペイン語で部下に指示を出す。

 一人には紅茶を、一人は周囲の捜索を命じる。

 だが周りには他には何もないようだった。

 

「何もないようです」

 

「それならいいわ。そろそろ出発するつもりだったけど計画変更よ。

 司令部、こちらベルグラーノ、落語したオーストリア兵とグリフィン関係者を保護。」

 

 FALは上に連絡する。

 一方アルゼンチン兵に保護された3人はまだ緊張しながらアルゼンチン兵が休憩する道路の端に座る。

 

「紅茶だ」

 

「ありがとうございますわ」

 

「ダンケ」

 

「ありがとうございます」

 

 オーストリア兵が3人に紅茶の入った水筒を回し飲みさせる。

 すると緊張が和らいだのかジークは脱力して倒れ込んだ。

 

「はぁ…生きてる…生き残った…」

 

「ええ、生き残ったのですよ。幸運にも」

 

「君が幸運のお守りに見えてきた」

 

「なんで、生き残ったのでしょうか…」

 

 ふとサンダーが呟いた。

 それはなかなか意味深な言葉だった。

 

「あら、その口調だと生き残りたくなかったのかしら?」

 

「それは…生きていても苦しいことばかりですから、今までもこれからも。

 違いますか?」

 

「貴方、過去に何かあったのかしら?」

 

「ええ、まあ」

 

 AUGの追求に彼女は多くは答えなかった。

 

「誰にでも秘密はある、別に深く聞くつもりは無いわ。」

 

「そうですか」

 

「ええ、でもまずは帰ってシャワーでも浴びましょうか」

 

「賛成だ、寝たいしな。」

 

 3人はすっかり緊張がほぐれたようだった。

 

 

 

 

 

 

「第3大隊第2中隊通信途絶!」

 

「第4大隊司令部現在ブラジル軍による圧迫を受けつつある模様!」

 

「E-3498交差点、ポーランド軍が制圧!」

 

「R-378交差点をルーマニア軍が通過中!」

 

「閣下、先程第1大隊長が降伏許可を求めてます」

 

「クソ…クソ、クソ、クソ!クソ!クソ!」

 

 一方正規軍司令部ではカーターは各所からの悲鳴のような戦況報告に呪詛の言葉を吐きながらテーブルを叩き続けるしかなかった。

 崩壊を目前にして彼にできることは多くないと悟ったのだ。もう勝利の可能性など無いのだ。

 あるのは名誉の戦死か犯罪者として捕らえられるかのどちらか、どちらに転んでも結局は家族も含めて悲惨なことになるのは確実だ。

 

「どうしてこうなった、私は一体どこで何を間違えた」

 

「閣下、もう無理です。全軍に降伏許可を…」

 

 参謀が今にも消えそうな掠れた声を振り絞り進言した。

 だがその言葉はカーターには信じられないような目で答えた。

 

「何?」

 

「もう無理です。これ以上戦っても無益な血を流すだけです。

 今すぐ降伏しましょう、まだ戦争捕虜として扱われ…」

 

 次の瞬間、参謀の襟首をカーターが掴んで持ち上げる。

 

「貴様は負けを認めろというのか!?」

 

「そうです!このままじゃ全員死にます!」

 

「この売国奴が!非国民が!」

 

「売国奴でも何でも言えばいい!だが今このなんの意味もない戦いに従事して死んでいっている兵士に何と言えばいい!

 止められた無益な戦を始めたのお前だ!」

 

「そうか…」

 

 次の瞬間、参謀を放すと拳銃を取り出した。

 

「狂ったか」

 

「この売国奴が!」

 

 カーターは参謀を射殺した。

 そしてそのまま怯える参謀たちに指示を出した。

 

「おい!」

 

「は、はい!」

 

「今すぐエゴール中隊を戻せ」

 

「わ、分かりました!」

 

「捕虜は適当に処分しろ。今すぐ戻れ」

 

 参謀は急いで連絡した。

 だがその指示は最悪の結果を齎した。

 

 

 

 

 

 翌朝、アルゼンチン軍、ポーランド軍、そして任務部隊ブルンスの3つの部隊が例のデポを強襲し奪取した。

 だがデポに入った彼らが見たのは見るも恐ろしい光景だった。

 

「お、おい…何だこれは…」

 

「嘘だろ…」

 

「クルヴァ、ナチスか彼奴等…」

 

「ジーザス・クライスト」

 

 目の前に広がっていたのは全員が後頭部を撃たれ死んだオーストリア兵と戦術人形だった。

 その光景にオーストリア兵だけでなくポーランド兵やアルゼンチン兵も吐き気を催した。

 

「うっ…」

 

「おお、マリア…」

 

「これは…最悪ね」

 

 吐く部下達を尻目にFALはどこか冷静に見えた。

 だが実のところ、血が出る程拳を強く握りしめていた。

 目の前に広がる光景は明らかだ、「正規軍による捕虜の組織的殺害」明らかなる戦争犯罪だ。




・FAL
アルゼンチン陸軍大尉
歩兵部隊士官で指揮官としての責任感ある人物。
よくできた歩兵部隊指揮官。
スペイン語話者



FALって自分の中でイギリスとアルゼンチンなんだよな
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