ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
「あー楽しい。もうこんな時間よ?」
「……本当ですね」
時計を見ると、すでに九時を過ぎていた。真夜中というほどではないが、高校生がうろつくにはあまりいい顔をされない時間帯でもある。ましてや制服姿で遊び呆けているとあれば、そう見られてもおかしくない。
「……いいんですか? 本当に。生徒会長の赤音さんが」
「良くないわよ。見つかったらしぼられるわね」
「じゃあ、なんでこんなこと」
「そりゃあ、決まってるでしょう。私がしたかったからよ」
自分勝手で自己中心的。そうとも受け取れる台詞を、彼女は躊躇わず口にした。したいからする。やりたいからやる。難しくはない。考えずともその行動理由は理解できる。とても単純で原始的な、そして何にも劣らないモノだった。
「……僕も」
「……うん」
「僕もいつか、そんな風に思える時が来ますかね」
「来るわ。絶対来る。約束する。玄斗は、これからだもの」
前の記録が十六年。今回の記憶も、歳で考えればちょうど十六年だ。それでもなおこれからだと言われる。足りないものが多すぎる証拠だ。きっとはじめにぜんぶ育ちきらなかったせいもあるだろう。まともな幼少期ではなかったのだと、気付いたのは生まれ変わってからだった。
「……なに暗い顔してんのよ」
「いえ、そんなことは……ただ」
「ただ?」
「……うまく、出来るのかなって」
「ばっかみたい」
しぼり出すように言うと、赤音は「はんっ」と鼻を鳴らしながら意地悪げに笑った。
「上手いも下手もありゃしないわよ。そいつの人生、そいつが作らなきゃ誰が作るのかってね。……安心しなさい。どんなに変わっても、どんなところに行き着いても、きっとあんたは素敵な男の子になるわ。その時にまた惚れて、私も出直してあげる」
「……赤音さん。その、僕は」
「答えなくていい。……まだね。時期じゃないでしょう。きっと色んなコトを覚えて、経験して、実感して……それで、あんたがしっかりできたとき。答えはそのときに聞くわ。それはきっと憎たらしいあの女だとか、ましてや最近あんたと仲の良いあの子だったりするのかもしれないけど――」
でも、とひと息ついて、赤音は玄斗のほうを向いた。ゲームのキャラでいう十坂玄斗になんかではない。ましてや、過去に別のどこかで生きて死んだ■■■■にでもない。今ここに生きている彼に向かって、真っ直ぐに。
「それが私だったら、最高じゃない」
にっと笑って、嬉しそうにはにかんだ。
「……それ、言って良いんですか? その……僕の気持ちが、大分、揺らされているような」
「当然よ。私が選ばれたいんだから、そこは推していくわ。むしろ推さなきゃ誰を推すのって……案外しつこいし、誰にも渡したくないって思ってるわよ?」
「……意外です。赤音さんは、いつもさっぱりしてるので」
「あんただけは特別よ、玄斗」
「そうでしたか」
その一言は、なんとなく嬉しかった。フィルター越しではない。その人物そのものというワケでもない。ただ純粋にこの人は目の前にいる誰かと話をしているだけなのだと、そう思わせる自然体がどこまでも刺さった。
「十坂玄斗なんて記号じゃない。ましてや、違いもなにもないわ。私はね、玄斗。目に見たものしか信じないの。だから。目の前のあんたの力量を信じて、副会長の席を用意したんだから」
「……でも、幽霊とか怖がってませんでした?」
「あれは別。ほら、なんていうか。見えないからこそ怖いっていうか……」
「……ちょっと、かわいいです」
「なっ――」
ずざっ、と隣に座っていた赤音が距離をとる。公園のベンチだったせいか、あまり幅は広がらなかった。むしろなんとなくアレな雰囲気になって、赤音としては油断したと思わざるを得なかった。
「……ま、いっか。それも第一歩かもね。あんたが思うあんたであること。素直でいること。あとは、いつだって逃げないこと」
「三つ、ですか」
「三つ、よ。玄斗。後悔するな、なんて土台無理な話だけど……せめて、後悔しないような生き方を選びなさい。あとで悔やむぐらいなら、いま悔しがってでも自分のしたいことをしていくの。後悔はなくすんじゃない。減らすのよ、それが私からのアドバイス」
「……後悔を減らしていく、ですか」
それはなんとも、良いなと思った。後に悔やむ。だからこそだろう。それ自体を無くそうと思ってもできないのなら、せめて減らしていくのだと、前を向いて彼女は答えた。綺麗な生き方だと玄斗は思う。ずっと、ずっと。思えば目を合わせたはじめから、二之宮赤音は綺麗だった。
「さて、じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「……補導されるまで遊ぶんじゃなかったんですか?」
「それもいいけど、やっぱり外聞はあるしね。もう好き勝手動ける時間帯でもなくなってくるし……それに、なんだか満足しちゃったもの。もう、いいわ」
後顧の憂いもないといった表情で、赤音は立ち上がった。夜の帳に包まれた街は、点々とした光で彩られている。それをすこし離れた公園から見た。風情も雰囲気もあったものではなかろうが……なにより、彼女らしくあるというなら完璧だ。なにも特別感こそがすべてではない。なんとはなしに送る生活も、しっかりと宝物だ。そんなことを、ついさっき、当たり前のように玄斗は気付いた。
「……赤音さん」
「なに、玄斗」
「夜空って、こんなに素敵だったんですね」
「……そうね」
ふと頭上を見て、玄斗はそう漏らした。夜空なんてまともに見るのは何時ぶりか。それは十坂玄斗としてではなく、彼としてこぼれた自然な言葉。
「……すごい、綺麗だ」
たとえ現代の明かりに翳んでいたとしても。夜空なんて言えるほど立派な星の輝きではなくなっていたとしても。月がどこか欠けていて、満ち足りてはいなくても。はじめて彼が見たこの世界の夜空は、どこまでも透き通るようで、吸い込まれそうな闇色だった。
◇◆◇
『それ、返してもらうわ』
『……いいんですか?』
安全ピンで留めた黄色い腕章を指差して言う赤音に問うと、彼女は笑って「いいのよ」と言った。ちょっとだけ、寂しそうな表情をして。
『……別に僕は大丈夫です。最近はちょっと慣れてきました。むしろこのままでも』
『なに言ってるのよ。私が求めてるのはそんな、ちょっといい雰囲気に流されて、ちょっと相手のコトなんて思ったりして、傾いたあんたの心じゃない』
『――――』
側にまで近寄って囁きながら、赤音は彼の制服から腕章を外した。生徒会副会長。それを証明する黄色い目印が、彼女の手の中におさまる。
『いい、玄斗。考えなさい。考えて、考えて、自分なりの答えを出すの。あなたが決めたあなたの答えを。きっとそれにはめいっぱい時間がかかるわ。だから、それまでこれは私が持っててあげる』
『でも、それは……』
時間がかかる。分かっているなら尚更だ。二之宮赤音は生徒会長であり最高学年であり、つまるところの三年生になる。残された時間はあとわずかで、待っているなんてできない筈だろうということはいまの玄斗でも分かった。
『あと一年、されど一年よ。そのぐらいなら、辛抱にもならない。……勝手に期待してるわ、玄斗。だからあんたも、勝手に応えるなり、勝手に裏切るなりしなさい。誰がなんて言っても、とやかく文句言われても、関係ない。だってあんたが生きる時間は、あんただけのものでしかないんだから』
要するに他人のコトなんて気にするな、と赤音は言っている。それは難しいことだ。誰かに頼らないというのは慣れているが、なんにも頼らないというのは慣れていない。自分の足で立って、自分の拍動で生きる。そんなコトがこれから長い間続くのだと思うと、不意に、足が震えそうになった。生命維持装置のない生活が、いまになってすこし怖い。
「(……でも、それが普通だ。いままでしてきたんだ。だから、平気だろう)」
朝起きて心拍数を図る機械音はない。吐息がこもるマスクも必要ない。病衣なんてあれっきり一切着てもいない。それでも生きてきた。だから、これからもきっと。
「あ、おはよう玄斗。今日は早い、ね……?」
「――うん。おはよう、
「……なんか、玄斗……変わっ、た……?」
「そうかな……うん。そうかも」
そうやって歩き慣れた通学路を進むと、案外新鮮なことに気付いた。もう散ってしまった桜は、春になると満開で綺麗だったのを思い出す。ちゃんと意識したのは今日がはじめてだった。空が青い。草木が揺れている。空気も澄んでいる。――ああ、なんてこと。こんなにも満ち溢れた世界に生きていたのだと、彼は初めて思い知った。
『だから次は、しっかりとしたあんたで来なさい。そのときにコレを渡してあげる。だから、しっかり考えて、見て、感じて、聞いて。そして――とことん生きるのよ、十坂玄斗。あんたにはそれぐらいの贅沢、とっくに許されてるんだから』
「――――うん」
さあ、と風が前髪をさらった。別物になった視界に、元からあった色がちゃんと見えた気がした。本当に贅沢だ。いまここにあるすべてのものを、タダで心に映すことが許されている。どこまでも、ありえないぐらいの。
「今日は、天気が良い」
晴れやかに、健やかに。
◇◆◇
「山川先生、一年生の子は」
「まだ、だって。病気、酷いって話よ」
「そうですか……新入生歓迎会は……だめですか」
「ええ……治る見込みはあるらしいから、はやく元気になってほしいけれど」
「ですね――」
「――――
◇◆◇
「…………、」
「……………………、」
「…………む」
「……どうにも今日は、天気がよろしいのですね」
名前:アトウレイナ
性別:?
年齢:?歳
趣味:特になし
特技:せき(ときどき加減を間違える)
イメージカラー:透明
備考:????
(制作会社 明有コーポレーション発刊:アマキス☆ホワイトメモリアル2完全攻略ガイドブックより抜粋)
小ネタ:本作の隠しヒロイン。一説にはそのモデルとなった人物が居るとネット上でまことしやかに囁かれているが、真偽のほどは一切不明。ちなみに制作会社の元代表取締役と同じ名字らしい。