ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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その言葉を

 

「前に来たときも思ったけど、やっぱり綺麗だ」

「そうですかね……?」

「うん。女子校だからかな」

「あはは……」

 

 苦笑を浮かべる白玖は、昨日まで必死こいて見える部分から見えない部分まで色々とやる気のある人材が動いていたコトを言わないでおいた。恋愛とはそれすなわち戦争……とまではいかないが、お嬢様学校と言えど飢えた獣はきちんといる。はたして共学校で悠々自適にすごしてきた男子達は知らない。餓狼もかくやといった女性の恐ろしさを。

 

「……なにから見て回りますか?」

「とりあえず、なにか食べ物」

「? 朝ご飯は食べてないんですか?」

「? 食べたけど」

「??」

「??」

 

 ふたり揃って首をかしげる。なにを言っているんだろう、と疑問に思う白玖と、なんでそんなことを聞くんだろう、なんて不思議に思っている玄斗。この男、趣味はご飯と言っても良い食欲に対する素直さが溢れていた。

 

「まあ、一応2-Aが喫茶店をしてましたけど……出店もありますし」

「ああ、うん、いいね。でも先ずはがっつりいきたいなあ……」

「……あの、やっぱり朝ご飯は抜いてこられたので?」

「え? なんで?」

「??」

「??」

 

 混乱しながらもふたりは適当に校内をブラブラと散策する。絶妙に噛み合わない会話。認識の齟齬。それらが解消して白玖の疑問が解決するのは、およそ一時間後のことだった。

 

 

 ◇◆◇

 

「お、会長さんたちだ。どもどもー」

「あ、どうもです」

「お疲れさま。困ってるコトとかない?」

「ないよー、もう壱ノ瀬会長ってば心配性なんだからー。あんまりだと調色の会長さんに嫌われちゃうよー?」

「そっ、そういうのは関係ないから!」

 

 わたわたとこちらをチラ見しながら慌てふためく白玖に、今し方声をかけてきた女生徒がニヤニヤと笑みを浮かべている。親しみのある生徒会長、というのはこういう感じを言うのだろう。玄斗自体は親しみがあるかないかで言えば……まあ……驚異的な人気を女子から誇っているというわりと意味の分からないもので。本来である二之宮赤音という生徒会長は、美人で真面目で真っ直ぐと逆に近寄りがたいものだった。まあ、同学年の人間にとっては時折爆発する人間ダイナマイトなんて言われていたのだが。

 

「――で、どう? 時間ある? 寄ってかない? 寄っていってくれると嬉しいなー」

「2-Cは出し物なんだったっけ……?」

「演劇。絶賛上映中。時間はなんと一時間半」

「流石にそこまでになると向こうに行かなきゃいけないかな……」

「っていうことらしいから……」

「あちゃー……気合い入れすぎたのが仇となっちゃったかあ……」

 

 残念、と女生徒がからから笑いながら看板をかかげる。演劇ヤッテマス。デフォルメされたキャラクターと一緒に描かれた文字がどことなく目を引くインパクト。集客力はかなりありそうだった。ごめんね、と一言だけ謝ると「いえいえ!」なんて手を振りながらにこにこ笑った。……その笑顔の意味は、イマイチ分からなかったが。

 

「みんなすごいやる気だね」

「十坂さんのところは違うんですか?」

「違わないよ。たぶん。……一部を除いて」

「一部ってなんですか……?」

「ヤる気」

「え?」

「ごめん、いまのはナシで」

「いやなんて?」

 

 聞き返す白玖は本気でなんのことか分かっていないようだった。思春期を迎えた男子高校生特有のアレに気付いてほしくもない。玄斗としてはそもそもそういう心持ちを抱えたことが少ない故に理解はできても共感は薄い。直っても十坂玄斗。つまりはそういうことである。眠れる獅子は未だ目覚めぬ。

 

「……と、もうこんな時間か」

「あ、早いですね……流石に三時間も無いと」

「こういう立場じゃなかったらずっとこっちでも良いんだけどね」

「……駄目ですよ。ちゃんと、十坂さんは十坂さんの学校に居ないとっ」

 

 なんて、そっと白玖が後ろに回りながら押してくる。たしかにそうだ。そんなコトを分かった上で、すこしのワガママを通した結果である。なんとも生きづらい。……ちょっとだけ、掴んでいた筈のものが遠くにあるのが、寂しく思えた。

 

「じゃあ、また。こっちも待ってるよ」

「はい。しばらくしてお伺いします」

「連絡くれたら迎えに行くからね」

「そ、そこまでしてもらわなくても……!」

 

 かあっと顔を赤くしながら言う白玖に、笑ってその場を後にする。これだけで来た甲斐があったというものだろう。やはり、幼馴染みは良いものだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――で、我が母校に帰ってきた瞬間。

 

「おかえり十坂(零無)ー!」

「うわっ」

 

 待っていました、と言わんばかりに飛びかかってきたのは五加原碧だった。後ろからぎゅっと抱きついてそのままうんうんと頷いている。……スンスンと匂いを嗅いだのは突っ込まないでおくことにした。たぶん、あれだ。確認しただけなのだろう。……なにを?

 

「あー! ……うーん。……あー、……あー!」

「え、いや、なに?」

十坂(零無)さあ」

「あ、うん」

「…………えいっ」

「!?」

 

 不意にうなじから背中にかけてぐりぐりと体を押し付けられた。驚いてビクンと固まる。そも女子としてそれは大丈夫なのだろうか。髪の毛とか、髪の毛とか、あと髪の毛とか。柔らかい体には意識して思考を誘導しないでおく。

 

「み、碧ちゃん……!?」

「……よし」

「な、なにがよしなんだ……?」

「いや、十坂(零無)ったらニオイが……」

「……臭かった?」

「他の女のニオイが……」

「冗談だよね。そう言ってくるの真墨ぐらいなんだけど」

「じゃあ正解だね。ほら」

 

 あそこー♪ なんて言いながら碧が遠くを指差した。……かすかに、見える。土煙を巻き上げて疾走する何物かが。よく見慣れた少女が。

 

「お兄ぃいいぃいい!!」

「……えらい元気だね」

「みたいだねー」

「その隣の女をぶっ飛ばせっ!? いいなっ!? あたしのお兄に堂々とマーキングしやがってクソぅ!」

「ま……え、なに?」

「いいから。ほら、どうする十坂(零無)。逃げる?」

「え?」

 

 ちら、と真墨のほうを向く。

 

「――――!!」

「…………、」

 

 決死の形相だった。あれ、下手すると勢いのままにお持ち帰りコースかも分からない。

 

「……一先ず撤退かなあ……」

「じゃあ行こっか♪ いやー、期待してたんだよねー。……一番乗りで行ったら十坂(零無)と回れるかもーって」

「……?」

「なんでもないよー?」

 

 意外なことに。あの完全無欠で最強無敵を能ある鷹で隠しながら上手く生き抜いていく十坂真墨をして、苦手な相手というものに五加原碧は分類される。それこそ世界が変わったぐらいではなんともないほど揺るがない優位性だ。対妹用兵器として活躍する相手の本質を、玄斗はまだまだ知りもしない。

 

「おーうおうイチャついてんなあ十坂」

「飢郷くん」

「……誰?」

「生徒会の人」

ああ……どもどもー!」

「やっべえいまので恐怖症悪化しそうだったわ……」

 

 ぐっと心臓をおさえつけながら逢緒が苦悶の表情を浮かべる。心に傷を負った少年に別の方向から向けられる刃の鋭さである。それでも耐えるあたり案外メンタルは化け物なのかも分からない。

 

「どうしたの、こんなところで」

「妹を待ってんだよ。なんか、メシ買ってきてくれるとかで」

「へえ……」

「まあその揚羽さんはいまそこでそっちの妹さん見つけてバトり始めましたけどネ!」

「ああ……」

 

 くるりとふり向けば、遠くに立つふたつの影が見えた。犬猿の仲。竜虎相搏つ。今の三年生が卒業して赤音と蒼唯の立ち位置を注ぐのは彼女たちかもしれない、なんて玄斗は思った。

 

「……なんか、ごめんね」

「いいってことよ。十坂はほら、さっさとそっちの奥方とデート楽しんでこい」

「……えへへ」

「飢郷くん。悪気はないのは僕も分かるんだけどね……?」

「?」

 

 そう、彼は悪くない。断じて悪くない。が、強いて言うなら言葉選びに致命的なところがあった。デート云々はともかく、一介の女子高生に対して奥方はどうなのだろうと。 






クリスマスに被る時期に投稿しておいてクリスマス展開やらない作品があるとかマジ? 聖夜に襲われて限界ギリギリまでやる羽目になる赤色会長とか書こうか(天丼)

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