ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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コンセプトはヒロインに選ばれた普通のJKという感じ。……まず普通のJKの定義が謎では……?


第五章 緑に染まっても青い春
夏色は自然として


 はじめてそいつを見たのは、入学式のときだった。

 

「(うわ、やば……)」

 

 昔から方向音痴で、知らない場所では八割の確率で迷う。そんな自分にとって、はじめての高校とは未知の迷路にも等しかった。なにせどの位置、どの視点でも見覚えがない。あたりまえだ。今年から学校生活をはじめるぴかぴかの一年生。それでいて人に道を訊きながらトイレになんか行ってしまったのが失敗だった。

 

「(完全に迷っちゃったじゃんコレ……初日から最悪……)」

 

 ため息と共に、乱暴にポケットへ手を突っ込みながら廊下を進む。人の気配はない。入学式がはじまるまではたしか五分を切ったぐらい。とてもじゃないが、この調子で出席できるとは思えなかった。

 

「(てか本当ここどこ……校舎広すぎだし……)」

 

 もうなんなの、と思いながら歩いていると、ふと覗いた窓からグラウンドが見えた。……もうここから飛び降りてやろうか。しばらく悩んで、やめた。たぶん無事では済まないだろうし。スカートとか舞い上がってパンツ見られたら最悪だし。行き先がどこへどう繋がっているかも分からないまま、黙々と廊下を進む。

 

「(……ん?)」

 

 と、そんな風に途方に明け暮れているときだった。

 

「(靴……音……?)」

 

 カツカツと、勢いよく駆け上がってくる音を聞く。なんだろう、と足を止めて耳に意識をそそいだ。音は速い。それこそ何事かと言わんばかりの速度で近付いてくる。厄介事か、ただ事ではないものか。絡まれたりしたら嫌だなーなんて考えてそっと隠れようとした直後――

 

「――っ、いた!」

「っ!!」

 

 大声で言われて、思わず肩が跳ねた。振り返れば綺麗な濡れ羽色の髪をした男子が、肩で息をしながら壁に手をついている。相当必死でここまで来たのだろう。……ちょっと、間近で見てドン引くくらいの光景だった。

 

「……え、えと……なに?」

「なに、じゃない……五加原さん、だろう……?」

「え? あ、うん。てか、なんで名前知って……」

「もう入学式がはじまる。遅れたらまずい。行こう」

 

 なんて。彼は必要なことだけ突きつけて、当たり前のようにあたしの手を握ったのだ。

 

「……っ!?」

 

 どうにも、不思議な感覚だった。強引に連れていって、急いで走っているくせに、握る手のひらからは柔らかさが伝わってくる。夢中といった感じで駆け抜けていくのに、ときたまこっちを見てくるのもそうだ。あまつさえ、髪色を見てそっと目を逸らしたのも。……たしかに、まあ、原色に近い緑はアレかもしれないが。

 

「そ、その……っ」

「ごめん。要求なら手短にお願いしたいんだ。ちょっと、本気でまずい」

「……っ、あの、ありがとうっ。わざわざ」

「これぐらいなんてことない。入学式も出られないとか、ちょっと、あれだしね」

 

 そう言って、目の前の男子はふり向きながら笑った。……ああ、本当、思い返せば軽すぎるほどだ。自分で勝手に迷子になっていたところを助けられて、勝手に勘違いしてそのまま引き摺っている。でも、しっかり分かっているのだ。勘違いだったとしても、きっと彼の願うものが遠くへあるとしても。

 

「…………、」

 

 あの日に見た彼の背中は、たしかにあたしを連れていってくれるためのものだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 梅雨も過ぎた七月の初旬。全国的な暑さが報道されるなか、調色高校も同じくうだるような熱気のなかで学校生活を過ごしている。もっとも教室にはエアコンが設置されているので、座学となる授業中は快適だ。問題は課外授業だったり体育だったりするところで、当たり前のように数人ほど熱中症で倒れたとの報せも出回るぐらいだった。

 

「(暑い……)」

 

 時刻は昼休み。玄斗たちの二年B組は四限目が体育で、さすがに水分補給のひとつもしなければ昼食も喉を通りそうになかった。群がっていた生徒の波が引いてきたところで、こうして玄斗も自販機へと向かっているワケである。

 

「(失敗したな……水筒ぐらい持ってくればよかった)」

 

 財布事情をとくに気にするわけでもないが、やはり自前のモノがあるのとないのとでは違う。なにより心持ちの問題だ。明日からは持ってこようと胸に秘めながら視線をあげると、不意に目的地にいた人物と目が合った。

 

「……五加原さん」

「……ん、十坂も飲み物買いに?」

「そう。さすがに、堪えてね」

「だよねー……あたしもこの猛暑は本当だめ」

 

 もう参っちゃうよ、と苦笑する碧に苦笑で返して、自販機の前に立つ。水かお茶かの二択で迷って、結局水にした。スポーツドリンクのほうがいいのだろうが、なにより玄斗にとっては飲み慣れているものなのがいい。くるりと踵を返してみると、碧はその場を離れずに三歩ほど後ろで律儀に待っていた。

 

「……水、水かあ……なんか、十坂らしいね」

「そうかな。……そうかも」

「うん。なんていうか、ほら。十坂って、良くも悪くも清涼感あるし」

「……褒めてる?」

「褒めてる褒めてるっ♪ じゃ、ほら……えっと……あー………………教室、帰る?」

「? うん」

 

 なんだか言い難そうな碧の言葉にすんなりとうなずいて、玄斗はペットボトルを片手に歩き出した。なんとも思っていないのだろう。碧は知らずほっと息をついて、その後ろをついていく。……一歩ほど斜め後ろについていくのは、なんとなくである。

 

「てかさ、この前の……あー、三奈本ちゃん? どうなったの」

「どうもなにも……うん。普通に」

「いやいや……普通って……いやあ……?」

「……なんでもなかったんだよ。本当にあれは。でも、色々とアドバイスとかはもらった。凄くタメになるようなことを沢山」

「年下からアドバイス……」

 

 それはアリなのだろうか、と思う碧だったが、玄斗のコトだからそんな安っぽいプライドもないかとすぐに納得した。年下年上それこそ性別も関係なく、彼なら誰からの助言も素直に受け入れそうなものだ。

 

「でも、そっか。そういう関係にはならなかったんだね」

「そういう……ああ。うん。そりゃあ、まあ」

「……ちなみに、なんで?」

「余裕がないんだ。あれこれ手を伸ばしてるようなものだから。しかも慣れてない。そうすると、三奈本さんの気持ちに応えても良い結果にはならないと思うから」

「……そっ……か。それも……なんか……十坂、らしいね」

「情けない話だとは、思うんだけどね」

「あはは……」

 

 ぎこちなく笑って、碧はふと彼の背中を見た。……見え方は、同じ。ただあの時とは違って、手は繋いでいないし、どこかへ連れていってもらっているわけでもない。ふたり一緒に同じ方向を目指している。それはたぶん、ちょっと、心が浮つくようなコトなのに。

 

「……十坂、さ」

「うん」

「昔……あ、あたしらが、入学したときにさ……体育館まで連れてってくれたの、覚えてる?」

「ああ、覚えてる。あのとき、直前になっても一人足りないってざわついてて。ふと見てみたら、校舎の窓に人影が見えたからね。すぐに走れば追いつけると思ったし、実際なんとか間に合った」

「だ、だよね……! あたしも、もう駄目かと、思ってたのに」

「危なかったのはたしかだけど。……そういえば、それで思い出したけど」

 

 くるり、と不意に玄斗がふり向いた。予想だにしていなかった動きに、碧の足がぴたりと止まる。おかげで視線がばっちりぶつかった。しかも結構な距離で。

 

「な、なに……?」

「いや、髪。昔はもっと明るかったよね」

「! う、うん……あんまり、派手目だと……その、ね? 色々と都合も悪いし……控えめのほうが、いいかなー……って……」

「そうなんだ」

 

 なるほど、なんて納得した様子の玄斗。入学当初の碧の髪色はその名の通り目が眩むような明るさの緑色だったのだが、いまは光の当たり方で見えるかどうかのほぼ黒髪なぐらいにまで落ち着いている。名残といえばウェーブのかかった髪質と、ひとまとめにした髪型ぐらいなものだった。

 

「……うん。やっぱり似合ってると思う。五加原さんに」

「そ、そう……?」

「まあ、僕の主観だから……あんまり頼りにはならないだろうけど」

「そ、そんなことないって! あ、ありがとう……ね。すごい、嬉しい……から」

「なら良かった」

 

 ゆるく微笑んで、疑問も晴れたと言った風に玄斗は歩みを再開した。碧もそのあとを追うように、歩幅を大きくしながらついていく。

 

「(……き、気がついてた……っ!)」

 

 ちょっとした、乙女心をせいいっぱい抱えながら。些細な変化を見過ごしていなかった彼の後ろを、若干うつむき気味に歩いていく。……今日は本当に、暑い日だ。




玄斗「(ゲームと髪色が同じ……すごい、本当にあるものなんだ)」

碧「(も、もしかして派手目の色とか嫌……なのかな……?)」



そんな感じで五章です。無印勢ラストスパート開幕でもある。……だめだ厄介なヤツらしか残ってねえ……!
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