ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
「……あと、二週間……」
重苦しく呟く鷹仁の声に、玄斗が問いかける。
「煮詰まってきた?」
「行き詰まってんだろうが!? ああくそ、合同文化祭、なんて面倒くさい……!」
「……まあ、そりゃそうか」
ほうとため息をつく少年の目前には、数センチほどにまで溜まった書類の数々。全体的な流れと大まかな形はできている。あとは細かい部分を詰めていくだけなのだが、これがなんとも難しい。なにせ女子校と共学校である。まさに異例の文化祭だ。そんなタイミングが自分の世代に回ってきたコトに、木下鷹仁はただただ嘆いた。まあ原因はすべて玄斗にあるのだが。
「向こうの生徒会とも随分と話し合いはしたけど……」
「……こればっかりは実際やらねえとわかんねえ部分もあるしな。つか、女子校に気ぃ遣うってのが趣旨からズレてねえか……? もういっそのコト向こうに変態共ぶち込んでやろうか」
「やめてあげなよ……白玖が困る」
「そんじゃあ向こうの生徒会だけこっち呼んでろ」
「よし、行こう」
「ダメに決まってるでしょう」
呆れるように突っ込んだのは六花だ。彼女も彼女で絶賛仕事に忙殺中。無事なのは戦力外通告を言い渡された逢緒と、優雅に紅茶を飲んでいる九留実だけである。
「というか、大丈夫だろうか……これ、本当に文化祭間に合うのかな……?」
「実行委員はやってくれてんだろ。ならまあ、形にはなるわな。あとは双方の努力っつうか、折り合いっつうか……」
「こういうとき、あの人が居てくれたらと思いますね……」
「ああ……なんだかんだであの女、仕事だけはべらぼうにできたからな……」
ふたりが言っているのはもちろん彼女。別に名前を言ってはいけないあの人ではない。本日玄斗が思いっきり精神を凹まされた相手である。たしかにと頷きつつも、彼としてはあまり乗り気でもない。理由なんて単純に、その方法によるもので。
「……なんか、こう、自然に赤音さんが戻ってきてくれたら良いのにね」
「だな……まったく分からん。いつの間にやら紫水はこうだし」
「なんの話でしょう? 木下は木下らしく木の下に埋まっていますか?」
「こんなんばっかかうちの女子は。すこしは筆が丘の女子を見習え」
「あはは……、」
白玖とするなら、それはもうWIN-WINである。玄斗くん大勝利である。が、自然な流れにしろなんにしろ、タイミングを計るとなると難しい。なにより避けられる可能性だってなきにしもあらずだ。その場合、リカバリーできるほどの気転を利かせられる自信が彼にはなかった。
「つか、あれなんだよな。実行委員がいくら頑張ってもこうしてウチの仕事が溜まっていくんじゃ、どうにもなあ……ああ……くそう……どうしてこんなタイミングで……!」
「無い物をねだっても仕方ないよ、鷹仁。赤音さんがいなくても動けるようにならないといけないのは、そもそもの問題じゃなかったのか?」
「いや、俺来年にはやめるし。生徒会とか新体制になったら即刻離れるし。……俺が理想として思い描いてる奴以外ならな?」
「?」
「なんでもねーよ。……ま、だからしっかりやってやるってワケだ。腕章だってタダの飾りじゃねえんだよ」
今こそが思い描いている状態だとは言うまい。きっちり仕事を終わらせて
「……飢郷くん」
「はひゃっ!? ひ、うぇ、あの……は、はい……?」
「結局、会長とはどこまでいったのかしら」
「ど、どこまで……?」
「Aは済んだの? それとももう……」
「え? え……?」
「……おい。玄斗?」
「(……母さんもあんな感じだったのかなあ)」
鷹仁の声を聞き流して思いながら、玄斗はすっと立ち上がった。困惑する逢緒をよそに扉の前まで歩いていく。
「一段落ついたから、ちょっと休憩してくる。なにか飲み物でも買ってくるよ」
「ポカリ」
「私はカフェオレで」
「……紅茶」
「こ、コーヒー!」
「了解」
言いながら、玄斗は後ろ手にドアを閉めた。しばらくして聞こえてきた「逃げやがったな!?」という声にはスルーを決め込んで廊下を歩く。実際ゆっくりしたいところではあったので、別に他意はない。本当だ。決して灰寺九留実の追求の矢印が自分に向くと思ったからではない。犠牲になった逢緒のことを思いながら、彼はスタスタと廊下を歩き出した。放課後の校舎は、いやに静か。
◇◆◇
なにを思ってか、と言われるとなにも考えてはいなかった。ただフラフラと足を動かして、気付けばそこまで進んでいた。本校舎とはすこし離れた渡り廊下のさき。図書館は放課後も自習や本を読む生徒のために解放されている。カウンターに座るのはもちろん委員長。あとは交代制で、パートナーがひとりはつくのだが――
「あ、……あのぅ……ぁぅ……」
「…………、」
そちらの姿が見当たらないのは、どうにも玄斗の気のせいでもなかった。本の貸し借りと個室の鍵を管理する受付。そこに座っているひとりの少女は、あろうことかそのままカウンターに突っ伏してすやすやと寝息をたてていた。……向こうで玄斗が蒼唯と過ごしていたときでも、よく見かけた光景である。
「(……経歴が変わっても、変わらないものなんだな……)」
なんだかなあ、と苦笑しながら受付まで歩いていく。長蛇の列はおよそ二十人ほどの混雑ぶりを見せていた。皆が皆、この図書館の主である四埜崎蒼唯に声をかけられずにいる。おそらく唯一あの人なら突撃もかませるだろうが、それ以外で彼女へと接するような勇気ある人物もそうそういない。……すくなくとも、ここにいる少年を除いて。
「困りごと?」
「あっ、会長……! えと、その、四埜崎先輩が……これで……」
「ああ、うん。じゃあ代わりにしようか。ちょっと待ってて」
「い、良いんですか……?」
「うん。大丈夫だよ。何度かやったことがあるから」
カウンターの内側に入りながら、玄斗はゆるりと笑いかける。実際、一年時に蒼唯と居ることが多かったせいで経験は十二分にあった。もはや慣れたものだ。近寄りがたい彼女のパートナーが無断で休むのも、それを咎めようともしない他人への無関心さも彼女の特長である。ので、こうするのが玄斗の日課だった日々もあるぐらいだ。
「じゃあ、ご要望から。本の貸し出し? それとも個室の鍵かな」
久方ぶりの懐かしい感覚に、玄斗はわざとらしく微笑みながら告げた。弾む心とは対照的に、淡々と列を捌いていく。隣にはいまだゆるやかに寝息をたてる蒼唯。周りのすこしの喧噪すら気にもしない熟睡には怒る気にもなれなかった。でもまあ、それですら良いと思えた。掘り返すような記憶の欠片に、どうも思うなというほうが無理な話なのだ。
◇◆◇
目が覚めると、やけに静かだった。驚くことに行列が消えている。いつもなら溜まっている生徒を適当にさばきながら頭を覚醒させるのだが、その必要すらなかった。驚愕でぱっと目が冴える。珍しい日もあるものだ、と勝手に納得しようとして。
「(ん……?)」
かさり、と手のなかに違和感。見ればちいさいノートの切れ端を、握るように持っていた。眠る前に自分で用意したものではない。なんなのか、と広げてみる。
『先輩へ。受付の対応しておきました。あと、よかったらもらってください。――十坂』
「(十坂……って……!)」
ぐっと目を見開いてあたりを見渡すが、件の少年の姿は見当たらない。どうやら帰るついでにこのメモを握らせたらしい。それと、
「(……いちごオレ……)」
偶々、なのだろうか。それは普段の蒼唯からは考えられない好物のひとつで、それこそ赤音ぐらいしか知らないものだ。そんな情報を知っていたとは、いまの彼女からは想像もつかない。偶然だろうと割り切って、どこか不機嫌そうにストローをさしてずずっと啜る。
「(……なんなのかしら、あの男は……)」
まったく不気味だ。くしゃくしゃにしたメモ用紙をゴミ箱に投げ捨てながら、読みさしだった本を開いてゆったりと構える。
〝忘れてなんていません。そのぐらい、僕だって覚えてます〟
「(――っ……なに? 頭痛……?)」
ほんのすこし、不思議な感覚を覚えながら。
蒼唯パイセンに対してイケメンムーヴ決め込むことに定評のある透明少年がいるらしいですね……おまえ白玖にはそういうコトしないだろとか言ってはいけない。ちゃ、ちゃんとしてるから(震え)