ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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仕上げといこう

 

 明透零無の父親は、決して良い人とは呼べない。それは玄斗自身も分かっている。ただ、偏に悪い人なのだとまとめるのもどうかというのが彼の考えだ。肉親というのもあるのだろう。零無にとってはたったひとりの父親で、たったひとりの家族だった。その苦悩を、いまになって分からないと言うワケがない。

 

「……ごめんね。つい、殴っちゃった」

「……トオサカくんが、謝る、こと……」

「……そうだね。君に謝ることでも、ないか……」

「……うん」

 

 うなずく広那に、もはやあるべき形もないのかと息を吐いた。ならば、問題を解消するもなにもない。飯咎狭乎との話し合いなんて真実意味がないものだ。それが、今回のことでよく理解できた。

 

「……ずっと、ああだったのか。君の、お母さんは」

「そう、だね……ちょっと、変っていうか……独特な、人だから……」

「……そっか」

「……でも、失敗作って言われるとは、思わなかったなあ……」

 

 あはは、と広那が笑う。なにもおかしくはないのに。どこにも笑える要素なんかないのに。信じられないコトだった。自分の子供が成長した姿を見て、あまつさえ失敗だと断言する精神性が、玄斗には信じられない。挙げ句の果てには勝手な想像と妄想で自らの父親すら穢されたような気がした。それが彼にとっては、身勝手にも許せなくて。

 

「……いや、こればっかりは、〝俺〟じゃなくて良かったな……」

「……?」

「ううん。……あの人相手は、正直、荷が重いだろうって」

 

 俺では、諸共狭乎に壊される危険性すらある。そう感じるほどの規格外だった。滲み出た殺意の感覚が今もなお残っている。彼ですら分からなければ、他の誰にもそれは理解できない。一度死んで、なによりも命の重さを、生きていくことの意味と向き合い続けてきた玄斗が、誰かに対して死ねと願う。その重さは、どれほどのものだったのか。

 

「……その、トオサカくん」

「うん。なんだい」

「……クロトは、その……いなくなったの、かな……?」

「それは、」

 

 と、言いかけて。ぱっと思考に電流が走った。そうだ、と緩やかに落ちこんでていた頭が回り始める。衝撃的すぎる相手の登場で、なにもかもがすっ飛んでいた。立ち止まっている場合か。気落ちしているときでもない。なにせ彼女の言うとおり。良い質問をしてくれた。トオサカクロトは、いなくなっているのか。

 

「――ああ、そうだった」

「……? あ、あの……」

「そうだよ。そうだ。――やっぱり僕は、まだまだみたいだ」

「えぇ……?」

 

 困惑する広那に、思わずといったふうに漏れた笑顔を向ける。何度も思っていたではないか。十坂玄斗は部外者だ。これ以上深く関わるのは違う。それは明確に、彼女を思う存在があってこそのコトだ。

 

「……ねえ、飯咎さん」

「あ、うん……」

「明日、屋上で待っていてくれ。きっと、良いものを見せる」

「え……?」

 

 もはやそれ以外に道はない。覚悟は……彼が決めるかどうか以前に、別の誰かが決めていくものだ。だから、今回の彼はあくまで脇役。引き立て役だ。そうなるようにしなくてはならない。言うだけ言って、玄斗はそのまま広那と別れて帰り道を急ぐ。携帯をポケットから取り出して、つい最近復活した連絡先へと電話をかけた。

 

『――もしもし?』

「白玖か! ごめん夜分遅く!」

『いや……まだ七時だし』

「そうだった! でもまあそれならそれで! ちょっと君に、頼みたいことがある!」

『……なんか、妙にテンション高いね。嫌な予感とか、ちょっと白玖ちゃんしちゃうなー?』

「大丈夫! 白玖にしかできないお願いなんだ。だから……」

『まあそれはそれとして、ダーリンのお願いなら引き受けますけどねー?』

 

 くすりと電話口の向こうで笑う声が聞こえてきた。これだから壱ノ瀬白玖はやめられない。実によろしい。それだけで今までの沈んだ気持ちが爆発的に盛り上がった。勢いのまま事情とその後の考えを話して、最後に携帯に向かって叫ぶ。

 

「――じゃあまた! ありがとう白玖! 大好きだマイハニー! 愛してるっ!」

『っ!!!???』

 

 ぷつりと通話を切って、そのまま家まで駆けていく。答えは掴んだ。ならば後は、玄斗がどうにかするのではない。すべてはここに生きていく人間次第、である。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 リビングに降りてきた真墨が見たのは、目を疑う光景だった。

 

「……なにしてんの、お兄」

ひは(いや)

「いやじゃなくて」

 

 というか、正気を疑う光景だった。最愛の兄がなにやら工具用のスパナを持ち出して、それにかぶりついている。……いや、舐めている? はたまた噛んでいるのだろうか。なんにせよ、日常生活ではまず口に入れないものを口に入れていた。

 

「どしたの急に。頭でもいった? 壱ノ瀬先輩と恋人関係に戻って」

「それはむしろ常識的になるぐらい嬉しかったけど」

「うっざ……てかそれ、ボルトとか締める奴でしょ。それでなにすんの」

「なにって……」

 

 と、玄斗はどう説明しようかなんて顎に手を当てながら考える。これがまた、詳しく理由から言うとなると難しい。他人のコトも含めるのだから尚更だ。おまけに、自分自身の経験した不可思議な状態からも引っ張っている部分がある。

 

「……難しいな。なんて言ったらいいか……ああ。でも、真墨が来てくれたのはちょうどいいのかな……」

「は? あたしがちょうど良いって……え、なに。お兄ひとりエッチでもすんの」

「するわけないでしょ」

「そっすよねー」

 

 軽く流した妹の下ネタに、さらに軽く返す言葉で緩さが増した。このノリならまあ、いけるかも分からない。玄斗のやることはもう決まっている。決まっているのだが、目下問題はそのやることが都合良くいかないことだった。

 

「この前まで、あまり体の調子が良くなかったんだけどね」

「? うん」

「いまはそこまで悪くない ……っていうと、語弊があるけど。それでも普通。まあ、倒れるとかはしない程度なんだ」

「ふんふむ」

 

 それはなにより、なんて様子で真墨がうなずく。なんだかんだで兄には元気でいてもらいたい妹心。本当ぶっ倒れるとかやめてほしいので、それを聞いてほっと安心したぐらいだった。

 

「ところで真墨は、『キャスト・アウェイ』っていう映画は知ってる?」

「? なにそれ」

「無人島に漂着した主人公が島に流れ着いたモノとかを使って生きていく話なんだけど、そのなかでこういうのがあってね」

 

 トントン、と玄斗が手元でスパナを軽く振る。真墨はまったくもって今の会話の脈絡というか、繋がりが分からない。なぜ自分の体調云々から知りもしない映画の話に切り替わるのだろうか。ちなみに彼がその手の映画を知っているのは、暇をしていた病院時代にかの秘書が持ってきていたからだったりするのだが。

 

「放っておいた虫歯が悪化して、主人公がそれをどうにかしようとするんだけど」

「? うん」

「無人島だから当然歯医者さんもないんだ。それで、どうしたと思う」

 

 トン、とスパナが手のひらに落ちる。真墨は首をかしげてさあ? とだけ答えた。イマイチこの兄の考えが分からない。変なものに影響されでもしたのだろうか。

 

「スケート靴のブレードを歯に当てて、思いっきり石で叩いて歯を抜くんだけど、そこで痛みのあまり気絶するんだよ」

「へぇー……」

 

 言いながら、玄斗は自分の口のなかに工具用スパナを突っ込んだ。うん。なにやらおかしい。というかいまの話を踏まえたうえで考えると、どうにもそれしか浮かばない。

 

「……あのー、お兄。お兄様? えっと、あなたは一体、なにをしようとしているので……?」

まふみ(真墨)

「うんー? あのー、妹的にはー……その、物騒っていうか。アレなものを……口からのけてほしいかなーって」

ひへふと(止血と)あほはおへはい(後はお願い)

 

 こういうとき、一度リミッターの壊れた人間というものは便利だ。その気になれば痛みの一切を気にせず行動できるという点は、十坂玄斗に許された特別性であり異常性だろう。彼はがっちりとスパナで歯を捉えて、あらかじめ用意しておいたハンマーで思いっきり殴った。

 

「――っ!!!!」

 

 思考が焼け付く。意識が飛ぶ。そのまま、少年はなにを考える暇もなくばたりと倒れた。

 

「……う、うわ、うわ! うわー!! やりやがったよこいつー! ばかばかばかー! なにしてんのもうー! ああ血が! 血がもうなんか、もうーーー!!!」

 

 狙いはそこだ。意識は、法則的に切り替わる。

 

 

 ◇◆◇

 

 

『――さあ、君の番だ』

 

『……な、にを……』

 

『ああ、歯を抜いたのは、ごめん。色々と僕も思うところがある。まず、こんなことに巻き込んでくれた時点で相当だろう。だから、まあ、その仕返しってことで』

 

『……いや、それは別に、良いんだけど……』

 

『じゃあなにも問題はないな。もう一度言うよ。君の番だ。意味もなにも、君がやってこそになる』

 

『……でも、俺は……』

 

『――ああもう。面倒くさい』

 

『っ……』

 

『いいからさっさと行け。待たせてるんだ。……僕じゃ無理だよ。おまえが行かなきゃ。ほら、だから、前を向いて、進め。――彼女の生きてきた意味を、()じゃ()くして来い』

 

『え――――』

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ぱちり、と瞼が開いた。

 

「うおっ!? ……復帰早ぇな……大丈夫? お兄」

「…………、」

「おーい? あのあのー? ……無視っすかあ?」

「……まふみ(真墨)

「…………お兄……じゃ、ない……?」

 

 目をしばたたかせながら、玄斗がぐるりとあたりを見渡す。違和感に気付いた妹は、血を拭き取っていたハンカチをきゅっと抱きながらその姿を見つめている。

 

「……俺、は……」

「……ああ、そういうことか……あのお兄、それならそうって……」

「――っ、歯が、いた、い……っ」

「……あー、すいませんすいません。うちのお兄が本当申し訳ないでーす。とりあえずちょっと、あの、氷嚢とか持ってくるんで。安静にしててくださいね」

 

 とててっと台所まで走っていく真墨に、頬をおさえながら玄斗が顔を歪める。……十割痛みで。

 

「(なん、で……こんな……)」

 

 なにはともあれ、事は成された。終わりは、すぐそこにある。






>スパナ
よい子のみんなはワンチャン死ねるので真似しないでね!

>玄斗
背中を押せるようになっただけ本当初期から書いてきて感慨深いものを……いややっぱお前にももうちょっと苦しみをだな……(スパナ二本目)

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