「で、任務って?」
どこかの廃墟の中、飄々とした口調の話し声が聞こえる。
覗けばそこにはグレーの髪の少女が無線機で誰かと話していた。
『AR小隊が失踪した地域を調査し、その付近で活動する謎の勢力を調査してもらいたい。
また可能ならばリコリスが残したファイルも回収してもらいたい。
報酬は弾もう』
相手は特徴的な片メガネの女、即ちグリフィン&クルーガー社のへリアンだった。
「りょーかい」
「45姉、なんだったの?」
話し終わり無線を切ると後ろからブラウンの髪のツインテールの少女が陽気な声で話しかけた。
「9、新しい任務よ。」
「分かった!」
一言言うとツインテールの少女はどこかへ向かう。
少しすると誰かの寝起きの声やそれを叱る声が聞こえてきた。
数日後の2月6日、ワシントンD.Cの南西、ポトマック川対岸のバージニア州アーリントンにあるのがワシントンDCに最も近い民間空港、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル国際空港である。
滑走路が交差した3本しかない世界最大最強の国の首都空港とは思えない程規模の小さい空港でより大きなダレス空港やボルチモア・ワシントン空港もあるがどちらも離れているため街から5キロしか離れていないこの空港は大変な需要があるのだ。
「メアリー!久しぶり!」
「ケビン!会いたかったわ!」
「ハニー、ああ今空港についた。
よかった、ディナーは一緒に食べれそうだ」
「はい、飛行機が2時間遅れですよ。
会合には何とか間に合いそうです」
「乗り換え便どこだ」
その出口では恋人と再会する若者や携帯で家族に電話する出張帰りのビジネスマン、出張らしいが遅刻目前らしい若いサラリーマン、乗継便を探す大学生などがひしめき合っていた。
その中にスーツケースとガンケースを持った奇妙な3人組がいた。
「なあ、なんで俺らここにいるんだろうな」
「知らないわよ」
「DCは久しぶりですね~」
三人組、即ち議会の公聴会に出席するために来たジェームズとワルサー、M14だった。
AR小隊はというと24時間前にはDCに来ているのだがこの3人組は別行動だった。
「あいつら輸送機で直接アンドリュースだけど俺らはロスまで行くのに2時間、市内で渋滞に巻き込まれて1時間、更に道に迷って1時間、到着したら予定便が出発してて丸一晩空港で過ごした挙句に早朝便が吹雪で遅延からの欠航で予定から14時間遅れだぞ」
「文句言わないの、迎えが来ているはずよ」
軍が輸送機を出してくれずわざわざ100キロ以上離れたロサンゼルスまで行ってから飛行機でナショナル空港まで向かうつもりが道に迷って渋滞に巻き込まれて2時間遅れて空港に辿り着いた時には搭乗便はコロラド上空、空港で一晩明かして翌朝の早朝便で向かうはずがナショナル空港が早朝から猛吹雪で遅延、更に欠航して結局到着したのは夕方だった。
「昨日からまともなベッドで寝てないよ…早くホテルで寝よう」
「指揮官!張り切っていきましょうよ!私は今から20キロは走れますよ!」
移動が無茶苦茶で人間の彼はもう疲れ切っていた。
一方のM14はまだ元気いっぱいで疲れた様子など微塵もなかった。
「うん、そうだね、うん。
で、迎えってどこに…」
迎えを探そうと周りを見ると「Mr.Ishizaki」と書かれた紙を持った二人組の女性、片方は50過ぎの白人、もう一人は明るい髪の毛をハーフアップにした特徴的な髪形のセーターを着た良家の子女のような女性を見つけた。
どうやらワルサーもそれに気がついたらしく同時に反応する。
だが同時にそれを持っている二人組の正体にも気がついた。
「あ!指揮官!迎えの人がいま…」
「全く、あの親父何処に迎えがいるって言うんだよ。
地下鉄で早く行こうぜ」
「ええ、そうね」
M14の両手を引っ張りながら迎えの二人組の前を通り過ぎる。
「ちょ!ジェームズ!」
「ワルサー!なんで無視するの!」
迎えの二人がすぐに追いつき声をかける。
「うるせー!なんでママがここにいるんだよ!
天文台どうしたんだよ!」
「スプリングもなんでいるのよ!
ここDCよ!」
迎えの正体とは彼の実の母親と戦術人形のスプリングフィールドだった。
「実はね、大統領にお呼ばれしちゃったの!」
年甲斐もなく明るい口調でホワイトハウスに招かれたと言う。
だが指揮官は相当嫌なようで呟いた。
「もうやだ帰りたい」
「指揮官のお母さんですね、副官のM14です。よろしくお願いします」
「あらかわいい子ね、うちの息子がお世話になってます」
一方M14はというと丁寧に母親とスプリングフィールドに挨拶していた。
「公聴会に仕事で母親と遭遇、これから親父に質問攻めにされるのにこれ以上嫌な事あるか?」
「分かる」
DCに到着して僅か30分、既に二人の心は2月頭のワシントンDCの空のように憂鬱だった。
ワシントンDCはアメリカの首都らしく格式高い高級ホテルがいくつも存在する。
数多くの要人が泊まったホテルのあるスイートルームにAR小隊が泊まっていた。
「M4、ルームサービスで何頼む?」
「何でもいいですよ」
「そ、じゃあコーラとショートケーキ二人分。
はい、では」
ベッドに座ってぼーっとテレビで映画を見るM4にルームサービスを頼むAR-15が聞く。
彼女らは泊っているとは名ばかりに実態は軟禁に近かった。
「M4、ぼーっと何見てるのよ」
「映画です。シークレットサービスの方がお勧めしてくれた古い日本のアニメ映画らしいです」
「女子高生が戦車に乗って戦うなんてふざけた設定ね。
こんなの誰が見るのよ」
「お勧めしてくれた人曰くかなりヒットしたそうですよ」
「そ」
M4は警備の人からお勧めされたという古いアニメ映画を見ていた。
到着してから数日、事実上の軟禁状態に退屈していた。
「変な感じですね…」
「何が?」
突如M4が呟いた。
「今まで戦闘ばかりで兵器として使われていたのにここでは人として扱われ兵器なのに戦う事が許されないなんて。
それにこうして私達の世界で一番豪華なホテルよりももっと豪華な部屋で時間を持て余す日が来るなんて」
ベッドに寝転がり天井を見ながら言う。
彼女には違和感しかなかった、この世界や自分達の扱いが。
「確かにね…戦争はないとは言えないがずっと平和で安定して繁栄した世界。
いつ鉄血が来るか、ELIDが来るか、明日死んでも可笑しくないと考えず毎日を過ごすなんてね」
窓の外の夕方の帰宅ラッシュの通りを見ながらAR-15も言う。
するとドアがノックされた。
「ルームサービスです」
「はーい」
「早いわね」
AR-15がドアを開ける。
するとルームサービスの50代ぐらいの女性が黒人のシークレットサービスと共に入りテーブルの上にコーラとケーキの準備をするとお辞儀をして出て行った。
「ジェームズ!久しぶりだな!」
「クリスマスに帰れなくて悪かったな、親父」
AR小隊のいるホテルの一階のフロントでは指揮官が父親のパトリック・イシザキ議員と再会しハグしていた。
最高級ホテルという事もありフロントは豪奢な空間であり殆どの人がスーツか洒落た装いの中スーツの男と大学生のような服装の一団はある意味目立っていた。
「えっと、指揮官のお父さんですね?
副官のM14です、よろしくお願いします」
「おお、君が例の英雄殿か。
息子がお世話になってるよ、ジェームズ、こんなかわいい子が部下なんだ、迷惑はかけるなよ?」
「親父に言われなくても分かってる。
早くチェックインしよう、ベッドで寝たいんだ。」
指揮官は荷物を置いてフロントに向かい手続きをする。
その間ワルサー達はラウンジのソファに座って脱力していた。
「ああ、このソファ柔らかいわね…このまま寝ちゃうかも」
「寝てはいけませんよ、ワルサー」
「それにこの後も予定があるじゃないか」
今にも寝そうなワルサーに向かいに座ってコーヒーを持ったスプリングフィールドがやんわりと注意する。
さらに父親も注意する。
「予定?スーパーボウルは来週よ」
「あら?忘れるの?今日は7時から大統領主催のパーティよ」
母親の言葉にワルサーが気がついた。
そう、大統領主催のパーティに招待されていたのだ。
会場は勿論ホワイトハウスだ。
「忘れてた…何でか知らないけど招待状届いてた…AR小隊共々…
M14、知ってた?」
「はい、そのためにドレスも用意しましたよ?」
「すっかり忘れてたわ…」
大統領からAR小隊共々直々の招待という合衆国国民としては最高ともいえる名誉にあずかれるという事をすっかり忘れていた。
チラッとラウンジの壁掛け時計を見ると時計は5時半を指していた。
「これじゃあ荷物持って行って準備してすぐに向かわないと駄目ね…」
時計を見てこれからの予定を考えどっと疲れが押し寄せたワルサーだった。
(主人公関連オリキャラ)
・パトリック・イシザキ
民主党下院議員、ハワイ州選出、下院軍事委員会所属
主人公の父親、ハワイ州の民主党の大物
ホノルル出身、日系人
・メアリー・イシザキ
ハワイ大学天文学教授、ウィスコンシン州グリーンベイ出身
旧姓コシチュシコ、ポーランド系アメリカ人
主人公の母親、マウナケアの天文台に20年以上勤務、殆ど山から下りず研究を続ける姿勢から別名「マウナケア山の魔女」
恒星間天体研究の権威でその筋の人からは超有名人
・ジェームズ・イシザキ
G&Kセキュリティ指揮官(管理職、部長クラス)
28歳、ハワイ大学卒業後入社。
軍事教育は社内の訓練カリキュラムで培う。
事なかれ主義でやる気はない