ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。 作:4kibou
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なんで気付いてるの(震え声)
――泥に塗れている。しつこいぐらいに酷くて、絡め取った足を離してくれない。とてつもなく憐れな泥に、私は塗れている――
「(ああ――なんて――)」
――最悪だ。とても、未来なんて見えそうにない。閉ざされている。手足をもがれている。ふと、弧を描くように落ちた花びらを幻視した。そんなものだ。折れるときは簡単で、ぽっきりと跡形もない。
「(なんて――無様……)」
嗤った。膝をついて顔をおおって、堪えるコトができない涙に嗤った。こんな世界でなにができるのかと、手のひらに握る筆を砕こうとした。できない。嗤った。気持ちがどうだとかそんなのではない。非力で、弱すぎて、なにもできない自分に嗤った。
「(あ、あは、あはははは――)」
くつくつと喉が鳴る。憐れだ。無様だ。なにもない。塗れている。泥に塗れている。拭い取れないしつこい泥に、絡め取るような狡い泥に。人生のすべてを台無しにしてくれた、私にだけ許されなくて、私以外のすべてを許していった――汚い
「――そんなことはない」
なんて。暗がりに沈んでいた私を、その人は許してくれなかった。
「なにもないなんてコトはない。そんなもの、君にも、みんなにもある筈がない」
ずるずると、ずるずると。泥の中から引き摺られていく。闇の外は光に包まれていた。眩しくて、明るくて、目を焼くほどの真っ白な光。けれどもそれを背景に立っている人は、どこまでもどこまでも、透き通るような闇色をしていた。
「誰にだってなにかはある。どんなに不幸でも、どんなに悲しくても、残った意味がちゃんとある。それすらないような人間なんて……せいぜい、ひとり居ればいいぐらいだ」
そのひとりが誰かを、その人は言わなかった。ただ、
「でも君はそのひとりじゃない。それは保証する。だから大丈夫なんだ。どんな不幸が起きたって、きっといつかは報われる。先を見据えてみればいい。きっと――君の人生は、これからの幸せで満ち溢れている」
そんな嬉しすぎて受け取れない現実を、衝撃と共に残していったのだ。
◇◆◇
「…………ぇ、と。あの……」
「なに」
「ひっ」
「せんぱ――」
「 な に ? 」
「……ごめんなさい。蒼唯さん。でも、やめてあげてください。おびえちゃってます」
「……分かってるわよ、それぐらい」
ふんと鼻を鳴らして、蒼唯が拗ねるようにそっぽを向いた。件のコトがあった放課後の図書室。集まった関係者一同は、取り囲むように金髪の少女をじろじろと見ている。
「……玄斗。白状するなら今よ。あんた、この子とどういう関係?」
「いや、関係もなにも、赤音さん。僕は……」
「へー。関係ない子とあんな体勢になっちゃうんだ……へえ……?」
「だから、ハク。その。あれは事故で……」
「と、十坂? あー、その、言いにくいんだけど……アレで事故は、ないと思う……」
「五加原さんまで……」
本当に事故なんだ、と玄斗はうなだれながら呟いた。その背中には哀愁が漂っている。
「じゃあこの子に聞くまでね。……ねえ、ちょっといいかしら?」
「ぴぃっ!?」
「……どうしてそこまで怯えるのよ」
「誰かさんの顔が怖いからじゃないかしら。眉間にシワを寄せすぎて」
「うるさいわよ毒舌女。こんな年下にまで余裕ないとか、もう更年期障害?」
「短気は損気ね。私はそうでもないけれど」
「はーん? 良い度胸ね蒼唯。ずいぶんなコト。ちいさい頃は「あかねーあかねー」って後ろをちょこちょこついてきて可愛いもんだったのに」
「っ……いまその話は関係ないでしょう!」
がたん、と勢いよく立ち上がった蒼唯に「きゃー」なんて言いながら赤音がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。ちゃっかりと玄斗の後ろに隠れるあたりも焚きつけていた。……主にこの場にいる全員を。
「おーこわいこわい。こわいからあと頼んだわね、玄斗」
「……赤音さん。人を囮にしないで下さい」
「で、どう思った? いまの話を聞いて」
「ちょっ――」
〝よもやそれが狙いか……!〟急いで反応した蒼唯だったが、彼の口をふせぐための腕があがりきる前に、あっさりと、それこそなんの躊躇いもなく。十坂玄斗は不思議そうに首をかしげて口を開いた。
「? どうって……素直に可愛いと思います。なんか、微笑ましいですね」
「でしょう? そうなのよ、可愛かったのよこの女は」
「――――ッ、赤音っ!」
「きゃー、また怒ったー」
がーっと吠えた蒼唯から距離をとって、まるで猫のようにひょいと赤音は玄斗から離れた。ともすれば悪戯好きの子供だ。四埜崎蒼唯とつるんでいるときの彼女は、ときに燃え上がるような激情と、ときに幼いまでの顔を見せる。なんだかんだで仲は良いのか、とふたりのキャットファイトを見ながら玄斗は思った。
「……ごめんね、ちょっとうるさくして。本当はふたりとも良い人なんだよ」
「い、いえっ! わ、わわわ私こそ! あのあの、さっきは……! その……、えっと……うんと…………!」
俯きかけて、がばっと少女が顔を上げる。ぴこんと電球のマークが点いたようだった。
「さっきはせんぱいのこと乱暴にしてすみませんでしたっ!」
「ッ!?」
「ああ、いいよ。あれぐらいなら僕はなんてことないし」
「ッ!!??」
がたん、と椅子を揺らしながら白玖が驚愕の表情を交互に向ける。この男、思考はするようになっても言葉の綾までもはきちんと理解していなかった。
「や、やっぱり玄斗ってばケダモノ誘い受け……っ!?」
「……ハク?」
「で、でもそれならそれでちょっと美味しいかも……」
「…………うん。ハク。ハク。戻ってきてくれ。ハク」
「――はっ。だ、駄目だよ玄斗!? こ、こんな場所でそんな誘っちゃって!」
「よし一旦落ち着こう。今日の君はなにかおかしい」
十坂玄斗は気付かない。そも自分の幼馴染みが最初からおかしな方向に壊れているという事実に。なので白玖からしてみれば平常運転。しいて言えばサイドブレーキ含めエンジンブレーキすら効かなくなったぐらいだ。大問題である。
「……え、ええと……会長は四埜崎先輩とあんなんだし……十坂と壱ノ瀬さんは漫才してるし……あはは……まともなのはあたしだけかあ……」
「せんぱいが表情豊か……!」
「……肝心のこの子も大概なのかな……ねえ、名前とか、教えてもらっていい……?」
「! は、はいっ! わ、わたしは、え、あの……よ、
「――ヨミ?」
耳ざとく反応したのは、意外なことに玄斗だった。なだめていた白玖から視線を切って、勢いよく少女のほうを見る。黄金色のふんわりとした髪。全体的にだぼっとした印象を持たせる制服の着こなしと、前髪に隠れるようつけられた赤縁の眼鏡。ところどころに跳ねた絵の具が、どこか記憶のなかの一枚絵と合致した。……問題は、その性格がすこしどころか大分、彼のなかのイメージとかけ離れているコトだった。
「ヨミ……黄泉……」
「は、はいっ! 黄泉ですっ」
「黄泉……?」
「黄泉です! み、ミナモトっ!
「三奈本……黄泉…………!!」
なるほど、覚えがある。忘れもしない。あの瞬間。しっかりとよく見ろと言われたレシートを家でも広げたあのとき。まるでダイナマイトのような衝撃を受けた。浮かれていたのかなんなのか、節穴にも程がある見落としよう。よもや、まさか、こんなところで最後のひとりの名前を見るとはと――
「お、思い出してくれたんですかっ!?」
「うん。思い出した。本、出してたんだね」
「はいっ! せんぱいが――あのとき、せんぱいがわたしを救ってくれたから……!」
「え?」
「ふぇ?」
あれれ? とふたりして首をかしげる。なんだか話が噛み合わない。老人の入れ歯みたいだと天然は思った。思ってたのと違うと少女は泣きそうになった。
「せんぱい……?」
「いや、待って。うん。いま考える。――――駄目だ。君と会った記憶はないぞ、僕」
「そ、んな……ふぇ」
じわ、と少女――黄泉の目元に涙が溜まる。それをじろっと睨んできたのは、絶賛
「最低ねトオサカくん。女の子を泣かせるなんて」
「いや、本当にないんです。ごめん。記憶力には自信があるのに……、嘘だろう。だって、こんな……コト、忘れるか――?」
「……三奈本ちゃんさ」
「は、はいっ!」
と、自然に名前を呼んだ碧の声に、ビクンと黄泉の体が跳ねる。
「あ、ごめんごめん。急に呼んじゃって。三奈本ちゃんでいい?」
「ぜ、ぜんぜんぜんぜんだいじょうぶですっ!」
「ぜんが多いね……まーいっか。髪、染めてるでしょ」
「? は、はい……」
「――あ」
そんな碧の指摘に、合点がいったとうなずく玄斗。バラバラになっていたパズルのピースがかっちりとはまった感覚。そういえばそんな設定もあったっけ、とは彼もうっすらと覚えていた。たしか公式ガイドブックに載っていた情報だ。自分で実際に見ていたワケではないので、うろ覚えなのがどうにも不安だが。
「だとすると、染める前に十坂と会ってたんじゃない? ほら、顔とか声とか、覚え、十坂ならあるでしょ」
「…………そうだ。うん。たしか……あれは……どこだったっけ………」
〝――私なんて、生きていても仕方ないんです〟
〝もうなにもわかりません〟
〝なにをしたらいいのかもわかりません〟
〝だってもう、なにもないんですよ――?〟
「……一年前」
「! はいっ!」
「駅前の……カフェテリアで……」
「はいっ、はいっ!」
「そうだ……眼鏡をかけた黒髪の女の子と、一回だけ話した。そういえば」
「そうですっ!」
がしっ、と黄泉が玄斗の両手を掴んでくる。目をきらきらと輝かせながら、彼女はにこにこにこぱーっと花咲く笑顔で彼を見つめた。背景がその名のとおり黄色がかって見える。
「ずっと会いたかったんですっ! ずっと、ずっと! せんぱいのこと、ずっと、もう一度って思ってましたっ……だから、その……っ、あのあの、えっと……!」
「…………?」
「――す、すきですっ!!」
「……ありがとう。本気で嬉しい。でも、やっぱりごめん」
「っ!?」
「……十坂。容赦ないなー……」
あはは、と渇いた笑みを浮かべながら碧が遠くへ視線を投げる。同じ日に二度も告白を断るという行為は、玄斗にとってもわりと胸にしこりを残す辛さだった。なにより彼女が三奈本黄泉だと知ってしまったが故に余計な重りまで増えている。前途は、多難だった。
①白 ②赤 ③黄 ④青 ⑤緑 ⑩黒
というわけで出揃いました。セカンドメンバーの活躍はたぶん7章か8章からですかね……
ちなみに薄々感付いている人がいるかもしれませんが、ファーストメンバーが修理班。セカンドメンバーが活用班です。なんだよただの踏み台かよと思ったそこの君ィ! 踏み台が勝手に反撃繰り出してきたらひとたまりもないんだよ。