ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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いままでのヒロインの努力が実を結んで十坂玄斗が完成しました! おめでとうございます!


砕けた硝子

 

『日直だから先に行く。ごめん』

『いいよいいよー。いってらっしゃいー』

『……新婚さん?』

『ばか』

 

 そんな白玖とのメッセージでのやり取りもありつつ。玄斗は朝の学校に着いた。朝練のある運動部は元気に活動しているが、それ以外はまったくもって静か。一般生徒の登校時間を迎える前の校舎は、どこか夜に近い閑散とした空気が残っていた。

 

「(暑くもないし、これぐらいがちょうどいいのに)」

 

 思いつつも、窓から見上げた空には爛々と輝く太陽が昇りかけている。背景には雲ひとつない青空。とてもじゃないが、連日にならって猛暑日となるのが目に見えていた。すこしだけ憂鬱な気分になりながら、一階をすぎて二階へ。二年B組の教室はちょうど階段側からふたつほど離れたところにある。上りきって廊下を曲がってみると、ふと、教室の前に誰か立っているのが見えた。

 

「……あ」

「……ん。十坂」

「おはよう、五加原さん」

「おはよ。……早いね」

「うん。日直だから」

「ふーん………………え?」

「日直なんだ」

 

 繰り返すように言うと、携帯を弄っていた碧の手が止まった。なんだか信じられない事実に震えているようにも見える。大丈夫だろうか、なんて玄斗がいらぬ心配を抱く。

 

「……と、十坂、が……?」

「そうだけど。……そういう五加原さんは、どうして?」

「い、いや、あたしも……日直……」

 

 ああ、と得心いったように玄斗はうなずいた。そういうことか、と完全に理解した様子である。

 

「じゃあ今回のペアは五加原さんとってことなんだ。今日はよろしく」

「あ、う、うん……よろしく……あ、あは……あはは……!」

 

 笑いかけると、碧はさらに挙動不審になった。笑顔が引き攣っている。ともすれば黄泉に下手だ下手だと散々言われた自分の笑顔よりも様になっていない。本気で大丈夫だろうか、なんて天然野郎は考えた。碧からすれば余計なお世話である。

 

「日誌と鍵だけ取ってくるよ。ちょっと待ってて」

「! わ、わかった! えと、に、荷物は見張っとく!」

「……ありがとう。すぐ戻ってくるから」

 

 言うと、玄斗は鞄を置いて急ぎ足で廊下を駆けていく。繰り返すように、朝の校舎は静かだ。とても閑散としていて、壁一枚隔てたグラウンドから聞こえる運動部のかけ声も、どこか遠い響きになって届いてくる。普段とは違った学校、普段とは違った雰囲気。そして、普段とは違った邂逅。教室は鍵があいていない。ということは、まだ誰も登校していないということになる。

 

「(……と、十坂と、ふたりっきり……っ!?)」

 

 その事実に気付いた瞬間、碧の顔は湯気が出そうなほど熱くなった。偶然重なった日直が、いつもなら面倒だと思うはずのコトすら忘れさせてくれる。どきどきと、高鳴る心臓がうるさくてしょうがなかった。なにせ、校舎はとても静かだ。そんななかで音をたてる鼓動は、沈むような空気のなかで浮ついて、どこまでも似合わない。

 

「(……だ、大丈夫かな……あたし。変じゃない……よね……?)」

 

 容姿にはいちだんと気にかけているつもりだ。入学式の日に奇抜な髪色から目を逸らされて以来、彼が苦手とするようなモノはとことん避けている。どうすればもっと近付けるのかとか、自然と話せるようになるのかだとか。考え続けてぜんぜん進まなかった一年時とは大違い。最近はすこしだが、何気なしに話すことも多くなった。これ以上はない。

 

「(……でも)」

 

 望むべきではないとしても、その先を夢想してしまう碧なのだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 調色高校二年B組の日直は、基本的に二人一組のランダムで選ばれる。ひととおり出席番号順に回した後、担任の教師が思い付きではじめたことで、選出された生徒は前日に黄色いメモ用紙を担任から手渡されるのだ。通称イエローカード。ホームルームなんかでそっとそれを机のうえにおかれた生徒が、「まじかよー!?」なんて声をあげるのは若干このクラスの名物と化していた。

 

「…………、」

「…………、」

 

 そんなワケで、大した反応をしなかったぼんやり男子と、大した反応をできなかった恋する乙女は、お互いが選ばれたとは気付かずこうして朝の仕事に取り組む羽目になっている。玄斗はとくに気にした様子もなく黒板を綺麗にして、その間に碧が日誌を書いていく。白墨(チョーク)で汚れるから五加原さんはいいよ、と譲らなかったのは彼なりの気遣いだろうか。

 

「(……別に、十坂となら一緒にしてもよかったのに)」

 

 そう思いつつ、碧は律儀に日誌をつけていく。その優しさが良いなと思う反面、きっと誰にでもそうなのだと思うとちょっと複雑な気分でもある。別に、十坂玄斗は誰のものでもない。誰に優しくしたってそれは彼の勝手だ。けれど、納得いかないのは自分自身の問題なので、どうにもため息をつきたくなると碧は肩を落とした。

 

「……あ、十坂。授業のあいさつ、どうする?」

「? あいさつ……そっか。僕は、どっちでもいいけど」

「じゃああたしが最初やろっか。十坂が終わりね」

「うん。分かった。……ありがとうございましたで良いんだっけ?」

「そうそう。……この前に木下が「あざざっしたー」とか言って怒られてたから、そういうのはやめておきなよ?」

「ああ、あれは面白かった。鷹仁らしいのがとくに」

「まあらしいけどさー……いやー……あのチャラさはないわー……」

「……かもね」

 

 ふたりしてクスクスと笑いながら、日直の仕事を片付けていく。どこか街中のすこし大きな屋敷の一室で、ちょうど制服を着こんでいた男子が「へっくし! ……誰か噂でもしてんのか」なんて漫画みたいな反応を示していたことは誰も知らない。ちなみにレパートリーは案外豊富で、玄斗的には六限目の古文で言った「いとありがたし」がイチオシである。使い方の問題でそのあと教師に呼ばれていたが。

 

「…………十坂ってさ」

「うん」

「その……好きな人とか、いないの?」

「好きな人」

 

 あはは、と笑いながら訊いてくる碧の質問に、玄斗はカラリと窓を開けながら考える。早朝の空気は日差しのせいもあいまって寒いというよりは涼しい。むしろ若干暑いぐらいだった。両手にラーフルを持ってぱんぱんと叩きつつ、ぐっと頭を回してみる。

 

「……それは、恋人的な意味で?」

「う、うん……まあ、そうなるの……かな……」

「じゃあ、いない」

 

 きっぱりと。さも当然といったように玄斗は答えた。悩むどころか選択肢すら見せない潔さに、カリ、と碧の手が止まる。

 

「へ、へえー……壱ノ瀬さんとか、美人だし、いつも一緒に居るし……その、そうなんだと思ってた」

「違うよ。白玖はたしかに好きだけど、そういう対象かって言われるとそうじゃないって思う。だいいち、僕にそういうのが、ちょっと、似合わないって最近は思ってきた」

「……最近はって……昔は、どうだったの?」

「考えたこともなかった。それでも、考えるようになってくると、うまく想像もできない。だからたぶん、似合わないんだろうね。……誰かがそうやって隣に立ってくれるのは、それこそ贅沢すぎて駄目だ」

「…………、」

 

 自分として考えて生きる。そう言われて、そうしてみて、気付いたことは沢山あった。いままで無意識のうちに考えていたコトに理由を付ける。そうしてみると、案外自分にはきちんとしたものがあったのだと知ることができた。だからこそ、答えも半ば決まってきたようなもので。

 

「結び付かないっていうか……なんというか。誰かと笑うって、それだけでもかなりなものなのに。ずっと隣で、お互いを想い合って、ってなると……大変だ。とても。でもって、きっと幸せなんだろうね」

 

 ――そこまでは要らないかな。言外に、玄斗がそう告げているように碧は見えた。彼が彼として生きるのなら、たったひとりで歩いて抱えるぐらいでも十二分。そういうことなのだろう。……それがどんなに、孤独で、寂しくて、見ているこちらが手を伸ばしてしまいそうなほど悲しい道でも。

 

「資格のあるなしなんてのも、ないんだろうけどね。……でも、違うとは思う。たとえば僕が好きな誰かと想いが通じて、結婚して、子供が生まれて、家庭をつくって……おだやかに暮らして、そっと息を引き取るって思うと、ぞっとしない」

「…………なんで?」

「ありえないから。そんな良いこと(・・・・)、僕に起きていい奇跡じゃない」

 

 結局、そうなのだ。どれだけ考えても、どれだけ頭を働かせても、本質的には歪みない。幸せのカタチがぼんやりと見えてきて、黄泉からすれば「……ちょっとは、うまい、ですけど……」なんて評価も貰ったが、そうしてもなお不変なものはあった。きっと、そう。生まれついたときから、もしくは、死んでしまったあの瞬間から。

 

「僕自身が許せないって、はじめて分かった。そのとおりだと思う。だからこれはエゴなんだ。そうじゃないといけない。……ちょっと馬鹿みたいな笑い話をするけど」

「わらい……ばなし……」

「うん。――僕はね、五加原さん。誰よりも僕が幸せになることが、嫌いなんだ」

「――――、」

 

 それの、どこが、笑い話なのだろうか。

 

「分かるほどだった。……気付かせてくれた三奈本さんには感謝しないといけない。ちいさなことも、大きなことも、考えて理解していけばいくほど、ふとした瞬間に、それを目の当たりにした自分の首をしめたくなる。たったそれだけなんだけどね。よう(・・)は」

「……なに、それ……」

「……ごめん。朝から気分の悪い話だった。いま言ったこと、忘れて。ちょっと風に当たってくる」

「っ……ま、十坂――――」

 

 言うが早いか、玄斗はすぐに教室を出ていった。別に、特別走ったり、勢いよく出ていったわけではない。当たり前のように、すんなりと彼は歩いて廊下へくり出した。なんともないように、なんでもなかったように。

 

「(なん、なの――それ……)」

 

 浮いた腰を椅子に直して、碧は呆然と力を抜いた。握っていたシャーペンがころんと転がる。虚しくも、教室にはただひとり。

 

「(それじゃあ……十坂……)」

 

 〝それを目の当たりにした自分の首をしめたくなる。〟

 

 つまり死にたくなるということなのだと、碧は理解しきった。暗い感情と共に死にたいと思うことなら、誰にだって一度は経験があるはずだ。もうこれ以上ないというところで、いっそ命を断ったならと苦悩することだって。けれど、彼は違う。あたりまえのように生きて、あたりまえのように前を向いて、そうしてあたりまえのように幸福(ソレ)はいらないと切り捨てた。それは、なんて。

 

「(誰も……誰も、幸せになれないじゃん――――)」

 

 ……なんて、愚かなことなのだろう。






というわけでネタばらし。たしかに明透零無を引っ張り出して、自分として生きろと叩き付けて、幸せはこうなんですよと教えたけど、その実どっかの誰かさんの本質は一切歪み無かったという話。

自己評価低いが故にまっとうな感性とまっとうな思考回路を与えたら「自分が幸せになるとか駄目じゃないか?」なんて結果に行き着いたよ、おめでとう。HAHAHA



まあなにが悪いかって言うと、いままでの無印勢がこいつに優しすぎたせいです。むしろこいつ自身をガンスルーして気持ちぶつけたほうが勝率高かったという。そのための五番手ちゃんだよさあ頑張ろう。そろそろ花瓶ごとたたき割れるなあ!

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