ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
ときに遠回しに。ときに殆どストレートに。私のことが好きだと。彼は、慣れた様子でそう言う。何度も、何度も。からかっているのかと思うぐらい気安く、それでいて気持ちだけは込めて。何度も、何度も。私に好きだと言ってくる。
「本心だからね」
そうやって証言する彼は笑っている。綺麗に笑っている。……私には分からない。どうしてそこまであからさまに、人への想いを吐露できるのだろう。どうしてそこまではっきりと、自分の想いを伝えられるのだろう。どうしてそこまで綺麗に、裏表のない表情を作れるのだろう。
〝……十坂、さん……〟
名前を呼ぶ。ぽつりと心の内で、こぼすほどに彼を想う。言葉にしていないのにそれは響いて。ひとりっきりの家に彼女の心音は、いやなぐらい反響するようだった。
「……っ」
ズキン、と胸が痛んだ。傷付いたままの心を、引っかかれたようなもの。母親が死んで、一緒に歩いてきた父親もこの世を去った。たったひとり残されたまま、なにもかもどうでもよくなって人生を無為に過ごしてきた。流されるがまま、なにを思うでもなく。ただなんでもなくなるまでは、せめて生きていようと毎日を過ごして。
「(……過ごして、いた、はずなのになあ……)」
そんなある日に、彼と出会った。
「(なんでだろ……十坂さんって、本当……)」
分からない。さっぱり分からない。一体彼はなにを想って、なにを考えて、自分なんかに近寄ってきたのだろう。こんなどうしようもない人間のどこに魅力を感じたのだろう。生きる意味もなければ、死んでしまうほどの気力もなくて。だからとただ何も無いまま生きていく自分の、どこが良かったのだろう。
「(私なんかの、どこが良いんだろう――)」
夜は更けていく。考えたままうとうとと船をこいで、ついぞ意識がぷつりと途切れた。なにも分からない。なにも知らない。そんな人間から向けられる好意は、どういう意味を持つのだろう。……ただ、言えることは。
「……とおさか、さん……」
それで温かくなるものだけは、たしかにあった。
◇◆◇
「おはよう、壱ノ瀬さん」
「……おはようございます……」
玄関を開ければ、最近すっかり見慣れた顔が白玖の視界に飛びこんできた。今日はまた一段とにっこり笑顔である。理由はまあ、考えなくとも分かっていた。
「いよいよだね、文化祭」
「そうですね……。挨拶、お願いしますよ?」
「任せておいて。一応、無難なものはあるから」
「それは安心しました……いや、奇抜なものとかいらないですけど」
「公開告白でもする?」
「誰にですか? そして正気ですか?」
「冗談だから」
ひらひらと手を振る玄斗にため息をつきながら、ふたり並んで通学路を歩いて行く。本日は文化祭につき、玄斗の登校先は筆が丘女学院だ。開会の挨拶に呼んでもらったから、という名目で久方ぶりになる幼馴染みとの〝学校〟までの登校である。
「でも、するとしたらひとりしかいないかなあ」
「……ふーん。そうですか」
「うん」
「…………どうしてこっちを見ながらうなずくんですかっ」
「いや、なんとなく?」
「っ……もう……」
〝本当この人は……!〟
赤くなりかけた頬を隠すように、白玖は足を速める。……が、流石は男子といったところなのか。それでも平気な様子で隣をついてくる玄斗に、なんだかこっちが馬鹿みたいではないかと歩調を緩めた。……いや、本気で分からない。一体なんなのだこの男は。
「……十坂さんって」
「? うん」
「いつか絶対刺されますよね」
「ああ、刺されかけたことならあるよ?」
「えっ」
「え? ……ああ、そうだった。うん。いまの、ナシで」
「いやどういうことですか!?」
がばっ、と白玖が玄斗に詰め寄る。冗談半分で言ってみればとんでもない返答が返ってきたからだ。が、これが事実になるあたり十坂玄斗の人生は濃い。もっとも、その犯人が目の前で心配そうにあたふたしている彼女なのだが。ちなみにそのときは引っ込むやつだった。
「だ、大丈夫なんですか!? 傷とか、あと後遺症とか……!」
「ああ、うん。怪我はしなかったからね。とんでもない殺意は受けたけど」
「完全に殺りに来てるじゃないですか! よく無事でしたね!?」
「壱ノ瀬さんのお陰かなあ……」
「はい?」
「いいや、なんでも」
実際、あのときの白玖の滲み出るオーラはとてつもないものがあった。本気だったのかそうでもなかったのか。今となっては誰にも分からない真実だ。目の前の壱ノ瀬白玖に、その記憶はない。残ったものはひとつもない。それでも、眼前の少女は壱ノ瀬白玖だ。ならなんてコトもない。玄斗は笑いながら歩みを再開した。
「……なんなんですか、十坂さん」
「だから、なんでも。けど、ひとつだけ言うなら」
「……?」
「僕は君が思っている以上に、君のことを気にしてるってことだよ」
「――――――」
そう言って、玄斗は駅の奥へ向かっていく。白玖は、思わず足を止めてその場で固まった。……浮ついた心、隙間から出た声。そういう一言、だったのだろうか。さも自然と言ってのけた様子は、演技もなにもなさすぎて意図すら伝わりづらい。総評して、やっぱり分からない。たしかなのは、高鳴っている胸の鼓動だけ。
「(……分から、ないよ。なんで、もっと――)」
◇◆◇
筆が丘女学院に来ている調色高校の生徒は玄斗だけではない。出し物の出張班として選ばれた数十名の生徒含め、単純にこちらを見て回る目的の層……もとい邪な男子共もちゃっかり居る。そういうのに目を光らせる役目で実行委員も数名配置。おかげもあってか、開会式はすんなりと進行した。
『えー、では、調色高校から生徒会長の十坂さんに来てもらっています。十坂さんから一言、挨拶をお願いしたいと思います』
「あれが噂の……」
「会長の彼氏さん……?」
「壱ノ瀬先輩にも春が……っ」
「めでたいですわねえ……」
『で、ではどうぞっ!』
気持ち巻きぐらいのペースでそう進めた白玖に首をかしげつつ、玄斗は壇上に登る。
「(おお……)」
こう見てみると圧巻といえば圧巻だ。ちょくちょくこちらの生徒も混じっているとはいえ、男女比でいえば1:9である。……圧倒的だ。圧倒的マイノリティーだ。すこしの緊張を唾と共に飲み込んで、マイクに向かって口を開いた。
『おはようございます。調色高校生徒会、生徒会長、十坂玄斗です。今日一日、短い間になりますが、お互い楽しんでいい文化祭にできればな、と思っています』
――人前でのスピーチは、正直慣れない。これだけでも代わってもらえないかとは本気で赤音に対して思ったことだ。が、彼のSOSに彼女は「はいこれ」と台本を投げてくれたのだ。なにもしないと言った彼女が、わざわざそれを仕上げてくれたのである。ならば、降りるワケにも、しくじるワケにもいかないだろう。
『――というわけで、どうぞよろしくお願いします。……ちなみに』
ちら、と白玖のほうへ視線を向ける。彼女は何事かと首をかしげていた。くすりと微笑んで、マイクを掴む。困っているようなので、ここは助け船感覚で。
『僕と壱ノ瀬さんは
『ちょっ!?』
「まだ!? まだって言ったわ!」
「やっぱりそういう……!」
「壱ノ瀬会長っ! チャンスですよー、チャンスー!」
『い、いや、そっ……と、とにかく文化祭をはじめます! はい! 以上で!』
強引に締めた白玖に、「えー」との女性陣の声。恋愛事に関してはお嬢様高校と言えどそれなりのものがあるらしい。ジト目で睨んでくる白玖に手刀を切って謝りながら、そっと壇上から降りていく。ついぞはじまった合同文化祭。結果から言ってしまえば、それは無事に終わることになる。……ただし、文化祭自体について、は。
>白色
玄斗と関わってないってことは両親が死んでから一度も救われてないってコトになるのでその辺はお察し。そこに現れた意味不明な男に心が揺らぐのはまあうん。
>そういえば灰色が戻った描写がなくない?
そうだねーなんでだろうねー?