ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

23 / 142
色々と感想で出てるのでここでひとつ。


【1】白、赤、?、青、緑、黒

【2】紫、?、?、灰、?、“  “


穏やかな昼下がり

「十坂」

 

 名前を呼ばれて玄斗がふり向くと、黄色い腕章をつけた男子生徒が立っていた。なにか言いたげな表情と共に、「んっ」と布に包まれた弁当箱をかかげる。

 

「メシ、行くぞ」

「……鷹仁(タカヒト)。僕はいつも学食なんだけど」

「だからじゃねえか。ほらよ」

 

 ひょいっと投げられた弁当箱を転がしながら受け取る。よくよく見れば向こうの片手にはすでにコンビニのレジ袋が握られているので、ふたつめということだろう。……そのふたつめの出所が、なんとなく布の色で分かった。

 

「……赤音さん?」

「会長だ馬鹿野郎。殴られても知らないからな」

「そこまではしないよ。鷹仁でもあるまいし」

「……お前さ」

「?」

 

 じっ、と男子生徒が睨んでくる。天然、鈍感、唐変木。が、それはなんにしたって恋愛事に限った話でもない。この男はどこまでもこうなのだと、撫で上げられた金髪をかきながら彼は息をついた。

 

「やっぱ頭おかしいだろ。……ほら、とっとと行くぞ」

「うん。ところで、どこに?」

「俺たちの所有地だ。……もっとも、隅に追いやられただけとも言えるが」

「そんなことない。追いやられるもなにも、鷹仁だって立派な生徒会役員だ」

「……だから追いやられてんだよなあ……」

 

 皮肉交じりの言葉だって裏はない。どうせ天然。ただの天然。もしくは人の心なんて欠片も理解しちゃいない。そうくり返すように呟いていた誰かのコトを思い出して、男子生徒はやれやれと肩をすくめた。まったくもって気が抜ける。

 

「で、鷹仁。これ、なんなんだ?」

「……受け取っておいてそれか。察しろバカ」

「む、それは難しい。……毒味?」

「作ってやったんだと。率直に言ってやろう。――――食え。それがぜんぶだ」

「なるほど」

 

 くるりと踵を返して歩いていく男子の背中を、玄斗もゆっくり追いかける。木下鷹仁(キノシタタカヒト)。この学校では色んな意味でちょっと有名な、十坂玄斗の悪友に位置する人物である。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 扉を開けると、圧迫感のある備品の壁が目に入った。第二数学準備室。もはや使うこともなくなったそこは、生徒会における物置――つまるところの倉庫代わりとなって細々と部屋としての役割をまっとうしている。積み上げられた大量のファイル、ダンボール、消耗品その他諸々。そんな中にしっかりと空間の確保された長机に向かい合って腰掛けながら、ふたりはそれぞれの弁当に手をつけはじめた。

 

「お疲れさまだな……どうだ、慣れたか?」

「ぜんぜん。毎日倒れるように寝てる。……いままでこういうの、鷹仁がやってたんだろう?」

「誰もやらねえから俺がやるしかなかっただけだよ。で、それを知ってるなら話が早い。……おまえそれ、もうずっと付けてろ」

 

 びしっ、と行儀悪く箸で玄斗の腕章をさしながら、男子――鷹仁が言う。それまでの生活と比べて忙しくなり玄斗の顔色はたしかにちょっと悪くなったが、反比例するようにこの少年の顔色はちょっとずつ良くなっていた。生徒会の忠犬。牙を抜かれて会長にボコられた憐れな飼い犬。そう揶揄されている仕事量は、とてもじゃないが普通の域を超えているらしい。

 

「赤音さんにも言われたけど、そういうわけにもいかない。大体、鷹仁はずっとこれが欲しかったんじゃないのか?」

「欲しかった。……が、いまはもう要らねえ。つうか押し付けられても受け取らねえ。この数ヶ月で分かりきったし身の程知ったし絶望した。……十坂。ありゃあな、女じゃねえよ。二之宮赤音っていう生き物だありゃ」

「? そりゃあ、赤音さんは赤音さんだろうけど」

「お前……」

 

 本当にもうこの男は、と鷹仁が頭痛をこらえるように額に手を当てる。

 

「……ちょっと前の話をしよう。俺が会長に噛みついたことがあった」

「待ってくれ。それ、大丈夫か? 歯とか。折れてないか? 平気だったのか、鷹仁」

「ちげえ。比喩だバカ。むしろおまえが待て。おい。座れ。無事だよぜんぶ手前の歯だ」

「そうか」

 

 よかった、とひと息つくように玄斗がパイプ椅子に腰をなおす。どのあたりが良いのかは考えたくもない。

 

「……俺の仕事量と割り振り考えてもうひとり入れるかどうかしねえと潰れるぞって脅したんだよ。なんなら親父に言って無理にでもそうさせるって。大体、生徒会の役職ひとつ抜けたままとか、ろくな動きできるワケないのはあの女なら分かりきってるハズだ。だからまあ、ちょっとした、なんだ? 俺のなかの正義も込めてぶつけたんだが――」

「うん。どうなったんだ?」

「胸ぐら掴んで怒鳴ったら、そのまま廊下に転んでいったよ。……俺が」

「……ご愁傷さま」

 

 ちなみに、こう見えて理事長の息子である。人は見かけによらないものらしい。

 

「うるせえ、哀れむな。……いや本当勘弁しろよ……なんで、あんな……あんな暴力と破壊と嵐の化身みてえな女に俺は幻想抱いてたんだと……!」

「まあ、見た目は最上級に良いからね、赤音さん」

「ああそうだよ。ぜんぶ後悔してんだ。……本当、あん時おまえを殴らなかったらなあ」

「そこまで後悔するのか」

「ったりめーだろバカ」

 

 むしろ最大の汚点である。あの一件のせいで二之宮赤音に目を付けられたも同然だ。そして一般生徒にするような優しい扱いをされなくなったのもそのせいだ。鷹仁としては悪夢のはじまりと言わざるをえない。自業自得というのは分かっているので、とくに不平不満こそ言っても逃げたりはしないが。

 

「でも、そこは後悔しなくてもいいんじゃないか?」

「あ? なんでだよ。むしろ殴られたおまえこそなんか言っても――」

「だって、それがあったからこうして鷹仁と仲良くなれたわけだ。なら、大して後悔する内容でもない。むしろ良かったよ、僕は」

「…………俺、おまえのそういうところ、大嫌いだ」

「僕は鷹仁のそういう素直なところ、案外好きだよ」

 

 本気で汚点である。鷹仁からすれば、なにも知らなかったと言い訳をする気も起きない。なにせ自分が怪我をして休んだところへ色々と世話を焼いたのが、思いっきり殴り抜いた彼だったというのだから正直に頭がわいているのかと思った。もっとも、真相は単純に、彼はある程度の他人とのアレコレをそこまで気にしない質だというだけだろうが。

 

「……なあ十坂。実際、その気がないなら会長とか、やめとけよ。なんならいい女子を紹介してやる。こう見えて学校では親の七光りだ。馬鹿にされようが資産持ってんのは確定なんだよ。……どうだ、一年の原田(ハラダ)とか、A組の猪須子(イノスジ)とか」

「? ごめん、知らない」

「綺麗どころだ。まあ、うちのバケもんみてえなヤツらにゃ敵わねえが……それでも見所はあるぞ。なにより性格だ。こう、トゲとかいうレベルじゃない、もうなんだ、釘とか、ネジみてえのがない」

「……鷹仁はときどき難しいことを言うな。僕にはさっぱりだ」

「……ああ、すまん。悪かった。誰がいちばんそうなってるかなんて、言うまでもなかったよな」

 

 トゲはないし、釘もなければ、ネジなんて飛び出てはいない。むしろそれら全部が外れて飛んでいっているような人間がいたのだと、鷹仁は目の前の少年を見ながら思い出した。

 

「とにかくだ。会長はやめとけ。いいか、ここだけの話、あれは相当だぞ。大概の物事に関してはさっぱり割り切る二之宮赤音が、一年間もどこぞの誰かのために席を残してやがる。……この意味が分かんねえほど、おまえも鈍くはねえだろ」

「おかしいよね。代わりなんて、いくらでもいるのに」

「……すまん。前言撤回だ。よし、言ってやろう十坂。いいか、二之宮赤音はな、おまえのことがす――」

「あら、随分と楽しそうな話をしているわね」

 

 がらり、と部屋のドアが開いた。さっきまで妙にぐいぐいと来ていた鷹仁の体がピタリと固まる。ついでに、玄斗の箸もスッと止まった。おそるおそる、といった様子で鷹仁は扉のほうをふり向く。――スライド式のドアを開けて立つ赤音の顔は、ぞっとするぐらい綺麗な笑顔だった。

 

「……十坂。俺、死んだかもしれん」

「いや、それは困る。まだ十六だぞ。早死になんて、よくない」

「ああもう本当おまえのそういうところが大っ嫌いだわ俺……」

 

 ふっ、と笑う鷹仁の頬を涙が一筋つたう。覚悟を決めた男の姿だった。

 

「――じゃあな、十坂。また会えたら、そうだ……一緒に酒でも飲もうぜ」

「お酒は二十歳になってからだよ、鷹仁」

「バーカ。酒のひとつやふたつくらい飲んだって」

「生徒会書記、木下鷹仁」

「はいっ!」

 

 ガタン、と勢いよく鷹仁が立ち上がる。いい返事、おまけにいい姿勢だった。気の持ちようが違う。

 

「いまは昼休みだし、仕事でもないし、とやかくは言わないけれど」 

「……あ、はい。それなら」

「次、へんな真似してみなさい。――もう一度昼の夕焼けを見せてあげるわ」

 

 〝――余計(ヨケイ)(コト)()ウナ〟

 

「――――、」

 

 ぞっとしなかった。ちょうど一年生の頃。とある男子を殴ったコトが発端で見た真昼の赤い空を、彼はふと幻視したような気がした。

 

「……牙を抜かれた忠犬って話、本当だったのか。鷹仁、すごい大人しい」

「やめろ……それをここで言うな……ああちくしょう……俺を誰だと思って……」

「言って欲しいの? 永遠の二番手、トップにはなれない男、成績も学年二位、頭よりもその次の次ぐらいがいちばん輝く人材。そう私は評価しているわ」

「すいませんもう良いです」

 

 がっくりと肩を落として、鷹仁はパイプ椅子に座り込んだ。気持ちその金髪がいつもよりくすんで見える。

 

「それとそこの副会長カッコカリ」

「はい」

「放課後、残っておくこと。勝手に帰ったら承知しないから」

「わかりました」

「……それと」

「?」

 

 スッと、彼女は目を細めて、

 

「……味の感想を聞かせなさい」

「あ、すごい美味しいです。赤音さん、料理上手なんですね」

「……当然よ。私にできないコトなんて、ちょっとしかないわ」

「ちょっとの範囲がおかしいだろ……」

書記(そこ)うるさい。……じゃあ、それだけだから」

 

 言って、赤音は足早に教室から去って行った。バタン、とわずかながら乱暴にドアが閉められる。狭い数学準備室に残されたのはふたりの男子。状況をあまり飲みこめていない玄斗と、状況を飲みこめすぎた鷹仁のみ。

 

「……十坂」

「? なんだい」

「やっぱり俺、おまえのこと苦手だ」

「そっか」

 

 言いながらも、ふたりの間に険悪な様子はない。静かな部屋に流れる沈黙はけれど長く心地よく続いている。きっとそんな関係も、ときには友情と呼ぶのだ。




珍しい平穏回。連続更新中じゃないとこれは書けないと思ったので。








生まれも育ちも優れてて七光りで調子乗ってるのに一番にはなれないという拗らせ全開系男モブ。そんな中にちょっと良いなと思った人と仲良くしてるのが同学年のしかも成績トップとかまあそりゃあカッとなる。でも仕事はできるし頭も回るのでそのあたり割り切るとメイン級。……いや、男キャラのヒロイン力とか実質ないから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。