もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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コミケ中止ですね、関係ないけど


第55話

 戦時国際法とは戦争におけるルールである。

 その内容は民間人の保護や負傷兵、医療従事者の保護など比較的知られているが同時に守られているとは必ずしも言えない規定や国際法上の交戦権そのものに関する規定など非常に多岐に渡る。

 その中でも比較的重要視され、同時に破った場合の報復措置が最も激しい規定が「捕虜の保護」である。

 捕虜となった兵士は必ず戦時国際法に基づき人道的に扱わなければならない、これは殆ど常識と言っていい。

 そしてもしもこの規定を破った場合、捕虜の非人道的な拷問や扱い、更には殺害などを行えば相手国の怒りを買う事になる。それどころか現場の兵士さえ怒り狂う。

 つまるところ百害あって一利無しな結果になる規定だ。

 だが少なからずこの規定は破られていた、第2次世界大戦時のソ連やドイツ、日本、朝鮮戦争やベトナム戦争のベトナム・北朝鮮はこの最たる例だ、その全てで彼らは相手側から怒りを買った。

 

 

 

 

「捕虜の虐殺…だと?」

 

「はい、閣下。」

 

 参謀からもたらされた捕虜虐殺の連絡を受けたグッドイナフは徹夜して耳がおかしくなったのかと疑いを持つほど驚いていた。

 まさかこの21世紀に捕虜の組織的虐殺など、たった一晩で起きるとは思えなかったからだ。

 20世紀ならばマルメディの虐殺や日本のヘルシップや人体解剖実験、ラコニア号事件、ビハール号事件、ファン・イムホフ号事件などがあるがまさかこんな時代に、である。

 

「この映像が証拠だが、信じられない…

 今は21世紀だぞ?」

 

「なんてことだ…」

 

 現場でリアルタイムで撮影されている映像を見ながら隣のアーチポフもヴェンクも絶句していた。

 そこには見るも無残な姿になった兵士たちの姿があった。

 

「この非人道的な野蛮な行為を行った者、そしてそれを命じた者に法的な落とし前をつけなければなりませんね」

 

 事態急変を受けやってきた上級文民代表のカーンは冷静な口調で喋っているが片手で顔を覆って動揺している事が見て取れた。

 

「カーターを捕らえる理由が増えた。

 各部隊に連絡、カーターを絶対に生きて捕らえろ。

 奴に法の裁きを与えてやる、あのクソ野郎を絶対に生きて処刑台に連れて行ってやる。

 よりにもよってこのSep11にやりやがったファッキンコミー共のクソケツの穴をぶっ壊れるまで掘ってやる」

 

 グッドイナフの声は怒りと決意に満ちた声だった。

 

 

 

 

 

 

 午前7時、イシザキは呆然としていた。

 それはテレビから流れるニュースの内容だった。

 

「お伝えしていますように1時間ほど前、国連軍は正規軍部隊が国連軍兵士を虐殺したと発表しました。

 詳細は現在調査中とのことですが大統領は先程『我々は野蛮なこの行為を最大限強い言葉で非難する。我々はテロリストには屈しない。今も昔も』と声明を発表しました。」

 

 朝食のトーストを手に持ったまま彼は固まっていた、そして隣のM14も口にスプーンを突っ込んだまま固まっていた。

 そんな二人の目の前でガーランドは手をふる。

 

「あのー指揮官?M14さん?」

 

「は、ガーランドか。

 どうした?」

 

「どうしたじゃありませんよ、さっきからニュース見ながら固まって」

 

「どうしたもクソもあるかよ。朝起きたら味方が敵になってしかも戦争始めて捕虜虐殺してどうやらここ戦場のど真ん中らしい。

 どういうことだ?」

 

「朝起きたら戦場のど真ん中で味方が敵になって戦争始めて捕虜虐殺してるのでは?言ってる事が自分でも理解できないですけど」

 

 蚊帳の外にいた民間人たちにはもはや朝起きたら訳がわからない事になっているも同然だった。

 

 

 

 

 

 同時刻、例のデポの南ではポーランド軍の第二陣が正規軍部隊と遭遇戦に突入していた。

 

「撃て!撃て!撃て!撃ちまくれ!」

 

 指揮するポーランド軍の大尉が叫ぶ。

 その叫びをかき消すかのように周りでは戦車数台、装甲車、そして歩兵たちが一斉に撃ちまくっていた。

 一方撃たれている正規軍部隊は移動中の部隊だったようで反撃もせず逃げ惑うだけで一方的に打ち据えられていた。

 その部隊というのが先程、国連軍が発見した捕虜殺害の実行犯、エゴール中隊だった。

 速やかに司令部に戻るよう命令された彼らは捕虜を殺害すると南下し司令部へと向かったがその途中で司令部を北側から攻撃しようと迂回していたポーランド軍の戦車部隊と遭遇してしまったのだ。

 

「く…損害報告!」

 

「第一小隊半分がやられました!」

 

「第二小隊は残り14名!」

 

「第三小隊残り7割」

 

 部下に状況を聞けばどの小隊も手痛い損害を被っていた。

 彼自身砲弾の破片で負傷していたが応急手当だけで何とか戦っていた。

 このままでは圧倒的優勢のポーランド軍に磨り潰されるだけだと直感した彼は決断した。

 

「私は先に司令部に行く!後は任せられるか?」

 

 中隊を率いて司令部に向かうのは不可能だ、だが彼一人だけなら何とか行けるかもしれない、しかしそうなると部下を見捨てる事になる。

 

「はい!何とか!」

 

「分かった!済まない!」

 

 エゴールは部下を置いて先に司令部へと向かった。

 彼の中隊の抵抗にポーランド軍は15分後、航空支援を要請、ロシア空軍の戦闘機の爆撃後生き残った僅かな兵士は投降したが彼がそれを知ったのは数時間後のことだ。

 エゴールは一人獣道を走り森を抜け、小川を横切り、走り続けた。

 

 

 

 

 一方エゴールが向かっていた司令部はというと、この頃には完全に包囲され始めていた。

 内部で各国軍の攻撃でズタズタにされた正規軍の前にルーマニア軍が襲いかかり、更には南からも予備部隊のカナダ軍部隊が攻撃を開始し後方の予備兵力と後方部隊が粉砕され丸裸となった。

 

「カナダ軍、我々の4キロ南の地点まで到達」

 

「ルーマニア軍の現在地、東8キロ、ポーランド軍北3キロ、チリ軍、西9キロ。

 包囲されるのは時間の問題です」

 

「将軍はエゴール中隊が来ればどうにかなる、と思ってるが…どうにもならないよな…」

 

「時間の問題じゃない、もう包囲されたも同じだ。

 次々部隊は降伏してる、もう終わりだ」

 

 参謀たちは悲鳴のような状況報告を総合してどこか達観していた。

 勝ち目どころか捕虜虐殺の件が報じられもはや彼らはテロリストだ。

 

「だが…将軍に言ってみろ、殺されるのがオチだ」

 

「ああ、止めれるのはもうエゴール大尉だけだ」

 

「そうだな。彼の中隊からの報告だと先に一人でこっちに来てるそうだ」

 

「無事に来れたらいいが」

 

「そうだな、後はもうどうやって生き残るかだけ考えるしか無い」

 

 参謀たちは強かにも生き残る方策だけを考えていた。

 そのような密談をしている最中、司令部のドアが開き傷だらけの軍人が一人入ってきた。

 

「エゴール大尉!」

 

「おお!大尉!待っていたよ!」

 

 それはエゴールだった、参謀たちは笑顔になるとエゴールに集る。

 エゴールは参謀の歓迎を他所に司令部を見渡す、すると床に残った血のシミが目に止まった。

 

「あのシミは?」

 

「ああ、将軍が参謀長を射殺した」

 

「え?」

 

「本当だ、降伏を進言したら売国奴だ!って言ってな。

 現状を冷静に考えればそれが最善策だ、そうだろ?」

 

「だから、何とか将軍を説得できないか?頼む、君だけが頼りだ」

 

「そうだ。もう我々では止めようがない。助けてくれ」

 

 参謀たちは藁にもすがる思いでエゴールを頼った。

 だが肝心のカーターはどこにもいない。

 

「将軍は?」

 

「奥の作戦室だ。

 君を待ってる。」

 

「分かりました」

 

 エゴールは生唾を呑み込むと司令部の奥にある作戦室へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 一方、そこから離れたカナダ軍部隊はというと司令部手前の最後の正規軍の抵抗ラインにぶつかっていた。

 

「伏せろ!」

 

 兵士が叫んだ次の瞬間、生き残った僅かなテュポーンの砲撃が着弾する。

 だが次の瞬間テュポーンにカナダ軍を支援する戦闘ヘリのミサイルと機関砲弾が襲いかかり爆発しチーズのように穴だらけとなった。

 顔を上げると戦術人形のTAC-50はライフルを構える。

 そしてスコープを覗きテュポーンの側の車の残骸の影に隠れる指揮官らしき男に照準する。

 TAC-50は最初からドローンと連携してこういった遮蔽物の背後にいる重要人物の盲目狙撃を行える人形として設計され、彼女もまたそのための訓練を積んできた。

 次の瞬間、銃とは思えない爆音が響き遮蔽物を貫いて反対側を赤く染めた。

 

「目標排除完了」

 

「いい子だタック」

 

 隣りにいた上官が彼女の頭を撫でる、そして彼は立ち上がると叫ぶ。

 

「銃剣用意!突撃!突撃!突撃!」

 

 突撃と連呼する。

 その言葉にカナダ兵たちは銃剣をライフルにつけると立ち上がり真っ直ぐ敵陣へと突撃する。

 一方の正規軍はまさかの突然の銃剣突撃に指揮官を失った事も相まって恐慌状態に陥った。

 殆ど撃つこともせず彼らは武器を捨て逃げるか両手を上げた。

 

「武器を捨てろ!両手を上げろ!ほら早く!」

 

 怯える敵兵の武器を捨てさせ兵士たちは手荒に連行していく。

 中には捕虜を殴る者や蹴り飛ばす者までいた。

 

「バーバリアンが!」

 

「ぶ!」

 

 ある若い兵士が一人の正規軍士官を殴っていた。

 その士官はもうボロボロで歯が折れ口から血を吐き顔は腫れていた。

 すると一人の下士官が止めた。

 

「やめろ、この馬鹿を連れて行け」

 

「軍曹!なんで止めるんだ!」

 

「こいつらは捕虜だ。」

 

「捕虜だって!?オーストリア兵を虐殺してジムを怪我させたこいつらが?」

 

「そうだ、規則だからな。これ以上やるなら憲兵に引き渡すぞ」

 

 下士官は怒りながら兵士を止めると動けない士官に肩を貸して連れて行った。

 それを横目にTAC-50と指揮官は地図を見る。

 

「この先は司令部だ。

 次は大将首だ」

 

 地図を見ながら呟いた。

 




・TAC-50
カナダ統合軍の人形
設計コンセプトとしては始めからドローンとパッケージにされた人形。
ドローンとのリンクによる盲目狙撃などが可能。


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