ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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ヒロインは総勢10名ですが1作に10人ではないんです。


なにもないくせに

 

 最初に感じたのは、たしか、自己紹介のときだった。

 

「……四埜崎蒼唯よ。あなたは?」

「僕は十坂玄斗(・・・・)です。よろしくお願いします、先輩(・・)

 

 なんてことはない交わした名前。情報の交換。取るに足らない一言で――無視できない何かがあることに気付いた。しっかりとした名乗りと、すこしあやふやになった呼び名。きっとおそらく決めていたものとそうじゃないものとの差だ。だから、余計にそのおかしさが目立った。

 

「先輩。重いでしょう、持ちますよ」

「僕が払います。このぐらいは」

「大丈夫ですか? 結構、辛そうですけど」

「……任せてください。先輩の頼みなら、喜んで」

 

 普段の態度、仕草、言動ひとつ取ってもそうだ。彼はどこか、見えない遠くから声をかけているような感じがした。もちろんそんなのはただの直感。自分の勘違いだって可能性もある。……けれど。やがて、近付くにつれて気付いたのは、彼がひとつ線を引いたところに立っている事実だった。

 

「いや……それは、すいません。ご遠慮しておきます」

「すいません、先輩。それは、ちょっと」

「いや、そこまでして、もらわなくても……すいません」

「……すいません」

 

 こちらと接するときの態度はそうでもないのに、一定以上に近付くと距離をとる。その謝罪に込められた意味がなんなのか、考えるまでもなかった。なにかしてもらったコトに謝っているなんて、素直に受け取るほど見ていなかった(・・・・・・・)ワケでもない。

 

「――十坂くん」

 

 だからあの日は、本当に、本当に悔しくてたまらなかった。

 

「あなたは私の隣にずっといなさい。それが一番よ」

 

 聞き飽きた謝罪なんて並べて、諦めたように去っていく。手が届かなかった。そんな現実に嫌気がさして、立ち止まったままでいたのが一年。もう限界だ。今さらなにが変わったのかと思えば、なにも変わっていない。むしろ表面化して分かりやすくなっている。ここしかないと、バスの車内で目を合わせた瞬間に確信した。

 

「(……そうよ)」

 

 はじめから、生温いやり方なんてしなければ良かった。目の前に立つ少年に対して、手を差し伸べるだなんて安い真似は無為に終わる。その結果が一年前だ。なにをどう否定しようが、なにがどうだと反論しようが、無理やりにでもすることは決まっている。

 

「(私があなた(・・・)を引き摺りあげる)」

 

 伸ばした手が空を切るなら、その腕ごと掴み取れば良いのだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――心臓がひときわ、大きく跳ねた。押さえつけたはずの動悸が激しさを増す。どこかに隠していたなにかが、ずるりと蓋を持ち上げた。十坂玄斗。そうやって与えられた二回目の名前には、なにもかも(・・・・・)が入っていた。そんな、ちょっとした違いが胸の奥底から顔を出す。

 

「先輩……?」

「本ばかり読んでいるとね、色々と身に付くのよ。それこそ、違和感ぐらいは」

「……そんな、こと」

「まあ、気付かれないほどにはね。あなた、会話が下手なくせに隠し方は上手いんだもの。ちょうど、入り込めない位置に潜ませるのは、ズルじゃないかしら」

 

 コツ、と蒼唯が一歩詰め寄った。■■(玄斗)の足が一歩下がる。奇しくも、学校の図書室前での再会と同じ状況だった。

 

「もう一度、訊くわ」

 

 コツ、コツ。高い音と共に蒼唯が再び距離を詰める。■■(玄斗)はもうこれ以上後ろに下がれない。机と椅子が邪魔をして、自然と距離が縮まった。

 

「あなたは誰? 十坂玄斗(・・・・)なんていう、あなたの名前は」

「――――っ」

 

 ■■■■。

 思い浮かんだ名前を、すんでのところでそのまま(・・・・)にしておいた。黒に染まるのが白だというなら、黒そのものを映すのが彼の本質だ。けれど、違う点は幾つもある。だから足りないと判断した。会話、人付き合い、誰かの心を読み取る機微、そのあたりがすっぽりと、彼の中から抜け落ちている。

 

「僕は……」

 

 ■■■■(十坂玄斗)であって、十坂玄斗(■■■■)じゃない。そんなことはとっくの昔に理解している。ただその立場になった以上、壱ノ瀬白玖を救うために役割に準ずる必要はあった。それ以外に思いつかなかった、というのもある。貧困な思想、あるはずもない信念、残滓のような記憶。だから、その、本質(名前)は。

 

「……十坂」

「誤魔化さない。……あと、四つ」

 

 距離が縮まる。逃げ道をふさがれた。誤魔化すな……その言葉に込められた意味を、正しく反芻する。十坂玄斗の名前なんて、常識的に考えて十坂玄斗でしかあるまい。ましてや頭を捻ったところで他のなにが出てくるというのか。いいや、なにより恐ろしいのは――それをすべて見抜いて暴こうとしている、眼前の少女ではないのかと――

 

「でも、いまの、僕は……」

「私はあなたに質問している。あなたが答えなさい。あと、三つ」

 

 あなた。そう呼んでくる蒼唯の目は、真っ直ぐに■■(玄斗)の瞳をじっと見据えている。自分で答える。そんなのはいつだってしてきたコトだ。自分で用意した答えを自分から伝える。ただ、それが酷く苦手な部類に入ることを、■■■(十坂玄)()はずっと昔から知っていた。

 

「せんぱい……」

「正直に言いなさい。馬鹿な妄想だと一蹴するなら、それも由よ。でも、嘘だけは絶対につかないで。あと、二つ」

 

 道を潰されている、答えを消されている。違う。どちらもそうであるようで、四埜崎蒼唯のしているコトは至ってシンプルだ。文字通り、宣言通り、彼のなかに潜んだ答えを手に掴めるよう、引き摺りあげている。

 

「……ぼく、は……」

 

 カツ、と最後の一歩が近付く。()(トウ)■■(玄斗)は動けない。近すぎる距離は当たり前のように息が重なる。匂いが充満している。それでも()■■■(坂玄斗)に浮かび上がる感情は変わりない。なにせ、そんなものが彼には元から存在していない。

 

「――――、」

 

 

 

 

『……ああ、本当に。おまえなんて――』

 

 

 

 

 

 名前のとおりだと言われた記憶が不意に出た。なにもせず、なにも求めず、なにもあるべきでないとするのなら、それがおまえの幸せだと。古い錆びついたココロが響いた。それがすべてだ、それがいちばんだ。本当にそのとおり(・・・・・)。彼の中にはなにひとつ、残るようなカタチもなにもあるはずはなくて――

 

「……本当、世話が焼けるんだから」

 

 ――不意に、そんな思考を吹き飛ばすみたいに、温かいものに包まれた。今まで感じていたのとは比べものにならないほど近くで、蒼唯の匂いが鼻腔をくすぐる。背中に回した手が、優しく、けれど力強く抱き締めてくる。

 

「そんな顔、普段はしないでしょう。歪んでるわ。中途半端で、だから下手なのよ。なにも知らないくせに知ったかぶってるから」

「――――、」

「安心しなさい。それがまず、ひとつ。あとは、大丈夫よ。別に私、十坂くん(・・・・)のことを好きになったんじゃないから」

 

 脳が揺れた。なにに? 衝撃? 違う。すべて見当違いだ。これは、そういうのは、

 

「フルネームで言って。これで、もうひとつ。……再三になるわ。仏の顔もって言うでしょう? ――さあ、あなたの名前を、教えて」

 

 もうすでに、カウント(強制権限)はなくなっていた。

 

「……、」

「なに?」

「………………?」

「……うん。言わない。だから、教えて。私にだけ」

 

 ――〝    〟。

 

 ちいさく、本当に、ともすれば聞き逃してしまいそうなほどの声音で、彼はそういった。でも、そんな大事なコトを彼女が聞き逃すはずもない。蒼唯は一度強く彼の身を抱き締めたあとに、ゆっくりと手を解いた。呆然と立ち尽くす■■を前に、くすりと笑う。

 

「……なんだか、女の子みたいね」

「……そう、ですね。そんなこと、言われてたような気がします」

「そう。……じゃあ、決まりね」

「?」

 

 そして、今度こそ。一度は掴み損ねた腕をしっかりと掴んで、笑顔のままにこう言った。

 

「――行きましょうか、レイ(・・)

 

 はたしてそれは、一体誰を呼んだのか。理解しているのはきっと世界でたったふたりだけのまま。十坂玄斗と四埜崎蒼唯は、雨の街へ飛び出した。 




名前:■■■■

性別:男

年齢:16歳(死亡)

趣味:ゲーム

特技:せき(ときどき血が出る)

イメージカラー:無色透明

備考:もう主人公以上にこじらせるならコレしかないなって感じで生み出されたオリ主系転生者。転生後にこじらせとか「またかよ」って言われそうなので今回は転生前から心を息苦しくしておいたよ。やったね! ちなみに本編中にちょろちょろ出てきたのを合わせると現状でも解読可能。まあ番外とか白より“ない“とかもうコレしかないじゃん? って感じなのでお察し。本編中で明かされない設定なのでひっそり書くと、「アマキス☆ホワイトメモリアル」はプレイしたが「アマキス☆ホワイトメモリアル2」は発売前に死んだので存在すら知らない。

数+色が基本形

色+数も基本形


……大概答え合わせですねクォレハ……

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