ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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黄色ちゃん一先ず満足いくところまでは書けてよき。


四章幕間:彼女のウラガワ ~シアワセの話し合い~

 静かな部屋に、鉛筆を走らせる音だけが響く。居るのはふたり。ベッドに寝ている色素の抜け落ちた髪の少女と、椅子に座る音の発信源となった明るい金髪に染めた少女。その間に会話はない。ただ、だからといって刺々しい空気は、欠片として存在もしていなかった。

 

「……三奈本さん」

「…………、」

「三奈本さん」

「っ、あ、うん。ごめん……なに?」

「……ずいぶんとご熱心に。なにを描かれているんですか?」

「えと……」

 

 と、そこで視線を泳がせながら黄泉は言い淀んだ。対して少女がはて、なんて首をかしげる。コミュニケーションの苦手な人間同士。繋がるものこそあれど、だからといってなにか改善するわけでもない。もっとも、会話が苦手なのは彼女たちふたりに限った話でもないのだが。

 

「……その、せんぱい……」

「せんぱい? ……ああ、黄泉が以前から言っていた殿方ですか?」

「い、いちおう……そう……なるのかな……」

「……そうでしたか。出会えましたか。それは、良いことでございますね」

 

 口元に手をあてて、少女はくすくすと上品に笑う。その仕草はとても様になっているが、黄泉は他のなにかを感じたようで、むっと眉間にしわを寄せていた。

 

「……零奈ちゃん」

「はい。なんでございましょう」

「下手だよ、愛想笑い」

「申し訳ございません。生まれつきですのよ。……わたくし、笑うのが下手でして」

「…………そういうところかも」

「?」

 

 ぼそりと呟いた黄泉の言葉に、零奈が疑問符を浮かべながら笑う。笑うのが下手。それはとても分かりやすい共通点だった。見比べれば顕著だ。十坂玄斗と明透零奈の笑い方は、歪んでいるという意味でとても似ている。

 

「無理やり笑顔……貼り付けてるみたい」

「無理ではないのですよ? ただ……そういう顔になってしまうだけで」

「せんぱいもそうだった……あの人、笑うだけでも、それが染み付いてる……」

「まあ」

 

 親近感が湧きますわね、と零奈は笑った。その顔がまた酷く似ていて、酷く気に障って、黄泉はさらに眉間にしわを寄せる。綺麗に笑えとまでは言わないが、もっと、こう、せめて心の底から笑えるときだけ笑顔を見せてほしいというか。

 

「……あんまり言っちゃうと、駄目だね……」

「別に言ってもいいんですのよ?」

「……零奈ちゃんもそう。一度も笑ったところ見たことない」

「おかしなことを言いますわね。わたくし、先ほど笑いましてよ?」

 

 まったく、と黄泉はスケッチブックにガリガリと鉛筆を走らせる作業に戻った。こっちは余程の重傷である。自覚がある分まだ玄斗のほうがマシだ。無理をして笑うのとは違う。笑えないのに笑うところだから笑おうとする。そんなプログラミングされたロボットみたいな思考回路を人間がしている。黄泉にはその現実が、どうしても見過ごせなかった。好きな人ともなれば尚更である。

 

「零奈ちゃんも一回、せんぱいの笑顔を見たほうがいいかも。たぶん、それで分かるから」

「期待しておきます。写真とかは、ないんですの?」

「……ない」

「あるんですのね」

 

 見抜かれていた。ちなみにちょっとよろしくないものなので黄泉としては一時の気の迷いとして隠し持っていたい所存である。もうあんなコトはしたくないという気持ちも込めて。

 

「ちょっと待ってて」

「見せてくれるんですね」

「……はい。これ」

「これ、って……」

 

 ぱっ、と黄泉が零奈に見えるようスケッチブックを裏返す。先ほどまで彼女がペンを走らせていたページだ。艶のある黒髪の少年が、どこか慣れない感じで笑っている姿が描かれている。なるほど、と零奈はちいさくうなずいた。

 

「……おかわいいですわね」

「……違う……せんぱいはかっこいい……じゃなくてっ」

「違うんですの?」

「ち、違うくないけどっ! ……顔、笑顔っ。変でしょ!?」

「ああ、そちらで……」

 

 ふむふむ、といまいちどスケッチブックをじっと眺めてみる。顔は整っている。無理して笑顔を浮かべている姿もかわいいものだ。その感想に二言はない。ただ、どこか変だというのは零奈もうっすらと理解できた。同様であるのか違うのかはともかく、この少年は自分と同じでなにか欠けているのだろうと感じた。

 

「……総評いたしますと」

「うん」

「変ですが、やっぱりおかわいいと」

「だからせんぱいは……かっこいい……だから」

「……譲れませんの?」

「……、」

 

 こくり、と控えめにうなずく友人に、零奈は「こちらもまあ愛らしいですね」と微笑んだ。実物を見たことがない彼女はこの絵から判断するしかないが、目の前の少女の上手さは十分に理解していた。きっとそっくりなのだろう。これまたその人と会うのが楽しみになった、と零奈は息をついた。

 

「……会ってみたいですわね。一度、お礼も言わなくてはなりません」

「? なんて……?」

「わたくしの友人を救っていただきありがとうございます、と」

「……うん。そのためには、はやく、良くならないとね」

「ええ、ですわね」

 

 短く応えて、沈黙が訪れた。ふたりともが分かっている。最近、少女の治りが良くないというのも、このままでは簡単に願いが叶わないというのも。

 

「……大丈夫、だよね。零奈ちゃん」

「なにがですの?」

「病気……治るよね。ちゃんと」

「……ええ、治りますとも。お医者さまもそう言っております。わたくしはすこし……体が生まれつき弱いものですから。すぐにとは、いかないのですよ」

「……それなら、いいん……だけど……」

「……心配しすぎです。三奈本さん。わたくしはぜんぜん、平気ですから」

「…………っ」

 

 ――思うに。本当に、生き写しかと思うぐらいその場面は似ていた。十坂玄斗の隙間から覗かせた本心と、あるがままの少女の姿。そっくりそのまま、それが重なるぐらいには似すぎていた。であるのなら、ふと、思ってしまったのだ。それをどうにかできるとすれば、彼女を理解できる誰かであるべきで。

 

「……今度、誘ってくる」

「? どなたをですの」

「せんぱい。……ぜったい、零奈ちゃんは、会ったほうがいいと思う」

「まあ……どうしますの。黄泉(・・)。そんなことして、わたくしが惚れてしまったら?」

「いいよ」

 

 きっぱりと。三奈本黄泉は迷わず答えた。だってそんなのは、決まっている。

 

「わたしは別にいいの。せんぱいが本当に笑えたら、それでいい。その隣にいるのは誰でも関係ないよ。決めるのはぜんぶ、せんぱいだから」

「……黄泉は、不器用な生き方をしておられるようで」

「分かってる。でもね、それでいいんだよ、零奈ちゃん」

 

 窓の外を見る。次第に日が傾いて、そろそろ夕焼けが見える頃になっていた。真っ白な病室にはその光景がよく映える。もちろん、それに溶け込むように佇んでいる少女にも。

 

「わたしはね、不幸だから。きっと幸せにはなれないよ。でも、せんぱいは違う。幸せになってもいい人だし、なれる人だから。なら、わたしの願いはひとつだけ。せんぱいが笑うこと。……その隣がわたしじゃなくても、それが見れたらもう、お腹いっぱいなんだ」

「……まったく。あなたのほうがよっぽどでしてよ」

「身の程をわきまえてると言ってほしい」

「それがよっぽどと言うのです」

「…………零奈ちゃんのあほぉ」

「黄泉はそれこそお馬鹿さんですわね」

「…………、」

「…………、」

 

 しばらく睨み合って、どちらともなく笑い出した。黄泉は恥ずかしそうに、零奈は下手だが上品に笑みを浮かべる。会話が下手。コミュニケーションにおいておおよそ重大な欠陥を抱えている。それでも、通じ合うものがあるのだ。すくなくともそれを、黄泉はきちんと理解していた。




というわけで四章終了っ! 五章です。わりと上位に入るぐらいエピローグが似合う人の出番でございます。でもトゥルーエンディング書きたいのはまた別のヒロインという。贅沢な悩みですね(白目)


>明透零奈ちゃん
社長の息子である病弱系薄幸少年をTSさせたら病弱系薄幸社長令嬢になったという感じ。すごいな書いててわたしがいちばん昂ぶってるぞ。

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