ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
『あッ、ぃっ――ぁあぁぁ、あああぁぁああ!!! あづいあづいあづい!! あぁあ! あああああ!! あぁぁあああぁぁぁああああ!! あああぁあああ!!!!』
『……あは♡』
最高だ。彼はとてもいい顔で、良い声をあげて泣いてくれた。
「うん? あれ、会長クン?」
「……桃園先輩?」
「あっははー、やだなあもう。固いってぇー」
紗八でいいよー、と笑う少女が、ローファーをトントンと履きながら言う。時刻は午後七時前。完全下校時刻がいよいよ迫ってきた暗い時間帯。先に帰らせた生徒会一同はともかく、玄斗は玄斗でやらなければならないことがあったので居残り……もとい残業をしていたのだが、その帰り際に予想外の人物と会ってしまった。正直、面識はあまりない。
「……じゃあ、紗八先輩……で」
「ん、まあ合格、かなあ? お姉さん的には呼び捨てでもポイント高いよ?」
「……ちなみになんのポイントで?」
「内緒♪」
「はあ……?」
どうにもペースが掴めない、と首をかしげながら玄斗も靴に履きかえる。外は既に街灯が光るほどになっていた。一寸先は見えても、五メートルもいけば見えない部分が出てきている。十月の終わり。すでに冬場を目前にしたこの時季は、日が落ちるのも段々と早くなってくる。
「……紗八先輩は、どうしてこんな時間まで?」
「アタシ? アタシは、まあ、ちょっと用事があってね」
「そうなんですか」
「そうそう! いやあ、提出物ぐらい出しておくものだね……」
その一言でなんとなく察した。すべての教師がそうというワケでもないが、一部にはやけにうるさい人もいる。面倒くさがりだったりそういったモノを嫌う生徒からすれば厄介な、けれどもきっちり努力した分は加算してくれる先生たちだ。
「……よければ途中までどうですか? 夜道は危ないですし」
「あ、本当? じゃ、お言葉に甘えちゃおっかなー♪」
くすりと微笑んで、鞄を持った紗八が玄斗に近付いた。タイプで言えば真墨が一番近いが、同時にもっとも遠いという立ち位置。いままで玄斗と関わってきた少女たちとはちょっと違った感じの少女は、気持ちはどうあれ慣れないものである。ずざっ、と思わず一歩引き下がると、紗八はにこりと笑みを深めた。
「えー、なんで距離とるのー? お姉さん傷付くなあ」
「あはは……」
――ちなみに。玄斗がこういう行為をすると笑顔どころか殺意のこもった視線を向けてくる人物もいる。かの有名な図書委員長がそれだ。逃げる、避ける。そういったモノが彼女のなかではとんでもない地雷になっているのだろう。ただちょっと距離をとっただけでそれはもう玄斗が思わず震えてしまうほどのオーラを放つのだ。なので、それと比べれば紗八の文句なんて無いにも等しい。
「恥ずかしがらなくてもいいよー? なんなら手とか繋ぐ?」
「いえ、ご遠慮しておきます……」
「あー、ふられちゃったかあ」
あはは、と笑いながらくるんと紗八がその場で回る。ふわりと舞い上がる短すぎるスカートが目に毒だった。誰とも違うタイプ。たしかにそうである。普段は雰囲気の軽い碧でさえ、まあまあどこかの誰かに引っ張られたのかそこまでライトなものでもない。真実、桃園紗八は特異な相手とも言えた。
「じゃ、手は繋がなくていいから一緒に帰らない? 会長クンとは、一度ゆっくりお話してみたかったんだよねー」
「……まあ、それなら……」
「だからあ、固いってばーもうー。もっかい撫でてあげよっか?」
「だ、大丈夫です」
「そかそか♪」
黄泉に散々怒られたせいで誠実さが当社比二割ほど増している玄斗だった。本命以外には不用意な接触は避ける。例外はせいぜい彼を立て直した女子たちぐらいなものだ。それから綺麗さっぱり対象外になっている紗八は、とにかく玄斗をして迷う必要がなかった。我、白玖を想う。故に我あり。
「……あの、紗八先輩」
「うん、なになに?」
「キープくん、っていうのは知ってますか?」
「え? なにそれ……あー、誰かがそうなってるってコト? それとも、会長クンの事情かな?」
「いえ、知らないなら、それで」
「うん?」
不可解な顔を見せる紗八の横をすり抜けて、玄斗はゆっくり歩き出した。結局、そこに関しては〝俺〟も〝僕〟も関係なかったというコトだろう。十坂玄斗は夏祭りで彼女を助けに行った。ならば、そのぐらいの正義感もこちらの自分に残っていたということだ。ついでに、他のなにかに目を向ける意識も。すくなくともそうなのだと玄斗は感じた。真実なんて、なにも知らないまま。
◇◆◇
不思議と、こうして誰かと夜道を歩くのは珍しくない。思えば
「いやー、寒いねえ」
「そうですね」
吐いた息は白い。まだ一桁には届かないと思っていたが、外気温はそうでもないらしい。手袋とマフラーを用意していたのは僥倖だった。頬をさすような冷たさに苦笑しながら、玄斗はふと彼女を見た。
「……使いますか?」
「え?」
「マフラーとか。……さすがに、制服だけじゃ寒いかなと」
「ああ、いや、いいよ? アタシは別にー」
ひらひらと手を振る紗八に、そうですかと眉を八の字にしながら返す。断られてはどうしようもない。防寒着のひとつもしてない紗八の格好は相当なものだ。まだ十一月に届いていないというのもある。そこまで珍しくも無い格好だが、大概な格好であるのは間違いない。どうしたものかと考えてみるが、玄斗にはてんでさっぱり。これが白玖や真墨なら、さらっと手を引っ張って握るぐらいできそうなものだが。
「……十坂クンは、優しいんだねえ」
「そうでしょうか」
「うん。お姉さんはそう思うかなー? それとも、言われたことない?」
「……まあ、似合わないとは、思います」
なんとなく。自分より酷い人間もそうそう居たものではないだろう、とは思った。なにせ白玖と決めてから口や態度でなにをしようと心の芯が一切ブレない。揺らいでも揺らぐだけ。本当に大事な部分はぴくりとも反応しない有り様だ。それは単純に、感情をすべて切って捨てているというコトにもなる。
「だからみんなにモテるのかな? 大人気だもんね、君」
「それは知りません……というか知りたくもなかったんですけど……」
「?」
「いえ。……まあ、そこはそこです。なにか、琴線にふれる部分があったんでしょうね」
僕ではない俺に。その一言だけ飲み込んで歩みを続ける。〝僕〟にあって〝俺〟にないもの。〝俺〟にあって〝僕〟にないもの。比べてしまえば簡単なコトだ。どちらも正解に手をかけているのに、離れているから微妙に一致しない。正しさだけでいえば、それこそ一方が果てしなく敵わないぐらいに。
「そのわりに、二之宮さんとか、四埜崎さんにはあまりいい顔されてなかったり?」
「……よく知ってますね。そこまで分かるんですか?」
「まあ、あのふたりは……うん。アレだから。仕方ないとも言えるのかなー?」
アタシもわんちゃんあったかもしれないし、とちいさく紗八が独りごちる。それはどういう意味だろう、と玄斗は考えかけて。
「(あ――)」
ふと、街灯の下を通った瞬間に気付いた。綺麗に揺れる桃色の髪。そのなかに、ちょっとしたモノ……有り体に言えばゴミがついていた。思い出されるのは真墨の教えである。曰く、「男子たるもの髪の毛になにかついていたらそっと取り除いて微笑んであげること。これしないお兄はマジあれだから。本当あれだから」である。どうなのかは分からない。
「すいません。紗八先輩」
「え――?」
そっと、手を近付ける。なんてことはない動作だった。別に、邪念があったワケでもない。とりわけなにかをするという場面において、それ以外考えられなくなるのは玄斗の悪い癖でもあった。なので、彼の思考にあるのはただ単純なお節介。彼女の気付いていない髪についたゴミを退けようと、ふんわりそれをつまんで、
「っ!?」
「わっ……」
がばっ、と。思いきり、躊躇なく飛び退かれた。幸いにもゴミは取れている。そこだけは良いところか。が、にしてもいまのはと思う反応だった。
「……紗八先輩?」
「あ、あはは……びっくりしちゃったあ……もう。急に、なに? 会長クン」
「いえ、ゴミが……ついていたので」
「えぇ!? うそぉー! はやく言ってよぉ」
もう最悪ー、なんてからから笑う少女。でも、その瞼に隠された瞳を玄斗は見逃さなかった。偶然にも、そういう目は見たコトがある。知り合いがよくしていた。きっとつまらない理由なんてひとつもない。本気の、本当で、本心からだろう。
「紗八先輩」
「いつからなのかなあ……ああ、もう。鏡、しっかり見ておいたら……」
「苦手なんですか? 男の人」
「――――――――、」
ぴたり、と固まった。紗八の瞳が、こちらを向く。
「……あはは。やだなあ。そんなワケないじゃん?」
「……いいですよ、誤魔化さなくて」
「いや、だから。お姉さんは別に誤魔化して――」
「指、震えてます」
「…………っ」
気付けたのは、やはり、あの少年によるものが大きかった。たった一度。本当に一度だけ目にしたコトがある。一番酷かった逢緒の状態だ。不意に発生した女子との突発的な接触。それで彼はちいさく痙攣を起こして、吐いたことがあるのだ。女子が苦手というモノをこじらせているのかどうなのか。けれどもたしかに、彼はそういう人間だ。
「ごめんなさい」
「い、いや……これは、その、違うんだ……よ……?」
「……先輩」
「ち、違うったら。アタシは――わたし、は……別に、なんとも……っ」
「…………紗八先輩」
――近寄る? 抱き締める? 冗談じゃない。近くで見ておきながら、それがどれだけ酷い対応なのか分からないワケでもなかった。まったくもってあの友人に頭が下がる思いだった。どちらがより、なんてのは分からなくても、ヒントは散りばめられている。玄斗は半歩ほど、彼女から距離をとった。
「大丈夫です。だから、落ち着いてください」
「あ…………――――」
「……無理しちゃ駄目です。僕、そういうのが
「……いやあ、本当に、違うってば。……いまのは、ちょっと、ね……」
「……、」
「……っ」
そっと腕を動かせば、ぴくりと紗八の肩が跳ねた。誤魔化せるほどのものでもない。それは、やっぱり。
「……すこし休みましょう。飲み物買ってきます。なにがいいですか?」
「いや……」
「紗八先輩」
「……お茶、で……」
「はい、分かりました」
笑って、玄斗はすこし離れた自販機まで駆けていく。関係ない。道にない。頭にない。特別な誰かでもない。だからといって、目の前の誰かを見捨てることはしたくない。それは真実、玄斗だけが掴んだ自分らしさだ。きっと誰もが放っておかなかったからこそ辿り得た彼の道。偽善だなんだと言われようと、それはまさしく彼がしたいと思ったことで。
「(やっぱり優しくはないな、〝僕〟)」
でもって最低だ、と内心で呟いた。
◇◆◇
いまもまだ、彼は覚えている。
『ほら、良い子だからねえ……♡』
『かわいいなあ……』
『大丈夫よ? ちゃんと……お姉さんが気持ちよく、シテあげるから……っ』
伸びてくる手。歪んだ顔。透明な液体の満ちた注射器。そのときの彼には知る由もないえげつないモノの数々。まだなにも知らない少年時代。男の子だからと誰もが気にもとめなかった頃の話。
『ねえ、具合はどう?』
『痛いでしょう? 苦しいでしょう? 泣いて良いのよ。もっと、わめいていいのよ……っ』
『もっと、わたし、キミのそういう声も聞きたいわ……!』
たぶんそれは、一週間程度の短い間。死なない程度の食事を詰め込まれて、死なない程度の仕打ちをずっと受けて。たったひとりの
『……にい、さん?』
自分を見つけてくれた妹の、色が抜け落ちたような表情。それを見てしまった自分の、ただ目の前にいる〝異性〟としか見られなかった感覚。言わば、あの頃からずっと壊れたまま。
『……ぃ、や……』
『兄さん……です、よね?』
『ゃだ……いやだ……!』
『に、兄さん。わたしです。あ、揚羽です……!』
『ひぃっ! ……ぃ、や……ぁ、ああ……っ! うあぁ……!!』
『兄さん? どう、したんですか。わたしはっ……』
『やだ、やだあ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい――!!』
「……うっわ……最悪な夢だわ……」
彼のそれは、一切の反応を示していない。
>童貞インポ
半分あってるけど半分違ったね、というあだ名。本人も笑えよって言ってるし笑っていいんじゃないかな。
>桃色パイセン
当初の設定から六割ほど悲惨成分抜いたらなんか友人枠がトンデモないコトになってた関係性がある。ま、まあ男ならセーフだし(謎理論)