ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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重いだヘヴィーだNiceboatだと言われますけど、わりと今作書いてるときに叩き込んでるのは良い方向の想いだったりします。


あなたはそこに生きていますか

 

 誰もいない教室で、玄斗はひとり腰掛けている。すでに日は落ちかけていた。黄昏色の空を、なんとはなしにぼうと見つめる。待ち続けてはや二時間。退屈なコトも忘れるぐらい、なにかを待つというコトには慣れている。待つしかないのならそうするべきだ。昔は、それだけで一日が終わっていた。

 

「…………、」

 

 らしくもなく、ある筈もない感傷に浸りかけた。なんてことはない。ただの気の迷い。四埜崎蒼唯につけられた心の隙間から、漏れるように吐露した。……そんな、名前も生きた意味もないような人間なんて、どうでも良いというのに。

 

「(……でも、どうなんだろう。最近は本当、よく分からない)」

 

 見失った答えを取り戻すのは難しい。元よりなにもなかった彼に、それはどんな無理難題よりも厳しく思えた。ぽっかりとあいた心の穴。いいや、それは事実、はじめから用意されなかった欠如のカタチだ。なにもない。だから、なにも感じない。あたりまえをあたりまえと知らなかった日々が、いまは遠く懐かしい。

 

「…………、」

 

 窓の向こう、見上げれば燃えるような夕焼けが広がっている。赤い、赤い、黄昏時の空の色。ふと、そんな光景を見続けていた過去を思い出した。色のない部屋に、唯一と言っていいほど色が付く瞬間。もはや見えなくなりかけた瞳を開けて、最後にその瞬間を見届けたのだったか。古い記憶だった。らしくもない、と蓋をしてしまい込む。……でも、どうなのだろう。らしくはないというが、一体、自分らしさとはなにか。

 

「(……分からない。それはとても、難しいんだ)」

 

 ひとりになると静かで良い。でもこうして悩むのは、今日がはじめてのような気がした。誰かの言った例え話に乗るとすれば、中身に水がすこし溜まった証拠か。ひび割れたガラスの花瓶に、手を加えた人が居たのだろう。物好きにも、ガラスの名前まで突き止めて。

 

「……なにもない。なにもいらない」

 

 おまえの名前はそういうことだと、言われたのがもう懐かしい。一にすら届いておらず、有るわけではないモノなのだと。そんなおまえになにも要らないだろうと、仕事の忙しい父親はとくになにをするワケでもなかった。毎日が必死だった思い出。あたりまえのように食事をして、あたりまえのように学校へ通う。そんなことが夢のようだったときの自分も、大して変わっていたわけではない。ただ、いまはそんなモノを謳歌する余裕すらなくなっている。

 

「(変な話、それしか考えられなかったんだから当たり前か。……だとしたら、いまの僕には一体、なにがあるんだろう――?)」

 

 いや、そんな予想こそ。有る(・・)という思い自体が、間違っているような気がして――

 

「なーに黄昏れてんのよ」

 

 力強い声音に、不安と心配を吹き飛ばされた。

 

「……いえ、ちょうど。黄昏時だったので」

「ふうん。――なんだ。案外、らしい(・・・)じゃない」

「……らしい、って?」

「別に。ただ、思ってたよりも前に進んでたってコトよ」

 

 そっと教室に足を踏み入れて、赤音が側まで近付いてくる。夕方の校舎には昼間とは違った異界の有り様が広がっている。夜になればもっと隔絶した空間に成り果てる。日常のなかに溶け込みながら、時間と見え方でそのカタチを変えていく印象だ。

 

「前に?」

「そう。立ち止まってばかりの足を動かしたのが……どうせ、気に入らないやつなんでしょうね。大方、そんなことができるのは私の知る中であの女ぐらいよ」

「……先輩から、なにかを?」

「聞いてないし、聞きたくもないわ。ただ、変わったってコトは、すぐに気付いた。……本当、人が見ていない間にできるところまでやるんだから、あいつ」

 

 憎々しげに顔をしかめて、赤音はさも自然と毒を吐いた。ある種の信頼にも近い嫌悪は、きっと彼女たちの確執であり不仲の原因だ。二之宮赤音と四埜崎蒼唯。ふたりの間によろしくない部分があるのは、この学校の誰もが知っている。

 

「ね、玄斗」

「はい」

「夕焼けは、好き?」

「……どうでしょう。でも、悪くはないと思います」

「そう。……私は好きよ。だって、こんなにも綺麗な景色があるんだって、毎回気付かされる」

 

 そう言って、赤音は頬をゆるめながらほんのりと笑った。その姿が、名前のとおり、実にいまの風景と似合っている。

 

「……さ、帰りましょう。あまり残ってると、先生に怒られるかもしれないし」

「え? あの……なにか用事があって、残したんじゃ……?」

「む…………、」

 

 くるりと踵を返して去ろうとしていた赤音の動きが、ピタリと止まる。なんだろう、と玄斗が首をかしげいてると、しばらくしてそっと彼女はふり向いた。外は夕焼け。赤い世界。その頬が熱に浮かされているように見えるぐらいには、おかしな時間帯だった。

 

「……一緒に帰りたいだけで引き止めちゃ、悪い?」

「……いえ。そんなこと」

「……ならいいじゃないっ」

 

 帰るわよ、ともう一度くり返した赤音の後ろを、玄斗は急ぎ足で追うように付いていく。傾いた日と、赤い空。風景はとびっきり特別だ。これ以上ないぐらいの余韻を残して、教室の扉を後ろ手に閉める。いまの彼にとっては彼女の揺れる赤髪が、どこか、いつもより目を引いた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 街中に出ると、すでにポツポツと明かりがつき始めていた。公園の電灯、繁華街の煌びやかなネオン、住宅街の窓から覗く細い光。人の営みが終わる間際、夜になってもまだ眠らない現代の光だ。そんな中を、玄斗と赤音はふたりして歩いていく。

 

「んー……やっぱり良いわね、こういう、なんていうか……暗いけど明るい街」

「そうですか?」

「ええ。だってなんか、ワクワクしてこない?」

「……すいません。ちょっと、よく分かりません」

「ま、感性は人それぞれか。あんたはそう、私はこう。十人十色よ」

 

 呟いて、赤音は歩を進める。人ごみをかき分けて、時に人の流れにのって、すいすいと進んでいく。慣れたものだと玄斗はすこしだけ目を見開いた。自分にはすこし、ああいう経験が足りていないような気もする。

 

「玄斗。生徒会、どう?」

「大変です。でも、やりがいはあるコトだと思いました」

「無難な台詞ね……もっとなんかないの、あんたらしい言い方」

「……僕、らしい……」

 

 言われて、ふと足を止めた。らしさ。たったの三文字になるその言葉は、一度考え出すと非常に難しい。十坂玄斗であれ、■■■■であれ、らしさというものを見つめ直すとどうしても答えに窮する。……手探りでも、掴めそうにはなかった。

 

「そ。……あんたらしく、これ、難しい?」

「……はい。とても」

「そっか。参ったなあ……そこまで悩むようなコトでも、ないんだけど」

 

 やっぱりそういうことなのか、と苦笑しつつ赤音は理解する。ここに来て囚われているのがなんなのか、しっかりと見えた。自縄自縛とはまさにこの事で、なるほど、どうりでこうも歪なのだと全体像さえ浮かび上がる。ただ待って、解して、その奥底にまで手を伸ばす。――そこまで優しくするつもりも、甘えるつもりも、彼女にはなかった。

 

「玄斗は、なんのために生きてるわけ?」

「なんのって……………………あれ……?」

「…………やっぱ、駄目か」

 

 なんのため。ふらついた足を、近くのガードレールで持ち直した。壱ノ瀬白玖のためというのは理由たりえない。違う、それはまた別の理由だ。なんなら死んでもできるコトだってある。でも、じゃあ、それなら。――一体、自分は、なんのために――?

 

「十坂玄斗だから。……そんなコト言って腕章を断ったときから、おかしいとは思ってたのよ。大体、理由が致命的にすぎる。……その名前はきっと、あんたにとって特別な意味を持ってるんでしょうね」

「――――!」

 

 本当に、とんでもない人ばかりだ。なぜこうして、頭の中を直接覗いたみたいに、誰かの考えを読めるものか。玄斗にはそんな原理がさっぱり分からない。人付き合いなんて、()は〝一切するコトなんてできなかった〟から、余計にそうなる。

 

「十坂玄斗。まあ、悪くない響きだし、そこに意味があっても、良いとは思うけど……」

 

 でも、と彼女は区切って

 

「それがどうしたのよ」

「……え?」

「名前なんてただの飾りよ。言っちゃえば記号でしかない。それ以上なんて、所詮誰かが勝手につけたものでしかないわ」

 

 がん、とハンマーで頭を殴られたような錯覚。メッキ()が、剥げた。

 

「十坂玄斗だろうがなんだろうが(・・・・・・)関係ない。あんたはあんたってコト。名前に囚われるなんて馬鹿らしい。〝美〟ってついてちゃ絶対美しくないといけないの? 〝善〟って入ってたら完璧に良い人じゃないと駄目なワケ? 違うでしょう。名前なんて、誰かを表す記号で十分」

「ただの……記号……」

「そうよ。そんなコトも知らないなんて、本当バカね、玄斗は」

 

 からかうように、赤音は笑った。十坂玄斗(ただの記号)に囚われているおまえはバカだと。なんでもないように、今さら生きることの大前提を示すように。もう繋げれば三十年と生きてきた、彼の不足を補うように。

 

「あんたはね、玄斗。馬鹿で、鈍くて、天然で……そのくせ自分のことに目がいってない。だから、同じ方向に来てるものも気付けない。面倒くさい人間よ、あなた」

「……面倒、くさい」

「うん。とっても。……だから、まずはそうね。自分を見つめ直せ、なんて言わないけど。自分であること。自分でしかないこと。それをきっちり、覚えておきなさい」

 

 どこまでいっても自分は自分。そう思い込んできたときはあった。けれど、きっと、赤音の言葉は意味が違う。それこそ、根本的な部分からそうだろう。

 

「言ってたわよね、玄斗。前に……誰かが笑えてたら幸せって。そんなワケないじゃない。あんたの人生なんだから、あんたが笑えたら幸せよ。良いコトだって、悪いコトだって……まず、あんたが笑わなきゃ意味がない」

「……僕が、笑う」

「でもって、それが駄目なコトなら私が叱り飛ばしてあげるわ。ふざけるなこの悪党、ってね。なんたって生徒会長だし。そのぐらいはまあ、当然の義務よ」

「……怒ってくれる、って意味ですか?」

「だからそう言ってるじゃない。なによ、不満?」

「…………いえ」

 

 不満なんて思うワケが、なかった。

 

「気持ちとか、心とか。そんな難しいもんは後回しでいい。だから、玄斗。あんたはね、あんたとして(・・・・・・)しっかり生きなさい。自分の人生よ? まず真っ先に体験して、見て、感じて、感動するのは自分なのよ? なら、自分がこうだと思う生き方をしてないと、もったいないじゃない。たったの八十年とかそこらしか時間はないんだし」

 

 長くてもそれぐらい。短ければ、それこそ今にも死んでいる。前がそうだった。なにをする暇もなく、なにを感じる余分もなく、気付けば間際にまで近付いていた命だった。だから、その言葉は予想外なぐらい、しっくりきた。

 

「そしたら、いずれ固まって、実になって、誰でもないあんたの色が生まれる。きっと影響なんて受けまくるから、ときどき変わって、混じって、変な色になっちゃうかもね。でも大丈夫よ。きっと最後にはあんただって思えるものになるんだもの。それまでの変遷ぐらい、楽しまなくっちゃそれも損」

「……僕の色、ですか」

「ま、いまはまだ色もなにもないでしょうけど……特別に、教えてあげましょうか。ね、知ってる、玄斗?」

「……?」

「目を開けて、ただ呼吸する。……生きるってね、それだけでとっても楽しいのよ」

「――――――、」

 

 剥げる、剥げる、剥げる。ボロボロと、取り繕っていた(ナニカ)が剥げる。ああ、そうだ。そんなものを知るわけがない。知っていたはずがない。なんてコトだろう。こんなにも簡単で、いつだって、誰にだってできるコトすら――当然のごとく、できていない。

 

「……知り、ませんでした。それは」

「でしょう? でも、いつか分かるわ。きっと分かる。だってあなたはまだなにもない。これから沢山ため込んで、モノにして、作り上げていく器だもの。……一先ず、私が言いたいコトはこれぐらい」

 

 恥ずかしそうに話を締めくくる赤音とは対照的に、玄斗は呆然と彼女を見つめた。まだ衝撃から立ち直れない様子だ。遅すぎたヒントに、手足が揺れすらしない。でも、たしかになにかを掴んだという感触は、残っていた。

 

「……先輩もそうでした。けど、赤音さんも相当です。なんで、僕の考えてるコトが分かるんですか?」

「……まったく。そんなコトも、分からない?」

「はい」

 

 彼は素直に答えた。彼女は頬を赤くしながら、そっぽを向いて一呼吸置いた。

 

「――あんたに気があるからよ、十坂玄斗(・・・・)

 

 息が止まるという瞬間を、玄斗は改めて思い知った。ストレートだ。歪みない。歪みがなさすぎて、真正面からたたき伏せられそうだった。

 

「……赤音さん、が?」

「それ以外に誰がいるのよっ」

「……え。でも、それって」

「ああもうしつこい! 私はあんたのことが好きって言った! 押し付けた! ただそれだけ! だいたい、そんな精神状態で答えなんて望んでるかバカ! もっと落ち着いてから返しなさいよっ!」

「ご、ごめんなさい……?」

「まったく……」

 

 がーっと吠えるようにまくしたてて、赤音は腕を組みながらふいっとよそへ視線を投げた。微妙な静寂。街の喧騒は絶えないのに、そこだけが異様な空気に満ちている。頬の熱が引いた頃を見計らって、さきに会話を再開したのは彼女だった。

 

「――だから、まあ」

「っ」

 

 ぱしっ、と玄斗の腕が掴まれる。優しく、暖かく、包み込むように、けれど引っ張るように、ぐらりと赤音のほうに傾いた。そんな、一瞬。

 

「まずは今夜、付き合ってもらうわ。夜の街をバックに遊びたおすなんて、素敵じゃない」

「それは、どのくらいまで?」

「そうね……じゃあ、補導されるときまでにしましょうかしら」

「……駄目ですよ。生徒会長がそんな」

「バーカ。生徒会長である前に、私は二之宮赤音よ。それを今日、あんたに教えてあげるわ」

 

 笑う赤音に引き摺られて、彼はずるずると夜の街へ入っていく。悪いこと、良いこと。どちらであれ思うようにして、駄目であれば叱ると言ったその人がだ。本来なら忌避すべき現実である。――なのに。

 

「…………、」

「ん。やっと笑った(・・・)わね」

「え……?」

「笑った。……あんた(・・・)の笑顔は素敵ね、玄斗」

「――――、」

 

 どこか、悪い気はしなかった。






先輩が■■■■を引き摺りあげてないと成功しなかったやり方で、同時に内側に頼った彼女と違って十坂玄斗として叩き付けたあたりが先輩の後の章にコレを持ってきた理由だったりします。まあ正反対。そりゃあ馬も合わない。







設定ポロリしたので付け足すと、なにもしらない子供のまま成長して狂った精神性というのが土台に残ってたりします。いや、それ見抜けるヒロインとか流石にエキスパートでもないと無理じゃねーか(本編を見つつ)
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