ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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ユウショクのジカン

 リビングに入る直前、ちょうど玄斗がドアノブに手をかけたとき、ばたんと勢いよく扉が開かれた。

 

「やだやだや――ってうおわっ!? お兄!?」

「――――っ、――――……!」

 

 視界に星が舞う。そのままうずくまる玄斗に、実行犯はわたわたと慌てながら屈んで背中をさすってきた。たぶん対応を間違えている。

 

「真墨……」

「ご、ごめん! でもお兄忍者か!? 音も気配もなく扉の後ろに立つとか忍者か!?」

「僕からすると扉の真ん前だったよ……」

「そっか! なら納得した! っていうか大変なんだよお兄なんかうちの大黒柱が気持ち悪いよ!?」

 

 酷い言われようだった。ついぞ「お父さん」とすら呼ばれなくなった心の距離に虚しさがこみ上げる。そろっとリビングの中を覗いてみると、とうの父親はソファーでどこぞの総司令みたいなポーズを取りながら項垂れていた。

 

「……なにしたの、真墨」

「いやあたしじゃなくてあっち! アレが原因! アレが駄目なの! もういや!」

「アレ……」

 

 なんとも酷い言われようだった。ついぞ「お父さん」と以下略。

 

「と、とにかくあたしご飯食べたし部屋にいってるから! そう、あの、勉強! 勉強してくるから! アレ絶対こっちに連れて来ないでね!」

「……うん。まあ、なにがあったのかは後で聞くけど、父さんにはなるべく優しくね……?」

「じゃっ!」

 

 言うだけ言って、返答はちゃっかりせずに、真墨はとててーっと階段を駆け上がっていった。まったくもって嵐みたいな妹である。おかしな日もあるもんだと思いながら立ち上がってリビングへ足を踏み入れると、思わず引き下がりたくなった。負のオーラが、半端じゃない。

 

「ああ……玄斗か……おかえり」

「ただいま……父さん。あの、なにが?」

「……思春期の娘は、分からんもんだな」

「あなたが阿呆なだけだから」

 

 と、台所から突っ込んできたのは母である。ふり向きもせずに菜箸で「ん」とテーブルを示しているあたり、もう夕食は用意していると言いたいのだろう。

 

「いつからあの娘はあんなに……ちいさい頃はなあ……パパ、パパってなあ……うん? いや待て。そこまで呼ばれてないな。むしろちいさい頃からお兄、お兄っておまえのことばっかり呼んでたな」

「ああ、そうだっけ」

「そうだな。そうだぞ。……おまえなー、玄斗なー。うらやましいぞおまえー」

ひょっほ(ちょっと)やめへっへば(やめてってば)

 

 ぐにぐにと頬を引っ張ってくる父親に苦笑で返しながら、なんとも切り替えが早いと玄斗はすこし感心した。あの態度では相当なコトを真墨に言われたはずだが、それでもめげないのは彼のタフさ故だろうと思ってだ。

 

「で、どうした玄斗」

「? なにが」

「良いことあっただろう。にやけてるぞ、おまえ」

「え――」

 

 ばっと、顔をおさえる。その動作を見てニヤリと父親が笑みを深めていた。……これは、たぶん、してやられたということか。

 

「父さん……」

「まだまだだな。玄斗。俺のレベルになるとこんなのは朝飯前だ。で、なんだ。彼女か? 恋人か? はたまた修羅場か。おまえの相手が父さんは凄まじく気になるぞ」

「いや、そういうんじゃないけど」

「違うのか? ……なら別の理由か」

 

 でもなにかはあったのだろう? と父親が確信を持ったように訊いてくる。親というのは本当に分からない。顔にはそこまで出ない質だと思うのだが、それでも見破ってくるあたりは不思議な縁を疑えもしない玄斗だった。

 

「まあ、色々とね」

「そうか、そうか。……どうだ。最近、学校楽しいか」

「家族同士の会話下手かよ」

 

 台所から容赦ないツッコミがぶっ刺さっていた。この母にしてあの娘あり。妹のわりとドストレートにココロへナイフを叩き付けてくる言葉の数々は母親から遺伝したものかと、やっぱり玄斗は不思議な縁を感じるのだった。

 

「まあそうですよねえ。大学時代まで中二病患ってた人は違うものねえ? もうおまえが医者になるんじゃなくてさっさと医者行けよって母さん思ったものー」

「……な、玄斗。うちの母さんは怖いだろう」

「うん。でもその話は聞きたい」

「ちょっ、おまえなに言って――」

「あらあらじゃあ教えてあげるわ玄斗。この人ってばよく「できて当然だ」なーんて言ってる痛い大学生だったのよー?」

「うおぉぉおおお……っ!!」

 

 頭を抱えて父親がくずおれる。げに恐ろしきは一生付き添っていく相手に黒歴史を見られていたという事実と、それを息子にまではっきりバラされるという地獄か。玄斗は内心でそっと父親に手を合わせておいた。

 

「えらいエリートぶっててね、「医者は嫌いだ」なんて言って医大にまで入ってるし、成績が良くてそのことを言われたら「当たり前だ」とかさらっと言うし。でも顔は良いからなんかありえないぐらいモテちゃってるし」

「……母さん。もう勘弁してくれ」

「あの頃は輝いてたわー……本当に」

「母さん……」

「あなたの眼鏡が」

「よし。今度久しぶりにデートしよう。うん。それがいい」

 

 はっはっはー、と冷や汗をたらしながら父親が立ち上がる。対して母は「期待せずに待っておくわー」なんて軽い調子で返していた。なんだかもう憐れで仕方なかった。

 

「……なにしてたの、父さん……」

「いやあ……若気の至り……とも違うんだが……はは、人間積み重ねたことがあるとなんでも出来ると思うもんだからなあ……いやまあ父さんは実際になんでもできるがな?」

「玄斗。真に受けちゃ駄目よ」

「わかった」

「……最近、うちの家族は冷たくないか?」

 

 玄斗からしてみるとそんなコトはないので、あってもおそらく局所的だ。たとえば嫌だと叫ばれながら逃げられた誰かだとか。大学時代の黒歴史を息子の前で語られた誰かだとか。現在進行形で母親の機嫌をとりに行っている誰かだとか。ぜんぶ同一人物だった。

 

「――ああ、そうだ。玄斗」

「……ん? なに」

「おまえにだけは言ってなかったな。んんっ……ただいま、だ」

「……さっき言ったような気がするけど?」

「いやいや、おまえが言ったんだ。俺からは、言ってない」

 

 どこか自慢げに胸を張る父親の奥で、「まったくこの人は……」と母が頭をおさえているのが見えた。どうにも発作みたいなものらしい。

 

「……おかえり、父さん」

「……うん。よし、満足した」

「……ね? 玄斗。この人、コミュニケーション下手でしょう?」

「母さんっ!」

「安心して。それは僕もよく言われるから」

「ああ……この父にしてこの息子あり……だわ……」

 

 がっくりと肩を落とす母親に苦笑しながら、玄斗は夕飯に手を付ける。いつもよりすこしだけ賑やかな食卓と、すこしだけ浮ついた心持ち。それは悪いことではなく、正しく余裕というべきものだ。悩みも苦しみも軽くはないが、一先ず考え込んで余計に重たくするものでもない。時間はたくさんある。ゆっくりしていけばいいとはそのとおりだと、玄斗は改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「……広那ちゃん」

「うん? なになに、どうしたの大和さん」

 

 そんな深刻な顔してー、と近寄ってくる少女に、大和と呼ばれた彼はどういったものかと悩んだ。都合上仕方のないことではあるが、この時期、この年である。……ひとりで育てていく以上は、どうしても避けられない問題でもあった。

 

「……ごめん。転勤が決まったみたいで」

「あー……そっかあ。じゃあ転校? ……転入? どこら辺になるの?」

「ちょっと離れてるかな。近場だと、わり大きめの私立校がひとつあるけど」

「じゃあそこにしよっか。どうせ、もう決めてたんでしょ?」

「……本当にごめん」

 

 良いって良いってー、とからから笑う少女に、すこしだけ心の重荷が降りた。……お世辞でも、そう言ってくれるのはありがたい。

 

「で、なんて学校?」

「ああ、うん。たしか――」

 

 おかしな時期。おかしなタイミング。それでも歯車は回りだす。次第に、次第に。ゆっくりと。

 

「――私立、調色高等学校……だって」

 

 その幕が上がるのは、またしばらくさきのお話。





続いて幕間を二話ほどで五章終了。六章は……まあなんかあらかた予想されてそうなので言うこともありませんが。













にしても修理班は本当クセのないヤツらばかりで書きやすいったらありゃしないよ……。

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