ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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赤色会長書き始めたら止まんなくてやばいやばい……


折衝とかそういうもの

 

「赤音」

「……な、なに?」

「今日はご飯、食べさせてくれないの?」

「え、あ、いや……」

「……赤音?」

「そっ、そんなことないわよ!?」

 

 うんうん! と明るくうなずいて二之宮赤音は箸を握った。握りつぶそうとした。悲しいかな、女子の握力ではそこまで出来そうにない。

 

「……ね、ねえ。蒼唯」

「なに?」

「……た、たまには、こういうの……どうなの?」

 

 彼女なりにぼかして、予想との違いを確認してみる。頼むから〝そう〟は言わないでくれ、との願いは届かない。むっ、と頬を膨らませた蒼唯が赤音を睨んだ。

 

「……何度も言ってるじゃない」

「へ……?」

「幼馴染み、なんだから。……遠慮もいらないって……」

「……あ、あー! あははー! ……ほら、口あけなさい」

「……ぁ」

「はい」

「ん……、……」

 

 もぐもぐと赤音の眼前で蒼唯が咀嚼する。美味しかったのか、嚥下してからゆるりと微笑んだ。赤音はニコリと笑顔をつくったまま固まっている。石かなにかと言うぐらいの状態だった。ガタン、とそのまま椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「……赤音?」

「ごめんね蒼唯! ちょっとお手洗い行ってくるわね!? じゃ、じゃあ!!」

「え、ええ……」

 

 教室を飛び出して、赤音は廊下を駆け抜ける。廊下を走るな、なんてルールは頭にない。ただひたすらに、闇雲に足を動かしていく。向かうさきはただひとつ。こんな風に頭のおかしい現実を突きつけられるコトを知っていた彼のもとだった。

 

「――玄斗ぉ!」

「わっ」

 

 がらっ! と生徒会室の扉を開けると、件の少年が肩を跳ねさせながら出迎えた。室内には彼ひとりしかいない。ちいさい如雨露を持っているあたり、窓際の花に水でもやっていたのだろう。案外マメな奴である。閑話休題(それはともかく)

 

「なんなのよアレは!? いったいどこの誰!? 私の陰キャ拗らせたようなくそ面倒くさい幼馴染みはどうした!?」

「ステイ。落ち着いて赤音さん。たぶん蒼唯先輩が聞いたらとてつもなく怒ることを言ってる気がします」

「これが落ち着いていられるかーーーッ!?」

 

 がくがくと玄斗の肩を掴んで揺さぶりながら赤音が絶叫する。確実の本人が聞けば爆発するであろう地雷を踏み抜いているあたり容赦がない。

 

「なんなのよあの蒼唯は!? 私との意地の張り合いはどうした!? なにがあったっていうのよ! てかこっちの私はよくあいつと喧嘩しなかったわね!?」

「ぼ、ぼくにも、なにが、なんだか……」

「でも違うのよ! あいつは! 四埜崎蒼唯はもっとネガティブで暗くて陰気でジメジメしててそのくせやるときはやるようなメンヘラちょっと患ってるクソ女なのよ!? それが、それが――っ!」

「そ、そこまで、言うことは、ないと……」

 

 たしかに暗い……というよりは静かな趣のある少女だが、玄斗から見てそこまでのマイナスイメージはない。なにせ明透零無という自分を引きずり出してくれた人だ。感謝こそすれ、酷く悪く言うのはとても気が引けた。

 

「というか、なに!? 弁当食べさせるとか、恋人か!? それを教室で堂々とするか!? 頭大丈夫かこっちの私!」

「僕に対してのあたりがきつかったなあ……」

「大丈夫じゃないわねこっちの私!」

 

 玄斗よりも向こうを選んでいるというのがわりと信じられない赤音だった。

 

「もう嫌よ……! あんな、あんな甘えてくる蒼唯なんて見たくないっ……!」

「……えっと、撫でましょうか?」

「ん」

 

 ぎゅっと強く抱き締められた。さっさとしろ、ということらしい。

 

「はい……」

「(……うむ)」

 

 玄斗の胸に顔を埋めながら、赤音はしっかりと頭上の感触を堪能する。役得だ。聞いてきたところこの少年は、幼馴染みとの関係をリセットされ、取り戻した相手がことごとく餌を目の前にしたピラニアのごとく噛みついてくる少女たちで苦労したらしい。そんな中に現れた赤音は、彼としても安心できる存在だったのだろう。

 

「というか、本当になにがあったんですかね……? 赤音さん、蒼唯先輩とはすごく()()が合わなかったのに」

「……まあ、そこはなんとなく予想ついてるんだけどね」

「え」

 

 そうなんですか? と訊くと赤音はうなずいて答えた。驚きだ。

 

「なんていうか……私たちの関係がこじれた原因? っていうか……」

「原因……」

「……あの子、基本物静かでしょ? だから、ちいさい頃、いじめられたコトがあったのよ」

「え――――」

 

 それは、一切知らなかった。ゲーム中では触れられなかった過去。つまりは、四埜崎蒼唯という人格を形成するうえでそこまで重要ではなかった要素とも言える。単純に考えるなら、だ。幼い頃の傷ではないのだろうか。語られなかった理由こそ、彼にはさっぱり分からない。

 

「小学生のときよ。まあ、幼稚なもんだったけど……それでも結構な目にあってね。私がなんとかしなきゃって、話もして、側にも付き添って、で、力になろうって意気込んでたのに」

「……駄目、だったんですか?」

「いや、逆。いらなかったの。あの子ね、自分で全部何とかしちゃった。それこそ、見ていた私がぞっとするぐらいのやり口で」

 

 ――ああ、とそこで納得した。なるほどと。やり返すなら徹底的に。それは玄斗も味わった蒼唯の強かさだ。散々なコトをしたとも言える玄斗相手に、散々なぐらいの衝撃を叩き返されていた。だから、なんとなく想像もできる。きっと身の毛もよだつほどの〝お返し〟をしてあげたのだろう。

 

「それで、そのやり方があまりにも危なっかしくて。つい、私もカッとなっちゃってね。色々ガーガー勢いに任せて言っちゃったのよ。そしたらさ、なんて言われたと思う?」

「……なんて、言われたんですか?」

「あなたには分からない、って。なんでもできる私に、自分の気持ちなんて分かるわけないでしょうって。――すっごい腹立ったわ。幼馴染みよ? 何年も一緒にいたのに。なにも分かってないって真っ正面から言われて。で、私もぶち切れた。勝手にしろ、もうあんたのコトなんて知るかばーか、って」

「……子供の喧嘩、ですね」

「ええ。それを、この歳まで引き摺っているもの」

 

 もう一生このままでしょうね、と赤音は息を吐きながら言った。売り言葉に買い言葉、みたいなものだろうか。どちらも我が強い少女だ。押し通すと決めたことは一切譲らない。それは玄斗からして美点であったが、悪いところにもなるのだろう。

 

「なら、どうなんでしょうね? こっちの私たちは。私が無理にでもあの子の手を握ったのか、あの子がきちんと手を伸ばしたのか……って、ところかしら」

「そういうIF(もしも)は、嫌いですか?」

「ううん、良いと思う。でも、違うわね。……玄斗なら、分かるんじゃない? 私の幼馴染みはね、決して仲良くお弁当食べさせ合うような奴じゃないわ。陰険で、根暗で、昔のことを引き摺ってて、プライドだけ無駄に高い、面倒くさくて、思わず顔を歪めたくなるような人間よ。私にとっての四埜崎蒼唯は、結局そいつしかいないのよ」

 

 悔しいけどね、と赤音は笑った。玄斗も悩むことなく、その言葉には頷いてみせる。よく分かった。だって、そうだ。なにがどう良くても、悪い部分が減っていても、結局は自分にとっての誰かなんて変わりない。どれほど今が良くても、唯一の相手というのが忘れられない。

 

「……そうですね。僕にとっても、同じです」

「でしょうね。……だから、ちゃんと向き合いなさいよ? こっちでも付き合いはあるんでしょう、壱ノ瀬さん」

「……はい」

「簡単に諦めんじゃないわよー? 諦めたら、私があんたを虜にしてやるから」

「……それも、案外悪くないかも分からないですね」

「ばーか」

 

 冗談混じりに言うと、くすりと笑われてデコピンを喰らった。なんでもお見通し、という風な赤音にはとことん頭が上がらない。

 

「……ま、それはそれとして。違うからこそ良いところも、あるんだけどね」

「? それって、なんですか?」

「……決まってるでしょう」

 

 ふい、と赤音が視線をすこし下げた。きょとんと首をかしげる玄斗の、ちょうど腕のあたりを見るように。

 

「――似合ってるわよ、生徒会長?」

「……お返ししましょうか?」

「嫌よ。せっかくのあんたの姿だもの。しっかり見させてもらうわ。()()としてね?」

「……あまり期待しないでくださいね?」

「うん。すっごく期待してる♪」

 

 とてつもない笑顔でいう赤音に、玄斗はがっくりと肩を落とす。やれやれなんて台詞はこういうときにこそ言うべきか。正真正銘なんでもできた最高の生徒会長からの期待は、思わず潰れてしまいそうなぐらい重かった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ちょうど、一月ほど前。()()は何とはなしに、一人称を変えた彼を見てこう思った。

 

 ……似ている、と。


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