ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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色がない人

 

『ちょっと、姉さん大丈夫』

『あー……大丈夫、大丈夫……』

『いや、大丈夫じゃないでしょ……』

 

 色々あっても、姉弟仲はそこそこのものだった。優慈と狭乎は時折サシで飲んでは、アルコールに強い彼が姉を家まで送り届ける。それまでにするのはたわいもない会話で、最近仕事がどうだとか、娘の様子はどうだとか、そんな感じ。

 

『……優慈ぃ……おまえは、本っ当……怒らないなあ……』

『いや、いま絶賛怒りそうなんだけど……』

『私がぁ……っ、おまえのこと、逆、ふ、ふふ……逆レしたときも、そうだけどなあ……もっと、感情をだなあ……』

『それ記憶が見事に吹っ飛んでるんだけど……姉さんの薬で』

『あれは強烈な奴だからなあ……』

『本当になに盛ったの……』

 

 狭乎曰く、「一番私と相性がよくて優秀な遺伝子はおまえしかいないだろう」なんてワケの分からない理由の行動だった。姉らしいと言えば姉らしいあたり、本当にどうしようもないのが余計に。

 

『というか、感情表現ぐらいはしっかりしてるよ? 僕はほら、なんだっけ。哲学的ゾンビとか、そういうのじゃないからね』

『むー……? 優慈、おまえ、調べ物でもしていて知ったなあ? 昔からのクセだなあ。おまえ、知った言葉はよく使いたがる』

『あはは……』

 

 図星だった。この姉には敵わない、と思わせる鋭さにちょっとだけ引く。

 

『だがなあ、違うぞ。優慈。いいか? 哲学的ゾンビっていうのはな――』

 

 ここで彼は、彼女にそういうちょっと小難しい話題を振ったことを後悔した。この姉、自分の得意分野でもないのに頭が回るせいかよく喋る。挙げ句のはてには議論なんて持ち出してくるので、そこは優慈も「あーはいはいそうだね」なんて軽く返すしかなかった。酔いの回った頭で真面目にそんなコトを考えろというのは、些か酷だ。

 

『つまりだなあ……って、おい。聞いてるのか』

『聞いてるよ……でも、実際どうだんだろうね。そういう人って、居たらどうなんだろう』

『……試してみるか?』

『いや、試すって……試すもなにも、分からないんじゃどうしようもないんじゃない?』

『いいや、価値はあるぞ? ないならそれこそ作れるかどうかだ。……楽しみに待っていろ。いま、ちょっと面白いことを思いついた』

『……?』

 

 それが、すべての始まり。彼女が娘に手を出して、彼がなにも知らずにいてしまった切欠。ちょうど、飯咎広那が五歳になった頃のことだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 なにをどう言えばいいのかは、理解している。

 

『いってらっしゃい、お父さん』

 

 なにをどう動けばいいのかも、理解している。

 

『……ごめんなさい』

 

 なにをどうすればいいのかも、理解している。

 

『……うん。分かった』

 

 でも、その行動に。言葉に。すべてのものに、付随する感情があるようでない。笑って、泣いて、喜んで、人らしく生きるのに、心だけが綺麗なぐらいに存在しない。思い返してみれば、そんな人間が一時期居たような気がした。偶然の積み重ねによって生まれた、十坂玄斗が酷似している。

 

「(それでさえ、違うだろうけど……)」

 

 彼女が自分に見た()()というのが、なんとなく察せた。飯咎家からの帰り道。優慈から聞いた話を総評すれば、狭乎の目指した広那の結末こそ、それに近かったのだろう。もっと完璧で、もっと人間らしい。そんな少女が、本当に出来上がっていたのだろうか。

 

「(……いまの飯咎さんを見ていると、そんなの、無いように思えるけど……)」

 

 勉強はできるが、玄斗自体そこまで頭の回転が良いわけでもない。すこしの考え事でファンが唸るほどに回しまくる思考回路だ。おそらくは今回の件について真剣に考え出したらショートする。

 

「(……〝俺〟は、このことをどこまで知っていたんだろう)」

 

 だから、考えるのはそこだった。託した、というのならその部分にあたるのだろう。勝手に託されたとも言うのが玄斗にとって頭を悩ませる問題で、こんなときに限って体調はすこぶる良い。本当、今までのモノが嘘みたいに。

 

「(ああ、それだけ君の願いってことか。……彼女が、大事なんだろうね)」

 

 玄斗にその記憶はない。一体どうして〝俺〟が彼女にそこまで執着して、どのようにして心を向けたのか。そのあたりが、なにをどう願っても分かりはしない。それでいて、解決だけを託されている。……そこに、ちょっとした苛立ちは覚えた。

 

「(なんだ、〝俺〟……! おまえ、それは違うぞ……)」

 

 人に言えた義理はないが、玄斗としてはそう言うしかない。十坂玄斗にとっての壱ノ瀬白玖が唯一無二なように、彼にとっての彼女もそうだったのではないだろうか。自分の心を揺るがした張本人というのは、それだけの想いが生まれる。それこそが、彼にとっての飯咎広那ではなかったのだろうか。

 

「(でも、相当なのは分かるよ。どうりで、藁にも縋りたくなるわけだ)」

 

 はじめから壊れていたのが玄斗(零無)だとすれば、徹底的に壊されたのが広那だ。彼女の口ぶりからして、幼い頃の自分なんてものは欠片も残っていない可能性だってある。真実、一度砕け散った心の在処がないということ。言うなれば、色がない人。持っていた人間としての色を無くされた、本当に一度何も無くなった少女。

 

「(だから、救いたかったんだな。俺は。そうだと分かって……手を伸ばしたんだ。じゃあやっぱり、〝俺〟は〝僕〟だよ。どこまでも、明透零無だ)」

 

 皮肉なものだった。色がない人間に手を伸ばしたのが、なにも無い透明人間である。それでどうにかなるのであれば、無論こんな事態にもなっていない。心がなくても人らしく。誰にも気付かないほどに人ではなく人であれるというモノが、すこしズレて、向かってしまえばどうなるか。それは、

 

「(……そっか。あの子は……)」

 

 

 ◇◆◇

 

 

『いいか、広那』

 

 暗い部屋のなか。母親の声だけが聞こえる。手足は動かない。

 

『おまえはもう、要らないんだ』

 

 何度聞いたかも分からない言葉。何度心をついたかも分からない台詞。何度頭に響いたのかも分からない音。――不意に、痛みが走った。

 

『痛いか? だろう。けれど、泣いてはダメだ。それでいて泣いてほしいな。理解して、涙を流せばいい。おまえはそれを知っているだろう? 広那。大丈夫だ。知っているならできる。でも――本気で泣いたら、ダメだぞ?』

 

 分からない。分からない。母親がなにを言っているのか、さっぱり分からない。母親譲りだと言われたアタマでも、なにがどうしているのかさっぱり分からない。どうして、わたしは、こんな痛みを受けながら、泣いているのだろう。泣かなければいけないのだろう。

 

『広那。おまえは、飯咎広那だよ。でも、その中に飯咎広那は要らないんだな、これが。おまえはそういう風にならなくちゃいけない。……なんでかって? 良い質問をするなあ。よし、ならばこうしよう』

 

 刺激を受けて、声をあげた。痛みに悶えながら、目尻に涙を浮かべる。分かっている。そうするのが当たり前で、そうするのが人のやることで。でも、なんなのだろう。そうやっていちいち考えて、わざわざ人らしい真似なんかして。ふつふつと沸いて出てくる感情を処理して、まるで当たり前のように生きている私は、なんなのだろう。

 

『ああ、さすがに――うん。鞭で叩くのはやりすぎたか。これは痕が残るな。先に心がやられてしまっては困る。いやはやまったく、人というのは厄介だな――』

 

 倒れて、怯えて、震えながら。私は今日も生きていて、当たり前のように呼吸をして、私はいつまでも考える。私は人間のはずで、この人の子供のはずで、この人の家族のはずで、この人と同じハズで。なのに、私は人らしい真似事をしている。じゃあ、私は一体、なんなのだろう――?













>狭乎おねーさん
(私自身興味ないけど弟がそう言うならやるだけやってみよ。……あっ、ちょうどいいところに良いものあったわ)


>広那ちゃん
おじさんの救い成分高すぎて無事に見えるけど無事なワケないんすよね!


>おじさん
姉に逆レされて知らない間に自分の子供ができあがった挙げ句「あーいいよこっちで面倒見るし私の勝手だし大丈夫大丈夫」とか言ってた姉がとんでもねー虐待しててぜんぶ背負い込んだ人。まあ半分は自業自得なので仕方ないね。

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