パラデウス死す、デュエルスタンバイ!
高度1万2000m、民間航空で使用されるフライトレベルに直せばFL400という高度からの光景というのは絶景である。
例えロシア方面からエストニア方面に軍事作戦の為領空侵犯を実行している最中でも。
「綺麗な夕陽だな。」
「ですね、機長」
機長と副操縦士はサングラスをかけていたが前方の夕陽を眺める。
二人は航法機器で現在位置を確認した。
「現在位置は…そろそろぺイプスですね」
「だな。予定通り降下準備だ。酸素マスク用意。」
現在地はエストニアの南東にあるぺイプス湖上空、コックピットクルーは酸素マスクを取り出しつける。
これは万が一空挺降下の為後部ハッチを開けた際に上部気密区画の与圧が不完全だった場合の安全措置である。
副操縦士はさらにオーバーヘッドパネルのスイッチを一つ入れる。
それは貨物室へこれから減圧作業を行うため酸素マスクの用意を指示する警告だった。
少しして機内電話を取り暫くすると機内電話が鳴り貨物室から連絡が行われた。
「了解、貨物室準備完了」
「了解、貨物室減圧作業開始。
チェックリスト」
機長が減圧作業を指示する。
この作業を行わなければ機体が後部貨物扉を開けた瞬間、空気の力による壊滅的なダメージを受ける可能性がある、実際飛行中に後部貨物室扉が吹き飛び操縦系統を損傷して不時着した事故(オペレーション・ベビーリフト)が起きている。
副操縦士はチェックリストを取り出すとリストを読み上げてチェックする。
「えー、貨物室空調、オフ」
「オフ」
「貨物室流量制御弁、マニュアル」
「マニュアル切り替え」
「圧力制御弁、マニュアルカットオフ」
「マニュアル、セット、カットオフ切り替え」
空調と与圧装置を切り替えていくと主警報装置がけたたましく鳴り響いた。
「貨物室高度警報確認」
「チェック、正常に減圧確認した」
通常ならば危険な警告だが今回は正しく減圧できているかという確認であった。
そして減圧が終わるとチャイムが鳴った、今度は航法装置だ。
「降下地点3分前、アラーム」
「アラーム、セット。
後部貨物室扉解放?」
「コンファーム」
副操縦士はハンドルを操作して貨物室扉のロックを外し、更に扉を開くレバーを動かした。
その数分後、機内電話が鳴り副操縦士が受け取る。
「はい、了解、機長降下完了です」
「了解、後部貨物室扉閉鎖」
「了解、貨物室扉閉鎖、閉鎖確認ロックレバーロックポジション」
「チェック、与圧作業開始」
降下完了の連絡を受け二人は貨物室扉の閉鎖と与圧を指示する。
二人でチェックリストを行い一通り終わると機長は無線で報告した。
「グリーンシューズ4904からゴールデンアイ、散布完了これより帰投する。」
『ゴールデンアイ了解、方位170に旋回、ウェイポイントベルベットに直行せよ』
「了解方位170に旋回、ウェイポイントベルベットに直行、4904」
輸送機は左旋回で南に向かった。
パラシュートを残して。
6月15日、国連軍はポラリス作戦の準備が最終段階に達していた。
テレビではFOXニュースのリポーターが国連軍の情勢を伝えていた。
『国連軍は今月に入り航空部隊の大規模な増強が行われています。
その大半が戦闘爆撃機部隊であり、その中にはB-52やB-21なども含まれています。
国連軍は公式発表を行っていませんが現地では近日中にも大規模な軍事作戦を発動するとみられて緊張が高まっています。』
『ありがとうございます、ここで軍事アナリストのユージーン・コイズミ氏に聞きましょう。
国連軍の動きをどのように見ますか?』
画面が変わるとスタジオでアナウンサーが日系人の軍事アナリストに聞いた。
軍事アナリストは話し始めた。
『確かに国連軍の戦力増強を考えるに大規模な軍事行動が予定されていると見るべきでしょう。
問題はその軍事力の向かう先です、既に鉄血は殲滅されています。
またソ連政府筋の情報では最近空軍と戦略ロケット軍の動きが活発になりつつあるとの事です。
恐らく国連軍はソ連軍と合同で軍事作戦を行うつもりです』
『しかし、鉄血が殲滅されている今その戦力をどちらに?』
『考えられるのはパラデウス又は欧州連合でしょう。
どちらもソ連との関係は良好とは言い難く、前者は既にテロ組織扱いです。
後者は一応は国家であり今だ国交を結べていません、また現在ソ連政府と欧州連合はデタント状態になりつつあり全く無いと言っていいでしょう。
恐らく、国連軍はパラデウスに対して何かしらの軍事的アクションを取るものと考えます』
『何かしらの?』
『はい、集まっている兵力は全て戦略級の兵器です。
これは明らかに対テロ作戦としては過剰です。
国連軍の真意は我々は推測するのみです』
『ありがとうございます』
テレビの画面が変わり別のニュースになった。
『ここで速報です。
先ほど香港共和国中心部の…』
そのテレビ画面は国連軍食堂にあった。
その前でG&KのSV-98とM14は昼食中だった。
「やはり戦争になるんでしょうか…」
「まあ、なったらなったでその時です。
今回は宗教戦争ですからかなり面倒な戦争になりそうですね」
歴戦の雄たるM14はどこか暢気だ。
一方、戦争前夜という状況に不安を隠せないSV-98、正常な反応はどう考えても後者だ。
「宗教戦争って一番面倒くさい戦争じゃないですか…」
「まあ、そうですね。
後方でのテロに警戒しましょうって指揮官も言ってるじゃないですか」
「警戒しましょう、で済めばいいんですけどね…」
二人は不安がるが一方司令部では着々と作戦準備が進んでいた。
「各部隊の状態は?」
グッドイナフが聞く。
作戦室には東欧地域全体を映した巨大な地図が置かれ各地の空軍基地がマークされていた。
「ミンスクには空中給油機隊が待機、モスクワにはソ連空軍の2個防空飛行隊がスクランブル待機中です。
サンクトペテルブルクに戦闘爆撃機が3個飛行隊、ヴィーツェプスクに4個戦闘爆撃機隊、内3つが米空軍、一つがロシア空軍、ホメリにドイツ空軍とフランス空軍が1個飛行隊ずつ、ルニネツにオランダとベルギー、エストニアの合同飛行隊が待機、キエフにB-52が2個飛行隊、シエラナイナーにB-21が1個飛行隊、ジュコーフスキーにTu-95が2個飛行隊、RAFがポラツクに待機しています。
その他ISAFがボロヴィツク、カナダがプリヴィツキに待機しています。
作戦可能機数が現時点で258機、整備中12機です。」
戦術人形のセルジュコフが報告する。
アーチポフ大将は作戦の欺瞞の為息子やヴェンク達と共に別の場所にいた。
「準備は問題ないな?」
「はい、抜かりありません。」
「よろしい、全く欺瞞とはいえこんな時にオペラを行くことが出来るとは羨ましい限りだ」
グッドイナフは欺瞞とはいえオペラ観劇にいる部下たちを妬んだ。
S地区の劇場は満員御礼状態であった。
この度、アメリカの最新の音響技術を基に大規模な改修が行われそのこけら落とし公演であった。
この日の演目はビゼーのオペラ「カルメン」、演奏はロサンゼルスフィルハーモニック、演者は名だたるオペラ歌手をそろえたが異世界らしくフラスキータ役は戦術人形のOts-14であった。
改修はS地区の文芸復興の目玉でありPRも兼ねて大々的に報じられテレビ、ネット、更にはラジオまで放送していた。
更には国連軍幹部、メディア、地元有力者、グリフィン関係者も多数招待されその中にはクルーガー、へリアン、各基地の指揮官と人形もいた。
その彼ら彼女らの前で北アメリカ大陸最高のバリトンが闘牛士の歌を歌う。
「
「全く、本当にオペラを見ていいのか?」(ロシア語)
「これも仕事だからな、親父」(ロシア語)
来賓用のボックスシート最前列でアーチポフは隣の息子のコーシャに囁く。
二人は欺瞞のために参列していた。
「そうなんだがな、ゆっくり見られないよ。
折角のカルメンなんだが」(ロシア語)
「何かあればすぐに司令部に向かえるよう手配はしているからご安心くださいませ、義父様」(ロシア語)
「ありがとう、流石メイド長だ」(ロシア語)
後ろからG36が声をかけて何とか安心する。
舞台に目をやればバリトンがコーラスと共に歌っていた。
「「
「
「こちらトリアドール、合流地点に到達。
給油を開始する」
その頃、ベラルーシ上空ではフランス空軍の空中給油機コールサイン「トリアドール」がエストニアに向かう戦闘爆撃機編隊に合流していた。
夜間の空中給油という危険な行為を熟練のパイロット達は限られた明かりの中で行おうとしていた。
「しかし、すごい数の飛行機ですね。」
「ああ、右も左も上も下も飛行機と空中給油機ばかりだ」
コックピットの二人は窓から外を見回して呟く。
外には上も下も左右も飛行機のライトだらけであった。
「まるでクリスマスのシャンゼリゼだ」
「これが全部空襲するんですからパラデウスもたまったもんじゃないですよね。」
「ああ、可哀想な連中だよ」
その数と彼らが抱いている爆薬の量と威力を知っている彼らは勝利を確信していた。
その頃、エストニアの穴倉には数人の人形が監視していた。
それはCIAの404小隊だった。
「状況は?」
「敵さんはいつも通り、次の交代は20分後ね」
双眼鏡を覗く416に45が聞く。
45は手持ちのパソコンに情報を打ち込み他の班に連絡する。
すると他の地域を担当するグリフィンの404とAR、そして米陸軍のAR小隊全てがすぐに返事した。
どれも異常なしとのことだ。
「問題はなさそうね」
「そう、何か連絡は?」
「司令部から今来たわ。」
「なんて?」
司令部からの連絡を聞けば45が416に送られたメッセージを読み上げた。
「『火は御前を進み周りの敵を焼き滅ぼす』」
「稲妻は世界を照らし出し地はそれを見て、身もだえし山々は蝋のように溶ける、作戦決行ね」
それは聖書の詩編の一節であった。
この一節の意味するものはただ一つ、作戦は予定通り決行だという事だ。
・セルジュコフ
ロシア空軍の戦術人形
アーチポフ大将の副官
やめて!パラデウスの基地を世界最強の航空部隊の百機以上の爆撃機とミサイルで攻撃したらパラデウスが燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでパラデウス!あんたらがここで倒れたらウィリアムの野望はどうなっちゃうの!この攻撃を耐えれば、野望は続く(続くとは言ってない)んだから!
次回、パラデウス死す!デュエルスタンバイ!
一人暮らし開始したら忙しくて時間が無い