もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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ユノちゃんまた出る(巻き込まれた可哀想な凡人として)


第69話:キャピタリズム・インヴェイジョン

 

「一個人がいかに富んでいても、社会全体が貧乏であったら、その人の幸福は保証されない。

 その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない。」

  ――渋沢栄一

 

 

 

「年200万ブッシェルで貴国民全員の腹を満たせられると思ってるのか!

 アメリカ国民は一年で平均140キロの小麦を食う!

 君等は35万人しか養うつもりはないのか!だったら今すぐ国家なんて看板を捨てろ!

 国家政府を一体何だと考えてるんだ!」

  ――アレックス・デ・クレスフィニー(アメリカ合衆国農務長官。63年2月にDCで行われたソ連・アメリカ通商会議の席にて)

 

 

 

 

「今日、この記念すべき式典に参列できたことを心から光栄に思います。

 これによってこの世界と我々の世界の繋がりと友情がより強固に築かれることになるでしょう。

 より簡単により沢山の人が行き来することで繁栄を齎すのです」

 

 2063年3月、ガーデン郊外では新たに建設されたゲートの開通式典が行われ招待されたカリフォルニア州知事エディー・スタローン知事が記念の挨拶をする。

 後ろにはテープが貼られたゲートがあり演台の上で長々と英語でスピーチするが一部の式典の参列者はこの手の式典でよくあるように辟易していた。

 

「あのジジイの話しいつまで続くんだよ」

 

「いつになったら終わるんだろうね、お婆ちゃん」

 

「きっともうすぐ終わるじゃろ」

 

 P基地から招待されたノア、ユノ、ナガンの3人は明らかに退屈していた。

 州知事の長い話が終わると変わってグッドイナフが演台に上がって演説する。

 

「今日、国連軍の代表としてここに新たなゲートが同時に3つも開通できた事に大きな喜びと感謝を感じている。

 昼夜分かたぬ工事を三ヶ月行いこの立派なゲートとそこからつながる道路や鉄道を作り上げた全ての作業員、技術者、設計者、技師、オペレーター、材料を運んだドライバー、そして材料を作った者たちの努力と素晴らしい仕事に対する尊敬と感謝の念は絶えない。

 この立派なゲートは今後数十年数百年に渡り我々の揺るぎない友情と信頼と繁栄の確固たる証となるだろうしそうなることを私は心の底から願う。

 『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』とはダンテの言葉だ。それは地獄の門の上に書かれた言葉だ。

 だが、これは地獄の門ではない、自由と繁栄の架け橋なのだ。

 この門に相応しい言葉はこの門をくぐる者は一切の恐れから解放されよ、である。

 排水溝の詰まった洗面所のように恐怖という水が貯まるしか無かったこの世界が門という掃除道具と我々国連軍という水道業者によって排水溝も詰まりを解消し、恐怖を洗い流すのである。」

 

 こちらも長々なと演説を始める。

 この日、国連軍は新たにベーカーズフィールド、パームデール、バーストーの新たな3つのゲートを開設した。

 同時開設という一大事であり同時にバーストーからの鉄道路線もS地区全体に引かれS-09~バーストーの鉄道路線開設も同時に行われていた。

 

 

 と、こう書けば政治的にも経済的にも極めて重要でとてつもなく大事なことなのだが参列者の中にはこの重要性をとんと理解していない者もいるのだ。

 

「何だあのオッサン」

 

「つまり、どういう事お婆ちゃん?」

 

「…まあ、色々と小難しい話じゃ。二人にはちと早すぎたかのぅ…」

 

 

「では、神がアメリカを護らんことを」

 

 最後にグッドイナフが演説を締めくくる。

 彼が演台から降りると実際に開通の式典が始まった。

 軍楽隊がファンファーレを鳴らし州知事や国連軍総司令官らお偉方がテープの向こう側に並びハサミを持つ。

 そして記者たちが集まり歴史的瞬間を撮影しようと集まる。

 

「では、テープカットを」

 

「それじゃあやりましょうか、州知事殿。」

 

「ええ、では」

 

 司会者の言葉に言われグッドイナフとスタローン知事がハサミを持ってテープに刃をかける。

 

「では、3、2、1」

 

 テープを切り落とす。

 それと同時に背後からは花火が打ち上がり軍楽隊が国歌を演奏し始めた。

 

「開通です!」

 

 満場の拍手とともにゲートが開通した。

 この計画に携わった者達への敬意と今後への期待に満ちた拍手だった。

 

 

 

 

 

 数時間後、この会場にいた人々の大半は国連軍主催のレセプションパーティーに参列していた。

 

「しかし、実際に国連軍の活動をこうして間近で見ると素晴らしい仕事ぶりですな。」

 

「ええ、最初は我々は煙たがってましたが実際に見ると意見が変わりましたよ。

 これからはカリフォルニア州を上げて支援いたしましょう」

 

「私もカリフォルニアの財界を上げて支援しましょう。

 ここにはビジネスチャンスもあるようですから」

 

「それはありがたいですな、スタローン知事、シャバク議長、オヘア会頭」

 

 場所は国連軍司令部、パーティーの参列者は出席していた国連軍幹部だけでなくカリフォルニア州知事、カリフォルニア州議会議長、カリフォルニア州商工会議所会頭などのカリフォルニア州政府の高官達。

 

「我社としてもこの地域での事業に参入したいですね」

 

「ですがエミリー・コナー社長…」

 

「分かってます。もちろん現地企業に配慮した進出計画を立案しますから。

 ご心配なく、ですが、同業他社がどう動いているか…」

 

 カリフォルニア州の企業の社長ら、

 

「この世界での旅客機の販売需要はある、とお考えですか?

 あると考えるならば理由も聞かせてくれませんか?」

 

「私としてはこの世界では弊社の取り扱っている中古の旅客機の需要は多いと見込んでいる。

 というのも冷戦崩壊後、航空産業では東側の航空会社が機材更新のため多数の機材を発注しましたからそれと類似の出来事が起きる可能性は高いと考えている」

 

 更には記者達や

 

「つまり、我々と手を組みたいと?」

 

「ええ、現地での協力企業というのはどの産業でも不可欠です。

 ましてや弊社は食料品、日持ちはしません。

 ですので貴社の資本力を見込んで合弁で事業を展開する、というのは如何ですかな?」

 

「それは傾聴に値する提案ですな。

 いいでしょう、乗った」

 

 地元の有力者たちも集まっていた。

 この会場にいる人達の年間所得を合わせれば小さな国の国家予算に匹敵する程の金持ち達やカリフォルニアの政治経済を動かす人たちが集まってこの世界での利益を享受しようと水面下の争いを繰り広げていた。

 そんな魑魅魍魎な世界からはただ今の立場に偶然担がれただけの凡人は距離を取るのが唯一の防衛策だった。

 

「ここだけで凄い額が動くんだろうな」

 

「どのぐらい動くんですかね…」

 

 イシザキにアルカードが尋ねる。

 二人共招待された現地有力者であり国連軍関係の高官なのでいたのだがどちらもこんな恐ろしい世界に踏み入れたくなかった、踏み入れたら多分一生分の金を身ぐるみごと剥ぎ取られる。

 

「まあ、俺達の生涯年収ぐらいはポンっと動いてんだろうな」

 

「ヒェッ…怖い世界…」

 

「俺達凡人はあんなのから離れた方がいい。だろ?ガーランド」

 

「ええ一生かけても返せない借金背負わされるなんてまっぴら御免ですよ。」

 

 シックなドレス姿のガーランドが言う。

 凡人には近づきたくない世界だ。

 だが一方で、仕事でもその中に身を投じなければならない者も、よく分からずそんな世界に迷い込んだ可哀想な子鹿もいるものだ。

 

「現在の治安状況はなんとも言えませんが安定し始めてはいます。

 ここは50年前のアフガンよりは安全ですよ、ターリバーンもISISもいませんから」

 

「君等には期待してるよ、この地域が安定して更に世界も安定化出来たなら我々の前には巨大なパイが生まれるのだからね」

 

「そのパイ生地の用意は大変ですな」

 

「パイを作るのはどんなパイでも大変さ。

 アップルパイでもレモンパイでも、もちろんキドニーパイでも」

 

「でも市場というパイを作るのは…」

 

「コツをつかめば簡単だが大抵の人はそのコツを掴む前に自分がパイになる」

 

 コーシャはG36を連れてロシアから来た穀物会社の社長と話していた。

 この会社はこの世界に穀物を輸出することで利益を得ようと目論んでいた。

 現状穀物価格は若干の右肩上がりではあったのだがこの上昇はあくまでこの世界への穀物輸出規制の緩和と輸送状況の好転による輸出量増大を見越し各国の穀物会社が先物買いを始めた事にあった。

 

「そこでだ、アーチポフ中佐殿。

 我々はより大きなパイを得れる見通しはあるのかね?」

 

「そればかりはなんとも。

 私はあくまで軍人、輸出規制は通商部門の担当ですよ。

 ですが、ソ連軍からの情報によりますと、ソ連政府は最近貨物列車用の機関車をこのあたりに集めているようです。

 貨車も集めているようですが不思議なことにその大半が穀物輸送用と冷蔵貨物車らしいです。」

 

「ほう、それは…」

 

「まあ、これがどういうことなのかは私には理解できかねますがね」

 

 コーシャは何も知らないフリををしてこの社長にソ連政府の動向をリークする。

 これが意味するところは唯一つ、近いうちにソ連政府は大規模な穀物及び食料品の買付か輸入を解禁する可能性があるということだ。

 もちろん彼はバカではない、それどころかエリートだ。ソ連政府の動向も分かっている。

 

 一方、この魔境に迷い込む者も少なからずいた。

 

「ヘイ、そこの彼女!君はグリフィンの人間かね?」

 

「は、はい」

 

 ユノに突然声がかけられた。

 彼女は声のした方に振り返るとシャンパングラスを持った中年の男性が近づいた。

 

「若いのにグリフィンに務めるとは君は優秀な人間のようだね。

 素晴らしい、君のような未来ある有能な人は、私は大好きだ」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

 ユノの服装を見てその中年の男は彼女を褒めちぎる。

 突然の事に警戒していると彼は名乗った。

 

「私はアルバート・ストックスティル。

 気軽にアルと呼んでくれて構わない、君の名前は?」

 

「ユノ・ヴァルターです、アルさん」

 

「よろしく、ユノ。」

 

 自己紹介して握手する。

 ここまでは普通のことだ。ふとユノは尋ねる。

 

「アルさんのお仕事は一体…」

 

「ああ、私はこういう者だ」

 

「えーっと、パシフィックサウスウェストキャピタル副頭取?」

 

 ユノが渡された名刺に書かれた肩書を読み上げる。

 そこには銀行の副頭取であるような事が書かれていた。

 

「ああ。カリフォルニアの地方銀行の副頭取、まあ副社長みたいな者だ。

 一応パシフィックサウスウェストキャピタルはアレゲニー銀行とバンクオブピードモント、投資銀行のオールアメリカン・クレジットなどと一緒にUSバンクグループを構成している。」

 

 アル・ストックスティル、彼はアメリカの大手銀行グループを構成するカリフォルニアの地方銀行の副頭取であった。

 そんな彼が突然声をかけた事にナガンが聞く。

 

「その銀行グループが何のようじゃ?」

 

「有能で若い人材を見つけて声をかける、それだけだ。

 まあ、そのうちもしかしたら我が銀行の警備業務を発注するかもしれないがその時銀行にとっては命より大事な信用と顧客の資産を任せられるかどうかという下見もあるがね。」

 

 パシフィックサウスウェストキャピタルはS地区への進出を検討していた。

 だが銀行業というのはその仕事柄犯罪のターゲットになりやすい、また同時に最も重要視されるのは信用でありそのためにも進出には警備業務を信頼でき且つきめ細やかな対処ができる業者に外注する必要がある、そこでこの銀行グループはグリフィンに目をつけていた。

 アメリカ側のPMCに発注してもいいがグリフィン側の方がドルレートの関係で大幅に外注コストを減らせるという見込みもあった。

 するとストックスティルはふと近くのテーブルの上に置かれたシャンパングラスを見つけ聞く。

 

「君、お酒は飲めるかね?」

 

「いえ…まだ17歳です」

 

「17!?ハッ、君は高校にいるべきじゃないか!

 私にも同じぐらいの娘がいるが…全く信じられん。

 私は年齢で人を差別しない主義だが、PMCなんていう仕事に17の子供を投じるなんて、全くありえない、親の心を考えたことはないのか。

 君の両親は反対しなかったのか!?私なら何が何でも反対するぞ、子供を戦争に連れて行くなど正気の沙汰じゃない」

 

 彼は一人の良識ある人間として驚いていた。

 銀行員というのは高い倫理性も求められるため17で戦争に行くなど狂気の沙汰としか思えない。

 

「色々と複雑な事情があるのじゃ」

 

「そうか、では。

 縁があればまた会おう」

 

 そう言うと彼は去っていった。

 




・エディー・スタローン
カリフォルニア州知事。
民主党員で元々は国連軍に反対していたが経済効果を見て180度方針転換した。

・アルバート・ストックスティル
カリフォルニア州の地方銀行パシフィックサウスウェストキャピタル副頭取。



しょうもないネタだけどパシフィックサウスウェストキャピタル含めたUSバンクグループはモデルあるんですよね、かつてアメリカにあった大手航空会社USエアウェイズなんだけど。
USエアウェイズは元々オールアメリカンエアウェイズでそれがアレゲニー航空になってピードモント航空と合併、さらにパシフィックサウスウェストと合併してのし上がった会社
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