ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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ここで彼の成長性(C-)を見てみましょう。


第四章 黄色くても止まれない
黄金色の涙


 

 事件は唐突に巻き起こる。廊下を歩いていた玄斗は不意に、ぐいっと思いっきり腕を引っ張られた。もしや新手の宗教勧誘かなにかか。馬鹿なことを考える少年はそのままぐらりと体勢を崩して、背中から倒れ込んだ。何事かと、ゆっくり瞼を開ける。

 

「…………、」

「…………、」

 

 見上げれば、金色の髪を揺らして美少女がまたがっていた。

 

「……えっと」

「せ、せんぱいっ!」

 

 びくり、と肩が震える。……少女の。自分で出した声に自分でびっくりしたらしい。あわあわと慌てている様子がまたおかしかった。なんなんだろう、と玄斗は驚きも通りこして思わず笑ってしまう。

 

「……落ち着いて。どうしたんだい」

「! せ、せんぱいが……笑った……?」

 

 はわっ、と口元をおさえながら少女が瞠目する。本当になんなのだろう。玄斗には目の前の少女のコトがさっぱりだった。いきなり腕を掴んで転がされたと思ったら、そのうえにまたがって何事か少女は慌てふためいている。むしろ大丈夫かとこちらが心配したくなる酷さだった。

 

「――――」

「……!?」

 

 ぎょっ、と少女の様子に今度は玄斗が目を見開いた。泣いている。ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、少女は口元を覆ったまま静かに泣いている。なぜだ。内心で混乱する玄斗をよそに、少女がすうっと目を細くした。

 

「せんぱいぃ……ふ、ふえ、ふえぇ……!」

「い、いや。うん。ちょっと、待とう。待ってくれ。うん。あの、ひとまず泣き止んでくれると、すごく嬉しい」

「むりでずううう……!」

「無理なのか……」

 

 なら仕方ない、と玄斗は一瞬で冷静にかえった。そも、なにか悲しいことがあったから泣いているワケでもないようだった。考えろ。その言葉は常に実践している。きっとこれは遮らないのが正解なのだと、玄斗はなんとなく答えの手触りを感じていた。

 

「ふっ、う、うえ、うえぇえ……! せんぱいぃ……せんぱいぃ……!」

「うん。うん。分かんないけど、分かったから。大丈夫だから。うん」

「せんぱいぃい……! 優しいですぅう……! すきぃ……!」

「うん?」

 

 だからちょっとその不意打ちじみた言葉に、すこしだけ固まった。

 

「ふぇ、ふぇええ……! しゅきですぅ……!」

「……好き、なのか」

「しゅきですぅう!」

「……うん。嬉しい。でもごめん。その気持ちには応えられない」

「え――――?」

 

 ピタリと少女の涙が止まる。ついでに時間までも止まったような錯覚だった。きっと自分はいま酷いコトをしている。そうでなくてはならない。けれど、言わないわけにもいかないのだ。十坂玄斗にとって、頭を回すことは約束にも等しい。

 

「いまの僕にそれほどの余裕はないんだ。だから嬉しいけど、ごめん。自分のコトと、今までのことで手一杯。……だから、本当に申し訳無いし、凄い嬉しいんだけど。君の気持ちには応えられない」

「…………ふぇ」

「あ」

 

 ぼろ、と大粒の涙が復活した。気持ち先ほどより大きめである。

 

「せ、せんぱいにフラれたぁあ……!」

「あ、うん! ごめん! 本当にごめん! 申し訳ない! でも、そういう気持ちに中途半端で答えるのは良くないと思う!」

「ふえぇええ……!」

 

 彼なりの誠意が見事に空回りしていた。素直なのは美点だが、素直すぎるのも考え物である。告白から断って泣かれるまでわずか三十秒。カップ麺ですら作れていない。なんというハヤワザ。達人のワザマエ。ここにひとりのクズが誕生した。

 

「ち、ちが、ちがうんですぅうう……!」

「え? 違う?」

「ちがいますぅう……! せんぱいにぃ……せんぱいにぃい……!」

「……いや、違うなら、それで。僕の勘違いってことになる。別に君が気に病む必要なんてないし、むしろ恥ずかしいな、すこし。……慣れてないんだ、そういう、言葉の意味をちゃんと考えるの」

「それもちがいますぅううう……!」

「え、あ、そうなんだ……」

 

 これは困ったコトになる、と玄斗は眉を八の字にしながらどうしたものかと思案する。泣き続ける少女の素性が分からないのもあれだが、なによりこの状態だ。学校の廊下で男子生徒が見たところ一年生の女子生徒に馬乗りになって泣かれている。非常に外聞が悪い。もし誰かに見られでもしたら――

 

「あら?」

「――――」

 

 玄斗の体が固まった。泣いている少女をよそに、ギギギ……と首が油のきれたロボットみたいに動く。視線の先。すこし離れた廊下には、数冊の本を抱えた少女が居た。

 

「……先輩?」

「………………ふふ」

 

 笑った。まずい。あれはなんかまずい。なんかよく分からないけど鍛え上げられた玄斗の生存本能が〝アレこそが懐かしいだろう〟と嘯いている。うるさい。あんなものが認められるか。ざわざわと怒りに呼応するかのように広がる群青色に、玄斗は束の間三途の川を見た気がした。

 

「なにを……しているのかしら。あなたたち」

「ふえ……?」

 

 揺れ動く長い蒼髪、その隙間から覗く鋭い眼光。けれどいくら玄斗が恐る恐る見ても、彼女とは視線がぶつからない。しばらく経って理解した。赤音の助言は偉大だ。考える。こんな簡単なコトひとつでも、世界は存分に変わってくれたらしい。

 

「そこの一年生」

「はひぃっ!?」

「その男からすぐに、いますぐ、即刻、即座に離れなさい……!」

「――――」

 

 ガクガクと震える金色の少女。生まれたての子鹿かと思うぐらいの震えようだった。でもちょっと玄斗的にはその位置をなんとかしてほしい。せめて離れてほしい。自分のうえでガタガタと女子に震えられるというのは、なんとも落ち着かなかった。

 

「(……でも、なんか、ここまで来ると流石に可哀想に――)」

「……いや、です」

 

 三度目の号泣。その代わりに放たれたのは、細い、細い。けれどもたしかな意志を込めた、彼女の言葉だった。

 

「……なんですって?」

「いやです……! せんぱいは、わたしのせんぱいです……!」

「……っ、誰の許可をとって自分のモノ発言を……!」

「…………、」

 

 もはや事態は彼ひとりでおさめられる範囲ではない。なんだか妙なところで勢いがあってついていけないし、どうにも腹の奥がキリキリと痛んでくる。前世でもこんなことはなかった。全身が痛くて動けない日は何度もあったが、局所的なものはそれこそ稀だ。そも向こうだと心臓が締め付けられるほうが多かったか。思考が逸れた。

 

「……うん? 蒼唯と…………、へえ」

「あ、赤音さ――」

「ずいぶんといいカッコウしてるわね……? ねえ、トオサカ(・・・・)くん?」

「――――」

 

 まれに見るマジギレだった。距離があと五メートル近ければサッカーボールのように頭を蹴り抜かれている。そう思えるほどのどす黒い怒りの念。助け船だと思った人材は、当たり前のように敵船どころか砲弾だった。

 

「なんだこれ。どうすればいいんだ……」

「あれ、生徒会長に図書委員の……うんん?」

「! ハク、良かった。君なら――」

「ふうん。……玄斗、そういうコト、しちゃうんだ……」

 

 ――駄目な子だね。呟いてきた彼女の瞳が暗くてよく見えない。なんだろう。彼は死にかけているワケでもないのに、どこか心臓を冷たいもので触られたような気がした。脆すぎて呆気ない。所詮この世はすべてあるべきもの。地面なんてないに等しいし、空なんていまにも――いやそんな一人語りはともかく。

 

「お、落ち着こう、ハク。誤解をしてる。僕と君の間には、決定的な認識の齟齬があると思う!」

「関係ない」

「ハク……!?」

「いま、玄斗が、そこに居て、そこの女に座られてる……それだけで、結果は十分」

 

 〝……お、幼馴染みの様子がおかしい――!?〟十坂玄斗は知らなかった。壱ノ瀬白玖の本性を。彼女がどれだけ重い愛を抱えているのかを。

 

「なになに? なんか騒がしいけ、ど……」

「……ご、五加原さん……」

「……十坂? え、あの……なにが、どうなってるワケ……?」

「……僕にもさっぱり分からない」

 

 頼れる味方はクラスメートだけ。なんだかややこしい事情に巻き込まれながら、玄斗はひとつ息を吐いた。因果応報。これほどまでにその言葉が似合う状況もないだろう。知らずであろうが、アトウの血族はそれがもっとも濃いものであったりするのだ。




というわけで新章開始。ちなみに名前はもう出てます。




そんなカンジで感想は楽になったところで返していきたい。


ところでBadEnd予測が案外される拙作ですけど、そもハッピーエンドにしないなら玄斗くんはもっと幸せにしてます。だってあとは転がり落とすだけにできるからね。
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