ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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弱点みたいに

 

 碧と一緒に校内を散策する。本日は文化祭につき、見慣れた母校も別物といった様子。手始めに自分のクラスを覗いてみると、あんがい盛況なようだった。

 

「あ、見てく? あたしはもうシフト終わっちゃったけどー」

「そうなんだ」

「え? なに? 見たかった? あたしのメイド姿」

「まあ。五加原さんなら似合ったろうなって思って」

「あ、あははー……いやー……素直に言われると、その、照れる……」

 

 別に照れなくてもいいのに、とは玄斗の内心だ。乙女心を理解していないまっさらだった少年の名残である。

 

「おや」

「あ」

「あら」

 

 と、入り口でぼんやりとしていたところをひとりに気付かれた。紫の髪は見間違うこともない。生徒会会計担当は、今日も今日とてちゃっかりと以前見せた格好のまま歩いていた。不意に、眼鏡をくいっと持ち上げる。

 

「――お帰りなさいませ、会長。お休みになられますか?」

「あ、うん。ただいま。じゃあ、せっかくだし」

「あ、あたしもあたしもー」

「五加原さんは別席でよろしいですね?」

「ちょっとぉ?」

「? いや、同じでいいよ?」

「…………、」

「…………♪」

 

 玄斗の一言に、六花の目が鋭さを増した。それをニコリと微笑みながら碧が受け流す。間に挟まれた男子は「なんだろう」なんて呑気に首をかしげるばかり。いつか刺される。そう下した白玖の評価はあながち間違いでも無い。

 

「ではお席に案内いたします。どうぞこちらへ」

「ありがとう。……なんか、本格的だね」

「これでも勉強熱心なんです。私は」

 

 きらん、とレンズが光った。紫水六花は学ぶことに関して玄斗を遙かに超える。というのも所詮彼の特性なんて渇いたスポンジみたいなもので、なにもないからこそ無駄に余計なほど吸収できるのだ。もとより吸収性がよくてなおかつ自動で吸い上げるような人間にはいずれ追い抜かれていく。

 

「……学年一位も、ずっとは無理かなあ」

「はい?」

「いや、先の話。たぶんもう、僕には厳しい立ち位置だろうなんて」

「――そんなの認めませんが」

「いたっ」

 

 ぎゅっ、と腕をつままれた。地味に痛い。隣で碧がクスクスと笑っている。六花はどこか不服そうにこちらを見ていた。なんともいたたまれない。

 

「こだわるつもりはなくとも、そう投げやりに片付けられるのは認めません」

「いや……でもね……?」

「なんですか。そもそっちのあなたはまだ一度も玉座を降りていないでしょう。――せいぜいあぐらでもかいてればいいんです。いつか私があなたを越えるまでは、私の目標であってもらいますから。……話はそれからです」

「……そっか。なら、もうちょっと頑張るよ」

「まあ向こうの私とか二位になったこともありませんが。あなたと木下にワンツーフィニッシュとかされたりしてもう我慢なりませんでしたが」

「なんかごめん……」

 

 四位で逢緒相手にマウント取っていた鷹仁だが、あれで成績はとんでもなくよろしい。むしろ三位圏内から外れるのが珍しいほどのものだ。そのあたり気にしていないフリをしておいて実は必死に猛勉強したりするのが彼の敬愛する友人である。

 

「そのおかげもあってこっちとは違ってプライドがズタボロでしたね。ええ。勉強に力入れたところで、ハッ、みたいな」

「……こっちの紫水さんは違ったんだ」

「ずっと二位だったみたいで。木下とかアウト・オブ・眼中ですから。ふっ」

 

 鼻で笑っていた。二之宮赤音生徒会メンバーの仲の良さとも言えない噛み合い具合は現生徒会を受け持つ玄斗としてちょっとだけ尊敬の念を覚えた。やはり彼女は偉大である。おもにその自由奔放さを除いて。

 

「ちなみに私の初対面のあなたの評価を教えましょうか」

「え。あ、うん」

「会長の犬」

「いや待って?」

 

 たしかに赤音の手伝いをしていた時期もあったが、そう思われるのは色々とまずいだろう。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 六花からの「……お、おいしくなぁれ……!」という明らかに間違った(サービス外の)サプライズをもらいつつ、自教室を後にする。ちらりと窓から外を覗けばいまだに争っているらしくふたりの影が見えた。その近くのベンチでは男子生徒がひとりぼんやりと空を眺めている。……止めろというのは、まあ、酷な話だろう。

 

「次はどこいく?」

「ご飯が食べたいかな……」

「いやさっき飲み食いしたばかり……でもまあ、そう言うと思ってたんだよねえ」

 

 ちょっと待ってて、と一言いって碧がなにやら手に提げた袋の中を漁る。桁外れの食欲を想定内と言い切るあたり彼女もまた攻略ヒロインのひとりである。凄いな、なんて自分の都合ながらに感心していると、碧は笑顔で「はい」と風呂敷に包まれたソレを差し出した。

 

「? これって……」

「お弁当。ちなみに手作りね。……あー、目の前で食べられると恥ずかしいので、あとで感想聞かせてもらえると、その、嬉しいかなー……なん、て……」

「……うん。ありがとう。味わっていただきます」

「あ、あははー! ……そっ、そういうことで! うん! じゃ!」

 

 とてて、と逃げるように駆けていく碧を見送って、玄斗はうんとひとつ頷いた。食べ物は大事である。わざわざ作ってくれたのならば尚更だ。思えば、赤音からのモノを渡されたときも、もっと言うべきことがあったように思う。きちんと味わって、きちんと感想を返そう。そう心に決めて落ち着ける場所を探す。となれば、自然と足は階上へ向いていく。

 

「(でも、そっか。もう十二時だ。……そろそろお昼時だし、本当にちょうど良かった)」

 

 食べて、歩いて、また食べて。そういう午前中だが、不思議とそれでも太らないのが少年の体の驚くべき点である。体質なのかなんなのか。時折羨ましがられるコトはあるが、そのあたりまったく気にしないのがある意味彼らしいとも言えた。思えば歪で、不器用で、在り方さえ見えていなかった少年がよくもここまで歩いてきたものだ。行事ごとの最中だからだろうか。そんな、積み重ねた記憶が蘇ってくる。

 

「……あ」

「うん?」

 

 階段を上りきってドアノブをひねった先に、先客はいた。桃色の髪を風に揺らしながら少女はかすかにこちらを向く。桃園紗八。彼女との関わりは――まあ、自分が主ではない。この臆病をひた隠しにしてきた少女を救ったのは、真実どこかの誰かさんだった。

 

「おお……十坂クン?」

「……はい、そうですね」

「ありゃ」

 

 これはこれは、と紗八は笑みを浮かべながら半歩後じさった。距離にして五メートル。大分離れてはいるが、無意識での行動なのだろう。実際、彼女はちょっとだけ眉尻を下げていた。

 

「……どうにも、好きにはできないみたいで」

「そっかあ。……でもまあ、そうだね。君と比べて彼は……ああ、うん。薄かったからねえ……」

「……薄い、ですか」

「うん。いやあ、ねえ。だからこそなんだろうねえ……私は、君じゃなかったから」

「……申し訳ないです」

「いやいや……謝る必要なんて一個もないよ?」

 

 誰も悪くない、君も悪くない。そう言ったのは慰めでもなんでもない。真実、桃園紗八は理解している。自分にとっての特別は、透き通ってこそいれど、そこまで綺麗なモノでもないのだろうと。

 

「……順序が違えば、君だったかもね」

「僕、ですか?」

「うん。……二之宮さんから、ちょっとだけ聞いてたから。うん。きっとそんな君なら、私はなんともなかったのかな。まあ、もしもなんて意味がないコトなんだけどねえ」

「……そういうのは、苦手ですか?」

「そうだね。苦手。だって、ないものをねだるのは、しんどいよ」

 

 あるがままを周りに押し付けたのが二之宮赤音だ。あるがままを己の世界で貫き通しているのが四埜崎蒼唯だ。ならば、あるがままを変えても生きようとしたのが桃園紗八になる。強さでは比べものにならない。けれども、心の頑強さでいえば彼女にだって分があった。きっとそこだけは、ふたりにも負けず劣らずだ。

 

「……ねえ、十坂クン」

「はい」

「会長クンのこと、お願いね。……あの人は、たぶん、君の側じゃないから」

「……僕の側」

「そう。……私たちと、同じなのかもね」

 

 それは、玄斗にとってちょっと衝撃的な。でも、あまり驚かないぐらいすんなりと入りこんできたような。

 

「お願いね。その点はさ、十坂クンが一番、分かってると思うんだよ――」

 

 ハリボテ。幻想。脆く崩れていく砂の作り物みたいに。見た目だけはしっかりしていても、中身が十分なぐらいにはなっていない。ならば間違いなく彼女の言うことは真実だ。――俺と僕では、見ている景色が違う。






>僕と俺
救われてる人間と救われていない人間はどっちが強いかなんて単純な問題


>ハーレム玄斗
死ね(直球)

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