もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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戦争が終わっても対立って無くならなよねって話です。


敢えて同じ人形、違う立場のお話


第64話:戦争が終わって…

「人種差別とは人間性の一部であり、それが根絶されることはないだろう。あなたが出来ることは、それをチェックし続けようとすることだけだ。」

  ――ロン・ストールワース(黒人初のコロラドスプリングス警察官)

 

 

 

 

「善と悪との闘争は絶えず至る所に支配している。

 善悪の彼岸は存在せず、ただ多いか少ないかである。」

  ――カール・ヒルティ(スイスの哲学者)

 

 

 

 

 

「ああ!暇!すっごく暇!」

 

 国連軍支配下、モハーベゲート近くの街でMP7が叫ぶ。

 その声に隣を歩くM590がたしなめる。

 

「MP7、そんな事言わないの。

 せっかく戦争が終わったんですから喜んだ方がいいですよ」

 

「そりゃ嬉しいけど…今まで戦う以外に何もしたこと無いから何をすればいいのかさっぱり。

 天才なのは戦闘だけだから戦闘があれば嬉しいのに。

 あんたも思うでしょ?」

 

「…確かにそう感じる事も無いことはないですね。」

 

「それにあの国連軍?とかいう連中とか最近増えてきた向こうの連中が気に食わないんだよね。

 私達を人間扱いするのはいいけど“民間人なので”戦わせないとかふざけてるわよ。

 私達は戦術人形、戦うのが仕事なのに戦うなってどういうことよ」

 

「全くです。戦闘こそが私達の本領です。」

 

「だよねだよね、美味しいところ全部アイツラが持ってってるし私達の仕事も毎日毎日同じ時間にこうやって同じ場所を銃を持って回るだけ。

 一体何なのよ」

 

 二人は歩きながら不満を言いまくっていた。

 街はそれなりに活況を呈していた。

 というのもモハーベゲートは国連軍は軍用ではなく民間用ゲートという立ち位置にしていたため主に民間の旅客やビジネスマンはこのゲートを通過する、結果としてこの街は軍事・政治の中心がS-09地区のグリフィン基地周辺部ならこちらは経済の中心地になりつつあった。

 

「それに、ほら見てよ」

 

 MP7はふと通りを歩く人を指差した。

 そこには同じM590がいるが銃はガンケースに入れて装甲板もつけていない姿だった。

 

「舐めてるのかしら?」

 

「それは言い過ぎでは?」

 

「戦術人形ってのは戦うのが本分だってのにアレじゃメイド人形よ。

 銃も撃てないヘタレ野郎、そう思わない?」

 

 MP7は異世界の戦術人形を嘲笑う。

 戦うという事を全くしない人形は彼女達から見れば軟弱者に見えていた。

 

「言い過ぎですよ、それは」

 

「でも実際そうじゃん、一度も戦場で銃を撃ったことも銃弾が飛び交うスリルも何も経験したことのなさそうな奴らが偉そうな顔してうろついてるんだよ?」

 

 軟弱者の人形たちがまるで人間と同じ立場にあるような顔して彷徨いているのが彼女には気に食わない。

 人形は人間だ?それは向こうが押し付けてきた価値観だなぜ従う必要がある?そんなところだ。

 

「でも、彼らが来たおかげでこうして賑やかになったじゃないですか。

 いろいろな飴も簡単に手に入るようになったでしょ?」

 

「まあ、そうだけどさ。

 使い捨てられる事もなくなったのは嬉しいけど」

 

 一方で経済的恩恵や法的地位の向上の恩恵があるのも又事実、その事にMP7は複雑な思いがあった。

 これまでのような扱いがなくなったのは事実だし世間の目も差別的態度もぐっと減ったのは事実だ、それに街には考えられないほどの物が溢れ彼らの世界の繁栄が垣間見えるほどだ。

 

「それに、街に美味しい料理屋が増えたのは嬉しいですよね。

 毎週火曜日にこの広場でやっているホットドッグとかも美味しいですよ」

 

「意外と食い意地張ってるよね」

 

「そうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 そこから数十キロ離れたS地区と隣接地区との境界線は事実上アメリカとソ連の国境であった。

 そのため全ての道路にはアメリカとメキシコやカナダと同じように検問所が設置、不完全な部分はあるがアメリカ国境警備隊が派遣され国連主導で再編された警察組織や米政府と契約したグリフィンが補助して国境警備業務と税関業務に当たっていた。

 

「次!入国の目的は?」

 

「えっと…」

 

 その一箇所ではトラックの運転手が不慣れな英語で何とか入国審査を受けていた。

 半分パニックになりながら話そうとするのはよくあることで審査官は特に気に留めないがその間に警備隊の人形と職員がトラックの調査を行うのはいつもの風景で見慣れたものだ。

 大抵車の中に如何わしい品や禁制品などないがこうやって疑うのが仕事なのだ。

 

 だが、この車は違うようだった。

 審査官が話していると電話がなり受話器を取る。

 

「はい、12番ゲート。」

 

『そのトラックを止めろ。

 なにかあるぞ』

 

「了解。すいませんが少しよろしいですか?」

 

 各ゲートにあるスキャナーがこの男のトラックの中に怪しい影を見つけたと連絡してきた。

 審査官は男を連れて行く。

 

「すいませんが中身を確認したい」

 

「は、はい!」

 

 男を国境警備隊員と人形が取り囲む。

 男は怯えながらドアの鍵を開けた。

 

「それじゃあ、開けるわよ、そーれ」

 

 人形のMP7がそう言うと他の屈強な隊員と共に観音開きのドアを開けた。

 中にあったのはダンボール詰めされた物ばかりだった。

 

「も、もういいでしょうか?ほら、見ての通りなにもないでしょ?」

 

「いいえ、ちゃんと中身を確認しないと。」

 

 何とか通ろうと狼狽えるドライバーを他所にM590は段ボール箱の一つを取り出しナイフで開けた。

 

「あら?これは…チャーリーよ!下がって!」

 

 M590が叫ぶ。

 チャーリーという言葉を聞いて警備隊員たちは一斉に退避を始めた。

 

「下がって!下がって!」

 

 隊員が後続の車の人を降ろしさらに審査中の人も全て退避させる。

 さらに検問所の所長は全てが見下ろせる指揮所から電話を取り連絡する。

 

「チャーリーが出た、NBC班を今すぐ!」

 

『了解、今すぐヘリで送る。

 今から誰も入れるな』

 

「現時刻を持って完全封鎖だ。

 誰も通すな」

 

「了解」

 

 所長が命じるとすぐに電話で各所に連絡する。

 一方下では部外者を退避させる横でドライバーに職員が手錠をかけていた。

 

「貴様を崩壊液管理法違反の容疑で逮捕する。連れて行け!」

 

「うう…」

 

 ドライバーは職員に連行される。罪状は崩壊液管理法違反、トラックに積んで密輸しようとしたのはアメリカでは核物質並の禁制品崩壊液だった。

 一方退避した隊員達と人形は10メートル程離れてトラックを取り巻いていた。

 MP7はその中で最初に崩壊液を見つけたM590の肩を叩く。

 

「いやあ、助かったよバーグ」

 

「崩壊液センサー内蔵していて良かったわ。

 もしも通してたら大変なことになりましたね、セブン」

 

 二人共崩壊液を見つけてその上で一通り対処して安堵していた。

 崩壊液なんて代物、彼女達が前勤務していたメキシコ国境では10年に一回見つかるかどうか、毎日のように見つかる麻薬なんかよりずっと危険な代物が見つかったがそれを通さなかった事に意味があった。

 

「もしもグリフィンの連中がやってたらきっと通してただろうな」

 

「全くです。彼女達は自分達が何をしているかっていう自覚も責任感もない」

 

「だよな。国境警備も安全保障の一部だってのにあいつら金のことしか考えてない。

 多少キツく言われたらビビって通しそうでヒヤヒヤしてるよ。

 賄賂で通すなんて事もありそうだしさ」

 

「そもそもPMCなんて連中に任せる事自体ありえませんよ」

 

 ふと補助業務に当たらせているグリフィンの人形たちにやらせていたらと考えて二人はゾッとする。

 彼らが来る前はそのグリフィンがやっていたのだからなおさらだ。

 二人共グリフィンの人形たちの意識の低さに不満があった。なにせこの世界の人間はどうにも人形を見下している節があり人形の方もそれを当然と考えている節がある、結果人間のほうが強く動けば人形は従うだけという最悪の状態が稀によくあったのだ。

 

「出入国管理は国家国民生命私有財産に関わる仕事、テロリストが入らないように、犯罪者が出ないように、危険物を持ち込ませず持ち出させず、持ち出すものには正当な手続きを強制、この仕事がどれだけ重要か」

 

「私達が誇りを持って国に仕えてやっている仕事に泥を塗りかねませんからね」

 

 二人共国境警備隊という仕事に誇りを持っていた。

 

 

 

 

 

「あー、二人だけど席ある?」

 

 MP7が聞くとその店の店員はギョロッと二人を睨んだ。

 そしてあからさまに不愉快そうな表情で空いてる座席を指差した。

 

「チッ、人形風情が」

 

 すれ違いざまに店員は舌打ちした。

 ここは国連軍司令部近くのレストラン街、国連軍展開前からあったあるレストランにこの日保安部のMP7は国連軍で知り合った人形と一緒に来たのだがあからさまに店員も他の客も白い目で見てきた。

 歓迎されていない事を感じながらMP7は席に座った。

 

「MP7、本当に大丈夫なんですか?この店」

 

「大丈夫、なにかあったら潰せばいい。」

 

 向かいに座って心配するのはアメリカ国務省の外交保安局から派遣されたM590だ。

 彼女の仕事は米国務省の職員らの警護と在外公館等の警備などでつい2ヶ月ほど前に派遣されたばかりなのだ。

 なので少なくなったとは言えこのような人形に対して嫌悪感を顕にした態度に不安を感じる。

 

「潰すって…」

 

「こっちは裏稼業だからね。

 ちょっと前よりはマシだけどね」

 

「半年前は酷かったそうですね」

 

「まあね。反人形デモの警備に軍と警察が出動したら無関係な人形を襲おうとして止めたらそのまま暴動になって大変な事になったからね。」

 

 半年前は今よりも酷く反人形勢力からすれば人形を人として扱い法的に同等の扱いをする国連軍は敵だった。

 そんな中でデモをしたのだがそのデモで一部の参加者が無関係の人形を襲おうとして警備の兵士が止めたところ激昂、その兵士に襲いかかりそのまま暴動となった事件まであった。

 MP7はふと半年前を思い出す、半年前の5月、国連軍後方で最大の騒動となった5月20日のある事件を。




・M590&MP7(グリフィン)
グリフィンの人形
二人共国連軍の施策に不満を持っている。
ただ経済的恩恵や法的な保護に関しては認めているので複雑な感情を持つ。

・M590&MP7(国境警備隊)
アメリカ国境警備隊所属の人形。
二人共国境警備隊の仕事を誇るプロ。
なんだかんだで甘く適当で押しに弱いグリフィンに対して批判的。

・M590(外交保安局)
アメリカ国務省の外交保安局所属の人形
保安部のMP7とは知り合って意気投合、互いに情報交換を兼ねて付き合いがある。
ちなみに前の勤務地はアゼルバイジャンのアメリカ大使館なのでロシア語ができる。


次は途中で思いついた暴動と反人形運動の話
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