もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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章おしまい!


第84話

 接近戦の末、黒い服の女は死んだ。

 M4はため息交じりに死体を検分する。

 下半身、腕は機械でまさにサイボーグ、例のキエフで死んだ死体と似たような特徴を持っているどころではなく瓜二つ。まるで自分達人形のようにそっくりな姿だった。

 その姿にふと女の言った言葉を思い出した。

 

「お父様…ルシニア…」

 

 突然の呟きにAR-15が聞き返した。

 

「何?」

 

「あの黒い奴が言っていたのよ。

 私の事をルシニア、お父様が作ってくださったって」

 

 M4に言うが彼女はちんぷんかんぷんだった。

 少なくとも二人共ルシニアなんていう人名は知らない。

 

「何それ?」

 

「もしかしたら…この世界のM4が…」

 

 ふと思いついた仮説を口にする。

 その仮説は彼女にとってはある意味ではとてつもなく恐ろしく、そして世界の闇とも言うべき暗黒のシナリオだ。

 

「ん?分かるように言いなさい」

 

「陰謀論よりも根拠のない話だけど――」

 

 常識的に考えて有り得ないが可能性はある彼女の推論、それを述べる。

 その可能性をAR-15は一笑に付した。

 

「まさかね、そんな倫理観の欠片もないようなことが出来るのかしら。

 何より非現実的よ」

 

「そうよね。」

 

 AR-15の言う通りだ。彼女の考えた恐ろしい推論など陰謀論ほども根拠がないのだ、そう思うことにする。

 そう言うと二人の頭の上を巨大な輸送機が轟音を立てて通過した。

 

「輸送機ね」

 

「一番機ね」

 

 それは予定より30分遅れて到着した撤収一番機だった。

 輸送機は戦地の瓦礫の上を低空で通過する。

 

「フォーー!!」

 

「イェーーイ!!」

 

 地上では空挺兵たちが輸送機の姿を見て帽子やヘルメットを振ったり手を振って歓迎していた。

 その頭上を輸送機は通過して空襲で唯一破壊されなかった滑走路に着陸する。

 ある程度整備されているようだがそれでも凸凹している滑走路で盛大に土煙を上げながら高速で着陸した。

 

「制圧完了、難民の収容も完了、情報を搔き集めて死体を処分したらおしまいね」

 

「ええ。片付けだけですよ残りは」

 

「地味だけど辛い仕事よね」

 

 二人は死体に背中を向けた。

 一方飛行場では空挺兵たちが仕事中であった。

 兵士達は難民たちを集めて必死で並ばせる。

 

「はいはい!並んで!並んで!」

 

 言語の壁や教育レベルの差という問題のせいで作業は芳しくない。

 仕方ないので兵士達は銃剣をライフルにさして背負って指示を出す。

 するとすんなり従い始めた。

 難民たちが列らしきものを作ると傍にいた兵士が横を歩いて不審物がないかチェックする。

 

「早く並べ!たく、臭いったらありゃしねえ」

 

 難民たちの異臭に兵士が英語で悪態をつく。

 彼らとて人間、愚痴の一つや二つ吐きたくなる。

 それは一人ずつ名前と年齢を聞かれて記録作業が行われた後乗り込む輸送機の乗員も同じだった。

 ある乗員が貨物室の状況を確認するとコックピットに入ってきて離陸準備をする機長に話しかけた。

 

「いやぁ、下は酷いですよ?」

 

「どんなに酷いんだ?ジェフ」

 

 副操縦士が笑って聞き返す。

 乗員は笑って答えた。

 

「匂いと人混みで酷い空間だぜ?

 まるで牛舎だよ」

 

「入った事あるのかよ」

 

 副操縦士がツッコみを返す。

 

「ねえけど、牛糞みたいな匂いだよ」

 

「メリーの奴、今頃無理に付いて来て後悔してるぜ?」

 

「ああ、湿気と獣臭で悲壮な空間になるって先に言ったんだがな。」

 

 機長と副操縦士は他の乗員の話も出す。

 

「まあ、それより下はいつまでもたついてるんだか」

 

 機長は腕時計を確認して時間が遅れていることを気に揉んでいた。

 するとコックピット側面の窓を開けて頭を出すと、そばを歩いていた人形に声をかけた。

 

「おい!いつになったら離陸できるんだ!!」

 

「私達!グリフィンの人形だから分かりません!!」

 

 返事をしたのはグリフィンのM4だった。

 すると機長が返した。

 

「だったら適当な陸軍の奴捕まえて聞いてくれ!!」

 

 そう言うと窓を閉める。

 滑走路と狭い飛行場には次々と輸送機が着陸し、輸送機の列を作っていく。

 戦闘は終わってもまだ作戦は半分しか達成されていない。

 

 

 

 

 

 一方某所ではある男が大笑いしていた。

 

「ふふ…フハハハハハ!!!!

 イヒーヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

 それは彼にとって敗北を意味するはずの事実だ。

 だが彼にとってはそれは愉快な出来事だった。

 

「傑作だ!傑作だよ!」

 

 彼が莫大な資金と人を犠牲にして作り上げた根城の()()が完全に吹き飛ばされたというのに興奮し、何より歓喜していた。

 それは彼は破壊された姿、そしてその実力と科学技術を見て彼の夢の実現に繋がると確信したからに他ならない。

 

「我々よりも優れた技術だ!奴らはそれを持ってるんだ!

 奴らなら私の夢を達成できるに違いない!」

 

「そうだとも!私の夢だ!奴らこそ私の夢だ!

 私の技術と研究の集大成こそあれなのだ!」

 

 まるでオペラの狂信的な悪役の如き振舞い。

 狂人にふさわしい姿だ。

 

「さて、私の子供たち、新たな仕事だ。

 我がネイト達、私の夢を叶えておくれ」

 

「私の手足と耳たちよ、奴らのスキを見つけ、取り入るチャンスを探せ」

 

「愚かな人類共を駆逐し新たな世界を切り開く、我が夢よ!」

 

 彼のパソコン画面にはタリンで、キエフで死んだ女と瓜二つの女たちがリスト化されていた。

 その姿はまるでクローンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシントンDC

 パラデウスの追討が終わった頃、アメリカ政府はとある計画を立案しそれを当事者たちに伝えていた。

 それはソ連・欧州連合・国連による3者会談。

 それもただの会談ではなかった。

 

「本当に出席メンバーはこれで確定なのだな?」

 

「ええ国務長官。

 大統領を筆頭に我が国の通商代表団として商務長官、通商代表、国務省次官、中小企業庁事務次官らが参加します。

 その他にEU代表、ロシア、日本、カナダ、オーストラリア、イギリスなどG8各国の外相、インドから外務次官、バチカン特別使節団、中国も臨時大使が出席します。」

 

 国務長官の手元の書類にあるのは名だたる列強各国の出席者の一覧である。

 なぜこうなったか、それは皆欧州に食い込みたいのである。

 ソ連は先んじてアメリカが大半を抑えてしまった、なので他国は今の所あまり食い込めていない。

 事実上兵力だけ出してるだけなのだ。

 外交関係もソ連と少しずつ結び始めた程度で大使館は各国ロサンゼルスの公使館との兼任が大半。

 人の動きもアメリカを除けば民間人は精々数百人程度という小規模な物。

 そこで彼らが狙ったのは欧州、ソ連はアメリカ以外では言語と民族が同じロシアが食い込む余地はあるが欧州ならまだ未開であり食い込む余地はあると考えたのだ。

 特にEUは熱心であった、食い込めなかった悔しさもあるが各国の思惑もあった。

 フランスとポーランドは余剰穀物の放出先を求めていた。

 ソ連との食糧支援協定締結後、米国内の穀物価格は急騰し、一時は10数年ぶりの高水準を叩きだし今年の予想収益でも穀物メジャー各社は前年比プラス50%前後の増収を見込みその結果株式が高騰する程になっていた。

 これをアメリカとは異なり穀物価格が低いままの欧州各国も狙ったのだ、そしてその筆頭が農業国フランスとポーランドだった。

 ドイツは経済的利益以上に民族的アイデンティティの問題があった。

 その他EU諸国も経済的利益が欲しかった。

 イギリスはイギリスで英連邦を率いて独自ルートでの介入を欲し、バチカンは宗教的動機、即ちカトリックによる再布教を求めていた。

 

「まるでG20だ」

 

 その陣容に国務長官が呟く。

 既に先方とは話がつき、会場と時期も決まっていた。

 

「まあ、パンノニア作戦が順調に進めばいいのだが」

 

 この会談に備え、国連軍は並行して除染作戦を開始していた。

 その名もパンノニア、古代ローマにおいてセルビアなどを管轄した行政区域であり現在もパンノニア平原にその名を遺す言葉だ。

 この作戦が順調に進めば、会談は8月後半に行われる予定だった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ホワイトハウスの車止めでは大統領と娘のLWMMGが並んで待っていた。

 周りには記者達も大勢集まっている。

 そして大統領も心なしか嬉しそうな表情だった。

 

「嬉しそうな顔ですね」

 

 一人の記者が声をかけた。

 するといつもの民主党員ですら人たらしと呼ぶ天性の笑顔で答える。

 

「ああ、私の一番優秀だった教え子と久しぶりに会えるからね」

 

「誰です?」

 

「まあ、会えば分かるさ。」

 

「ピコプルン大統領、到着しました!」

 

 スタッフの声に記者達やスタッフは一気に和やかな空気から仕事モードに切り替わった。

 そして車止めにバイクに護衛されたリムジンが到着した。

 リムジンのドアが海兵隊員によって開けられ、車止めの両側に並ぶ隊員が敬礼する。

 中から降りて来た大統領と同じぐらいの歳の男性、ドイツ連邦大統領オットー・ピコプルンが返礼する。

 

「ようこそホワイトハウスへ!お待ちしておりましたピコプルン大統領」

 

「我が家へようこそ、ピコプルン大統領閣下」

 

 大統領がフレンドリーにピコプルンを迎え入れる。

 通訳は大統領の歓迎のあいさつを翻訳する。

 

「大統領閣下自らお出迎えとは、感謝します」(ドイツ語)

 

「いえいえ、長年祖国に尽くしてきた大統領閣下のお出迎えですから、苦ではありませんよ」

 

 ピコプルンに大統領は親しく手を握って挨拶をする。

 ここまではただのお世辞のようなものだ。

 

「まあ、君が本当に会いたいのは彼女だろ?」(ドイツ語)

 

「フフ、大統領にバレてしまうとは。大統領7年目でもどうやら私はまだまだの様ですね」

 

 ピコプルンが目配せすると、そこには40代前後の女性がいた。

 彼女は流暢な英語で話した。

 

「お久しぶりですね、教授。

 今は大統領と呼ぶのが正しいようですが」

 

「ああ、13年前の妻の葬儀以来だったね。

 ルシニア・フォン・オーバーシュタイン君」

 

 ピコプルンに向けたのと異なる笑顔を彼はルシニアと呼んだ女性に向けた。

 彼女はにこやかに笑った。

 

「今はルシニア・ゲルトルート・フェルステイン・ツー・レーヴェンシュタイン・ヴェルトハイム・ローゼンベルクですよ、それに今はドイツ連邦外務大臣です」

 

「結婚したのか、お祝いの言葉一つ送れなかったな、おめでとう」

 

「ご結婚、おめでとうございますね」

 

「あなたがリンダさんね、教授の娘さんとは聞いていたけれど。

 教授らしい子ですね」

 

「私の自慢の娘だからね」

 

 大統領が珍しく自慢げな笑顔を見せる。

 彼女、ドイツ連邦外務大臣ルシニア・ゲルトルート・フェルステイン・ツー・レーヴェンシュタイン・ヴェルトハイム・ローゼンベルクは嘗て大統領がスタンフォード大学で政治学の教鞭を執っていた時、スタンフォード大学に准教授として雇用され大統領になるために辞めるまでの25年間で最も優秀な学生として彼の灰色の脳細胞に刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

「こちら西ゲート、パンの配達とかいって10歳ぐらいの女の子が来てますがどうしますか?

 お嬢ちゃん、ちょっとここで待っててもらえるかな?」

 

 S地区にあるとある国連軍基地、その西ゲートでは10歳ぐらいの少女がパン籠を持ってゲート詰所の^で止められていた。

 一方ゲートの兵士は電話で上に問い合わせていた。

 20秒ほどすると問い合わせ先から連絡が来たようだ。

 

「え?そんな連絡はない?

 分かりました、お嬢ちゃん、うちはパンの配達なんか頼んでないそうだ。

 きっと住所を間違えてるんだもう一回確認してきなさい」

 

 兵士は丁寧な口調で間違っているから確認してきなさいと言う。

 次の瞬間建物の窓口から身を乗り出して話していた兵士の顔面をナイフが切り裂いた。

 

「うゎああああ!!」

 

 顎から真一文字に縦に顔を切り裂かれ、派手に出血する。

 兵士は咄嗟に傍の非常ボタンを押した。

 次の瞬間基地中にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

「緊急事態発生!緊急事態発生!西ゲートでナイフを持った少女が暴れてる!!」

 

「武器を捨てなさい!」

 

 警備の人形がショットガンを向けるがナイフを持って襲い掛かる。

 次の瞬間、発砲音と共に血しぶきが飛び少女の頭が吹き飛ばされた。




・ルシニア・ゲルトルート・フェルステイン・ツー・レーヴェンシュタイン・ヴェルトハイム・ローゼンベルク
ドイツ連邦外務大臣
ドイツ社会民主党議員
与党社会民主党の議員でありドイツの名門貴族家レーヴェンシュタイン・ヴェルトハイム・ローゼンベルク家(プファルツ選帝侯フリードリヒ1世を始祖とする侯爵家)当主オスカー・ツェーザル・フュルスト・ツー・レーヴェンシュタイン・ヴェルトハイム・ローゼンベルクの妻でツェツィーリエとディートマーという二人の子を持つという異例の人物であり若くして外務大臣を務める人物。
アメリカ大統領ピーター・カークマンのスタンフォード時代での教え子であり彼曰く「出会って来た中で最も優れた人物の一人。彼女以上に優れた学生に出会ったことはないしこれからもないだろう。哲学の分野でも政治学の分野でも突出した功績を残せるに違いない人物」
ザールブリュッケン出身
父親は高名なコンピュータ技術者であったユンカー系貴族家
弟のヴィルヘルム・ゲルハルト・フライヘア・フォン・オーバーシュタインはヨーロッパ随一の分子生物学者でありゲノム解析による生物の崩壊液耐性に関する先駆的研究で2061年にノーベル医学生理学賞を受賞している。
人形権利問題の火元となった「人間とは何か」を著した哲学者フリッツ・フォン・ハマーシュマルクは彼女の叔父に当たり幼いころから彼の薫陶を受けていたため政治思想学の分野で博士号を持っている
ちなみに彼女の属しているオッペルン・ブロニコフスキー内閣は首班のフレデリカ・フォン・オッペルン・ブロニコフスキー首相含めて内閣構成者の1/3が貴族出身者で固められていることから貴族内閣と呼ばれている。

・オットー・ピコプルン
ドイツ連邦大統領
ドイツ社会民主党所属

(名前は出てきてて設定の根幹に関わる人物)
・フリッツ・フォン・ハマーシュマルク(1989〜)
ドイツの哲学者
ハマーシュマルクの問題と呼ばれるようになる哲学命題を生み出して人形開発の思想的哲学的受容に貢献した人物。
彼から始まったハマーシュマルク学派は人形の社会的受容や神学における受容に論理的裏付けを与えている。
著作は「神の機械」「人間とは何か」「神に帰依する機械」「未来派的機械論」「機械は人を従えられるのか」など



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