ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
データの海に沈んでいたルートが見つかったので、折角ならと投稿。ちなみに没にしたやつです。
没理由? 本編書き終わったあとにいくら書いても白色ヒロイン以外じゃ嫌だ、僕は認めないって主人公が(脳内に)語りかけてきたからだヨ!
そんなわけであるはずも無いおまけルート。暇な方はお付き合い下さい。
FDNo.02: Episode Red / After √
「ただい──」
「遅いっ!」
ま、と続けようとした口が固まる。私の言葉を遮るようにして声を荒げたそいつは、見るからに不機嫌な顔をしていた。
「まったく何時だと思ってるんだ。こんな夜遅くまで」
「夜遅くって……いや、まだ八時半……」
「
「そりゃあゲーム見に行ってたらそれぐらいになるよ」
「俺はそうなった理由が分からなくて怒っているワケじゃないんだけど?」
じゃあどうして怒ってるのめんどくさい。そんな本音をちょっぴり堪えつつ、じとっとした視線を向けてみる。
「……一応あたしも高校生だよ? そろそろそういうのはよくないかと思うんだけど」
「なに言ってるんだ。高校生なんてまだまだ子供だろ。それこそ一年生なんて中学生とほぼ変わらない」
「……そういう兄さんもあたしと一つしか変わらないけどね」
「なにか?」
「いえなにも」
地獄耳め、とほんのり舌を突き出しながら横を通り過ぎる。が、肝心の相手はまだ言い足りないのかやれ「門限を定めるべきか」やら「もっと明るい時間に帰ってこい」やら小うるさく言っていた。まったくもってお節介な兄である。色々と気遣ってくれるのはありがたいが、心配しすぎるのも正直どうかなんて思ったり。一体誰に似たのだか。
「見事にスルーしやがってまあ……」
「だって兄さんの小言長いし。母さんより長いし。母さんより怖くないし」
「それぐらいおまえのことが心配なんだっ。事件とか事故に巻き込まれたら兄さん、ワンチャン相手をぶん殴るね」
「そこで躊躇なく拳が出るあたり血筋よね……」
思い起こされるのは子供の頃に起きたとある修羅場。母さんの幼馴染を名乗る女性(仮名Aさん)が玄関先でいきなり父さんに抱きつき、その光景を目にした料理途中の母さんがお玉をぶん投げた事件だ。もちろん凶器は父さんの後頭部に命中。見事意識を刈り取って、我が家はその場の危機を一時的に乗り切ったワケであった。……その後の騒動については、まあ、母さんとAさんの間に火花が散っていたコト以外とりわけ語るコトでもないので割愛する。
「……ああ、そういや母さんは?」
「いま親父殿が迎えに行ってる。……露骨に話題をずらしても無駄だからな……」
「ちっ」
「うわ、舌打ちしやがったよこいつ……小さいときは「にいさん、にいさん」って可愛かったのになあ」
「だから一つしか変わんないでしょ。大体いつの話」
「
「なるほど。ちょうど父さんが蒼唯おばさんに迫られたときだ」
「ばッ……おま、お姉さんと呼べお姉さんと! あの人怒ったらめちゃくちゃ怖いんだぞ……!」
思い出しただけで寒気が……、なんて肩をぶるりと震わせる兄。たぶん幼い頃にポロっとやらかしてしまったトラウマでもあるのだろう。あたしは無い。なんだかんだで兄が気に入られている証拠だと思う。……うん、ちょっと怨恨的な何かが見え隠れしていたとしても、まあ、気に入られていると思いたい。兄の名誉のためにも。
「いいけど。で、ご飯は?」
「作っておいた。誰かさんが遅いから」
「ありがとう。母さんたち待ってから食べよっか」
「そうだな。……どうしてそういう気遣いはできて俺には優しくしてくれないのやら……」
「兄さんだから」
「理由になってませんけど? これだからイマドキの若い者は……」
おまえも十分若いだろ、とは突っ込まないでおいた。多分母さんがいたら真っ先に突っ込まれているところではある。十坂
「そうだね、周りの女の子から優しくしてもらうのが好きだもんね、兄さんは」
「そんなワケあるかっ」
「じゃあきつくしてもらいたいんだ。……ドM? まさかそういう願望持ち……?」
「ねぇよ。おまえ俺をなんだと思って……」
「兄さん」
「だったらもうちょっと兄らしく扱ってみてもいいと思うけど?」
わりと兄らしく扱っていると思う。少なくとも世間一般の兄妹なんてこんな感じで十分だ。決して本気で貞操を狙いに行ってそうな
「にしても今日はやけにあたりがキツく感じるね。なんか嫌なことでもあったのか」
「別に、そんなの──」
──ああ、そういえばひとつ。訊きたいことはあったんだった。
「……ちょっとした疑問なんだけど」
「? うん」
「兄さん。今日の昼休み、誰かに告白されてなかった?」
「されたな。……なるほど。珍しく
「盗み聞きしました。そこは謝る」
「いいって。気にするようなことでもなし。しっかりちゃっかり誠心誠意お断りはしましたので」
ふざけたような口調だが、この兄のことである。相当気を遣って対処したであろうことは予想できた。
「なんだ、断ったんだ。付き合えばよかったのに」
「できないだろ。俺好きな人もういるし」
「あ、そうなん──え、マジで?」
うん、なんて素直に頷くイケメン生徒会長。マジか。
「や、ちょっ、はッ……はァ? 初耳なんですけど?」
「だって今まで言ってなかったし」
「言ってないって……なんでそういうこと隠すワケ? 兄妹でしょあたしらっ」
「兄妹だからじゃないか? 常識的に考えて」
「は、はァッ!?」
やば。なんか、すごいヒートアップしてないか、あたし。
「いやいや……いやいやいやいや。兄さんに? 好きな人? えぇ?」
「そこまで驚かれると一体俺がどういう目で見られてたのか気になってくるな?」
「だって兄さんじゃんっ」
「あはは、意味が分かんないわ」
ごめんあたしも意味わかんない。
「……まあいいや。で、どんな人なの」
「えー……言わなきゃダメ?」
「言ってくれないんだ。隠すような人なんだ。ふーん」
「嫌な予感しかしない返しはやめろ。……分かったよ、言う言う」
よし、と内心でガッツポーズをとる。うん、ガッツポーズ。これはガッツポーズだ。想像の余地があるので間違いなくガッツポーズ。我ながらなにを考えているのか本気で分からなくなってきた。
「まず髪は赤毛」
「うん」
「で、目は赤銅だな」
「うんうん」
「あと学年は俺の一つ下。クラスは二組」
「へえ……」
意外だ。あたしと同じクラスの子だったとは。
「イニシャルはTとK」
「うん……うん?」
「住んでるのは一軒家。部屋は二階。趣味は乙女ゲーム」
「え、あの……」
「でもってスリーサイズは──」
「ちょっ、ストップ! ストーップ! そもそもあたしの知らないでしょ兄さんっ!」
「そう思う?」
にやっ、と意地の悪い笑みを浮かべるオニイサマ。ちょっと血管がぶち切れそうだった。殴る。こいつは絶対殴る。
「てか答えになってない……! ただあたしの情報並べたてただけじゃん」
「残念。好きな人とは言ったが、誰も「恋愛的な意味で」とは言ってない」
「話の流れから間違いなくそうとしか聞こえなかったけど!」
「それは黒慧の勘違い。兄さんは嘘は言ってないからな。嘘は」
いかん、もう殴る。
「実際、意味はどうあれ兄さんはわりとおまえのこと好きだけども」
「ッ」
振りかぶった拳が顔面寸前で停止する。いやほんと、都合のイイことっていうか、そうすればあたしが退くって分かってて言ってそうなのがマジでむかつくっていうか、あれこれひっくるめてもう本気で殴り飛ばしたいけど──
「──ばっかじゃないの。もう知らない」
「うわ拗ねた。やっぱりまだまだ子供じゃん」
「うるさい。黙って。今度から兄さんの分の弁当つくってあげないから」
「それは勘弁してほしい」
真剣な表情で謝罪の構えをしてくる兄。まったくもってため息が出てくる。こんなのとよく十何年も兄妹できてたなと時折考えるけれども、兄は兄でわりと良いところも(極まれに)あるのだ。……なので、今回はそういうところを考慮して目をつむって許すとしよう。流石に食べ盛りの高校生、兄だけお弁当なしというのはあまりにもかわいそうであるし。…………加えて、母さんや父さんに頼むでもなくあたしの弁当をせがんでくるあたり、ちょっと断り切れない部分があったりするのだ。
◇◆◇
『着きました。待ってます』
そんな簡素なメッセージを飛ばしてきたのが十分前。あらかた仕事も終えて、さて今日はこの辺で切り上げるかと帰路へついてみれば──なにやら校門のほうが騒がしかった。
「それでそれで! やっぱり先生って家では──」
「学生のときってどんな感じでした!?」
「結婚までの馴れ初めとか……!」
「ええっと…………、参ったな、これ」
困ったように頬をかく男が、数人の生徒に囲まれている。……というかばっちり教え子たちだ。部活が終わってからダラダラと喋っていたのだろう。ちょっとだけ苦笑しながら、ゆっくりと近づいていく。
「なにしてんの、あんたら」
「あっ、十坂先生!」
「いや、ちょっとお話を!」
「ほんと、ほんと世間話程度で!」
「めちゃくちゃ怪しいフリするじゃない……」
ツッコミ待ちか? なんて首をかしげてみる。三人そろって「いえいえいえ!」なんて後じさりしていく女生徒たちの行動は意外にも素早い。
「そ、それじゃあこのあたりで!」
「お話ありがとうございましたー!」
「また今度時間があればー!」
「あ、うん。じゃあね」
ふりふりと手を振って見送る優男。こういうところはいつまで経っても……なんて半分以上離れた相手に敵対心を持つほどでもないけれど、何を話したのかはちょっと気になった。ので、
「──それで。なにか余計なコト言わなかった?」
「なにも言ってないよ。ついさっきだから、捕まったの」
むしろ早く来てくれて助かった、なんてほっと一息つきながら彼は言った。うん、どうやらコレは本当のことみたいだ。
「それならいいけど。あんた、見た目のわりに口が軽いもんだから」
「そんなことは。これでも機密はちゃんと守ってるし」
「それとはまた別よ。大体仕事はお義父さんのおかげじゃない」
「まあ、確かに。……すっごい扱かれたもんな……アレ……」
遠い目をして語る彼に空笑いで返しつつ、助手席のほうに乗り込む。なんだかんだ言って
「しっかし疲れた疲れた。もうくたくたよ。玄斗、夕飯はなぁに」
「今日は僕じゃなくて紅一が作ってるよ。なにかは僕も知らない」
「へー、あの子が。珍しい」
「なんでも、黒慧に言ってやりたいことがあるとかなんとか」
「なるほど。兄妹喧嘩か」
「かわいいものだろうけどね」
まあ確かに、あのふたりが本気で殴り合いの喧嘩をする事は早々ないだろう。言い合いには発展しても結局そこまで。自分とどこぞの根暗女みたいに引き摺りすぎることもなし。良い兄妹に育ってくれた。
「真面目で優秀な生徒会長なんだって」
「はい?」
「紅一。色々と頼られてるみたいだよ、教師生徒問わず。頭も良いし要領も良いし。運動神経だって悪くないし。昔の赤音みたいだ」
「そうかしら。あたしはもっとこう、あの頃は派手にバーッとやってた気がするけど」
「派手というか、型破りというか……?」
「若気のいたりよねぇ……」
今はもうあんなにはしゃげる気はしない。歳はとりたくないもの──なんて誰でも思うことだけど、完全に同意だ。
「何年前のことかしら」
「高校生のとき? 二十年ぐらい前じゃない?」
「そんなに経っちゃったかぁ……そりゃあ、懐かしく思えるワケだ」
思い返せば色々──いやほんと色々あって、もしかしなくてもありすぎたぐらいだけど。
「──うん。でも、良かったわね。とっても良い時間だったわ」
「──────」
後悔はない。後ろ髪を引かれるような思いは、多分、微塵として存在しない。だってこれまでの人生ずっと、私は私らしく、私自身の足で生きて歩いてきた。ならきっと、その選択のすべてに悔いはない。もとより、それを無くすために今を生きているようなもので──
「……あんたはどう? 玄斗。結局、あの子じゃなくあたしを選んだけど」
「僕……? ……僕、かぁ……」
けれど、その考えを他人に押し付けるのも間違いだろう。
「……正直、よくわからないかな」
「──それって」
「でも」
と、彼はひとつ区切って、
「──でも、きっと、いつか分かると思う。それがいつになるのかは、やっぱりさっぱりだけど。……僕は僕のために生きられてる。今はそんな気がする。ならいつか、そうやって生きて選んできたんだって、胸を張れる日が来ると思う。うん、きっとそうだ。そんな風にしっかりと前を向いていたくて、僕は赤音
「……そっか」
懐かしい呼び方と不器用な独白。囁くような声でぽつりと返しながら、私はちいさく笑った。おそらくは嬉しくて。たしかに不明瞭で、あやふやで、聞いてる側からしたらチンプンカンプンな内容だったけれど。
「(……そうよね。
その言葉は、私が求めていた答えになにより近かったと思ったのだ。
◇◆◇
「ただいまー……って、あんたらなにしてんのよ」
「兄さんが、兄さんがあたしのスリーサイズ知ってやがった……!」
「たまたまちろっと小耳に挟んで。カマかけたらビンゴだっただけ──ッててててて! いてぇ!」
「仲睦まじいわねえ……」
「良いことじゃない?」
「……それもそうね」
「「よくないッ!!」」
個人的に私はめちゃくちゃ気にくわないエンディング。お前みたいな女の子沢山困らせた野郎が何一つ欠けてない幸せを掴めるほど世界は甘くねぇんだよ……!(発作)
ここだけの話、実は前半ヒロインは全員エンディングまでのルートとお子さんの設定を決めてました。でも主人公が白色ちゃん一筋すぎたので全没になりました。はーほんまなにもねえくせによぉ…