ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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事案ですか?

 

 一度だけ、見に行ったことがある。

 

『我が社の今後につきましては――』

 

 見た目は、まんまその人だった。名前もなにもまったく同じ。でも、どこか違和感が付きまとっている。理由は、すこし探れば見えてきた。

 

 〝明透……零()……?〟

 

 些細な違い。ちょっとした変化。でも、決定的な差異でもあった。込められた意味も、願いも、まったく同じワケではなかった。ならば、きっとそこに生きていたのは自分ではない。よく似た誰かが、よく似たモノをつけただけ。

 

『……あなたが、明透さん?』

『あ、はい……そうで、ございますが……?』

 

 事実、そこには面影を感じることはなかった。彼女の知っているソレであれば、目の前にいる人物は少年であるはずで。決して病弱でか弱い少女なんかではないはずだった。だから、それで、なんとなく察してしまった。もう二度と手の届かない位置に、自分は来てしまったのだと。

 

〝なんて……女々しい……〟

 

 死に別れてなお、あの人の影を追っている。その姿を幻視している。そんな、たった一度の奇跡に思い上がった自分が嫌になる。全部偶然で、なにもかもが奇跡の結晶で、自分自身の手で掴んだものなんてなにひとつもないのに、ただ縋るだけ縋っている。愚かだ。筆を離したのは、そのとき。

 

 〝私はもう、明透一美ではないんだ……〟

 

 その事実に、心を閉ざした。自分から死んでおいて、なんて身勝手な。この身を犠牲にしても我が子を産むと誓ったのは自分なのに、なんて愚かな。悔やむことは沢山ある。どうしてと文句を言いたい気持ちも沢山だ。でも、たったひとつ。残された願いだけは純粋なままで。

 

 〝……あの子が、それに……重なったのかな……〟

 

 零ではない。なにか()つは()って、消えてしまわないぐらいしっかりとしている。そう望んだ自分の子は、一体どうなったのだろう。

 

 〝……でも、うん。……有耶さんが、ちゃんと、してくれたはずだよね……〟

 

 関係はない。死んだ人間がなにか言う権利はない。だから、彼女の人生は半分以上が終わっている。こんな、なにもない場所でもう一度なんて望んでもいない結果を得たとしても。絶対に。あのとき以上の幸せなんて、見つかりもしないのだから――

 

 

 ◇◆◇

 

 

 灰寺九留実は、方向音痴である。静かな振る舞いとお淑やかな態度で誤魔化しているが、こと慣れない場所はおろか慣れた場所でも迷子になる。ずっと昔からなおらない素質だ。土曜日の午後。後輩の父親なる人物と会うよう指定された駅までの道で、彼女はぽつりと呟く。

 

「……まずいわね」

 

 ちら、と腕に巻いた時計を確認する。約束の時間までは五分を切っていた。なんともまずい。このままでは、というよりも現状で遅刻がほぼ確定している始末。これが年下の生徒会長なら連絡も取れようが、相手はその会長様のお父上である。玄斗がなにをしているか分からない以上、うまく繋がるかも分からない。優先すべきは目的地への到達だ。九留実はきわめて冷静にスマートフォンの地図アプリを開いた。

 

「(……よめない……)」

「どうかしたのかい」

「!」

 

 声をかけられて、自然と肩が跳ねた。ばっと振り返って相手を視認する。年相応らしく落ち着いた雰囲気。とくに弄られてもいない黒い目と髪。スタイルはまあ、そこそこ整っている。……誰? というのが彼女の抱いたはじめの感想だった。

 

「いえ……」

「……うむ。まあしかし、面白いものだなあ」

「……?」

「いや、なに。最近の若い子はマップを逆に見るのが流行っているのかな」

「……っ!」

 

 ……内心で相当テンパっていたらしい。彼女は自分の携帯を逆さにしているのも気にせず使っていた。くるりと手元で回して、そのままポケットへ突っ込む。そしてそのままクールに去ることにした。理由はたんに、恥ずかしいからである。

 

「そっちへ行くと住宅街なんだが」

「っ……」

「……はは、いやあ、なんとも……」

 

 くすくすと男性が笑う。それに余計恥ずかしさが増して、意地を張りつつ反対側へ足を向けた。無言のまま、スタスタと通り過ぎていく。そのままお別れとなるだろう。親切にしてくれたのは助かるが、流石にこれ以上は責め苦というもので――

 

「待ちなさい」

「……なん、でしょうか」

「君を見ていると心配になる。できれば、道案内ぐらいさせてもらえないかな」

「…………、」

 

 じっ、と九留実は男性を見た。悪い感じではない。が、誠実さが滲み出ているかと言えば……ちょっと違うようなものだった。これでも一応歴とした女子高生である。知らないおじさんに誘われるというのは、十分警戒する理由になった。

 

「いやはや……これは、信じられてないな」

「…………、」

 

 男性が苦笑する。九留実はじっと目を逸らさずに睨みをきかせた。それにガリガリと頭をかいて、件の男がふらりと歩いていく。

 

「……たしか、この先は駅か。俺も駅にちょうど用事があるので、行かなくてはならん。が、まあ……そうだな。ひとりぐらい、誰かが知らずについてきたとしても、気が付かないかもなあ……」

「…………、」

「そういうことだから、じゃあ」

 

 また機会があれば、と男性は去っていく。後ろを一切振り向かず、歩幅は一切緩めず、本当に歩いていく。……そっと、もう一度だけ九留実は腕時計を確認した。コトは一刻を争う。知らないその人についていくのは真実気が引けたが……どうにもやり方が不器用にすぎた。本当に一切気付かないなにも知らないとふり向かないあたり、馬鹿真面目な部分が垣間見える。

 

「(……急ぎの用だし。仕方、ないのかしら……)」

 

 はあ、とため息をついて十メートルほどの間隔をあけながらひっそりと男性の後をついていく。格好はそれこそ普通の……といってもなにを普通としていいのかは些か疑問だが、特徴という特徴も見当たらない中年男性。わりと細身で、すらっとした印象が良い意味でらしさを感じさせない。どこか歩き方にも品がある。……言葉遣いだけが、不自然にフランクだった。

 

「(まるで、とってつけたみたい……)」

 

 が、最後のあたりはそうでもなかった。妙に堅苦しい口調は、そのほうが使い慣れているのか。それともふとした瞬間に漏れた本物か。どちらにせよ、自分を偽っている人間というのは信用できない。あれは道しるべ、たんなる道しるべ……と唱えながら、こそこそと背中を追っていく。わずか一分たらずで、目の前には駅が見えていた。

 

「(……馬鹿は死んでも、っていうけど……馬鹿だけじゃないのね……)」

 

 そういえば〝奇跡〟が起きたのも()()からだっけ、とかつての相手との出会いを思い出した。……最近は、そんなことが多い。どこか似ている少年を見てしまったが故だ。それで掘り起こされているのだろう。彼にとっても彼女にとってもいい迷惑、と自嘲気味に笑う。

 

「……む? おお、これは……いやあ、一安心だ」

「っ……!」

 

 なんて油断した瞬間に、離れた前方の男性がからからと笑いながらふり向いた。なんなのだろう。一体。意図が読めなくて不気味だ。じとーっとした視線をぶつければ、さらにくすくすと笑いはじめる。……まったくもって、分からない。

 

「……そこまで警戒しなくてもいいよ。俺は別に、悪いもんじゃない」

「…………、」

「はは……いや、これは嫌われたかな。正直申し訳ない。何分、こういうのは久方ぶりでな……ああ。己の看板に頼らないというのは、やりづらくて仕方ない」

「……?」

 

 やれやれと息をつく男性に、九留実が首をかしげた。なんだろう、と今更ながらの感想を覚える。違っている。なにもかもが合致する部分もないのに。ふとした所作だとか、こぼれたみたいな一言から、()()の香りがするのだろう――?

 

「自己紹介をさせてほしい。俺の名前は、十坂真斗というんだ。……いつも、息子がお世話になっています」

「え……あ……」

「……君は、灰寺さんだね?」

「…………は、い……」

「今日は無理を言って申し訳ない。ちょっとだけ、君と話したいことがあったんだ。……いやあ、慣れないことは、するもんじゃないな……」

 

 エマージェンシー。エマージェンシー。不審者だと思っていた男性が、まさかの約束相手だったようである。九留実は混乱したまま、こくこくとうなずいて玄斗の父親の顔をみた。……たしかに、似ている。

 

 

 ◇◆◇

 

 

『――こちらM。こちらM。Fがターゲットに接触。どうぞ』

「こちらK。確認できたよ……っていうか、これ、大丈夫なの……?」

『いいんだよ浮気現場を報告だよ! ついでに警察案件だよ!? これはうちらがお父さんを……いやFを粛正するしかないッ! いくよお兄! じゃなくてK!』

「……人間は賢い。でも人々は愚かで、パニックを起こす、危険な動物なんだ」

『は?』

「いや、Kって言ったから……」

 

 微妙に通じないネタだ。玄斗としても世代が違う。

 

『とにもかくにも追跡続行! 全速前進! 祭りだあぁぁあああ!!』

「真墨、うるさい」

『インカムってこういうノリのとき不便だよね。あとM』

「……了解。こちらK。作戦を続行します……」

『うーん楽しくなってきた!』

 

 正直、玄斗としても興味がないではなかった。   






M=真墨

F=ファーザー

K=ケビン・ブラウン

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