「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ」
――サン・テグ・ジュペリ「星の王子さま」より
ゲイリー・スタンフィールド、通称スタン。
DBI創設以来のベテラン捜査官で元DEA捜査官。
DEA時代には全米でもトップクラスの捜査官としての腕を誇り、2048年には当時カリフォルニア州南部で拡大していたカルテルとマフィアを同時に潰したほどの腕を誇る。
単にキレるだけでなく射撃の名手で特に早撃ちの名人で格闘戦でも強いことで知られる。
ここまで書けば有能な捜査官のようだが実際は独断専行当たり前、暴力的な手段は日常茶飯事、仕事が無くなると酒とゲームに溺れる仕事人間、そもそも殆ど自活能力無しの問題児。
友人と言えるような人もおらずDBIの中でも有名な一匹狼だ。
その一匹狼の後ろには常に一人の戦術人形がいることでも知られてる。
その名はイサカM37。グラマラスな体型でそれなりに人気のある機種だが彼と一緒にいる個体は少し変わっていた。
記録上ではDBI所属以前は一時DEA“押収物”としての記録がありそれ以前がカリフォルニア州サクラメントのロイ・リポという男が2046年に買ったとだけ。そのロイ・リポはというと買ったおよそ半年後にサンフランシスコで殺害されて警察が彼の車や家を押収したがその際の記録には残っておらず警察は行方不明として処理していた。
つまるところ、この二人は片方は有能な問題児、片や記録を確認する限り怪しい要素しか無い人形という厄介者コンビなのだ。
ある日、この日もいつものように大規模な摘発が行われ人形の密売組織が一つ丸ごと潰されていた。
摘発が一段落した後、テキサスレンジャーから派遣された捜査官ジョン・バケットはタバコを吹かしていたスタンに声をかけた。
「よ、お疲れさん」
「どうも、バケット」
手を上げて返事をすると彼は隣にやってきた。
「全く面倒な連中だよ。」
「ああ。人形どころかヤクまでやってたからな」
「ドラッグスイーパーはやっぱりお怒りかな?」
「全く、DEA時代の古いあだ名を持ち出すな」
「ずっと気になってたんだが何でDEAからDBIに移ったんだ?」
バケットはスタンに聞いた。
スタンは無言で不快感を顕にして睨んだ。
「睨むなよ、答えたくなけりゃ答えなくていいさ」
「ジョン、何油売ってるの?さっさとあのバカ共連れて帰るわよ」
そこへバケットの相棒の57がやってくると彼は行ってしまった。
一人になると彼はタバコを地面に捨て靴で踏み消す。
「もう15年か」
「何しみじみしてるの?スタン」
感慨に耽けようとすると後ろからイサカが現れ声をかけた。
「いや、何でも無いさ。
もう15年だな」
「まだ15年よ。あのとき赤ん坊の子がまだ中学校を卒業するぐらいよ」
二人は15年前の出会いを思い出した。
2063年から遡ること15年前、即ち2048年はそれなりに忙しない年だった。
国際情勢で言えば中国では内戦が続き国連軍が南側と激しい戦闘を繰り広げ各地でテロが頻発するなど大変な状況であった。
テロの首謀者は南側の中国だったりまだしぶとく生き残っていたイスラム過激派だったり最近伸張し始めた中南米の麻薬カルテルなど様々。変わったところでは南中国勢力下の泉州でイスラム過激派が政権を攻撃するようなテロも起きている。
この年だけで内戦では両者合わせて正規軍人だけで3万人以上が死傷している、民間人を含めればもっとだ。
更にはコロンビアでは当時の上院議長が麻薬カルテルによって暗殺、ブラジルでは北部の都市ベレンで麻薬カルテルの抗争の激化で無政府状態になり当時のベレン市議会議員全員が殺害される事件が発生、コスタリカでは麻薬組織の密輸飛行機がパナマの旅客機と衝突し100人以上が死亡、パナマでは先の墜落事件が切っ掛けとなり国民が激昂、麻薬組織への大規模な迫害が始まり数百人近い薬物中毒者や売人やカルテル関係者がパナマ運河に浮かぶ事件が起きるなどラテンアメリカ情勢も悪化していた。
南アジアでは弱体化し始めたパキスタンと中国の隙を見てインドがカシミール地方で大攻勢を仕掛けアクサイチンとカラコルム回廊から中国を追い出しギルギット・バルティスタン州を東側から圧迫し始めた。
またアクサイチンとカラコルム回廊を足がかりとしてインドは新疆の反中勢力への支援を強化し始めた。
米国内では11月の大統領選を巡り民主党の現職副大統領のフックスラテンとウェルズのコンビが共和党はミシシッピ州前知事のコニー・ロックウェルと現職上院議員のチャック・カリッタが選挙戦で激しい論戦を繰り広げていた。
また憲法修正第30条、人形の権利に関する条文が制定され効力を持ったのはこの年の7月にノースカロライナ州議会が批准してからだった。
人形権利問題も修正第30条の制定により一応の終結を見、人形権利問題の一時代が終わったとされた。
このような情勢の中、カリフォルニア州など南部ではある問題が激化していた。
それは麻薬組織の浸透であった。
彼らは長大なメキシコ国境から麻薬を持ち込み米国の安全保障が中国に向いている間に南部に浸透したのだ。
そんな彼らと現在進行形で最前線で戦っているのはアメリカ政府直卒の法執行機関、麻薬取締局通称DEAだった。
「こちらスタン、配置完了」
当時DEAに入って数年、同期の中では頭一つ抜けて出世していた中堅捜査官だったスタンは拳銃を構えてビバリーヒルズのとある豪邸の裏口近くで待機していた。
ヘルメット内蔵の無線からは他の場所で待機している仲間たちの声も聞こえてきた。
『こちらポール、スタンバイ完了』
『マリア、いつでも行けます』
前を見ると豪邸からはパーティーの音が聞こえ女と男達の快楽に浸る声が聞こえる。
この豪邸の登記上のオーナーはメキシコから唐辛子の缶詰を輸入する会社の社長の物、とされているがその社長は実のところはメキシコの麻薬カルテルと提携しているマフィアのボスでありこのマフィアはカリフォルニアを中心として西海岸一帯で麻薬の密売を手掛けていた。
今日はこのボスの娘の結婚式で豪邸には彼らの仲間が大勢集まっていた。
すると突如ヒュー!という甲高い音がなると爆発音が聞こえ始めた。
「花火まで打ち上げてやがる」
見上げると花火を打ち上げていた。
全く近所迷惑たらありゃしない。
『確認した。連中に気付いている気配はない。チャンスだ、突入!』
ボスの命令が下るとスタンは部下に前進のハンドサインを送る。
部下の最近導入された戦術人形のM500がドアの鍵を破壊するとスタンが蹴り飛ばす。
「動くな!DEAだ!武器を捨てろ!」
ドアからスタンを先頭にDEAと戦術人形がなだれ込んだ。
豪邸の裏口から入るとそこには酔いつぶれて寝ていた参加者、隠れて盛っていたバカなカップル等等がいたが彼らは揃いも揃って突如現れたDEAに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして手を挙げるだけだった。
部下たちがこのバカ達を壁際に立たせている間にスタン達はメイン会場へと向かった。
そして次の瞬間、銃声が鳴り響き銃撃戦が始まった。
一方、正面玄関では
「ブリーチ!」
班長の合図で戦術人形がドアの鍵を吹き飛ばす。
その後に続いてDEA捜査官達が突入する。
「動け!動け!動け!」
玄関前に駐車している十数台の高級車を乗り越えて進み、裏庭のパーティー会場に突入した。
そこでは塀をぶち抜いて突入した班とマフィアが銃撃戦を繰り広げていた。
塀をぶち抜いた班の隊員たちは破壊した塀やパーティー会場のビートボックスを盾にして銃撃戦を行っていた。
「分かってるわね!殺したら全部パーよ!」
「無茶言わないでくださいよ!」
「最新鋭の人形なんでしょ!そのぐらい出来なきゃクビよ!」
MP5が班長の女性に苦言を呈するが彼女は全く意に介さない。
そこへ横から正面玄関から来た班とスタン達が合流した。
「キャアあああああ!!!」
「撃て!撃て!」
「カルロ!時間を稼げ!
ボス早く!」
「分かってる、ホセ!奴も持ってこい!
あの女はまだ使いみちがある!」
「ヘイ!」
会場から建物内に逃げ込んだボスたちは部下の構成員たちを使って必死に建物の中で溜め込んだ麻薬やら武器やら金やらを集めて逃げようとしていた。
「おい!これに商品を入れれるだけ入れろ!」
「そうじゃない!こうやって入れろ!」
「待ってくれ!後これにいれたら逃げる!」
彼らマフィアのボス達は実に滑稽なことにバッグやらカートやらポケットに金やら麻薬やらをねじ込めるだけねじ込んで丸々太った躯体で逃げ惑う。
そこへ正面玄関のドアがぶち破られて捜査官達が雪崩込む。
「動くな!武器を捨てろ!」
慌てたボスは捜査官に拳銃を撃ちながらドラッグと金がたっぷりはいったバッグを持って上階に駆け上がる。
一階では前からも後ろからも捜査官が来て無関係な人達は我先にと逃げようとする。
「早くどいて!こんな所いられないわ!死んじゃうわよ!」
「早くどけ!」
「落ち着いて!背を低く!誘導します!」
パニックになる群衆を諌めながら彼らは逃げる人々を建物の外に出して駆り集める。
だがその間銃撃戦は庭から建物の中へと移り建物中で銃声が続いていた。
スタンもマフィアを追いかけて建物の中へと進んでいた。
白を基調とした趣味の悪いリビングを抜けて吹き抜けの階段へと進むがそこでは上から銃撃を受け誰も進めなくなっていた。
スタンは階段近くの冷蔵庫を盾に様子を伺う。
銃撃は丁度彼らの頭の真上から来ていた。
「クソ!上からか」
「ここは私に任せて~スタン~」
他の班にいた戦術人形のRFBがなにかを彼に言おうとすると彼は彼女のRFBを奪い天井を撃った。
すると上から叫び声が聞こえ吹き抜けに人が落ちてきた。
RFBの7.62ミリNATO弾ならばこの程度の家の天井ぐらいは余裕でぶち抜ける。
戦術人形は人間以上の火器管制システムを内蔵しているので誤射の可能性が低く多くの法執行機関では人形に敢えて貫通力や威力の高い弾を用意させる運用をするところもありDEAもそういった機関の一つだった。
「ありがと」
そっけなく言うと他の誰よりも先に落ちてきてうめき声を上げる男を踏みつけ螺旋階段を駆け抜ける。
2階に上がると数人の構成員が撃とうとしたがその前に射殺する。
2階の廊下を見れば奥の部屋に数人の男が慌てて逃げ込むのが見えた。
スタンは男を追って逃げ込んだ部屋へと向かいゆっくり静かにドアを開けた。
「いやよ!放して!」
「騒ぐな!お前は大人しく俺達に従ってればいいんだ!このクソビッチが!
ボスのお気に入りだからいるだけで所詮は機械じゃねえか!」
薄暗い部屋の奥からは何か男と女が騒ぐ声が聞こえるが暗く、カーテンや家具でよく見えない。
ゆっくりと奥に進むと窓からの月明かりに照らされて人影が見えた。
「動くな!武器を捨てろ!」
左手でフラッシュライトを取り出して拳銃を構えて照らす。
一瞬、男が拳銃のようなものを持っているのを確認すると次の瞬間、スタンは容赦なく発砲した。
「ガハ!」
「ブフ!」
女の両側にいた二人の男を一瞬で無力化した。
そしてゆっくり、警戒しながら女の方へと近づいた。
「動くな、武器を捨てろ、両手を上げろ」
「誰?助けに来た白馬の王子様じゃないのはわかるわよ?
どこの組?もうあんた達クズ共に振り回されるのは御免よ。
さっさと撃ってこのゴミみたいな人形人生終わらせて頂戴」
そこにいたのはグラマラスな体型の女だった。
・ジョン・バケット
テキサスレンジャーから派遣された捜査官。テキサス州出身
テキサス訛りの英語を話す50過ぎの田舎者。
その割にはかなり元気で射撃の腕は一流、馬術も得意。
愛銃は珍しくFN Five-seveNで相棒も57。
見た目はウディ・ハレルソン
麻薬カルテルってバカにできないんすよね(下手な軍より充実した装備で暴れてるラテンアメリカの麻薬カルテル見ながら)