ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
気付けば公園のど真ん中で立ち尽くしていた。寂れた敷地内に子供はおろか人の姿もない。ただひとり、不似合いな制服を着こんだ少女だけが佇んでいる。どうしようもなくて、白玖は静かにベンチへ腰を下ろした。なんなのだろう。考えても、答えどころか疑問すらままならなかった。
「(私、は……)」
他人のコトはもちろん、自分のコトさえも分からない。否、分かっているけれど、見ようとはしないのか。なにを話していたのかは分からない。ただ、彼が蒼髪の少女とキスをした瞬間――とても耐えきれなくて、逃げ出してしまっただけ。
「(なにが、したいんだろうね……)」
それでなにが変わるわけでもないだろうに、と内心で自嘲する。結局、なにもかもが分からない。それだけが事実だった。白玖には十坂玄斗という人間が、その行動原理が、なによりその心が、まったくもって分からない。
「(まあ……最初から、分かってたコト、なんだけどね……)」
思えばはじめて出会ったときからそうだ。十坂玄斗という少年は、一から十までそれそのものが意味不明だった。なぜ、と問いかけなかったときはない。不思議な人、というのが白玖の彼に対する評価だ。不思議なぐらい近付いてきて、不思議なぐらい親しくて、不思議なぐらい落ち着く、不思議なぐらい安心できる人。
「(……なんで、なんだろう……)」
そんな人なのに、心に刻まれてしまった。
「――――――っ」
好意はそれこそ明け透けで。鈍いだなんだと他の女子から言われる白玖ですらそれとなく察するほどだった。だから、たぶん、この人はそこまでの物好きなのかなんて思ったりもした。それで、どうだったのだろう。なにをどうしたくて、どれをどう掴みたかったのだろう。分からない、分からない。いまの白玖には、なにも、考えられるものではないように思えて仕方ない。
「(……そこまでじゃ、ないって……思ってたのになあ……)」
所詮は知り合い。ただ付き合いがよくあるだけの、見知った仲。そう思っていたのが、まるっきり勘違いだった。どうにも胸が苦しくてしょうがない。ならば、答えなんてひとつしかなくて。結局、他人に唇を取られて傷付くぐらいには、彼のほうに心が傾いてしまっていたのだ。
「(……十坂、さん……)」
名前を呼ぶ。返事はない。当然のこと。声にも出していなければ、彼がこんな場所まで来るわけがない。壱ノ瀬白玖はたったひとり。あのときからずっと、たったひとりだ。両親が死んで、なにもなくなって、なにも感じなくなって。どうでもよくなってからずっとひとりでいた。なら、それに戻るだけ。それはなんの問題もなくて――
「
――今し方発生した問題に、心が震えてしまう。
「…………とお、さか……さん……」
「探したよ。……でも、ここだったんだ」
奇縁だ、と玄斗があたりを見渡す。ここではないどこか。遠く離れた彼の世界で、ふたりがはじめて交わった場所である。今はもうない文字の痕と記憶は、しっかりと彼だけが覚えている。……そう、彼だけが。いまの壱ノ瀬白玖に、そんなモノはない。
「……なにしに、来たんですか」
「誤解を解きに来た」
「っ……なにが、誤解、なんですか……?」
「僕は君が好きなんだ、白玖」
「嘘っ!!」
反射的に叫んでいた。でも仕方ない。そんな薄い言葉をかけられたところで、惨めさが増すだけだった。実際に見ている。見てしまっている。玄斗があの少女に迫られた瞬間、拒絶しようともしなかったのを。
「だって、あんなに……」
「あれは、違うんだ。本当だよ。僕は、君が一番なんだ」
「……なん、なんですか。今更」
「…………、」
「そんな、こと、言われても……っ、私は、信じられませんから!」
「……そっか」
そうだ。信じられるわけがない。自分がことが好き? あれは違う? 一番? なんとも馬鹿馬鹿しい。あんな
「じゃあ、どうすれば信じてもらえる」
「……どう、って……」
「何度でも言う。僕が好きなのは君だ。それ以外がどうでもいい、とまでは言えないけどね。でも、大事なのはひとりしかいない。優先順位がなによりも勝るのはひとつしかない。それだけじゃ、ダメかな」
「それ、は……」
心が震えたような気がした。白玖ではない。玄斗のほうの、中身が揺れていた。同じにしても、まるで正反対。それ以外を要らないとすべて切り捨てられる〝俺〟と、それ以外にも軽く手を伸ばしてしまえる〝僕〟の差だ。決して埋まらない、心の差。
「……言うことだけなら、なんとでも」
「じゃあすればいいのかな。君の言うことを」
「え……」
「なんでもするよ。白玖。言えばいい。なんだって、してみせるよ」
「……なんでも、って……私が死ねって言ったら、死ぬんですか……!?」
「……ああ。なるほど。君は誤解している、白玖」
自分に価値はない。そう思っていた人間がどこに価値を見出すのか。簡単なコト、それは彼自身の心に映った望むべきなにかだ。ならば、
「僕は
「――――――」
本当に、なんなのだろう。この男は。
「どうする? 僕は、絶対、なんでも言うことを聞く」
「……わ、私がっ……で、でたらめを、言ったら、どうするんですか……!」
「それでもいい。どうなってもきっとね。僕は信じてるんだよ。……君は、白玖だ」
重く、深く、それでいて軽く。彼は少女の名前を呼ぶ。なによりも強い意味を込められた、ひとりの少女の名前を。
「なら、なにも心配する必要はない。壱ノ瀬白玖は、そういう人間なんだ」
「……っ、そん、なの……!」
デタラメだ。なにもかもがデタラメだ。彼がなにを知っているのか。白玖はそれが分からない。なんでも分かっているようで、なにもかも分かっていない。所詮はハッタリ。真実なんてそれこそ噂どおりの可能性だってある。女泣かせの調色高校生徒会長。そんな話を、半信半疑で聞いたことはあった。
「……じゃ、じゃあ……!」
「……、」
「わ、私にだって、キス、できますよね……!?」
「よし、やろうか」
「はいい!!??」
食い付きが尋常じゃなかった。ずざっ、と白玖が一歩後じさる。
「なっ、な、な――!」
「? どうしたの。しないの?」
「なんでそんな乗り気なんですか!」
「え、したいから」
「欲望に忠実……!」
そりゃそうである。白玖は知らない。なにも知らない。この少年が見境ないように見えて、コレと決めた誰かに対してのみ自分の欲望を解放するコトを。
「……っ、や、やっぱり無しです! 他! 他で!」
「いや、有りだ。それでいい。やろう」
「ちょっ……だ、だめですから! 許しませんから! そん、なの……!」
「ここまで言っておいてそれはないだろう。大体、白玖は分かってないんだ」
十坂玄斗の、明透零無の、隠された本性を。
「あ、あの……っ!?」
「僕がどれだけ我慢したと思ってる……目の前に君がいるんだぞ? 自分の恋人がいるんだぞ? なのに手も繋げたいとかどうかしてる。僕は僕なりに頑張って君の隣に立ったのにそれをワケのわからない状況でぜんぶブチ壊れて頭にこなかったわけがないでしょ。まあいまの白玖も可愛いからそれでプラマイゼロなんだけどやっぱり白玖の可愛さはプライスレスっていうか白玖であって白玖だからこその白玖っていうかもうすごい白玖なんだよ。僕は正直もうやばい。するって言われたらするよそりゃあする。前言撤回とかないよ先に言ったのはそっちだ。ならいいじゃないか僕と白玖だぞなんでそれに躊躇う必要があるんだよ大体僕はなにがどうなっても白玖の彼氏だからな……!!」
「え、いや、ええ……あれえ……!?」
〝やべえ。〟
その一言にすべてが集約されている。なにがなんだか言っている意味が分からないし理解もしたくないが、とにかくこの少年は凄まじい。十坂玄斗は壱ノ瀬白玖にベタ惚れだった。その心の枷を解き放てば、こんなものである。
「――だから、しよう。白玖」
「は!? いや、待っ……!」
「待たない。いいか、もう言うぞ。白玖。君は僕のものだからな」
「なっ――――」
そうして、力強く、彼のほうから誠心誠意、心を込めて、唇を奪われた。
◇◆◇
『――玄斗』
『ああ、もう――』
『ただいま』
『うん。やっぱりブレザー姿の玄斗はエッチすぎるよ』
『……そうだよ。玄斗は約束、破らないんだよ』
『ね、玄斗。……私を絶対、幸せなままで居させてね』
『玄斗が隣に居るだけで、私は幸せなんだから』
『だからあ……言ったじゃん。私はぜんぶ知ってますよーって』
『玄斗らしく生きていけばいい。玄斗の思うように、生きていけばいいんだよ。そのために私がいて、他の誰かがいて……なにより、玄斗がいるから』
『玄斗?』
『玄斗』
『玄斗――!』
◇◆◇
「……玄斗……?」
目をしばたたかせて、眼前の少女が言う。思わず泣いてしまいそうなほど優しい声音。懐かしすぎる耳朶を震わせる響き。少女の瞳には既知の色がある。それだけで、もう一度キスを落とした。
「んむっ!?」
「――っ、ああ、白玖だ。白玖だ……白玖だ……! あは、あはは! そっか! そうだ!すっかり忘れてた……! よかった、ああよかった。後悔なんてないよ。やったぞ! 白玖だ! あはは、ふ、あは、あははは――!」
「えっ、いや、ちょっ……ワケが分かんないんですけどぉ!?」
「白玖ぅー!」
「う、え、あはぁーーー!!??」
〝三回目だとォ――!?〟
あたまがふっとうしそうだった。なにがどうなってやがる。
「白玖、白玖……っ」
「ああもうなんなの! 好きなのそんなに!? 私のこと!?」
「好きだ! 世界で一番君が好きだ! やっぱり僕には白玖しかいない!」
「ならば良しっ!」
〝いや良いのかよ。〟
自分に自分でツッコんでしまった少女をよそに、玄斗が笑顔のままぎゅっと抱き締める。久方ぶりの白玖だ。とても懐かしい白玖だ。けれどもこれでこその白玖である。こうでないとという白玖である。白玖である。それはもう白玖である。
「あははは! あははははは! 最っ高だ! もう、なんていうか! なにもいらない! 白玖以外なにもいらない! あははははは――!」
「……ああ、もう……玄斗は本当、ワケ分かんないんだから……」
笑う少年に、ようやく少女も呆れながら笑い返す。白と黒。交わりあっても表裏。それが揃ったのは、奇しくも同じ公園で。ふたりは長い間、抱き合い続けた。今までの時間を埋めるように。いつまでも、いつまでも――
◇◆◇
『えー……というわけで、これにて全日程を……』
「ちょーっと待ったぁ!」
『――っ……またかあんたはァ! 二年連続だぞこの野郎!!』
「ここじゃ一年目よ! ほらそこでマイク取ってないでさっさと来なさい木下! ベース六花! キーボード九留実! ギターボーカル私ぃ! ド派手にやってやるわぁ!!」
『だああくそふざけろ! 玄斗! てめえマジ許さねえからな! こんな地獄を二度も体験したくなかったぞ俺はァ!!』
「無駄口叩くなさっさと来る!
『ダメっつってんだろ!?』
「一曲目! 【実は僕の友達は】!!」
『その曲知らねえ!』
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No color//攻略対象:????//難易度//??
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喫茶店//攻略対象:????//上昇率//??
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ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった2
To be continued...
次で最終章。張りきっていきまっしょい。