ギャルゲーの友人キャラに転生したら主人公が女だった。   作:4kibou

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それぞれの想い

 

「……ひとつだけ、頼みがあるんだ」

 

 ふと、父親がそんなことを言ってきた。聞いてくれるか? とぎこちなく玄斗のほうを向く。それに彼はこくりとうなずいた。なんだか妙な気分だ。いつもは明るい態度の父親が、ひとつ下に見慣れた顔を持っている。それが、どうしてか嫌ではない。

 

「なに?」

「……もう一度、おまえの父親をやらせてほしい」

 

 今度こそは幸せにする、なんて。とても昔では考えられない言葉を、昔とはかけ離れた姿で、昔と同じように言ってくる。そのギャップに堪えきれなかった。なんてことだろうと、玄斗は胸がすく思いだ。だって、そうだろう。あんなにも心につっかえていた親の問題が、こうも簡単に、するりと――幸せに切り替わるものか。

 

「……なんで?」

「――いや、悪い。すまん。私はおまえを……」

「いまさら必要ないよ。だって、もうお父さんはお父さんなんだから」

 

 ずっとずっと父さんだったんだし、と言うと彼は目を見開いた。顔にでない代わりに、よくその瞳には表われている。明透零無は気付いた瞬間に。真実彼はいまにこそ。もはや笑う以外の対処の仕方を、どちらも知らなかった。

 

「……そうだったな。もう父親だ……おかしなことを、言ったもんだな……」

「本当だよ」

 

 お互いに笑い合う。かつてはそんな未来なんて想像することもなかったのに、なんともこれがまた合ってしまう。そこまで仲が良かったかと言えば、絶対にノーと答える。玄斗がなんと言おうと目の前の父親はそのところ頑固だ。たとえどれほどのモノであろうが、真実を塗り潰すことを由としない誠実さだ。

 

「……〝零無〟」

「……うん」

「ありがとう。ずっと、私の息子でいてくれて。……おまえは自慢の我が子だ。ああ、そうだな……もう二度と――おまえには、不自由な思いなどさせない」

「……うん」

 

 声が滲んだ。視界が霞んでいる。親でいってしまえば、十坂玄斗の父親だ。いままでぜんぜん良くして良く育ててきてもらった。なのに、その中身と向き合えば途端に心が脆くなる。それほどまでに、父親の声音は響いてきた。

 

「ありがとう、お父さん。ぼくは初めて……お父さんの息子で良かったと思った」

「……それは、贅沢すぎる言葉だな……」

 

 おまえの口から聞けたこと自体がとんでもない、と彼は顔を背けながら言う。言葉に不満の色など一切見当たらない。どころか嬉しさすら浮かんでいるようにも見える。自らの犯した過ちと向き合って生涯を閉じた彼だからこそだろう。生半可な救いなどないと思っていたからこそ、こんなにも贅沢すぎる現実はさすがに持て余してしまう。

 

「……ああ、それから。あとひとつ」

「……なに? まだあるの?」

「あるとも、沢山あろう。私の言いたいコトなどひとつやふたつではない。ずっとおまえと話したかったのだ。それが叶うのに、ひとつふたつで済むものか」

「……なんなの父さん。あんな態度だったくせに、いまさら」

「いまさらだ。だからこそだ。ずっと、後悔していたんだ。……だから、これぐらいは言わせてほしい」

「……いいよ。なにを?」

 

 まだあるのかと呆れかけた玄斗に、父親はそれはもう酷い顔で言葉を紡ぐ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。四十代の大の大人がそんなみっともなくて良いのかとも思うが、そのあたりを突っ込むのも野暮か。彼はテーブルに置かれたティッシュペーパーで顔を拭きながら、そっと玄斗のほうに視線を向けた。

 

「――(ゼロ)では無い。きっとなにかがあって、消えてしまわないぐらいにきちんとしている」

「……?」

「……零無(・・)。その名に込められた、真の意味だ。なにもないなんて無かったんだ。私の戯れ言など忘れてしまえ。……おまえは祝福されて生まれたのだ。なにかを望まれて生を受けた。だからな、零無。恨むなら私を恨め。呪うなら私を呪え。おまえはなにも悪くないんだ。――おまえが生まれた意味はたしかに、()じゃ()かった」

「――――――」

 

 ガン、とハンマーで頭を殴られた衝撃。なにもない。ひとつもない。零であって無であると、言い聞かせてきた固定観念。そのすべてを撃ち砕かれた。見事なまでに粉々だ。これで自由。縛るものなどなにもない。明透零無の楔は、完全に、ここに解き放たれた。

 

「……そう……だったんだ……」

「ああ。……だから、迷うな。素直に行け、零無。おまえはきっと持っている。無いハズなんて無いだろう。要らないものはすべて捨て置け。私にぶつけろ。……幸せになれ。零無。私はそうあれと、望んでいる」

 

 幸せのカタチ。心の在処。権利、義務、許可。色々と面倒なコトを考えた。考えすぎた。だが、いざとなってみればなんて簡単なのだろう。たかだか一言。親の言葉。それだけで、なにを悩んできたのかと思い知らされる。どこまでも、どこまでも。父親の言葉で、救われていく。

 

「――ありがとう。父さん。分かった気がする」

「……そうか」

「ごめん。真墨の部屋、見てくるよ。僕は僕らしくいいんだって、気付けたから」

「……ああ」

 

 ソファーから立ち上がって、玄斗は早足でリビングを横断する。その後ろ姿を、父親は微笑みながら見た。あの息子がこうも立派に育っている。あの彼が、こうもきちんとした意思を抱えている。身勝手なことに、それで、溢れていく心がある。――とても現実とは思えないほど満たされた世界。ドアノブに手をかけた背中に、つい、声をかけた。

 

「待て」

「なに?」

「愛している、零無」

「――――」

 

 ぽかん、と呆けてこちらを見る少年。刹那、

 

「――うん!」

 

 子供のように笑って、彼は飛び出していった。とても、とても、満足した表情で。

 

 

 ◇◆◇

 

 

『……真墨?』

「――――っ」

 

 ずきずきと、胸が痛む。耳朶を震わせる声音はずっと染み付いて離れない。十坂真墨にとって、十坂玄斗は血の繋がった兄妹だ。生まれてずっと一緒にすごしてきた家族だ。だから、おかしな気持ちを抱えることなんてない。所詮家族同士のスキンシップ。そう割り切れたなら、どれほど良かったかと。

 

「……最悪。なんで、こう……」

 

 ――うまくいかないんだろう。そんな一言をぐっと飲み込んだ。最悪なのは誰なのか。そんなものは当の昔に分かっている。たかが十六年。されど十六年だ。ひとつしか違わない彼女からしてみれば、生まれてから十五年になる。その間に、いったいなにも見なかったと何故言えるのか。

 

「(あたしは……ずっと……)」

「真墨」

「っ!」

 

 声が聞こえた瞬間に、ビクリと肩が跳ねた。部屋のなかは真っ暗だ。外の明かりが扉の隙間から入ってくるぐらいで、一切こちらからの情報はない。もう十二時も近い深夜。このまま返事をしなければ、きっと玄斗は寝ていると思って去るだろう。――そう、思っていたのに。

 

「――ぁ」

「……ほら。やっぱり起きてた」

「……最低……妹の部屋、勝手に……開ける、なんて……」

「ごめん。でも、そうでもしないと居留守使うだろう」

 

 バタンと扉を閉めて、玄斗が手探りで電気をつけた。部屋のなかに明かりが灯る。見れば真墨はベッドの隅で、膝を抱えながら座っていた。それにくすりと微笑んで、玄斗は反対側の端に腰掛ける。衣擦れの音は、やっぱり向こうから聞こえた。

 

「怪我、平気?」

「……もう血は止まった」

「そっか。でも次からはちゃんと消毒して絆創膏つけないと駄目だよ。とくに包丁なんて、食材を切ってるんだから」

「……うん」

「分かってるなら良いんだ」

 

 そう言って、玄斗は笑う。その笑顔を真墨は横から盗み見る。以前までの彼のソレとは変わった代物。それが、彼女は――

 

「……っ」

「――ね、真墨」

 

 おさえこんだ瞬間に、声をかけられる。やめろと声も出ないままに叫んだ。きっと胸中か、空気に溶けるほどのちいさな音。だから玄斗には聞こえない。届かない。届かせたくもない。それはなんて、どこまでも醜い彼女の声で。

 

「僕はこれで十坂玄斗だから。なにがあっても、真墨の味方だよ」

「――――っ」

 

 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。いますぐその口を閉じて黙ればいい。無駄な言葉なんて続けるだけ無駄だ。どうしてそんなコトを言う。そんな言葉で、自分は、本性を曝け出したいのでは無い――

 

「だからなんでも言えば良い。言いたいこと。我慢なんてしなくていいよ。だってそれを受け止めるのが、僕の役目だ」

「……ふぅん。なんも知らないくせに。そんなこと、言うんだ」

「なにも知らないから、だよ。だから言ってるんだ」

「…………本当に、良いわけ?」

「良いよ。ぜんぜん。だから、安心してよ」

 

 ずるいなと、真墨は笑った。きっとこれから話すことは取り返しのつかないことになる。そう直感しながらも、そこまで言われてもう我慢できなかった。

 

「じゃあ……ね。はっきり言うけど、さ……」

「……うん」

 

 そして彼女は一言。

 

「あたしの――性の目覚めは、()()()()()だった」

「…………え」

 

 とんでもない爆弾を、鈍感天然野郎にブチ投げたのである。 





こう書いてみるとやっぱり主人公の境遇が甘いなって。




だから活用班は容赦しないでおくね?

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