ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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ついに来たぞ妹ちゃんメイン。禁断の果実は甘いんだよというのを見せていきたい(見せられるとは言ってない)


第六章 墨をつけても黒くなる
あいだの変化


 

 ――七月二十六日。なんだか今日は、とても穏やかな気分だった。

 

「…………、」

「…………、」

 

 うだるような熱気。室内には涼しすぎるエアコンと環境。外ではわんわんと蝉が鳴いている。わんわんというよりはミンミンというべきか。ごおごおと唸り声をあげる年式の古い我が家の空調をありがたがりながら、玄斗は麦茶を一口含んだ。

 

「……暇だね、お兄」

「遊びには行かないの?」

「こんなくそ暑いのに外とか出られないっつうの。死ぬわ。てか日焼け対策がどれだけ大変か知らないでしょ」

「知ってるよ。ずいぶんと昔、皮膚がただれたことがある」

「うっそお」

「本当」

 

 そう、あれは思い返すもずいぶんと前のこと。まだ彼が十坂玄斗ではなくて、体も心も空っぽだった頃の話だ。健康にも良いからとちょうど日差しのあたるベッドで横になっていれば、日が落ちる頃にはもうずいぶんとやられていた。その日に限って強かったというのもあるが、なんとも生きづらいと実感したのがそのときだ。

 

「皮膚ってあんがい弱いからね。紫外線とか、気にしないで良いのは健康な特権かも」

「いやそれはがさつな男子の特権だ。女子なめんな」

「まあ、僕自身日焼けなんてあまりしないんだけど」

「まあ……インドアだもんねえ……うち」

 

 今日も元気に会社へ出かけていった父親と、今日も変わらずパートへ出ていった母親。必然的に玄斗と真墨はふたりっきりで留守番をするというコトになる。母親が帰ってくる十二時頃までの話だが、なにはともあれ彼らは暇を持て余していた。

 

「……しりとりでもする?」

「いいけど」

「じゃありんご」

「ごりら」

「ラッパ」

「パンツ」

「セクハラ」

「ラー油……?」

「いや止めろよ」

 

 繋がってねえよ、と呟く真墨。しかも言い淀んでいないあたりがなんとも年頃の学生らしくなかった。もうすこし女子の妹に恥じらい見せろと思わないでもない。

 

「お兄、お兄」

「なに」

「好きって十回言って」

「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」

「あたしのことはー?」

「大好きだよ、真墨」

「――――」

 

 駄目だった。もうなんかもう駄目だった。語彙力がだめだわコレ、と真墨は顔をおさえながらテーブルに突っ伏した。その姿を玄斗は不思議そうな目で見ている。おそらく期待してるような感情が欠片もないのが酷かった。この兄、鬼畜である。

 

「ちょっといまのはないわ……」

「ああ。……たしかに気持ち悪かったね」

「きもくはない。お父さんじゃないからきもくはないよ。うん。大丈夫」

「そう?」

「むしろばっちこいだよ。もっと言って。妹への愛を愛のままにワガママにしてほしい」

「ごめんちょっと言っている意味がよくわからない」

「なんでだよ」

 

 有名なフレーズだろ、という視線を向けてみるが依然と玄斗は首をかしげるばかりだった。ちなみに時々父親が熱唱している。あれは家族から見ても恥ずかしい。とてもやめてほしい。家庭内ヒエラルキー最下位に対しては容赦ない女衆だった。

 

「そろそろ十一時だ」

「そうだねー……」

「……ご飯でもつくる?」

「おっけーおっけー」

 

 提案してみると、待ってましたと言わんばかりに真墨はうなずいた。まあ暇潰しならなんでも良しという感じである。ふたりしてキッチンの片隅からエプロンを取り出して、適当に冷蔵庫のなかを漁っていく。

 

「チャーハンの素がある」

「えー……チャーハン飽きたし……パスタにしよー。パスタ」

「すぐできるって。チャーハン」

「いやなんだよそのチャーハン推し」

 

 理由を言え、と睨まれて玄斗は笑いながらチャーハンの素を仕舞う。まあ気持ちとしては彼も同じだったので文句はない。なにせここ二日の昼食がチャーハン。さすがに三日連続は避けられるなら避けたい兄妹だった。嫌いではなくても味に飽きるというのはわりとよくある。

 

「僕が茹でておくよ。真墨は適当になんか」

「適当っておい。お兄おまえ適当って。料理なめんな」

「ごめん」

「分かればよろしい。じゃあ適当に合うもの作っとくわー」

「適当じゃないか……」

「それが料理というものだよ」

 

 ふっと笑って包丁を握る真墨。言っていることが支離滅裂だった。おそらくは熱さで脳がやられている。玄斗ももれなくやられている。夏の熱気が起こしたテンションの変化だ。リビングはエアコンが効いていて涼しい。

 

「……お兄さ」

「うん」

 

 トントントン、と小慣れた様子でベーコンを切りながら真墨が口を開いた。どこかぼうっと上の空である。危ないなと思いつつ、こちらも火を見ているので気は抜けないと玄斗はよそ見をせずうなずいた。

 

「最近、学校どう?」

「……それね。父さんも言ってた」

「うそ。やだ、うわあ親子ってやだあ……」

「……あんまり言わないであげてよ。父さん傷付きやすいから」

「いや知ってるけどあの人あれだよ? 防御力ないけど復帰力全フリだから。コンティニュー早いから。テッテレレッテッテー! って」

「残機は少ないかもしれない」

「大丈夫大丈夫あの様子だとまだ八十はあるね」

「父さん無限ワンアップでもしたのかい……?」

 

 脳内でなにかしらのBGMが流れる。小さいカタカナの〝ゥ〟を想起させた。毒電波である。おまけに色々と混ざってもいる。玄斗はブゥンブゥンと頭を振ってワケのわからない思考回路を放り投げた。

 

「会話が下手って、わりと僕たち全員に言えるよね」

「あたしはコミュ障じゃないよ? 友達たくさん居るよ?」

「その友達と今日は遊びに行かないの?」

「いやあ暑いし……みんな家族旅行いってるし……」

「ああ、それは仕方ない」

 

 真墨の知らない(・・・・)彼であれば、たしか軽井沢に別荘を持っていたか。そんな話を秘書から聞いたような記憶がある。あれで母親が生きている頃は結構笑う人であったともいう。人間どうなるか分からない、と語った顔はどこか悔やんでいるようにも見えていたのを思い出した。

 

「うちの父さん、中間管理職だからね……」

「変だよねー。医大まで行ったのに医者じゃないし。でもわりと万能超絶スペックだし。絶対あれは手を抜いてるよね。怠慢だよ怠慢。もっと稼げこのやろう」

「まあまあ。父さんだって頑張ってるかもしれないだろう?」

「いいや手抜きだねあれは。遺伝子レベルで分かるよあたしは!」

 

 手抜き手抜きー、と居もしない父親へ文句をぶつける真墨。ちょうどその頃会社の廊下を歩いていた彼らの大黒柱はテーブルの角にスネをぶつけていた。弁慶の泣き所である。たぶん目の前で言われていたらその比ではなかっただろう。

 

「――あいたっ」

「!」

 

 と、急に真墨が声をあげた。見れば、包丁を置いて指を咥えている。

 

「……なにしてるの」

ほへん(ごめん)ひっは(きった)……」

「咥えちゃ駄目だよ。水で洗わなきゃ」

ひょういはい(ちょういたい)……」

 

 そっと真墨の手首を握って、台所の蛇口を捻りながら指を持っていく。見たところそこまで深くはないらしい。が、だからといって切り傷が痛くないかと言えばそうでもない。そも普段から痛みになれていない人間は、大したことがなくても敏感になるものである。玄斗からしてみれば気にもならない傷だって、真墨にとっては十分痛い。

 

「もう、気を付けないと」

「ごめん……」

「真墨は指、綺麗なんだし。ピアノも得意だったっけ。命みたいなものじゃないの」

「……ピアノはやめたし。ていうかそこまで重傷じゃないし」

「重くなったら駄目だから言ってるんだよ。傷口からばい菌が入ったらしんどいんだから」

「…………、」

 

 いや本当にあれはしんどい、と玄斗は昔を懐かしんだ。ちょっとした切り傷でも命に関わるという意識があったからか。たしか絆創膏は救急箱に入ってたっけ、なんて思いながら真墨をそのままに台所を離れようとして――

 

「あ」

「へ?」

 

 ぐらり、と体が揺れた。端的に言って、足をもつれさせた。まずいと思った直後に、すんでのところで真墨の手を掴み直す。傷口を触れさせるのはいけない、と思ってのことである。あとは頭や背中を打たないように手を回すのが限界。そのままどんどんと身体は重力にしたがっていく。

 

「きゃっ」

「……っ、と……」

 

 なんとか真墨を抱える形で倒れ込んで、無事なのをたしかめる。衝撃をもろに受けた左手は痛いが、動かせないほどではない。ゆっくりと体を浮かせば、自分の下で固まった妹の姿が見えてきた。

 

「ごめん、大丈夫? ます……」

「――――――」

「……み……?」

 

 ぽかん、とどこか呆けたような顔。指一本が縦で入るかどうか。五センチもない至近距離で、玄斗は真墨と見つめ合う。……潤んだ、墨色の瞳を。

 

「真墨……?」

「…………ぁ、い……や……」

 

 ぴくん、と肩が震える。握った手首から微かなものを感じた。鼓動が速いのだろう。真墨の顔が、見る見る林檎のように真っ赤に染まっていく。

 

「……本当に大丈夫かい? まさか、熱でもあるんじゃ」

「や……! ち、ちがう、の……これは……あの、えっと……」

「ちょっと、ごめんね」

「――――っ」

 

 ひたり、とおでこがぶつかる。至近距離。一センチもない。それがもう、限界だった。

 

「――ご、ごめんっ!」

「わっ」

 

 どん、と玄斗を突き飛ばして真墨がリビングから出て階段を駆け上がっていく。逃げこんだ先はおそらく自分の部屋。いつもとは違う妹の態度に思考を回しながらも、玄斗の意識は一点に注がれている。

 

「……傷、まだ処置もしてないだろうに」

 

 そこがまあ、ひとつ。あとは彼女の態度が気にかかって別にひとつ。どちらも見逃すまいと思考を回す。無視をするのは逃げだ。考えないというのは恥だ。だが、考えすぎるのも陰鬱になっていけない。程度良く、そして割り切りよく、配分よく。十坂玄斗は、いまいちど考え始めた。 






色々と考えた結果、もうそろそろ卒業かなということで方向性が確定いたしました。そうだよ玄斗くんおめでとうだよ。もう苦しまなくて良いよ。これからは健やかに頑張ってね。



……いやあ活用班どもを書くのが楽しみですね!

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