もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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この章終わり!
次の章はサクッと鉄血を消し飛ばしてサイドストーリー
連鎖分裂とか来るまであんまり進むつもり無い


第57話

 カーター自決

 

 このニュースはすぐに国連軍司令部に伝えられた。

 

「サノバビッチ」

 

「してやられたな」

 

 自殺を止められなかったという事実は彼を犯罪者として裁く機会を永遠に失った事を意味する。

 それは彼の部下の戦犯達の裁判がどこか腑抜けた感になる事を意味する。

 そのため将軍たちは皆罵声を口にする。

 

「オーストリア兵殺害の法的責任を問えないとはな…」

 

「ああ。そもそも鉄血攻撃を後回しにして背後の憂いを断ったが軍事的には正しくとも政治的には問題がある。」

 

 アーチポフが言う。

 彼の言う通りフールズメイト作戦は軍事的には正しいと言える作戦だが政治的には微妙な作戦だ。

 軍事的な安全保障の懸念という強迫観念から実行したが冷静になればその意義は薄く実際には正規軍の一部を壊滅させただけというある種同士討ちのような結末となったのだ。

 

「これで、この先はやりにくくなると思うか?」

 

「大いに思いますね。正規軍内部には確実に我々を実際に敵だと認識する連中が生まれるでしょう。

 今のところはその上が味方なのでカーターのネガティブキャンペーンを張って相殺できそうですが何かしらの外交関係のトラブルがあれば確実に拗れます。」

 

 ヴェンクの意見は正しいと言える。

 現状何とかメディアを使って「反逆しようとしたカーターを先に潰した」と主張することで正当性をアピールしているが実際のところはある種騙し討ちだ。

 その上カーターは自殺、派閥の大多数は捕虜か戦死であり感情的にもしこりを残す結果だ。

 今のところは国連とソ連は食料輸出などで有効的だが今後貿易摩擦などで外交関係が悪化し始めた時にこの件を持ち出される可能性は高い。

 

「結局、この作戦で誰が一番得した?鉄血か?」

 

「ソ連内部の親欧州派と欧州連合、ですかね」

 

「欧州連合、か。ロクサット主義とかいう資本主義と共産主義の悪魔合体のような連中にのみ利のある結果だな。」

 

「ソ連との関係は良いとして、次は…」

 

「欧州、ヨーロッパ。我々の古巣ですよ。」

 

「鉄血との戦争はどうせ感謝祭前に終る、崩壊液に関してはクリスマスまでにはソ連領内は5割が除染できる、だがその外側から常に汚染される可能性があると終わりがないぞ」

 

「そのためにも政治家たちには頑張ってもらいましょう。

 次の春までにもね」

 

 鉄血との戦いも終わりが見えている今、最大の懸念は崩壊液汚染でありそのためには世界規模での協調行動は不可避だ。

 そうなると政治思想的に相性が悪いとしか言いようがない欧州との関係をどうにかする必要がある、それはある種新たな懸案の誕生だ。

 

 

 

 

 

「終わった、か…」

 

「終わりました」

 

「終わったわ」

 

 外部軍事支援局ではコーシャ、コチェットコフ、そしてAN-94が全てが終わったと聞いていた。

 一仕事終わった筈なのだが彼らの心の内は何処か晴れない。

 

「本質は全て避けられたはずの戦いだからか…どこか晴々しくないな…」

 

「ああ。それに本当に悪い奴はいつもこうだ。

 生き残ったのは実行しただけで指示した決断した者じゃない」

 

「悪い奴ほどよく眠る、か」

 

「なんですか?」

 

 コーシャはふと古い日本の名作映画の題名を呟いた。

 だがその映画を知らないコチェットコフは聞き返した。

 

「黒澤明の映画の本国題さ。

 なんでも本当に悪い人間は決して表に出ることはなく人目のつかないところでのうのうと寝ているって意味だそうだ。」

 

「まるで今回の作戦ですね」

 

「ああ。安全保障上の問題と言って自衛権を行使したが何だろうか、まるで誰かに裏から操られてるような感じがする。」

 

「言われてみれば…そもそもカーターの狙いは我々の目的と矛盾するし我々主導の作戦ならばカーターが目的を果たす前に潰せば終わる話です」

 

 冷静に考えればグッドイナフ達幹部と同じくまるで国連軍を使ってカーターたちを蹴落としたような感は否めなかった。

 だがそれ以上の追求は避けた、なぜか?その先は彼らの領分じゃない外交と政治の領分だ。彼らの領分は国防と安全保障だ。

 

「政治的な事は政治家と官僚に任せるが、安全保障は我々の領分だ。

 正規軍とはしこりができるし能力のデモンストレーションには有用だがそれが態度の硬化を招けば本末転倒。

 どちみち仕事がやりにくくなるのは必然だよ。」

 

「法的な残務処理もあるからわね、裁判はきっとどこかで起きるわ」

 

「アーニャの言うとおりさ、法律事務は法律家に任せたいが確実に揉めるしな」

 

 この先確実に揉めるだろうということに実務担当の彼らはため息をつきたい気持ちだった。

 暗澹たる気持ちの彼らだがそんな中に甘い香りが漂ってきた。

 振り向けばG36が紅茶を持って立っていた。

 

「ご主人様、紅茶はいかがでしょうか?

 皆様の分もご用意いたしました」

 

「頂くよ」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

 各自ティーカップを取り紅茶に口をつける。

 するとコーシャはため息をつく。

 

「はぁ、G36、益々忙しくなると思う」

 

「結構なことです、ご主人様。

 命とあらばいつでもどこでもご一緒いたします」

 

「そうか。いい加減モスクワに帰りたい…

 いい加減ママに会いたいよ…」

 

 コーシャは珍しく泣き言を言った。

 暫くは家に帰れそうはなさそうだ。

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 彼もまたため息をついていた。

 地獄の戦火から生き残ったジークは殺された仲間の棺が並ぶ格納庫の隅に座っていた。

 最終的に国連軍は戦死205名、負傷者398名、行方不明者2名という被害を出した。

 そのうちの45名はオーストリア兵で参加国の中では最大の被害を出した。

 

「何で俺だけ生き残ったんだ…」

 

 無事生き残って万々歳、と思っていたのが数日前、こうして仲間の棺が並んだのを見た瞬間、彼の中に罪悪感が芽生えた。

 なぜ自分は生き残ったのか、と。

 そんな彼をAUGは黙って背中をさすった。

 

「AUG…」

 

「…」

 

 彼女は何も言わず黙っていた。

 それだけで十分だった。

 AUGに抱きつくと静かに泣き始めた。

 

 

 

 

「この作戦は、軍事的にも政治的にも失敗と言える」

 

「大統領閣下」

 

 ホワイトハウスでは数日経ったある日、カークマンがそう呟いた。

 この作戦とはフールズ・メイト作戦のことだ。

 その言葉に驚いたのはレインハート安全保障問題担当補佐官だ。

 

「そう思わないか?レインハート君。

 DCのソ連大使館には民主運動家やら虐殺に抗議する人々が毎日抗議してるじゃないか。

 その件で今朝大使が来たが『これがアメリカです』としか返せなかった。」

 

 大統領は今朝、愛娘との数少ない家族団欒の時間たる朝食の時間にやってきた大使の事を話す。

 それは連日行われる大使館前の抗議運動への抗議だがこれがアメリカだ、合衆国憲法にも「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、 ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、こ れを制定してはならない。」とあるように集会の自由がある。

 だが不快であり外交上の問題となるのは同じだ、この作戦は不必要な対立を生んだことになる。

 

「カーターを逮捕すればそれで終わった話が気がつけば全面戦闘、これが合衆国の益となるかどうかで言えば多少はなる程度だ。

 損は無いが投資の割には旨味が少なすぎる。

 カーターは我々の通商の利益にはならなかったが損にもならなかった、この件で誰が得した?ソ連、それも親欧州派だよ。」

 

「我々はどうやら一杯食わされたようです。

 連中を無為無策の結果自爆して滅ぶしかできない連中と見ていましたがこの件でよく分かりました。

 奴らもまた我々と同じく老練なる策士だと」

 

 二人は頷いた。世界最強の王者たるアメリカがソ連の連中の手のひらの上で踊らされた、その事実に踊り終わった後に気がついた。

 では次はどうするか?

 

「次のゲームはどうするつもりかね?レインハート選手」

 

「欧州の選手との親善試合は如何ですか?」

 

「ヨーロッパのプレイヤーの腕を見てみようじゃないか、それでどこでするつもりかね?」

 

「フィッシャーとスパスキーの再試合を再現するのはどうでしょうか?」

 

「セルビアを使うか」

 

「バルカンは火薬庫で魔境です。」

 

「あの半島は常にトランプタワーのようなバランスで動いてる。

 フッっと息を吹きかけるだけで全てが崩壊する、いいじゃないか」

 

 二人の政治家達は今度は我々を嵌めた連中を嵌める策を練り始めた。

 DC、この街では数百万の人々の運命を変える決断がディナーのメニューのサラダのように決まる。




実はソ連の手先によっていいように踊らされてたというアレ
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