ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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そうなるのは自明の理

 

「しんどーい……あつーい」

「…………、」

「……ねえ十坂(零無)あ。無視しないでよー」

「……罰なんだから真面目にやらないと」

「うわあ……なにその優等生ぶり……」

 

 ちょっとぐらい堪えてもいいじゃん、という碧の嘆きを背後にせっせと草をむしっていく。理由はもちろん、単純に学校でさぼりがバレたからである。まあ考えれば分かるコトで、日直で職員室まで日誌と鍵を取りに行っておいて、しかもそれを机のうえに放ったままにしておきながら、屋上ですっかり時間を過ごしているとなればバレないほうがおかしいわけで。……というかあの時間まで誰も探しに来なかったのがおかしなわけで。

 

「裏庭の草むしりとか美化委員でやればいいじゃん……あ、あたし美化委員だわ」

「じゃあちょうどいいね。僕もやってるから労力は半分だ」

「やらないのがいちばんだってのー! まったく、もう……」

 

 ぶつくさと文句を言いながらも、碧はちいさな熊手をガリガリと地面に突き立てる。なんだかんだでやるあたり、彼女も根は真面目らしい。まあそのあたりは、玄斗はもっと前から識っていた(・・・・・)ことでもあるのだが。

 

「……昨日はかわいかったのになあ」

「? なにか言った?」

「なんでもなーい。……ま、素直なのは、分かるけど」

「?」

 

 きょとんと首をかしげる玄斗にひらひらと手を振って、同じように草を抜いていく。小声の気持ちは伝わらないのを前提にしたものだ。むしろ聞かれていた場合のあとが怖い。おもにドキがムネムネしそうで。

 

「ねえ十坂(零無)あ」

「なに?」

「なんか面白い話してー」

「……それはとても難しい要求だと思う」

「知ってるー」

 

 くすくすと笑う碧は、ぜんぶ分かった上で言葉を投げかけているようだった。なにか面白い話。人間ハードルをあげられると、当然その上を飛び越えるのが難しくなる。関西人が全員面白いという前提で話すんじゃねえというのと同じだろう。ただし面白くないと言われればキレる。人間とはそういうものである。

 

「じゃあ、五加原さんのこと当ててみるとか」

「……あたしの?」

「うん。たぶん大体は答えられるよ」

「……うっそお。じゃあさ、あたしの好きな食べ物!」

「抹茶ケーキ」

「おおう……正解……」

 

 まじかこの男、と碧が一歩後じさる。でもちょっと嬉しいような、やっぱキモいような。

 

「得意な科目!」

「体育」

「にっ、苦手な科目!」

「芸術」

「え、えと……趣味」

「ランニング。あとアクセサリー集め」

「特技っ」

「テニス。でも意外と読書も好きだよね」

「…………す、スリーサイズ」

「……言って良いの?」

「……ど、どんと来い!」

「……じゃあ、上から――」

「いややっぱやめて!?」

 

 それは駄目だ。それを言われるのは駄目だ。というかすんなり言おうとしたあたりこの男は知っているのだろうか。だとすればいつ? どこで? 一体どんな情報網から取り出した? 自分の体を抱きながら碧がささっと距離をとると、玄斗は苦笑して「冗談」と言った。……本当だろうか。

 

「でも合ってただろう?」

「う、うん……なんか……うわあ……トリハダたったあ……」

「面白いよね。この世界ってゲームだったんだよ」

「……またまたあ。十坂(零無)ってば嘘が下手すぎ。あたしをからかってもなにも出ないよー?」

「いや、これがわりと。五加原さんは、たぶん、好きな人にそのミサンガをあげる」

「――――、」

 

 見もせずに言った玄斗に、碧は知らず右の手首を掴んでいた。たしかに自分ならそういうコトもやりそうではあるが、なんだってそれを目の前の少年が知っているのか。あながち、先ほどの発言も馬鹿にできないような気がしてくる。

 

「……ふーん。じゃ、十坂(零無)から見てあたしはゲームのキャラクター?」

「いや、違う」

「ありゃ」

「五加原さんは、五加原さん。名前が同じぐらいで、そうそう悩むコトも考えるコトもないんだよ」

「……なんだ。案外、しっかりしてんね」

「あるものはある、ってことだと思うからね。現実は現実だ。だから、まあ――ちょっと、見えるものも増えてきた」

 

 ゲームだとか現実だとかの問題は、とっくの昔に乗り切ったものだと思う。すくなくとも玄斗はそう思っている。なんだか悩み事が最近多すぎて整理すべきだとも思うが、言ったことに嘘偽りはない。――あるものはある。それが現実で、事実で、紛れもない正解だ。だから、それがいちばんになる。

 

「……いままで、幸せになるなんてうまく分からなかった。でも、五加原さんのおかげでやっと分かった。たぶん、もうね」

「……ん、あたしはなーんも、してないけどね」

「そうかな? ……でもきっと僕ひとりじゃ駄目だった。五加原さんだけじゃない。先輩にも、赤音さんにも、三奈本さんにも……ずっと、助けられてばかり」

「良いじゃん。別にそのぐらい。あたしだって絶賛、こうして十坂(零無)に迷惑かけてるしー?」

「どっちかっていうと僕のほうがかけてる」

「いいやあたし」

「僕」

「あたし」

「僕だ」

「あたしだっ」

「…………、」

「…………、」

 

 睨み合って、さきに噴き出したのは案の定、碧のほうだった。つられるように、玄斗も息を吐きながらゆるく微笑む。

 

「……んで、なにが分かったの」

「もうあったってこと」

「もうって……いやいや、それがなんなのかってことでしょ」

「だから、幸せ。たぶんこうやって誰かと何気ないことをしてるときが、いちばんなんだと思うよ。僕は」

「…………なにそれ。ツキナミな台詞」

「うん。でもそれがいいんだ。特別じゃなくても、それが良いなら、それで」

「…………ま、らしいかもね。十坂らしい」

 

 うんとうなずいて、碧はよっと立ち上がった。ずいぶんと屈んだ体勢でいた所為だろう。あいたたた、と腰をおさえながら体を折る姿に、玄斗は思わず微笑んでしまった。

 

「……なーに笑ってんのー」

「いや、ごめん、面白くて」

「もお……なら十坂(零無)も立ってよ! ほら! 絶対なるから!」

「……はい、立ったよ」

 

 よっこいせ、と難なく玄斗が立ち上がってみせる。腰どころか足にもきていないといった風な自然体。

 

「えーっ!? ちょっ、なんで!?」

「体が結構丈夫だから。それに、男子と女子の差もあるんじゃない?」

「あー……でも十坂(零無)食べるからなあ……そっかあ……なんか、十坂家の食費すごいことになってそう」

「ああ、僕以外は別に。そこまでみんな食べないんだ」

 

 ごはん多くても三杯いかないぐらいかな、なんて言う大食らい。それが父親のものであって、母親や妹はもっと少ないのだとは言わずとも分かることである。

 

「でもそのわりスリムだよね、本当。……秘訣とかある?」

「? ないけど。でも、五加原さんだってそうじゃない?」

「…………なにが?」

「いや、細いっていうの。華奢っていうのかな」

「…………ふーん。まあ、なに? ……ありがと」

 

 女子である。ので、華奢と言われるとそう悪い気もしない。意味的に捉えれば。だいたい、遠回しな物言いなど目の前の少年ができないからこそ特に。

 

「じゃ、そろそろやめよっか! 草むしり」

「いや、まだ時間は残ってる。もうちょっとやろう」

「几帳面か! ……ったく、しょうがないなあ、もう」

「……なんだかんだで手伝ってくれるよね、五加原さん」

「そりゃ、まあ……」

 

 せっかく一緒に居られる時間だし、という言葉は胸に仕舞っておいた。命短し恋せよ乙女。なんていったって普通の女子高生。ぼろぼろになった想い人はあやせても、そこまで素直になるのはもうちょっと時間のいる複雑さ。なんとも人の心とは難解で扱いづらい。碧は頬を赤く染めながら、ゆっくりと玄斗の隣に座るのだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「あ、不良少年」

「……その件は大変ご迷惑をおかけしました」

「本当にねー?」

 

 会って一言目から容赦がなかった。当然である。なにせ授業を放っておいてどこかへ行ったヤンキーどもを「あー、いや、見てないですねー! どこ行ったんでしょうねー!?」と必死にかばったのが白玖だった。ついでに「どうせ女と遊んでんだろ」といって白玖の心臓を凍りつかせたのが鷹仁である。南無三。だからおまえは彼女ができない。

 

「五加原さんとー? 大変ー? いいコトをしていたそうで」

「うん。すごい気持ちが(軽くなって)良かった」

「すっ、すごい(アレ的なあれで)気持ち良かった!?」

「……ごめん言葉足らずだった。余裕が持てたってコト」

「お相手を見つけて!?」

「まずい。相互誤解が回っていく」

「それが会話というものだよ、少年」

「……君、はじめからぜんぶ分かってて言ってるな?」

 

 苦笑しつつ問いかけると、白玖は「とうぜん」と言いながら胸を張って答えた。

 

「あなたのことならなんでもお見通しなんですよー? 玄斗さん」

「そうだったのか。敵わないな」

「そうそう。……ねえあなたこの髪の毛誰の? あたしのとも玄斗さんのとも違うわ! どこの泥棒猫よっ!」

「五加原さん」

「……そこは乗ってよー」

「はいはい」

 

 ぶーたれる白玖の頭をぽんと叩いて、玄斗は自分の机に置いていた鞄を背負いつつ踵を返す。と、ふり向いたさきで彼女がその状態のまま固まっているのを見た。

 

「……どうしたんだ、ハク?」

「……いや、玄斗ってさ。ずるいよね。私にだけ」

「そうかい? ……そうかも」

「そうだよ」

「そうだね」

 

 言って、白玖も鞄を背負いながら玄斗の隣についた。いつもの距離感ではあるのだが、気持ちどこか近いような、でも変わらないような。おかしな感覚にうん? と玄斗は首をかしげながら、そのまま廊下に出る。

 

「――負けないから」

「!」

 

 と、入れ替わるようにして、白玖の横をするりと少女が通った。誰であるのかは、隣でいまの会話が聞こえていないまま「じゃあね」と手を振っている彼を見れば分かる。

 

「(……へえ。ちょっと、驚いたかも)」

 

 前まではそうでもなかったのに、どうも火がつけば勢いは凄かったらしい。白玖はくすりと微笑みながら、ゆっくりと歩き出す。

 

「(でも、いまは勝ち負けじゃないよ。それぐらいは、ね――)」

 

 やっとのことだ。並び立つにはなにもかもがまだ足りない。ので、言ってしまえば準備段階。ぜんぜん、勝負すらはじまっていない。

 

「(……でしょう? 玄斗)」

 

 壱ノ瀬白玖は思う。運命というものがあればこれがそうだ。故にこそ、掴んだものなんて最初からぜんぶ受け入れている。色の使い方にもよるが、透明なグラスを白い画用紙のうえに書くことだってできるように。

 

 〝私はね、玄斗のことならなんでも――お見通しなんだから。〟

 

 きっと、その言葉に嘘偽りなんて、なにひとつもないのだろう。






さて五章もあとは書くもの書いて終わりです。六章七章までが一部かな、というところ。



というか救う救うって言ってるんだからもっと余裕を持って「なんだ救われてんじゃん」っていう感じでも良いんですよ! バッドエンドとかくそくらえのハッピーエンド至上主義者ですからね作者は!

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