もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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諜報機関って各国で癖が違うんですよね
旧東側の諜報機関は任務達成を優先するからか暗殺や工作を自分達の手で行おうとする節がある一方でそのカモフラージュや隠蔽や陽動、欺瞞、手法がかなり雑(例ロシアの元スパイの数々の暗殺事件)
一方西側は相手に悟られないように直接やるかどうかで言えばかなり控えめ。
現地のギャングやマフィアやテロリスト、他国諜報機関や軍を使って暗殺とかするから失敗も多い。カストロ暗殺の大多数が失敗したのもそういうアレ。
というか間に挟むので金が要る→その金の流れで色々バレて大騒ぎが多い(ヴァチカンスキャンダルやイラン・コントラ事件)
なお両者の長所を持ってるのがモサド


第89話

「大統領、やはりパラデウス対策ですか?」

 

「ええ。オーキンレック外相。

 我々にとって喫緊の課題はパラデウスの殲滅です」

 

「この間の攻撃で赫々たる戦果を挙げたと言っておりますがそれでもまだ壊滅には程遠いと?」

 

「そうです。何せ相手は宗教集団の仮面を被っていた恐ろしい連中です。

 現在、あの手この手で関係者を逮捕していますが何分地下に潜られた者も多い」

 

 カークマン大統領は訪問一日目の予定であるオーストラリア外相オーキンレックと日本の外相室賀と日米豪の3者会談が実施されていた。

 これは珍しい事に報道陣に公開された会談でありソ連のメディアも取材していた。

 

「日本政府は全てのテロに対して断固とした処置を取るというのが基本です。

 勿論パラデウスに対してもです。なので我々も積極的に支援を行いたいと考えております」

 

「オーストラリア政府も同じです。

 この世界の治安の安定化こそが成長のカギであることは火を見るよりも明らか。」

 

「我々も今月より軍の編成を見直しより適した部隊と段階的に交代し現地警察組織や軍組織の再編を支援していきます。

 物資等も我々が与えるつもりです」

 

 表現こそ三者三様だが基本的にはパラデウスに対する強硬策を口にする。

 パラデウス及びソ連政府に対する日米豪の団結を示していた。

 

 

 

 

 訪問一日目、S地区最大の高級ホテルには要人が多数集まっていた。

 それは会談参加者に対する公式レセプションパーティが開催されていたからである。

 周囲は紛争地らしく軍と警察とPMCががっちり防御していた。

 そしてその中では今や完全に存在感が空気と化しているグリフィン関係者もいた。

 一方で軍幹部は違っていた。

 

「貴方がグッドイナフ大将ですね?」

 

 流暢な英語で話しかけられたグッドイナフ、振り向けばロシア海軍大将の軍服を着た大男がロシア空軍大佐の軍服を着た若い将校を連れて立っていた。

 その正体はすぐに理解した。

 

「ええいかにも。貴方はロシア連邦国防次官のココツェフ提督とお見受けするが」

 

「そうですよ、将軍殿」

 

「階級では同格だが地位では貴官の方が上だ。遜った態度は困ります」

 

「そういう物ですかね。まあいいでしょう。

 この2年、この混沌とした世界に秩序を取り戻そうと尽力した貴官の功績はよく聞いている。

 是非一度会って話をしたいと思ったのですよ」

 

「そう思われるとは恐悦至極に存じますな。

 あのロシアの英雄にそのように思われるとは」

 

「畑違いの貴方にも知られているとは。」

 

「東シナ海で中国東海艦隊との艦隊決戦での見事な指揮は戦史に残っているのですから知っていて当然でしょう。

 もうあの戦争は20年近く前なのですし」

 

「貴方もあの戦争に?」

 

「私は残念ながら本土でしたが後半に沖縄に」

 

「そうですか。」

 

 話していると二人に割って入る人がいた。

 

「ココツェフ提督、お久しぶりですな。」

 

「アーチポフ中将、お元気そうで。」

 

 アーチポフが横から割り込む。

 表面上は和やかだが裏では互いにバチバチに対立している。

 片や海軍の英雄にして海軍航空部隊のプリンス、片や空軍の重鎮、対立しない要素がない。

 それらから離れたところにいたのが

 

「社長」

 

「へリアン君、やはりなんだか居心地が悪いな」

 

 クルーガーとへリアンはなんだか居心地の悪いと感じていた。

 S地区を担当する指揮官数名も参加しているようだが同じような居心地の悪さを感じていた。

 だからか、会場の隅で集まっていた。

 

「ミスタークルーガー、久しぶりですね。

 ミスへリアントスも」

 

「お久しぶりですな、アーチポフ中佐」

 

「お久しぶりです中佐」

 

 へリアンとクルーガーに軍服を着たアーチポフがシックなドレスを着たG36を連れて声をかける。

 

「楽しんでいただけていますかな?」

 

「まあ、それなりにはな」

 

 クルーガーが答える。

 それに笑顔で彼は答えた。

 

「それはよかった。

 大統領や各国外務大臣、官僚たちが集まっています。

 是非、人脈でも作ってはいかがですかな?」

 

「そう言っておりますと、丁度良いお方が」

 

 アーチポフが話しているとG36が近くにやってきた人物を示した。

 そこにはスーツを着た60代の男がいた。

 

「マイク・マクドネル、大統領顧問です。

 投資ファンドマクドネル・ロングターム・キャピタルの創業者ですよ。

 MLCはここに積極的に投資していますからね、関係を持ってもいいのでは?」

 

 大統領顧問の一人、マイク・マクドネル。

 ニューヨークの大手投資ファンドの創設者でありこの世界にも積極的に投資していた。

 この会談には欧州との通商交渉を行う交渉団も同伴しており、それらは商務長官をトップとする実業関係者が多かった。

 

「そうですな、では」

 

 クルーガーはマクドネルに挨拶しに行った。

 

「貴方がミスターマクドネル?」

 

「そうだが、君は?」

 

 マクドネルが肯定するとクルーガーは自己紹介する。

 

「グリフィン&クルーガー社社長、クルーガーです」

 

「そうか、君がクルーガー社長かね。

 君の会社のうわさはかねがね聞き及んでいる。

 このS地区の治安を助ける職務を委託していると」

 

 グリフィンの事を知っていたのかかなり親しげな対応だ。

 更にある程度知っていたようだ。業務の事も知っていて話題に出している。

 話だけならば彼はグリフィンに好印象を持っているようにも見える。

 

「ええ、概ねその通りですね」

 

「結構な事だ。

 治安は大事だ、投資においても不安定な治安はそれ自体がリスクになる。

 治安が安定すれば投資がしやすくなり、投資が入れば町は発展する。」

 

「歴史の方程式ですね」

 

 治安が良いだけで投資が集まりやすいというのは当然だ。

 治安が悪いというのはそれだけでリスクだからだ。

 だからこそグリフィンの仕事は重要だ、現状どんどん価値が低落して今や警察や軍や他PMCの補助任務程度しか回されていないが。

 

「その通りだよ。しかし、投資家的観点から言わせてもらえればグリフィンはあまり魅力的とは言えないね」

 

「…どうしてです?」

 

 マクドネルの言葉にクルーガーが反応する。

 マクドネルは投資家だ、だから彼はグリフィンの価値を見抜いていた。

 

「PMCはそれなりに投資価値のある企業はある。

 G&Kセキュリティがその最たる例だ。

 だが、グリフィンは違う。

 規模はそれなりにあり施設や人員も多いようだが、能力では我々のPMCに劣る数だけ立派な連中と聞き及んでいる。

 現在の任務は殆ど警察や軍の補助業務ばかり、監獄の看守や留置場の警備、犯罪者の移送支援に裁判所警備業務の請負、どれもこれも小粒で大したことない事ばかり。」

 

 マクドネルの辛口の批評にクルーガーは反論できない。

 実際最近の仕事はとても小粒で小さな事ばかり。

 以前の仕事の大半は警察や軍に取られて楽ではあるがあまり成長性の期待できるようなものではない。

 一応S地区の外でもソ連政府から仕事は請負っているがそれでもやはり成長性がある訳じゃない。

 そのような点を見抜かれていた。

 一方コーシャとG36はグリフィン関係者と話を続けていた。

 

「あのP基地の指揮官はいないのかね?」

 

「多分どこかにいると思いますよ」

 

「彼女は若いのに優秀だからな。

 是非然るべき教育機関に送るべきだと思うよ」

 

「コーシャ、久しぶりだな」

 

 コーシャが振り返ると見知った顔がいた。

 

「久しぶりだな、兄貴」

 

「まあな。中々帰ってこないからな。」

 

 それは兄のイヴァン・ハリトノーヴィチ・アーチポフ空軍大佐であった。

 空軍参謀本部から国防次官付副官というエリート街道を進みモスクワ勤務の彼とはなかなか顔を合わせられなかった。

 二人は久方ぶりの再会を喜び抱き合う。

 

「コーシャ、G36とはうまくやってるかい?」

 

「ああ。兄貴こそいい加減結婚したらどうだ?」

 

「一人の方が気楽で楽だよ。

 毎晩有り余る金使ってキャバレーで大騒ぎしても誰も文句を言わないからな」

 

「いつか刺されるぞ」

 

「国の為以外に命を失うのは困る」

 

 二人は久方ぶりの再会を祝った。

 

 

 

 

 その頃、ベオグラードの南方では警戒監視の為飛んでいたUAVのオペレーターが何かに気がついていた。

 

「ん?なんだこれ?」

 

「どうした?」

 

「これ、見ろよ」

 

 彼は隣の仲間に画面に映っている轍を見せる。

 

「ん?ただの轍だろ?

 別に珍しい物じゃないさ」

 

「に、しては数が多いと思わないか?」

 

「そんなもんだろ。これだけ広いんだからトラクターも沢山必要なんだろうな」

 

 地方出身の彼は違和感を覚えるが都会出身のもう片方は特に気にも留めていなかった。

 

 

 

 

「はぁ?下水道に変な集団がいるぅ?」

 

 それは下水道職員からの連絡だった。

 ポポヴィッチに伝えられたその報告に彼は電話口で聞き返した。

 

『はい。下水道職員によりますと、どうにも変な集団が地下で何かをやっているようだとのことです』

 

「どうせ鼠かこの間の雨でゴミが流れて来たとかそういうのだろ。」

 

 大したことではないと思い相手にしないポポヴィッチ。

 だが部下は下水道職員の報告を伝える。

 

『いや、それがどうにも大人数が明らかに直近に通った後や鼠が一匹もいないとかで。』

 

「誰かが殺鼠剤でも撒いたんだろ。

 というか数か月前に衛生環境改善策の一環で鼠用の毒餌撒いてなかったか?」

 

『それでもいなさすぎると』

 

「気のせいだと言って追い返しておけ。」

 

 ポポヴィッチはそれだけ言うと電話を切ってしまった。

 

 

 

 

 

 数日後

 

「汎ヨーロッパ連合、ウルリカ代表搭乗の特別列車、最終閉塞区間通過。

 予定通りベオグラード駅に到着します」

 

「さてと、お前ら、これからが本番だぞ。

 気合い入れろよ、粗相が少しでもあれば俺の首が飛ぶ」

 

 8月18日、ベオグラード要塞内に作られた警備司令部でオペレーターが欧州連合のウルリカ女史を乗せた列車の到着をアナウンスする。

 その報告を聞いてウスチノフが気合いを入れろと声をかけるがすぐにジョークで返事された。

 

「少将の首は飛ぶほど価値があるとは思えないが?」

 

「それもそうだな、ハハハ!」

 

 返事をした士官の返事に大笑いするウスチノフ。

 世界中の要人が集まる一世一代の大行事に緊張に包まれていた。

 

 

 

 

 

「エアフォース・ワン、着陸を許可。滑走路は30R」

 

『了解滑走路は30R』

 

「地上の各機は移動停止を維持、繰り返す移動停止を維持」

 

 ベオグラード市街西方、バタイニッツァ空軍基地のソ連軍の管制官が指示を出す。

 着陸しようとしている飛行機はアメリカ大統領を乗せた要人輸送機エアフォース・ワン。

 そのため一帯は緊張感に包まれていた。

 何せ何かが起きれば首が吹き飛ぶでは済まない。

 更にはエアフォース・ワンの後ろにはさらに十機以上の各国要人を乗せた輸送機、ビジネスジェット、旅客機が並んでいる。

 皆バタイニッツァ基地か近隣のベオグラード空港に向かう機体だ。

 一世一代の外交ショーの時間が近づいていた。




・オーキンレック
オーストラリアの外相
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