その性質上ほぼ日常。
「現在我が国の個人の人形普及率は凡そ67%。
殆どの家に必ず一体は人形がいることになるがその人形たちは必ずしも幸せではないし手放す人も多い、企業へ就職している一方で個人所有の物としては売却されフリーとなった人形も多いのです。
その中でまた個人の所有となりたい人形たちに同じく中古でもいいから人形が欲しい人や企業を紹介する人形用ハローワークが人形紹介所だ。」
――大葉優第5代人形担当大臣(2062年参議院予算委員会にて)
「自律式人形の爆発的普及によって国内の刑事事件発生率が急減しただけでなく2050年以降爆発的に出生率が改善している。
これは自律式人形による恩恵であり人形が経済活動の一部を負担することで経済的余裕や精神的余裕、子育てなどでの余裕を確保できるようになったからだと推定される。」
――2059年4月発行厚生労働省「人口白書」より
「人形という存在は家族構成をこれまで以上に多様化させた。
今では人形が孤児を引き取るということさえ一般化、人形と結婚し、人形が子供を産み、人形が育てる、というSFのような事は今では極々普通の事だ。
かくいう私も隣の家の奥さんは人形だし我が家にも人形がいる。
もしも私が2001年にタイムトラベルして60年後こうなっている、と言っても誰も信じないだろう。カーツワイルが、ゲイツが、ジョブスが夢見た未来を超越している。」
――大林武久京都大学社会学教授(毎朝新報2061年4月11日12ページ社説より)
日本国大阪府と兵庫県に跨る大阪国際空港は日本の空の玄関口として100年以上前からこの場所にあった。
その地理的要因から中国内戦中は南側の攻撃対象の一つとなってしまった事があり2047年には大規模なミサイル攻撃を受け周囲の住宅街やターミナルが破壊された。
だが戦後すぐに日本政府はこの空港の再整備を開始した。
結果エプロンが拡大されたり周辺の住宅街の一部が立ち退きに合意したことで用地を拡大、更に騒音抑制技術の向上で発着枠や時間制限自体が拡大し羽田と同じく2055年には再国際化され主に中国・朝鮮半島・ロシア・台湾を中心とする短距離国際線と国内線が発着する空港となった。
国内線に関しても東京路線がリニア新幹線でかつては東海道新幹線と大手3社が血で血を洗う交通戦争を繰り広げた面影は無くなり今や1日往復各社4便程度しか無くなった。
この大幅減便した国内線枠だがそこに参入したのが周辺国の各社で伊丹空港は地理的に大阪市内に非常に近い、ビジネス客を狙うなら遠く離れた泉佐野・田辺・泉南に跨る関西国際空港よりもずっといい。
結果気がつけば2026年には国内線と国際線の割合は5:5の国際空港、参入会社は日本の大手3社にLCC4社、周辺国の大手7社にLCC10社の合計21社が週3500便も飛ばす空港になったのだ。
そんな空港の展望デッキで一人の青年が飛行機を眺めていた。
「あれがアエロフロートのA350-2000、向こうがコリアンジェットのボーイング797、中距離用機でここ経由でグアムに飛ぶ」
「よくご存じですね。知りませんでした」
「知らなくていいよ。ただのオタクの話だし」
その青年と話す銀髪の女性、雰囲気は深窓の令嬢で着ている白いワンピースも似合う清純そうな空気を醸し出す彼女は人間ではない、人形だ。
今や各家庭に一体はあるほど普及している人形、その中の一人G36Cだ。
オーナーは一緒に話す男子大学生で今や極々普通とも言える光景だ。
一般人が人形を手に入れる方法というのは最も簡単な方法は人形屋で購入することだ。
人形はその特性上非常に強い国の統制がある。
製造メーカーだけでなく製造モデル・製造数・値段・販売網・改修・改造そして売買。
ある種の人身売買でもあるからこそ各国はこれらを直接管理していた。
多くの場合自由競争が図られる業界の中で人形業界だけは戦時統制のようなガチガチの規制と規則で縛られた業界となっていた。
が、これらはある問題も起こしていた、例えば日本では人形売買は人形専売公社という国営公社が担当しているがどうしても競争が無い分値段が高止まりしがちなのだ。
人形の改造や修理は規制こそあるが売買よりは自由度が高いのでそれなりの競争があるのだが売買だけはどうしても国が直接管理しなければならないのだ。
では、もしも人形は欲しいのだが新品を買う資金が無い、又は新品を買おうにも欲しいモデルが売り切れ(製造数自体が各モデル常に制限されているので時と場合によってはそのモデルが数カ月先までの生産分まで予約済みという自体があり得る)の場合はどうすればいいのか?
また諸事情で購入された企業や個人が手放したり手放さざるを得なくなった場合、自由意志で企業や個人から離れた場合は?
そこで多くの国では「人形紹介所」というシステムを設立した。
これは言わば人形用ハローワーク、ただし紹介されるのは仕事ではなく人形を資産又は家族として欲している企業や個人。
まず個人や企業から手放された人形の中でまた個人や企業の所有となることを望む人形はこの紹介所に登録され紹介所はその情報をネットワークに登録、その間人形は自由所属、極々普通の人の一人暮らしと同じ状態になり過ごす、その間失業保険などは適応できるが多くの場合すぐに仕事を見つけてその仕事をしながら紹介されるのを待つか欲している企業や個人を探す。
そして紹介所で人形を欲している人や企業が見つかるとまず互いに面談を行い相性を確認、互いに受け入れる準備があるかどうかなどを確認した上で最終的にどちらか(多くの場合企業か個人が)紹介状に紹介手数料(ちなみに両方に支払い能力が無いと判断された場合は免除される)を支払って身請けするというシステムになっている。
そしてこの中で後者の「人形紹介所」を経て人形を入手したのが彼だった。
東京出身の彼は大学進学で大阪の大学に進学、その際一人暮らしを心配した両親や人形が紹介所で人形を探して見つけたのが彼女G36Cだった。
「そろそろ帰る?」
「ええ、そうですわね。でも途中で何か食べて帰りましょうか」
二人は展望テラスで旅客機撮影というまだ残ってる趣味に没頭するスポッター達を後目に二人は階下へと降りていった。
一見すればカップルのような微笑ましい光景だ。
一方展望テラスにいるスポッターの中にも人形はいた。
「なあ、さっきのJA9087AN撮れた?」
「うーん、あんまりね。」
スポッターの一人が隣のブロンドの戦術人形モシン・ナガンと撮影した旅客機の写真の事を話す。
このモシン・ナガンは誰かの所有物、というわけでもなくフリーの人形であり趣味が旅客機撮影で単に趣味の仲間と話しているだけだ。
「豚骨ラーメン、並盛で餃子」
「醤油ラーメン、トッピングは野菜マシマシでお願いします」
「あいよ!豚骨餃子醤油野菜マシマシ一丁!」
展望テラス下には空港のレストラン街にあるラーメン店ではさっきの青年とG36Cがラーメンを注文する。
店内は空港からどこかへ向かう旅行客や中には空港職員らしき人や航空機の乗務員らしき人も大勢いた。
「Ah...Tonkotu 3 pleas.」
その中にはアメリカの名門航空会社で地球儀のマークを合併した航空会社から受け継いだ会社のパイロットと戦術人形のウェルロッドらしい乗務員もいた。
最年長っぽい髭を生やしたクルーが店員の同じく戦術人形の100式に注文する。
「OK、豚骨三人前です!」
「あいよ!」
「やっぱり国際空港だな」
「?」
その様子をみながらふと呟いた。
G36Cは首をかしげる。
「いや、あれ、ユナイテッドのパイロットがいるから。
本当に伊丹が羽田と同じく再国際化されたんだって思っただけ」
「そうですか?私にとっては伊丹は国際空港ですけど」
「21世紀初頭から騒音問題と発着枠のせいで国際線は就航できない時期があってな。
そもそも国内線だけでも大変な事になってたんだけど」
「へぇ」
「まあ、その国内線がリニアで東京方面路線が急減して中国内戦の攻撃で伊丹空港周辺が丸ごと焼かれて拡張できたって事情があったりな。」
伊丹空港が再国際化した事情を話す。
それについでふとあることも思い出した。
「そう言えば、こんどユナイテッドとデルタとアメリカンがアエロフロートとS7と組んで合弁の航空会社作るって話聞いたな。
聞いた時驚いたけど」
「なんですかそれ?」
それは数日前報じられた航空関連ニュース、アメリカの大手航空会社3社とロシアのアエロフロートとS7航空が組んで航空会社を作るというニュースだ。
このニュースは航空業界では大きな驚きを持って迎え入れられた。
というのもアエロフロートとデルタは航空アライアンススカイチーム加盟なのだがS7とアメリカンはワンワールドでありユナイテッドに至ってはロシア系企業が一社もないスターアライアンス加盟で通常航空会社が手を組んでも同じアライアンス傘下同士か非加盟社が多い中で全て加盟している会社5社、それもロシアとアメリカの最大手同士が組むという一歩間違えば反トラスト法食らいかねない案だったからだ。
「ああ、ほら、ゲートの向こうの世界で飛行機を飛ばすらしい。」
「大丈夫なんでしょうか…異世界は戦争終わったばっかりで不安定と聞きますし」
「だよな、イベントリスクのある国際線でもそんな事やるんだからやっぱり米露の国策かな」
この連合航空会社はすでに世間一般では米露両政府が組んで異世界での民間航空輸送を一手に担う会社だと思われ実際そうだった。
というのも現在向こうにいるのは主に貨物航空会社が中心でそれも当初は各国軍が個別に契約していたせいで20社近い会社が2、3機動かしてるという状態をそのまま国連軍が受け継いたせいで整備などの効率が悪くなっていた、特に事故で一機全損したインターコンチネンタル・エアカーゴに至っては経営が悪化し始め撤退を決定していた。
そこで国連は民間航空輸送を一手に担う会社を求めたが場所が異世界で場合によっては機材を捨てる必要がある、しかも常にハンドリング等に制限があるという場所なのでどの会社も消極的だった。
それに米政府とロシア政府は自国内の大手航空会社に出資させ独自の新会社を設立して運行させる案を提案、それが受け入れられて準備が始まった。
現状まだ発表されたばかりだがすでに新会社の骨子はできていて同じ時間アメリカで新会社の社名がトランスアエロ・ワールドワイドに決定していることも裏ではアメリカ政府がストアされていた中古の旅客機をかき集めている事も、両国が整備士と運行要員、そしてパイロットたちを集めてモハーベ空港をハブ空港化し始めている事を知る由もない。
一方、そのレストラン街の下の階には出発ゲートがあり多くの客が飛行機に乗る手続きをしている。
その中には一家らしき姿もあった。
「時間大丈夫か?」
「多分大丈夫じゃないかな。
でも暇だよねー、もう30分も並んでさ」
一家唯一人の高校生らしい少年が腕時計で時間を確認すると隣でキャリーバッグにもたれ掛かる赤いメッシュの入った髪の戦術人形M21が返事する。
すると後ろでリュックサックを背負ったM14が笑顔で言う。
「でも、こうやって家族みんなで旅行って久しぶりだよね~」
「うん。楽しみだよね、ガーランドちゃん」
末っ子のようなM1カービンが返事する、そんな子供のような二人に長女のようなガーランドが注意する。
「あんまりはしゃがないでくださいね、姉さんも」
「はいはい、分かってますよ。」
ガーランドに釘を差されたスプリングフィールドはまるで母親のようであった。
このまるでスプリングフィールドが母でガーランドが長女、少年が長男、M14次女、M21三女、M1カービン四女のような一家は今では珍しくもなんとも無い光景だ。
この一家は今から札幌へ旅行に行くようだ。
このように人形の登場は家族のあり方というものそのものを世界的に一変させた。
そして人々はそれを好ましいものとして受け入れたのだ。
多様性の中の発展を遂げたのだ。
・G36C
中古の人形で何人かのオーナーを渡り歩いた後とある大学生の物となる。
温和で心優しい性格、飛行機オタクのオーナーに苦労気味
・モシン・ナガン
フリーの人形。趣味は飛行機写真撮影
・スプリングフィールド一家
とある戦災孤児を引き取って育てた人形一家。
今では極々普通の家族。
番外なのでこんな世界観丸出しの話も少し。
航空会社の話は実際にこんな柔軟に機材運用ができない条件下で数十社が数機ずつ出して動かしてたら効率最悪だよね、だったら新会社作って全面的に任せればいいよねって話。
社名は今はなきロシアのトランスアエロ航空とアメリカの悪名高い貨物航空会社エメリー・ワールドワイドから