ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
日常こそが、最大の幸福である――
リビングに降りると、すでに両親は出かけているようだった。真墨だけがパンをかじりながら、ぽちぽちリモコンでテレビのチャンネルを変えている。
「おはよう、真墨」
「おふぁよーおひい」
「飲み込んでからね」
「っ……おはよっ、お兄☆」
「うん」
今日もまた一段と真墨だ。椅子をひいて玄斗もテーブルにつきながら、すでに用意されていたパンとコーヒーを腹におさめていく。ついでにサラダもついているのがグッドだ。食事量的に。
「ねえちょっとお兄様。いまのかわいさ百万パーセントクラスの妹スマイルに対してその反応はないんじゃない? もっとときめけよ」
「真墨はいつだってかわいいからね」
「おぉう……こいつ切り返しがやべえな……そういうコト言うからお兄はー……もう……」
まったく、とぶつくさ言いながら真墨がパンをもぐもぐと咀嚼する。いつも通りと言えばいつも通り。それまで経験していたものとも、違うわけではない。ただ、やっぱりそれは玄斗にとって心地よい感触で。やはりこうでなければ、と思わざるをえなかった。
「あ、そういえばさー」
「うん」
「なんか今朝、変な夢見てさー。ぶっちゃけワケ分かんないんだけど、お兄とあたしが別時空に飛んじゃってて」
「うん」
「色々引っかけた女ったらしのお兄が最終的にスパナで抜歯してたわ」
「ッ!!」
「うわあー!?」
ぶはっ、と飲んでいたコーヒーを噴き出した。熱さと変なトコロに入ったせいでむせる。
「えほっ、おぇっ……ま、ますみぃ……」
「な、なんだなんだ!? 女ったらしって言ったのが悪かったか!? ごめんなお兄! 気遣えない妹で! そこらへんデリケートだもんな!?」
「きみ、わざとだろう……!」
「……えへっ♪」
こつん、とかわいらしく手を頭にやって舌を出す真墨。似合っているのがまたなんとも言えなかった。
「……覚えてるのか」
「いやまあ夢って感じでそりゃねえっしょー? って思ったけどね。なんか、引っかけたらそりゃあもう見事な反応を返してくる
「…………、」
「じゃあ、夢だけどー? 夢じゃなかったー! みたいな? となりのクロトみたいな。いやー、あれっすね。お兄はどこの世界線でもこじらせてるんすねえ……」
「うるさいな……」
「あー! 照れてる照れてる♪ ……写真撮っとくか」
パシャパシャとスマホを構えて激写する妹から視線をきって、朝食を平らげていく。……今日はなんとも、騒がしい一日になりそうだった。
◇◆◇
「うまくいったみたいだね」
「……そうだね、白玖」
にっこりと笑う少女に、やはりこっちもかと玄斗は息をついた。が、こと彼女に至っては仕方ない部分もあって。
「……ありがとう。根回しは、白玖がやってくれたんだろう?」
「ちょっとだけ、だけどね。実際にしたのは誰かさんたちだから」
「それでもいいモノにはなったろうから。こと、僕に関してはね。あの人たちはそれこそ、とんでもなく強いよ」
「ふぅん? 評価高いね」
アマキス☆ホワイトメモリアル無印ヒロイン勢のことだ。壊れた、もしくは壊れかけた十坂玄斗を叩き直すのに、あれ以上の人材はおよそいない。それはなによりもいまの玄斗自身がいちばん分かっていた。
「……どうだった? 〝俺〟は」
「うん? まあ……良くも悪くも玄斗してる……かな。なんか、私が居ないとそうなるって考えると、色々思っちゃうよね?」
「実際そうだからね。白玖と出会わなかったら、あんなものだよ」
「じゃあこっちの玄斗さんは私と出会えて幸せなんです?」
「そりゃあもちろん。すっごく幸せ」
「ふふふ、よきにはからえー」
良いものだ。こうして並んで同じ学校に通えるというだけで、何倍も楽しさが増している。本当に帰ってきた、という感じがした。
◇◆◇
「おっはよう
「碧ちゃん」
下駄箱で肩を叩いてきたのは五加原碧だった。ぐいっと距離を縮めてきて、にこにこと人好きのする笑顔を浮かべてくる。……ちょっと後方でむくれた白玖が怖い。でもかわいい。
「いやまあ、いきなり壱ノ瀬さんから連絡が届くからなにかと思ったら……なるほど。こう見るとたしかに、
「え、えと、あの……」
じりじりと、顔が近付いていくる。
「そっかそっかあ。……ん、
「み、碧……ちゃん……?」
「――はいダメー! 近すぎー! なにをしてるのかな五加原さん!?」
「えー……別に、なにもしてないよ。ね?」
「あ、あはは……」
――いやいまのは確実になにかする気だったろう、とは言わなかった。言えばこれまた確実に地雷になる。玄斗はちょっとだけ危機管理能力があがった。雀の涙程度ではあるが。
「てかあたしも頑張ったんだけどなー? そこらへん壱ノ瀬さんは汲んでくれてもよくない?」
「よくないから。玄斗は私の恋人だから」
「束縛する人は嫌われちゃうよー?」
「玄斗はその程度じゃ嫌いませんけど!?」
なんだか自分を置いて女同士の争いがはじまっている。彼はどこか遠くを見つめながらふと考えた。うちの幼馴染みの理解力って、どうしてこうも高いのだろう。
◇◆◇
「はい確保ぉー!」
「うわっ」
教室に入ろうとしたところで、後ろ襟を掴まれながらそのまま引っ張られた。
「鷹仁……?」
「うーん。とりあえずおまえ生徒会室な? 拒否権なしな? いいな? 詳しく話聞かせろてめえ」
だいぶお怒りの様子である。
◇◆◇
「――で、こうなったと」
「どうしてこうなった……っ!」
呟く赤音に、呪詛を撒き散らしながら鷹仁がダンボールを抱えてせっせと歩いている。考えれば当たり前なのだが、生徒会室には生徒会役員全員が揃っていて。そこにちょうど現れた男子が、まあ、良いように使われないワケがないのだった。
「……っと、それはともかくお疲れさま。玄斗。あんた、歯をレンチでぶっこ抜いたんだって?」
「それ誰から聞いたんですか……」
「壱ノ瀬ちゃんが」
女子の情報網って怖い。というか赤音とわりと仲の良い白玖というのが意外だ。
「抜いたというより、こう、ハンマーも使いましたけど」
「馬鹿じゃないの?」
「でも綺麗に気絶できました」
「馬鹿じゃないの?」
ぐっと親指をたてればさらっと握られてボキッといかれた。骨は無事である。がしかし変な方向へ曲げられたのかすごく痛い。玄斗は悶えながら苦笑した。
「ずいぶんと無理をしましたね、十坂くん」
「紫水さん……」
「まあ無事ならなによりということで。平和が一番でしょうし」
「……そうだね」
「まあ我が家はもう一度お母さんに反撃の狼煙をあげますが!」
紫水家の事情はちょっとアレだった。何度でも攻勢に出る娘に母親が折れるのはいつになるのだろう。というか父親のほうは大丈夫なのだろうか。おもに怪我とか。
「……なにやら難しい話をしているのね」
「あ、灰寺……さん……」
「私にはさっぱり分からないけど」
「……その、ありがとうございます。お守り」
「? ……あなた、なにを言っているの?」
「――――」
そこで、ふと、玄斗は灰寺九留実だけ違っていた事実を思い出した。記憶の有無というのは、そこなのだろうか。つまり、彼にお守りを託した彼女は、その中にあるべき魂は、そこにしかないということで。
「――いえ、なんでもありません」
「……?」
ちょっとだけ、寂しかった。
◇◆◇
「む、玄斗」
「おはよう、七美さん」
「おはようだ。珍しいな? もっと早く来ているものかと」
「ちょっと生徒会室に呼ばれちゃってて」
「? ……ああ、なるほど。そうだった。こっちの玄斗は、そうだったな」
くすりと笑う七美に、玄斗もそうだねと返して微笑む。きっとこの少女も、彼女なりの言葉で背中を押してあげたのだろう。恐らくはとても緩やかに、けれど馴染むように。
「不思議だ。世の中には、ああいうこともあるのか」
「いや、普通はないから……」
「だがな、玄斗。そうは思わないか? あんな鉄の塊とかがすごい速さで走るんだぞ? 世の中に魔法使いのひとりやふたり居てもおかしくないじゃないか」
「それはベクトルが違うっていうか……いや、うん。難しいな……」
「?」
窓の外、遠くの車を指差して言う七美に、そう言えばそうか、なんて妙に納得してしまった。なにせ彼女は箱入りどころか世間一般というものをある程度のラインまで叩き込まれただけの何も知らない少女である。ついでに今日が学校初日なのだが。
「……とにかく、こればっかりは分からないよ。僕にもさっぱり」
「そうか。玄斗に分からないのなら、私にも分からないな」
笑い合って、歩を進めていく。お互いが自然体。マイペースとしての波長が合わさっている。その変わりなさに、これもまた彼女だからか、なんて。
「あ、十坂クン」
「紗八先輩」
……なんとも、今日は朝から知り合いによく遭遇する。理由なんて言わずもがな、それ意外にないだろうというぐらいハッキリしているのだが。
「と、橙野ちゃんだっけ」
「はい、橙野七美です」
「うん。よろしくねー、橙野ちゃん」
ひらひらと手を振る紗八に、七美もひらひらと手を振り返した。どこか慣れない様子であるのがちょっとおかしい。
「いやあ……なるほどねえ。でも、うん。しっかり、もらったものかなあ」
「……あの、紗八先輩は」
「ううん。いいよ。――ちゃんと、あるものはあるから。だからそれは、糧にするだけ。ありがとうね、十坂クン」
居なくても繋がるものはある、と。笑う彼女はそのままふらりと去っていった。最後までとは、いかなくても。〝俺〟はどこまでも、彼女のコトを守れたのだろうか。
「(……考えても仕方ないってのは、分かるけど)」
できることならすこしでも。目を向けていることを願うばかり。
◇◆◇
先を急ぐ、と言って駆けていく七美と別れて、玄斗もそろそろ教室に戻ろうかと廊下を歩いていたとき。ふと、前から向かってくる二人組が目に入った。
「あ、玄斗様」
「くろ……先輩?」
「ん、おはよう」
同学年で繋がりもあったせいで、仲も良いのだろう。明透零奈と三奈本黄泉は、揃って並びながら立ち止まる。同性の友人というものに恵まれるのは良いコトだ。それが透明な彼女なら尚更のこと。うんとひとつ玄斗も笑顔をつくって、うなずいた。
「本当、仲良しだね」
「付き合いが長いですから。彼女とは」
「そうだね……いまだに零奈ちゃんからの呼び名が安定しないけど」
「慣れていない弊害ですわね……」
むむ、と唸る零奈に黄泉がくすくすと笑う。本気で仲がよろしい。
「あだ名で呼んでみるっていうのは?」
「あだ名、でございますか。……黄泉っち」
「それは、うーん……私には似合わないね……」
「ですわね……黄泉は黄泉で、黄泉さんですね。やっぱり」
「まあ、それが零奈ちゃんらしいかも」
うんうんとうなずくふたりに、玄斗も思わず微笑んだ。なんだかんだで一番安定している。どちらも自分からガツガツ行くようなタイプでもないのに、不思議と。
「――と、ふたりとも大丈夫? 時間、もうあまりないけど」
「おや、それはいけませんわね。行きますわよ黄泉!」
「へぇっ!? ちょっ、あ、先輩! あの、その、ええっと……!」
「うん」
「――あ、ありがとうござますぅ……!」
「玄斗様! またゆっくりお話でもっ!」
「あはは……元気だなあ……」
ここでは復帰初日だよ零奈ちゃん! もうそんな気がいたしませんの! なんてはしゃぎながら後輩たちが走っていく。向こうとこっちと、経験したが故の被害だった。おそらく今まで学校というものをロクに知らなかった零奈に振り回されるのが彼女になるのだろう。それは、玄斗がどれほど願っても見られなかった夢の続きを見ているようで。
「(……良いな、なんか)」
「しんみりしている場合?」
「っ!」
後ろからかけられた声に、ビクリと肩が跳ねた。相手なんて――言うまでもなくただひとり。時間もなにも気にしない彼女は、ゆっくりと腕を組みながら立っている。
「先輩……」
「……そうね。見比べると、分かるものがあるわね」
「……向こうの僕と、ですか?」
「それ以外のなにがあるっていうのよ」
「すいま――」
と、言いかけて。
「……いえ、そうですね」
「……ふん」
言うと、鼻を鳴らして蒼唯がそっぽを向いた。どこか笑っているように見えたのは、気のせいだろうか。
「……まさか、私があんな役目を負うとはね」
「……思っていませんでしたか」
「ええ。ずっと、あなたは引き連れていくものだと。……そう、思っていたのだけれどね」
弱くて、脆くて、それをひた隠しにしているようないつかの少年だ。彼女がその腕を掴んだときに、折れてしまいそうだった彼が、いまこうして目の前にきちんと立っている。それをいま一度、じっくりと眺めた。
「……強く、なったのね。レイ」
「……そう、見えますか?」
「……うん。見えるわ。きっと。もう、あなたは立派な――」
くすり、と笑う。不意打ちだった。本当に、なんの憂いもない、なんの遠慮もない、なんの飾り気も無い。そんな四埜崎蒼唯の笑顔を見たのは、久しぶりで。
「……でも、私はそんなに綺麗な性格はしてないから。悪いけれど、諦めるつもりなんて一切ないから。そこだけは、覚えておきなさい」
「……先輩、らしいです」
「そうよ? だって私は、四埜崎蒼唯だもの」
◇◆◇
始業式もつつがなく終わり、本日最後のホームルームである。期首テストは明日からなので、それもあって初日は午前中授業なのが調色高校だ。すでに午後からの予定を組み始めるクラスメートたちの談笑を断ち切るように、教壇に立った担任が言う。
「はい静かにー。じゃあホームルームを始める……その前に、えー、今日から新しい仲間が増えます。喜べ野郎ども、女子だ」
教室がざわついた。おもにその野郎どもの声で。
「先生、かわいいですか!?」
「どんな子ですか!?」
「スリーサイz」
「あーあー質問は一番最後を残して各自でしろ。……じゃあ入っていいよ、どうぞ」
「はい」
からり、と優しく教室の扉が開けられる。それから、ゆっくりと少女が入ってきた。
「あれって……、」
「……うん」
白玖の声に、静かにうなずく。少女は綺麗に歩いて、ぴたりと止まって、それから黒板に白墨を走らせた。――なるほど。こう繋がるのかと。
「えっと……今日から、この学校に転校してきました。飯咎広那って言います。その、みなさん、よろしくお願いします!」
笑顔のまま、彼女はそう告げた。
あとはラスト一話を書いて終わりです。なんとか年内終了が間に合いましたね!(ブースト込みの執筆量から目を逸らしつつ)
感想はそのあとゆっくり返していきたいと思います。