ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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二章もあとすこしで終わり また幕間が二話になるんじゃ……


余韻に浸って自然体

 家に帰ると、鍵が閉まっていた。

 

「……あれ」

 

 ガチャガチャと回してみるが、一向に開く様子はない。普段は母親がずっと家に居るのもあって、玄斗は家の鍵を持ち歩いていなかった。頼みの綱のポストの中身も、空になって見当たらない。大方母親に連絡していたから、午前中にパートから帰ってきて回収したのだろう。時刻は七時半を過ぎたころ。空腹がもうそろそろ襲ってくるころだが、それよりも大敵は春先の冷え込む外の気温だ。流石にブレザーだけでは辛いものがある。

 

「……っと、電話?」

 

 どうしたものかと考えていた矢先、ちょうどいいタイミングで携帯が鳴る。見ればディスプレイには「十坂真墨」と浮かんでいた。ひとまず冷えてきた片手をポケットに突っ込みながら、玄斗は通話ボタンを押した。

 

「もしもし」

『あ、お兄、いまどこー』

「家の前だけど」

『あちゃー……いや、言うの忘れてたんだけどね、今日うち外食になっちゃって。ほら、お母さんがコンロ壊しちゃって。折角ならって。どうする? 街中のレストランだけど、今から来る?』

「距離は?」

『車で三十分』

 

 絶望的だ。徒歩で行ったらそれに加算して何十分かかるか分からない。自転車を使うという手もあるが、それだと家族が車で帰る間に来た道を必死にこいで帰らなくてはいけなくなる。外食するためだけにそこまでするのもなんだか、という気分だった。

 

「無理だろう……こっちで適当に食べておく」

『はいはーい。あ、お土産とかは?』

「いいよ、そういうのは。楽しんできて」

『カッコ付けー。お兄のカッコ付けー。素直に言えよう、自分も行きたかったって』

「今度、真墨の朝ご飯にしいたけ沢山入れるようお願いするから」

『んっもーう! お兄ってば最高なんだからあ♡ 大好きっ♡ じゃあね!!』

 

 ぶつり、と半ば強引に切られた。人を殺せそうな目をしながら「あの菌糸類はマジで無理」という妹に思うところがないわけではない。好き嫌いをしていてはそれこそ大きくなれないし、偏食というのもアレだ。ご飯だけはしっかり食べないと、というのが基本的な玄斗の思考である。できることならいつかは、と思っているが本人が嫌がっているのに無理をさせるのも忍びない。こればっかりは、妹の成長に祈るしかなかった。

 

「(……って、真墨の心配ばかりしててもいけないか)」

 

 気が抜けたところでちょうど腹の虫が鳴いた。食事をするには良い時間でもある。向こうから最低でも帰ってくるのに三十分はかかることを考えると、夕食ついでに暇潰しもできるところが最適だろうか。考えて、そういえば近くにファミレスがあったのを玄斗は思い出した。

 

「(うん。そこで適当に食べよう。今日はずいぶんと動いたし、疲れた)」

 

 その疲労がストレートに肉体まで響いていないのは、きっと心情の問題だ。疲れてはいたが、それ以上に救われたような気がしていた。本当に良いのかと思うぐらい、心が浮ついている。それがなんとなく慣れなくて、もう一度時間を確認しようと携帯の画面を見る。でも、結局、彼女に変更させられた壁紙のせいで、どうにも落ち着かなくなる玄斗だった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 時間帯のコトもあってか、偶々今日がそういった流れだったのか、店内は意外にも大繁盛でごった返していた。

 

「申し訳ありません。いま、席が埋まっておりまして……」

「そうでしたか」

 

 参ったな、と思いつつもすぐに思考を切り替える。こだわる理由もないので近場の食事処を玄斗は脳内で再検索してみるが、一番近いところでも歩いて十分はかかる。地方都市故の不便さだ。これが都会なら地下鉄や電車で何分だと思うと、すこしばかり向こうへ行きたい気分になった。

 

「――あれ、十坂?」

「?」

 

 と、そこへ偶然といったふうに声をかけられた。見れば、制服を着た少女がコップ片手にこちらを見て目をしばたたいている。見知らぬ他人……というワケでもない。第一、名前を呼ばれている時点で見知らぬコトなんてなければ勘違いでもなかった。

 

「……五加原(ゴカハラ)さん?」

 

 五加原(ミドリ)。彼のよく知るクラスメート、ついでに「アマキス☆ホワイトメモリアル」ゲーム本編において貴重な同年代ヒロインのひとりである。

 

「えーなにー。どしたの。ひとり? ごはん食べに来たワケ?」

「うん。席が空いてないみたいだから、他をあたるけど」

 

 まじでー? とけらけら笑いながら碧が目尻の涙を拭う。箸が転んでもおかしい年頃とはいうが、いくらなんでも笑いすぎではないだろうか。なにか無理でもしているような、と玄斗にしては珍しく疑問を覚えていたとき。

 

「あ、じゃあさ、あたしと一緒に食べてく? ほら、絶賛あたしボッチだし」

「いいのか?」

「なーんて、十坂がそんな誘い乗るワケ――」

 

 ピタリ、と碧の体が固まる。先ほどまでのふざけたような態度はどこへやら、つう、と一筋汗をつたわせながら眼前の少年を見る。

 

「……まじ、で?」

「駄目なら良いんだけど」

「い、いやいやいや! 駄目とは言ってないし!? あ、あは、あはははは……!」

「?」

 

 ばたばたと手を振りながら「えー」やら「うー」やら言っている碧に首をかしげつつ、なにかマズいことでも言っただろうか、と玄斗はいまいちど自分の発言を振り返った。ご一緒するか、と訊かれたのでご一緒する、と答えた。……と、ここで「そうか」なんて彼は内心で納得のいく答えを見つけた。

 

「ごめん。やっぱり遠慮しておくよ。社交辞令だったらあれだし」

「えっ!?」

「え?」

「……しゃ、社交辞令じゃないからっ! ほ、ほら! 良いから! こっち来なって! 十坂っ!」

「あ、うん」

 

 妙に落ち着きのない碧に案内されて、玄斗は店内の奥にある席まで歩いていく。彼女はちょうどドリンクバーを取りに来ていたようで、メロンソーダをコップに注いでスルスルと店内を進んでいく。何度か会話したことはあるが、今日みたいに落ち着きのない碧は珍しい。大抵はイマドキの女子高生らしい、軽いノリと雰囲気なものだったから余計にだ。

 

「は、はい。これメニューね。てか、と、十坂もこういうトコ来るんだ?」

「時々、だけどね。……、」

「あ、決まった?」

「? うん」

「じゃあ頼もっか。あたしはもう頼んでるから、えと、ほら。いいし」

 

 はにかんで、碧は自分のほうに用意されてあった料理へ手をつける。その光景になにを思うでもないが、意外だったのはその気の利かせ方だった。一通りメニューを見ただけで決めた玄斗の思考を呼んだかのように、よし頼もうというタイミングでちょうど声をかけられた。妹にすらそんな真似はされたことがない。やっぱりよく人を見ているんだな、と玄斗は内心で再確認した。

 

「お待たせしました」

「えっと、ハンバーグステーキ定食のBセット、ご飯大盛り」

「…………、」

「あとサラダ盛り合わせ、ミートソーススパゲッティ、鮭の切り身と味噌汁のセット……あ、唐揚げもお願いします」

「……!?」

 

 ごふっ、と碧が飲んでいたメロンソーダを吹き出しかけた。注文をとっていた店員が心配そうに彼女を見つめている。どうしたんだろう、と首をかしげた玄斗に、困惑を隠しきれない表情で碧が顔を上げた。

 

「ちょっ、っ、えほっ、けほっ」

「……お、お客様、大丈夫でしょうか」

「だ、大丈夫です大丈夫です! あははー……じゃなくて十坂っ!」

 

 がたん、と椅子を鳴らして碧が詰め寄る。ペーパーナプキンで口元をおさえているあたり、被害は結構甚大だったらしい。

 

「なに?」

「なに、じゃないよっ。え、うそ、十坂そんな食べるの!?」

「? うん。まあ、今日はちょっと疲れたから、すこし多めに」

「す、すこし……?」

 

 いまのが? と震える声で訊ねる碧。実際平時とくらべれば誤差の範囲内なので、あんまり玄斗としては気にすることでもない。

 

「……えっと、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「あ、はい。すいません。お願いします」

「ではくり返させてもらいますね……えー、ハンバーグステーキ定食のBセット――」

 

 一通り注文内容を言い終えたところで、「大丈夫です」とだけ返して楽な姿勢につく。真向かいではいまだに碧が「ありえないでしょ……」と指を震わせながらこちらを見ているが、たしかに家だとこれより二品減るぐらいなのでかなり多いのかも知れない、と玄斗は勝手に納得した。

 

「ご飯は大事だよ。食べないと死んじゃうし。なによりお腹が空いてるとなにもできない」

「うわ、なんか、親みたいなこと言ってる、十坂。……てか、意外すぎだし」

「そうかな」

「うん。……やー、だって十坂、細いじゃん。もっと小食かと思ってた」

「そうでもない。なにより、美味しいからね。ご飯」

「ふーん……」

 

 メニューを戻しながら言うと、碧はそっぽを向きながらストローでメロンソーダを吸っていた。かっちりと着込んでお淑やかさも漂わせるような蒼唯とは違うが、すこし崩した着方でセーターの袖を手のひらの半分ほどまで余らせた碧の格好はどこか様になっている。名前のとおり深緑を思わせる黒に近いウェーブのかかった髪色が、余計映えて見えた。

 

「……あー、十坂さ。そういえば、今日休みだったよね」

「……うん」

「えっと……なにしてたのかなー、なんて……」

「…………散歩」

「いやいや! 分かりやすい嘘つくなし! もー」

 

 笑うってー、とおおげさに反応する碧だが、まあ玄斗からするとあながち間違ってもいない。問題は、その散歩が目的は別にあって、なおかつひとりではなかったというコトだ。

 

「ほら、あの、誰だっけ。転入生の壱ノ瀬さん? だっけ。心配してたよ」

「みたいだね。あとで電話はしておく」

「あはは……仲、良いんだ。十坂と、壱ノ瀬さん」

「まあ、幼馴染みみたいなものだから」

 

 なんて話をしていれば、不意にテーブルの上に置いていた携帯が震えた。短いので電話ではない。咄嗟に確認してみると、ちょうど話に出てきた白玖……ではなく、本日一緒に散歩という名のさぼりを楽しんだ相手からだった。

 

『今夜十時あけておくこと。無理なら連絡』

「(……すごいストレートだ)」

 

 そのシンプルさがまたらしい。シンプルすぎてむしろ玄斗の意見が入る余地もなかったが、十時ぐらいならとくにコレといった予定も頭に浮かばない。平気です、とこちらもシンプルに返信して携帯を置くと、目の前の少女の様子がすこし変わっていた。

 

「…………、」

「……五加原さん?」

 

 じっと、どこか、苦虫を噛み潰す寸前のような顔で玄斗を見てくる。それはなんだかとても不穏で――同時に、無視できないものだと彼は悟った。

 

「……いまの」

「いま? ……えっと、携帯?」

「たしか……三年の」

「ああ、うん。先輩」

「……っ」

 

 ぎゅっと、碧のコップを持つ手に思わず力が入った。

 

「…………十坂、さ」

「うん」

「……もしかして、なんだけど」

 

 どくん、と跳ねる。それはどちらのものか。言うまでもなく。――なにも気付かないまま、なにも知らないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あたしのこと、嫌い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 十坂玄斗の心に、杭を打ち付けた。  




感想返せなかったよ……(レイプ目)すまぬ……すまぬ……でもちゃんと確認はしてます。ときどき予言者がいるのでもう戦々恐々としながら「予言される前に書きゃあ良いんだよ書きゃあ!」みたいな気持ちで筆走らせてました。はい(白目

とりあえす平日は一日一話です。休日の最大瞬間風速はときたまやるかもしれない。うん。ときたま。

とにかくゆっくり更新していくのでしばしお付き合いお願い致します。




感想多くてなんで一夏TSの感想返しやめたのか思い出したので明日から返せる分を返していきたい(決意

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