ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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心の在処

 

 ――その日は本当に、ただの偶然だった。偶々姉の家の近くまで来て、偶々家族の顔でも見に行こうかなんて気になって。関わらなくていいと意地を張る姉のこともあって、ちょっとだけ悪戯心なんてのも芽生えた。合鍵はいざという時の名目で持っていたので、家の中に入ることはできた。

 

『……広那、ちゃん……?』

『…………ぁ…………』

 

 それが、はじめて見た成長した彼女の姿だった。

 

『(なん……だ、これ……)』

 

 どこにも、誰もいない。娘を連れてどこかへ行っているのかとも思えば、妙に人の居た痕跡が多い。気になって散策してみれば、奥の部屋でそれを発見した。手足を縛られて、およそ死なない程度に計算し尽くされた状況の最中。こちらを怯えた表情で見る少女に、まるで、現実感がなかった。

 

『ぁ……ぅぁ……』

『……っ』

 

 気付けば、彼女の拘束を解いていた。なにをしているのだろう、なんて素直な疑問も湧いてこないほどの混乱で、ただそれだけはしなければと思った。なにせ、考えるまでもなく。無視しろだなんだと言ってきた姉はともかく、自分にとっては大切な人間のひとりに区分されるのだとそのとき分かった。……愚かだ。同時に、どうしてとも。尊敬していたはずの姉が、こんなコトをするはずがないのに。

 

『――なんだ、来ていたのか』

 

 そんな夢を、どこで見ていたのだろう。

 

『ああ、そいつは放っておけよ? もうすこしで完成するんだ。いや、サプライズだったんだがな? ほら、もう一月でおまえの誕生日だろう。だから、そこでお披露目しようと思って』

『……なにを、言ってるんだ……?』

『だから、話しただろう? 実際に居るとどうなるかって。おまえが言ったんじゃないか。……まさか、忘れたのか?』

『…………そ、そんなコトのために、この子を……この子に、こんな、酷いことをしたっていうのか……!?』

『……なにをそんなに驚いている。良い素体じゃないか。生まれて幼い。自我もなにも成熟する前だ。壊すならそこしかない。でもって、すべて作り上げれば見事完成だ。そいつは私の最高傑作になるよ』

 

 ――馬鹿げている。純粋に、どこまでも、怒りが湧いて仕方なかった。非道な行いをしている姉に。いまの状況になってしまった現実に。なにもしてやれなかった自分に。ただただ、怒りが湧いて仕方なかった。

 

『……おかしいよ』

『うん?』

『……姉さん、それは、おかしいだろう……』

『はあ? なにを――』

『……この子は、僕が預かる』

『! おい、ちょっと待て! それは困るぞ! なにより私の()()をだな――!』

『この子は、姉さんの作品なんかじゃないだろう!』

 

 だから、すべては自分の責任と言っても良い。最初から、姉に流されずに関わっていればよかった。すべて、この子の幸せを思えば。どこまで拒絶されようと、無理にでも姉を押し退けて関わってやれば良かったのだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「…………、」

「…………、」

 

 ずずっとお茶を飲みながら、玄斗は眼前の男性を見る。飯咎優慈。地味目な黒髪と眼鏡が特徴的な彼は、ニコニコしながら彼の対面に座っている。広那は夕食の準備を台所でしている最中。狙わずとも、男ふたりの話し合いとなった。

 

「……そうか。姉さんと会ったのか」

「はい。……あの、狭乎さんって……」

「うん」

「……いつもは、その……なんか、怖いっていうか……変な感じ、なんですか……?」

「おや、難しい話をするね。姉さんはちょっと、切り替えが異常というか……たぶん考え方が根本から違う。あの人はね、普通とはかけ離れてるよ」

「……そう、なんですか……」

「うん。だって、そうじゃない? 普通は自分の娘に、あんな傷は負わせないよ」

「っ!」

 

 湯飲みの中にお茶が跳ねた。その反応で分かる部分は全部くみ取ったらしい。うんうんと優慈がうなずいている。……姉弟揃って、とんでもないのだけは分かった。

 

「その様子だと、広那ちゃんの体の事情は知っているみたいだね。まあ、どうやって知ったのかは、聞かないでおくけど」

「…………、」

「あれで結構、マシにはなってるんだ。僕が見つけたときには、それはもう酷い有り様でね。火傷のあとから皮はズルむけてるし、血も固まって皮膚についたままで。本当、死んでないのが奇跡だった。あの姉さんじゃなきゃ、とっくに手遅れになってたな」

「……どうして、狭乎さんはそんなこと……」

「ああ、それは……」

 

 と、優慈がキッチンの広那を盗み見る。彼女は依然として料理を続けていた。こちらの話を聞いている様子はない。暗に、聞かれたくない話というのが分かった。それを、わざわざ玄斗に話してくれるというコトも。

 

「……僕のせい、なんだよ」

「……優慈さん、の……?」

「うん。ちょっとした、世間話のついでだったんだけどね。本当に、些細な一言だった。……あんなこと、本気に取られるなんて思わないよ」

「…………、」

「だから、姉さんだけが悪いんじゃないんだよね。僕も、十分、立派な悪人だ」

 

 意外と言えば、意外すぎる一言で。けれど、そう言う彼の表情は真剣そのものだった。あくまで自分が悪いと言い張る言葉は、広那はおろか狭乎まで庇うようでもある。きっと、本人にその気は無くとも。

 

「気付かなかった。姉さんの言葉を鵜呑みにして、見ようともしなかった。……経歴なんて関係ない。僕の大事な、娘だったのにね」

「……え?」

「……広那ちゃんはね。僕と、姉さんの娘なんだよ。実際の」

「――――!」

 

 ばっと、勢いよく広那のほうを見る。……たしかに、狭乎と、彼と、それ以外のなにも感じさせるコトはない容姿ではある。そうではあるのだが、それは。

 

「……驚いた?」

「え、いや、はい……」

「だろうね。……うちの姉さん、頭のネジがはずれてる人でね。お酒の席だったなあ。飲んでて、途中から盛られてたみたい。これでもお酒、結構強いんだ。それが気付いたら目の前で裸の姉さんがいてさ。それで、なんて言ったと思う?」

「……なんて、言ったんです?」

「おまえとの子が一番優秀になる、ってさ。……いや本当、どうかしてるよあの人。そんな気なんて僕は一切ないのに、ただ遺伝子がうんたらかんたらって……理屈だけで子供産んじゃった。弟との子供、だよ?」

「……それは、なんとも……」

「凄いよね。……僕はさっぱり理解できなかった。だから、気にするなって。私だけで全部面倒を見るって言われたときに、ちょっと、ほっとしちゃったんだ。……馬鹿だよね。曲がりなりにも自分の、子供なのに」

「…………、」

 

 如何せん、その話題に口を挟むのは難しい。玄斗は学生だ。こんなところに来る前ですら、病気で若く死んだ少年だった。自分の子供云々という話には、到底ついていけるコトではない。

 

「……なんだかんだで、僕にはすごい優しい姉さんだった。なんでも出来て、頭も良い。要領なんて尚更。だから、姉さんなら大丈夫なのかなって、そう思ってた」

 

 本当に愚かだと、繰り返すように優慈が自嘲する。

 

「本当にボロボロの姿を見て、やっと気付いて。手遅れには、ならなかったけど。でも、無くなったものが沢山あるんだよ。僕がさ、姉さんのことを無視して、ちゃんとこの子と最初から向き合っていれば……ぜんぶ、うまく行ってたかも知れない」

「優慈さん……」

「……だから、僕も悪い。それは違いない。いや、僕がぜんぶ悪いって言ってもいい。それぐらいだ。……なのに、姉さんを許せないのは、身勝手だろうね」

 

 ずずっと、優慈がお茶をすする。彼の話は、彼自身の思いの丈だ。なにをどう考えているか、というものでもある。けれど、肝心の情報が伏せられている。

 

「……その、結局」

「? うん」

「どうして……狭乎さんは、その、彼女に……」

「……それは言ったよ。ただの世間話のついで。本当に、ただ思ったことを口にしただけだった。それを見せようとしたんだろうね。姉さんは、自分の子供を実験材料にしたんだと思う」

「……実験、材料……?」

「僕も信じられなかったけどね。でも、広那ちゃんを見てるとそうとしか思えなかった。実際、姉さんもそう言ってたから。……ね、十坂くん」

 

 ことりと湯飲みを置いて、優慈がじっと玄斗を見る。暗い、昏い、深淵を思わせる瞳で。

 

「意識のない人間がいたとして、人らしい行動を振る舞う。見た目でも中身を覗いても区別はつかない。そんなものが、存在できると思うかい?」

「え、っと……?」

「心がない人間が、心があるように行動する。誰もそれに気付かない。怒りも、悲しみも、憎しみも、表すことはあっても実際にそれを感じることはない。そんな人間が、本当にこの世に存在すると思う?」

「……思いません、けど……」

「そっか。でも、それで結論づけない人も居るんだよ」

 

 言って、いま一度優慈が広那のほうを見た。心のない人間がいない……なんて証拠はひとつもない。けれど、生きている以上はなにかを感じるのが当たり前だ。心の壊れた人間はいても、最初から持たないというのは無いように玄斗は思えた。

 

「……そんな会話から、こうなるとは思わないよ」

「…………、」

「ましてや、さ。自分の娘を作り替えようなんて……誰が、想像するっていうんだ……」

 

 ぐっと、湯飲みを握りしめる手に力が込められる。ふと、玄斗もキッチンの広那を見た。彼女はとてもひとりの少女らしく、鼻唄を歌いながら料理ををしている。その姿はとても似合っている。……だからこそ、なんて理由にもならないが。それはきっと、きちんとした人間としての姿だとも思えた。およそ、心の大半が壊れていたとしても。





あかん筆が乗って仕方ねえ……

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