もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第78話

 いつの時代も情報とは最も重要な物である。

 そしてそれはIT時代に突入した21世紀以降更に重要になっていた。

 今やこの地球上のあらゆるデバイスに何かしらの電子機器が組み込まれている時代、意外なものに意外な情報が含まれているのも珍しくない。

 例えば「殺害されたサイボーグの脳内に埋め込まれていたマイクロチップ内に停止以前までの約6か月分の位置情報に関するデータ」が含まれていたり…

 

 

 

 例の襲撃から4日、S9地区国連軍司令部でイングリッシュがこの4日間に集めた全ての情報を報告していた。

 

「位置情報?」

 

 アーチポフが聞き返す。

 彼らはこの時点で回収された死体の内、一体がサイボーグでしかも遺伝子が人間と一部異なる特殊なDNAが存在するという報告を受けている。

 そしてその死体から位置情報のデータが出たというのだ。

 

「はい、死体から回収したマイクロチップに位置情報のデータがありました。

 出して」

 

「了解!」

 

 イングリッシュの指示でFBIのサイバー担当でもあるMDRが画面に位置情報を映し出した。

 それは正確な緯度経度を表す物ではなくこれまでの約半年間の移動を現したグリッドであった。

 

「これは?」

 

「これが中から出てきたデータだよ。

 この点が1時間毎に何処かに送っていた位置情報。

 どこかを起点としてそこからのグリッドを送っていたみたい。

 慣性航法装置に類似した位置情報だね。

 不定期にGPSか何かで位置情報を補正しているみたいだし。

 あと距離の単位が最大で1000キロ単位で出発点から始まってるみたい。」

 

 慣性航法装置とは基準とする地点からどの方向に時速何キロでどれだけ移動したかを計算することで基準地点からの推測される位置を弾き出す航法装置である。

 全ての情報を自己内で完結できるメリットがあるがその性質上どうしても誤差が生じることが多くかつては無線航路標識、現代ではGPSでデータを補正して使っていた。

 それらしきデータがそのマイクロチップにはあったのだ。

 しかも出発点のデータまで入っていた。

 

「MDR、そのデータを重ね合わせて」

 

「了解」

 

 MDRがパソコンを操作してその位置データを地図上に合わせて示した。

 始まりは分からなくとも最後の数分の動きと終了地点は分かっていた。

 それを重ね合わせた図が画面に映し出される。

 

「出発点のデータです。

 敵の策源地は恐らくここ、エストニアです」

 

 その図でのデータの始まりはエストニアのタリン北東部であった。

 もはや敵の位置は丸裸だ。

 この明確な情報を突きつけたイングリッシュはアーチポフ、ヴェンク、そして総大将たるグッドイナフを見つめた。

 

「閣下、即座にエストニア方面に偵察機を出してください。

 お願いします、次の犠牲が出る前に」

 

 イングリッシュの頼みに黙っていたグッドイナフが答えた。

 

「いいだろう。すぐにUAV部隊に連絡、エストニア、タリンの東側を徹底的に調べさせろ。」

 

「了解しました」

 

 傍に控えていた副官に命じる。

 副官は傍の連絡用受話器を取ると口頭で命令を出した。

 

「第665偵察飛行隊を直ちにエストニアタリン東方に航空偵察に向かわせろ。」

 

 副官が電話口で部隊に伝える。

 

 

 

 

「了解しました、詳細な範囲は1時間以内に。

 先に上げておきます、では。」

 

 電話をガチャリと切った。

 偵察UAVハンガーでは米空軍第665偵察飛行隊隊長シャーリー・イェーガーがグッドイナフの命令を受け取っていた。

 彼女は電話を切ると緊急アラートを鳴らし放送マイクを掴んだ。

 

「スクランブル!スクランブル!場所、エストニアタリン東方詳細な範囲は追って指示!

 ラビット1、2スタンバイ」

 

 彼女が放送すると兵士達は急いでハンガー内に置かれた大きな三角定規のようなグレーの全翼機を動かし始めた。大きさが半分になったB-21レイダーほどもある機体だ。

 この機は米空軍の最新鋭長距離ステルス偵察UAVであるRQ-290サイレントホークだ。航続距離は1万キロ以上で超高高度を飛行してそのステルス性能と合わせてどんな厳重なレーダー網も掻い潜り偵察する偵察機だ。

 高性能なカメラだけでなく世界最新最高のミリ波パッシブ装置が搭載されて高度によるが高度8000メートルからならば地下5メートルまでの情報を探る事が可能であった。

 この高性能なUAVは人形とセットの運用が行われており人形のダミー技術を活かして人形とリンクしたコントロール系を有している。

 そんな機体を整備士たちはトーイングカーで引っ張り出した。

 

「オーライ!オーライ!ストップ!」

 

「燃料チェック、外部チェックよし。」

 

 整備兵が燃料や目視点検を行うと整備主任がハンガーの電話を取る。

 

「こちらハンガー、準備完了。いつでもどうぞ」

 

 UAVのコントロールセンターに連絡すると整備士はUAVから離れる。

 数分後エンジンが始動してゆっくりと滑走路を目指して動き出した。

 数時間後、エストニアの上空で想像されているよりもずっと巨大で複雑で危険な物の存在を伝えることになることになる。

 

 

 

 

 数時間後、ホワイトハウス地下のシチュエーションルームでは偵察機の映像を固唾をカークマン大統領と側近たちが見ていた。

 この部屋ではかつてウサーマ・ビン・ラーディン殺害作戦(ネプチューンの槍作戦)やISILのトップバグダディ殺害作戦の様子を時の大統領たちが固唾をのんでみていた。

 その時の光景がまたここでは繰り返されていた。

 

「大統領、ここが敵の策源地です」

 

「ああ。そうらしいな。」

 

 空軍長官のジェシー・ジーグラーがカークマンに目標地点付近に到着したと伝える。

 画面には低めの雲が点在するがその隙間から荒野が見えた。

 

「何も無いように見えるが」

 

「高度3万5千フィートだからな。

 旅客機の中からテキサスを見下ろすようなものだ」

 

 副大統領のオズワルド・ジャクソンがジーグラー長官に何も見えないと言うと向かいに座る統合参謀本部議長のテリー・パットマン提督がそれが当然だと言う。

 

「映像をアップにできない?

 これじゃジェネラル・フォードがいても見つからないわよ」

 

「向こうが調整するはずだ。こちらから文句をつけるのか?」

 

 海軍長官のステファニー・ロットンに陸軍長官のエリオット・バーンスタインが返す。

 バーンスタインの言葉の通り少しずつ画面に映る映像が拡大された。

 かの世界ではありえない程の高解像度の映像が少しずつ拡大される。

 ぼんやりとした荒野は段々とはっきりし地上の建物、道路、車、そして未確認の兵器群、兵士達がはっきりと映し出された。

 

 

 

 

 

 

 国連軍の航空偵察の結果は非常に衝撃的であった。

 司令部だけでなくペンタゴン、ホワイトハウスとクレムリン、10番街やエリゼ宮、霞が関等々各国の中枢に衝撃を与え、即日国連軍に対してパラデウス追討を命じた。

 そしてこれはソ連政府にとっても失態としか言いようがなかった。

 

「貴国はこの情報についてどのような申し開きを述べますかな?」

 

「エストニアはソ連の領域です、その点では我々は合意しています。

 ですが、そこに反国連軍勢力がこのような大規模な基地を建設している、この点を考えるならば…

 後はお分かりですね?」

 

 キエフのある高級ホテルで行われたカーン文民代表とコーシャとソ連政府側の代表者の秘密会談でもはやソ連側はカーンとコーシャ二人の叱責に頷く事しかできなかった。

 

「かつて、911の時アメリカはアルカイダの施設があったアフガニスタンを『テロ支援国家』として攻撃したのは忘れておりませんね?

 インドとロシアは違いますがアメリカはやる時はやる国です。

 かの国の強さは知っているでしょう?一か国で世界中全てを敵に回しても勝てる国ですよ。」

 

「この調子ならば、来月予定されている穀物輸出は見直さなければならないかもしれない、とホワイトハウスの関係者は考えているそうだ。

 今月末の輸出予定穀物も同様だそうだ」

 

「そ、それは…!」

 

 この情報に各国はソ連への穀物輸出を見直すという外交カードを切った。

 食糧事情が逼迫しているソ連ではこのカードは最強の札だ。

 その言葉を聞いた瞬間、担当者の顔色が変わる。

 慌てる担当者にカーンはいつものインド訛りの英語で畳みかける。

 

「では貴国は具体的にパラデウス対策をしているのかね?

 していない、これからもするつもりが無いなら分かってるね?」

 

「分かってます、既に書記長がパラデウスと繋がりのあった関係者の処分を秘密警察に命じております。

 徹底的なパラデウス摘発も指示しております」

 

 必死で現在モスクワを中心に行われている大規模粛清の話を出す。

 モスクワなど国連軍と連携することの多い中央部におけるパラデウス派又は繋がりのある政治家、官僚、軍人が一気に解任や逮捕、左遷という目に見える形で飛ばされている。

 だがそれだけでは国連軍からすれば不十分としか言いようがない。

 彼らは既に民間人を殺されているのだ、粛清でお茶を濁して納得できるほど馬鹿ではない。

 

「それだけではねぇ、目に見える形でやってもらえるかな?」

 

「我々は血を流した、貴国にも血を流せとは言わないが汗ぐらいはかいてもらわないと」

 

「…ならば…」

 

 その程度でお茶を濁して許すつもりは毛頭ない。

 二人は暗に実力を見せろと言う、もはやソ連には選択肢はなかった。

 

「…ソ連軍は全力で以て国連軍を支援しましょう」

 

「その言葉を聞けるとは心強い。心より感謝します」

 

「貴国が参加してくれるならば百人力でしょう」

 

 ソ連の返事に二人は心から喜んだ。




・MDR
FBIのサイバー担当
有能だがクソオタク

・シャーリー・イェーガー
アメリカ空軍大佐。
偵察UAV部隊指揮官。
親族にかのチャック・イェーガーがいるらしい。

・ジェシー・ジーグラー
空軍長官
空軍大将
UAV部隊元指揮官
サウスカロライナ出身

・オズワルド・ジャクソン
副大統領
元上院議員(テネシー州選出)、元テネシー州議会議員
共和党員で共和党でも穏健派に属する。
議会操縦が上手い。

・テリー・パットン
統合参謀本部議長
陸軍大将
オレゴン州出身
戦車兵科出身者

・エリオット・バーンスタイン
陸軍長官
陸軍大将
ケンタッキー州出身
歩兵科出身

・ステファニー・ロットン
海軍長官
海軍大将
生粋の海の女で水雷屋
フロリダ州出身
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