ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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良しも悪しも

 

 かつての父親と瓜二つな男をともなって、一年生の教室に向かう。文化際は昼を過ぎてもなお冷めやらぬ、といった盛り上がり。行き交う生徒たちはそれぞれが楽しんでいるように見える。やれる分だけやった甲斐はあった、と玄斗は内心で胸をなで下ろした。

 

「……君は、我が子と会ったことがあるのか」

「はい。何度か」

「そうか。……どうだろう、学校での、彼女は」

「よくしていると思います。とくに、これといった問題がある、なんて話も聞きませんし」

「……ならば、良いのだがな……」

 

 心配だ、と仏頂面で語る男は本当にそっくりそのままだ。重なって見える部分がある。歪んでしまった原因があるのだから、本質的にはそっちなのだろうか。けれど、そうなるとすこしおかしい。明透零奈が救われるほどの何かが過去に起きていたのは間違いない。ならば、彼はどのように道を修正したのだろう。

 

「……娘さんとは、仲が良いんですね」

「いや……以前までは、それほどでもなかったのだ。私が問題でな。ただ……」

「ただ?」

「……恥ずかしい話、酒の席で殴られてしまったのだ。知らない男にな……おまえほど愚かな奴も居るまいと、ちょうど居合わせたそいつに。……思えば、君みたいな髪色をしていたか」

「……その人、一人称が変わりませんでした?」

「ああ、変わったな。……知っているのか?」

 

 訊かれて、思わず玄斗は苦笑した。いや、なにをやっているのだろう。あのダメ親父。おそらくは古い鏡を見せられて、我慢ならなくなったのであろうが。

 

「……ちょっと、最悪の想像がよぎって……」

「む? ……まあ、なんでもいいが。恨んでいるわけではないよ。ただ、それで目が覚めただけの話なんだ。……そこまでの衝撃で、ようやく、心を見つめ直せた」

 

 むしろ感謝しているという有耶に、玄斗はやっぱり苦笑い。本当に申し訳無い。うちのクソ親父が本当に申し訳無い。なんだかもう本当に申し訳無い。やるにしてももうちょっと、なんていうか、スマートというか、賢いやり方があった筈なのだが。しかもそれを実行できるだけの実力を持っているのが彼の筈なのだが。

 

「……私は結局、あの子が大事なのだろうな。それだけは、間違いないのだと気付いた。だから心が揺れるのだ。……あの子のひとつひとつに、感情が触れるのだよ」

「……なんか、素敵ですね。そういうの」

「そうだろうかな。私は特別、そう思ったこともないよ」

「いいえ、素敵です」

 

 言い切る玄斗に、有耶がすこしだけ目を見開いた。どこかの馬鹿親父がそれに気付いたのはすべて失ってからだ。そんな単純な道理にすら行き着かないものだった。ならば、すこし早めに気付いた彼の想いが素敵でないワケがない。そこは、十坂玄斗である以前に明透零無であるなら譲れない。

 

「七美さんもそう思わない?」

「うむ。素敵だな」

「君たちは……大人をからかうものではないよ」

「「いえ、そんなことは」」

 

 意図せずふたりでハモって、顔を見合わせながら噴き出した。似たもの同士の玄斗と七美に挟まれて、似たような男がもうひとり。血も縁のつながりもないが、感じられるものが無いかと言えば別だ。

 

「……明透さん」

「……ああ。なんだい、十坂くん」

「僕が、言えたことではないんですけど。――きっと、離さないであげてください。案外ひとりぼっちは、寂しいんです」

「……そうだな。それは、成し遂げたいものだ」

 

 暗い病室。静かな世界。その果ての先を知らない彼女なら、壊れることはきっとない。誰も頼れない、何にも縋れない、壊れかけた身体の心地さえ知らないのなら、明透零奈はその感性を失わないでいられる。どこかの阿呆みたいに、透き通ってなにもない砕けたガラスの花瓶だとか。もはや戻ることのない残骸だとか。そんなものに成るコトもない。

 

「……良いことを言うな、玄斗。そうだな、ひとりは、寂しいな」

「うん。でもこうやって隣で話してるだけで、ずいぶん違うだろう?」

「そうだな。だから、やっぱり良いんだ。……良いな、良いぞ、玄斗」

「?」

 

 〝――おまえが()()()なのだろうな、私の〟

 

 何にも頼らない。彼女自身が、素直に美しいと思った何か。それに当て嵌まるものがある理由なんて、考えなくてもただひとつ。橙野七美自身の答えだ。手に掴んだ温もりの正体は知らなくても、それはきっと言語化できる感情のひとつで。

 

「――だから良いのだ。やはり玄斗は、玄斗でなければな」

「……そうだね。僕は、僕でないと」

 

 うなずく少年に、少女は変わらぬ笑顔を見せた。本当にそのとおり。自分は自分でなくては意味がない。……キーワードには、なるのだろうか。誰にとってかは言わない台詞を、繰り返すように胸中で回す。届いているかは、まったく分からない。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「零奈」

「……お、お父様ッ!?」

 

 教室についた瞬間、生徒の波が一瞬で開けた。その中央に明透零奈が立っている。一年D組の出し物はたしか某大手コーヒーチェーン店を模したものなので、接客中ということになるのだろう。……その接客の様子が、なかなかに壮大だったが。

 

「な、なにをしにいらっしゃいまして……!?」

「おまえの様子を見に来た。今日が文化際と言っていたろう。スケジュールは三時間あけてある。存分に見させて貰うぞ」

「い、一企業のトップがなにをお考えですか! お戻りくださいまし!」

「もう遅い。コーヒーをひとつもらえるだろうか」

「ああもう……! 少々お待ちいただけます!?」

 

 どたたーっ、と教室の奥へ走っていく明透少女。それを見た有耶がくすりと微笑むのを、玄斗は見逃さなかった。……なるほど。どう足掻いても父親はそういう方向に落ち着くらしい。むしろ変にこじらせていないだけちょうど良いとも言えた。過去の失態からそれはもう過保護になっているうちのアホ親父と交換してもらいたい。

 

「……やっぱり仲がよろしいですね、明透さん」

「いいや、まだまだだな。……最近になってようやく脛を蹴るようになってきたのだ。将来はさらっと毒を吐いてもらうぐらいでないとな?」

「どういう願望ですか……」

「いや、それぐらいが良いという意味だ。……私は私で、あの子に背負わせすぎた」

 

 ……なるほど、なんて内心で繰り返す。なんだか本当、明透有耶だ。きっといまの彼が自分たちを見れば羨むのだろうか。けれども玄斗にとっては現状の彼女と彼のほうが良い光景に思える。どちらも無い物ねだりという点では同じだった。

 

「……あ、あの」

「うん? ……って、ああ。黄泉ちゃん」

「お、お疲れさまです、先輩っ……その、せ、先輩も、どう、ですか……?」

「ああ、いいかも。どう? 七美さんも……って、あれ?」

 

 くるり、と振り返れば橙色の少女がいない。ぽっかりとその場には空白。一瞬にして姿が消えていた。まるで狐にでも化かされた気分だ。

 

「あ、その、後ろにいた方なら、さっき……ふらっと……」

「……ふらっと?」

「どこかに行ってました……はい……」

「(…………いや、七美さんらしいけども…………)」

 

 もうちょっと、こう、落ち着いてもらいたいと言うか、なんというか。結構迷子になりやすそうな彼女が心配になるというか。でもなんだかんだで上手くいきそうなあたり同じ波長は馬鹿にできないというか。

 

「……先輩は、零奈ちゃんのお父さんと、お知り合いなんですか?」

「ちょっとね。さっき廊下で会って、そこから。でも、ずっと前から」

「……? 意味が……?」

「分からなくて良いんだ。たぶん、それが分かるのは僕と、この学校ではあともう三人かな」

「??」

 

 父親も含めれば四人になる。が、ひとりは玄斗にとっていまだ戻らぬ人。はじめて伝えた彼女こそ、鋭いのだから全部気付いてもおかしくない。

 

「……僕もコーヒーをお願いしていいかな。できれば、微糖で」

「あ、はい。分かりましたっ」

 

 とててっ、と小走りで黄泉がかけていく。玄斗は有耶からすこし離れた席に腰を下ろした。向こうを見れば、零奈が「ど、どうぞ……」なんて頬を赤く染めながらカップを差し出している。ニヤッと不敵な笑みを浮かべる男性は、たぶん、間違いなくにやついているのだ。別におかしなコトを考えているのではなくて。

 

「(苦手だよね、本当……笑うの)」

 

 あと会話も、とはどちらも玄斗に返ってくるブーメランだ。魂レベルの呪いである。親子の縁である。きっと自分の不器用も父親が原因に違いない、と玄斗は確信を持った。

 

「……家のコーヒーのほうが美味いな」

「あの、なにを当然のことを言っていますの……?」

「だが悪くない。……我が子の制服姿も拝めたことだし、な」

「あのあの、お父様ってばどこかに頭をぶつけていらして?」

「私は極めてまともだが?」

「極めておかしいから言っていますのに……! って、あ、玄斗様」

「……玄斗()……?」

「(あ)」

 

 これ面倒くさいやつだ。こちらをじろっと見てきた男のほうを見ないようにして、コーヒーと共にやってくる黄色い後輩を待つ。自分の子供に対する異性関連の面倒くささに関しては、すっかり分かりきっている彼なのだった。






>父上
居酒屋でやけ酒してたら「妻が死んでつれーわーなんで子供が生きてんだよはあマジはあ」とかいう独り言をあろうことか一番聞かれちゃまずい奴に聞かれてた。最近の話ということはもちろんあの人。え? なに? よく見たら昔の私じゃんよっしゃ一発いっとこ! の感覚で頬をぶち抜かれて説教くらったくせに穏便に済ませてくれるなんて良い人ですね(目逸らし)

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